~ばっちり予習~オススメ公演の聴きどころ指南 日本と海外の伝統楽器の魅力を再発見する「日本の響き、世界の調べ」公演を徹底解説。これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

【東京2020応援プログラム】日本の響き、世界の調べ第3回 チャルメラの仲間たち―ダブルリードの魅力~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて~

2018年11月18日(日)15:00開演 文京シビックホール小ホール

さまざまなダブルリード楽器

〈チャルメラの仲間〉

 屋台のラーメン屋から聞こえてくるソラシーラソ、ソラシラソラーというメロディーをご存知でしょうか。これを奏でているのがチャルメラです。吹き口(リード)の先が潰されて2枚になっているので、ダブルリードの楽器に分類されています。
 ダブルリードの楽器というと、オーケストラで用いられるオーボエが知られていますが、チャルメラもオーボエも、実は西アジアあたりから東西に伝えられた楽器で、トルコの軍楽隊で用いられるズルナという楽器がその原型と考えられます。
 ズルナが東に伝わったものは、中国では嗩吶(スオナ)と呼ばれ、日本には安土桃山時代に伝来したようです。また西に伝えられたズルナは、ヨーロッパではショーム[イギリス]、シャルマイ[ドイツ]、チャラメラ[ポルトガル]などと呼ばれて演奏されていました。長崎を訪れたポルトガルの宣教師が、日本の嗩吶(スオナ)を見てチャラメラと呼んだことから、日本では嗩吶(スオナ)のことを南蛮風にチャルメラと呼ぶようになったと言われています。
 西洋のショームは、その後改良を重ねられて現在のオーボエとなりますが、その一方で、直接リードを口にくわえずに吹くクルムホルンやラウプシュファイフェ、また、袋にためた空気を送り出してリードを鳴らすバグパイプのような楽器も生まれました。

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篳篥のリード(盧舌ろぜつ

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クルムホルンとコルナミューゼ

〈篳篥(ひちりき)の仲間〉

 ダブルリード楽器の中でも、チャルメラやオーボエは、小さなリードを、管の太さが下に向かって広がる円錐(えんすい)形の管に差し込んで吹く楽器です。一方、同じダブルリードでも、大きなリードを、太さの変わらない円筒形の管に差し込んで吹く楽器があり、音色が異なります。
 雅楽で用いられる篳篥は、後者の系統に当たり、やはり西アジアからシルクロードを通って日本に伝わりました。この系統のダブルリード楽器は西洋ではあまり使われなかったようです。

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中村仁美(篳篥)

アジアのダブルリード楽器

 ダブルリード楽器は西アジアあたりで生まれて、東西に伝えられたようです。アジアのダブルリード楽器は次の2種類に分けることができます。

【A】チャルメラの仲間

下部がラッパのように広がる円錐形の管に、小さなリードをつけた楽器

 ズルナ[トルコ、イラン他]
 嗩吶(スオナ)[中国]
 太平簫(テーピョンソ)[韓国]
 シャーナイ[インド]
 ゲン・バウ[ベトナム]など

【B】篳篥の仲間

円筒形の管に、大きなリードをつけた楽器

 メイ[トルコ]
 ドゥドゥク[アルメニア]
 バーラーバーン[アゼルバイジャン、イラン]
 管子(グァンツ)[中国]
 ピリ[韓国]など

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ズルナ、嗩吶スオナ(2本)、ゲン・バウ、ボンバード

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ドゥドゥク、メイ(2本)、大篳篥、篳篥

この2種類のダブルリード楽器の性格は、トルコのズルナとメイを聞き比べるとはっきりわかります。

 【A】のズルナは、結婚式などで吹かれるほか、オスマン帝国時代の軍楽隊で用いられました。甲高くけたたましいズルナと、低音の大太鼓で合奏される「ジェッディン・デデン」という曲のメロディーは、NHKのドラマ『阿修羅のごとく』のテーマ曲として使われたため、日本人にもよく知られています。大音量のズルナの音と太鼓の音は、遠くからも聞こえるので、戦の折りには威嚇の働きをしたようです。十字軍の時代のヨーロッパ人もこの音に驚き、ズルナを改良して、オーボエが生まれたと言われています。
 ズルナの仲間の楽器は、西アジアだけでなく東アジア、東南アジアなどで広く使われています。
 一方【B】のメイはもっと静かな楽器です。長いものになると管長40cm余り、リードも長さ14cm幅3cm程と大きく、低音を出すことができます。その柔らかく深い音色は、クラリネットにも似ています。メイなど西アジアの楽器は、アンズなどの堅い木で作られていますが、中国南部や韓国、日本では竹を管とするようになります。日本では低音の出る大篳篥は平安期の物語に名が残るのみとなり、高音域の篳篥が今に伝えられています。

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ウナル・ユリュク(ズルナ)
[トルコ]

 公演では、ズルナ、メイ、篳篥をご紹介します。音色を比較しながらお楽しみください。

文:中村仁美 (篳篥奏者)

