バレエ・エデュケーション・プログラム in Bunkyo 牧阿佐美バレヱ団『白鳥の湖』【牧阿佐美バレヱ団】阿部裕恵、清瀧千晴、小嶋直也 スペシャルインタビュー

牧阿佐美バレヱ団ソリスト 阿部 裕恵 Hiroe Abe

橘バレヱ学校仙台教室、日本ジュニアバレヱ、AMステューデンツ、新国立劇場バレエ研修所で学ぶ。2016年、牧阿佐美バレヱ団に入団。入団2年目の昨年は「ドン・キホーテ」「くるみ割り人形」に主演。確かなテクニックと溌剌とした踊りを披露し、今後の活躍に期待と注目が集まっている。埼玉全国舞踊コンクール・クラシックバレエ二部をはじめ多くのコンクールで第1位を受賞している。

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牧阿佐美バレヱ団プリンシパル 清瀧 千晴 Chiharu Kiyotaki

橘バレヱ学校、日本ジュニアバレヱ、AMステューデンツ、ボリショイ・バレエ学校などで学び、牧阿佐美バレヱ団に入団。「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「リーズの結婚」「ロメオとジュリエット」「ライモンダ」などの主役、「ノートルダム・ド・パリ」のフロロ、「リーズの結婚」のアランなどを踊り、音楽性豊かな表現力、軽やかで美しい跳躍などダイナミックな技で多くの観客に支持されている。2004年、埼玉全国舞踊コンクール・成人の部第1位。2007年、全国舞踊コンクール・クラシックバレエ一部第1位。2012年、スワン新人賞(橘秋子記念財団)受賞。

※参照:新聞掲載記事はコチラ

牧阿佐美バレヱ団バレエマスター 小嶋 直也 Naoya Kojima

小嶋恵美子バレエ教室、橘バレヱ学校、日本ジュニアバレヱ、AMステューデンツで学び、牧阿佐美バレヱ団に入団。多くの作品で主役を務める。ヴァルナ国際バレエコンクールのジュニア部門で日本人男性初の第1位を受賞。1994年、日本人として初めてアメリカン・バレエ・シアターと1年間の契約を結ぶ。97年新国立劇場開場記念公演『眠れる森の美女』の主役を務め、以降、新国立劇場バレエ団プリンシパルとして多くの公演で主演を務めた。松山バレエ団芸術奨励賞、中川鋭之助賞、橘秋子賞優秀賞、服部智恵子賞を受賞。

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取材・文:川島京子 撮影:鹿摩隆司

『白鳥の湖』初役の二人が挑む、“王子の成長の表現” “白鳥と黒鳥の1人二役”

——今をときめく注目のお二人が、いよいよ『白鳥の湖』初役に挑まれますね。

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清瀧:バレヱ団の本公演ではこれが初めてになります。昔から憧れ続けていましたし、子供の頃から小嶋直也先生のジーグフリード王子を見ていましたので、こうしてご指導いただきながら自分が踊ることができるのは本当に幸せです。パートナーの阿部裕恵ちゃんとも、最近一緒に踊る機会が多くて、回数を重ねるごとにお互いのクセやタイミングがわかるようになってきました。裕恵ちゃんはしっかりとしたテクニックも安定感もあるし、僕としては安心。踊るのが楽しみです。

阿部:私は、これまで第2幕と第3幕はそれぞれ踊ったことがありますが、全幕通しで一人二役にチャレンジするのは初めてです。第2幕の白鳥オデットの役作りをしながら、第3幕の黒鳥オディールをイメージするというように、それぞれの像を作り上げていけたらいいなと思っています。千晴さんとは、今年の橘バレヱ学校の卒業公演で第2幕を踊らせていただいています。昨年、『ドン・キホーテ』で初めて組ませていただいたときは、全幕デビューということもあり、自分のことで必死だったのですが、段々と一緒に踊る感覚がつかめてきたと思います。

小嶋:二人とも実力も十分にあって、二人の性格的なものやカラーが似ているので、僕はすごく楽しみにしています。千晴くんはジーグフリードにぴったりで、今まで演じていないのが不思議なくらい。ただ、『白鳥の湖』は王子の成長の物語でもあると思う。第1幕と第2幕の、王妃に言われるがままの“子ども”から、第3幕での試練を経て“大人の男”へと成長してゆく。男性の主役が成長してゆく過程を描くのは、他のグランドバレエにはない『白鳥の湖』独特のもの。今回、僕はそこを千晴くんに期待しています。裕恵ちゃんのオデット役は、どんな女性が演じても難しい役だと思う。人間と鳥の違いを表現しなければならなくて、さらに、白鳥と黒鳥という性格の違う二羽の鳥を一人で演じなければならない。それをどこまで消化してお客様の前で表現することができるかだな。

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音楽的な“カウント” の中で表現する、心情と感情の駆け引き

——牧阿佐美バレヱ団の『白鳥の湖』は、プティパ/イワノフの原典版に忠実なイギリスのテリー・ウエストモーランド版。感動的な版として大変人気があります。その特徴や見どころを教えていただけますか?