ヨーロッパのダブルリード楽器

〈歴史の中で変化し続けるオーボエ〉

 軍楽隊の楽器ズルナは、トルコからヨーロッパに渡りショームという楽器になり中世ルネッサンス時代に演奏されました。
 17世紀末、軍楽隊において野趣溢れる演奏だけでなく、室内楽で繊細な演奏も出来るオーボエが登場し、これを現代ではバロックオーボエと呼びます。バロック時代、プロフェッショナルな楽器としてオーケストラの花形楽器の地位を得ました。
 モーツァルト時代になると楽器の内径が細くなり、古典派の軽快さを表現出来るクラシカルオーボエとなります。
 19世紀ロマン派になると楽器本体に沢山の穴が開けられ、開閉装置の連結を工夫することで半音階が簡単に演奏出来るロマンティークオーボエへと変わりました。
 さらにトリエベール兄弟のアイデアにより作られた現代のオーボエは、世界中で使われギネスブックの中で一番難しい木管楽器に認定されています。
 オーボエ族には、五度下の音域まで出るオーボエ・ダ・カッチャやコール・アングレ等もあります。

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三宮正満(オーボエ/バロック~現代)

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オーボエ(バロック~現代)

文:三宮正満(オーボエ奏者)

〈バグパイプ〉

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バグパイプ

 バグパイプはスコットランドの民族楽器として有名ですが、実はインド~中近東~北アフリカ~ヨーロッパの全域にかけて、その土地固有の音色・形・音量をもつ様々なタイプが古くからあります。
 使われるリードには、シングル(クラリネット状)とダブル(オーボエ状)の2種類があり、一般にメロディ管(チャンター管)にはダブル、持続低音管(ドローン管)にはシングルが使われますが、シングル-シングル、ダブル-ダブルの組合せの場合もあります。

 バグパイプはリードを直接口にくわえずに、空気をためた袋(バッグ)から送風して管に装着されたリードを振動させ音を出す楽器で、この点がオーボエやファゴットと大きく違います。また、バグパイプではありませんが、クルムホルンやラウシュプファイフェも、リードをくわえずに音を出す楽器です(リードキャップ楽器)。

文:近藤治夫(古楽バグパイプ演奏家・製作家)

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近藤治夫(バグパイプ)

 11月18日の演奏会では日本、トルコ、ヨーロッパの様々なダブルリード楽器をご紹介いたします。多彩なダブルリードの響きにどうぞご期待ください。

【東京2020応援プログラム】日本の響き、世界の調べ  第3回 チャルメラの仲間たち―ダブルリードの魅力~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて~

2018年11月18日(日)15:00開演 文京シビックホール 小ホール

公演情報

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プロフィール

文 中村仁美(なかむらひとみ)

東京藝術大学在学中より雅楽を学ぶ。雅楽古典のほか、現代作品演奏や即興演奏まで幅広く活動。篳篥リサイタルで篳篥独奏曲やアンサンブル曲を多数委嘱初演するなど、ソロ楽器としての篳篥の魅力を開拓しており、その成果をCD「ひちりき萬華鏡」「胡笳の声」(ALM)に収録。海外の様々な音楽祭にも招聘されている。また、東京にて左継承氏に管子を、イスタンブルでSwat Iskul 氏にメイを習うなど、アジアの篳篥属に高い関心を持っている。雅楽演奏団体「伶楽舎」メンバー。2010年松尾芸能賞新人賞受賞。

文 三宮正満(さんのみやまさみつ)

武蔵野音楽大学卒業。国際古楽コンクール〈山梨〉最高位、2000年、ブルージュ国際古楽コンクール第2位受賞。「バッハ・コレギウム・ジャパン」ソリストとしてカーネギーホール、プラハの春音楽祭などに出演。2008年より田村次男氏と共にオーボエ製作を始め、ライプツィヒの名工アイヒェントプフ作によるオーボエの復元に成功している。ソロアルバム「ヴィルトゥオーソ・オーボエ」「19世紀パリのオーボエ作品集」「ヴィダーケア・デュオ・ソナタ集」をリリース。今まで100枚以上のCD録音に参加。現在「バッハ・コレギウム・ジャパン」首席オーボエ奏者、東京藝術大学古楽科講師。「アンサンブル・ヴィンサント」主宰。

文 近藤治夫(こんどうはるお)

古楽バグパイプ演奏家・製作家。古楽器演奏家。ヨーロッパ中世民衆音楽の担い手である「放浪楽師=ジョングルール」に着目し、その社会的位置や演奏したであろう音楽について探究。民衆の楽器であるバグパイプやハーディガーディ等の古楽器を用いて、中世の放浪楽師の音楽・精神を現代にどう甦らせるかをテーマに、ライブハウス、ストリート等での演奏活動を展開。
2002年、本邦初のバグパイプ工房「Atelier de la Cornemuse」を開設、演奏と並行して古楽バグパイプの製作も行なっている。