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小嶋:テリー版の一番大きな特徴は、”カウント”が決まっていること。マイムの一つひとつ、ステップからステップのつなぎがカウントで決まっているから、それを無視すると音楽的でなくなってしまい、お客様が見ていて違和感を受けることになる。さらに、そのカウントを守りつつ感情も表現しなければいけない。僕にとっては、それがとても難しかった。カウントにばかり気を取られていると、体だけが先に動いてしまう。「感じてから」動きなさい、とよく言われた。

清瀧:そうですね。第1幕の最後には王子のバリエーション(ソロの踊り)がありますが、その点がとても難しいです。あのバリエーションは成人を迎えた王子のまだ大人になり切れない漠然とした不安を表します。それが音楽的にも表れていると思うんです。でも、それを美しくかつカウントの中で踊るわけだから、体を完璧にコントロールしてテクニック面は安定させながら、不安定な心情を描くというのはものすごく難しいです。

阿部:私は第2幕から登場なのですが、冒頭の王子との出会いのシーンは白鳥が初めて出てくる大切な場面なので、プレッシャーがあります。テリー版ではそのシーンをほとんどマイム(バレエの表現方法:言葉を身振り手振りで表現する方法)だけで表現しなければなりません。マイムという限られた表現のなかで、オデットの感情をお客様に伝えていかなければならないのがとても大変だと感じています。

清瀧:ちょっとした間とか位置どりや角度、二人の距離感とか、ほんの少しの差で観客への伝わり方が全く違ってしまう。これまでの先輩方も、リハーサルで本当に細かくそれを調整していらっしゃいました。

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小嶋:本当に繊細な作業だよね。最初のベースとなるものは指導する側が提示するけれど、そのあとは二人で迷ったり悩んだり試行錯誤してつかんでいくしかない。周りは一切口を出せない。
3幕のテクニック以外の部分も難しいよね。千晴君のジャンプ力や技術力、裕恵ちゃんのテクニックはもう誰もが認めるものだけど、そこにプラスアルファ何があるのか、ということだよね。

清瀧:そうですね。黒鳥と王子のパ・ド・ドゥ(男女2人の踊り)も、技術やテクニックだけでなく、王子と黒鳥の感情の駆け引きが織り込まれています。3幕を二人で踊るのはこれが初めて。僕は裕恵ちゃんのオディールにだまされて魔法にかかるのか?それが楽しみです。

阿部:黒鳥は何回か踊ったことがあるのですが、自分でイメージを創り上げて踊ると、いつも強く雑になりすぎてしまう。『ドン・キホーテ』の時もそうでした。でも、王子は白鳥の繊細さに愛しさを感じているわけですので、黒鳥もその繊細さを残しながら踊りたいです。

ボブ・リングウッドよる美しい衣裳と圧巻の装置、そして感動の4幕

小嶋:あと、第1幕と第3幕は、ボブ・リングウッドさんの衣裳をじっくり見てほしいね。貴族の衣裳は本当に圧巻だと思う。特に第1幕の王妃登場の美しさはなんともいえない。生地とか素材が豪華で、歴代の先輩方が口をそろえて「重い!」って言うけど、重量感があってこの上ない上品な豪華さを醸し出す。第3幕も何年か前に舞台装置を作り替えていて、これがまた豪華。照明が当たると本当に金色にキラッキラに輝く感じ。あの装置や衣装に負けないようにやってほしい。

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第1幕より 美しい衣裳の王妃

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阿部:私は初めて観た『白鳥の湖』が牧阿佐美バレヱ団のものだったのですが、第4幕にとても感動しました。

清瀧:テリー・ウエストモーランド版の第4幕は、第3幕の興奮が冷めないうちに、スピーディに第4幕のクライマックスまでもっていくから本当に感動的ですよね。

小嶋:実際に長さも、マリインスキー劇場がやっているコンスタンチン・セルゲイエフ版の半分くらいしかない。セルゲイエフ版はリピートが多いからね。それと、他のバレエ団と大きく違うのは、あのなんとも言えないドラマチックな悲劇の結末。牧の『白鳥の湖』をはじめて観る方からも、何回も観に来ていただいている方からも「やっぱり牧の『白鳥』の4幕はいいよね」という声をよく聞く。

阿部:私は、最後にコール・ド・バレエ(群舞)が集まって団結して悪魔と戦っていくところがとても感動的で大好きです。

小嶋:あとは、最後、崖から飛び降りるシーン。あの悲劇のラストをどう演じるかというのも大きい。みんなどうしても下を向いちゃう。あれって見ていて「かっこ悪いな」って思う。やっぱり覚悟を決めて上を向いてほしいんだよね。

阿部:怖いですか?

小嶋:怖くはないよ。少し勇気が必要だけれど、足さえ突っ張らなければ、ケガすることもないと思う。
それから、最後のシーンで乗るゴンドラね。全4幕踊り切ったところで乗るゴンドラがなんとも気持ちがいい。これに乗れるのは主役だけだから、ぜひ味わってください。特に王子は全4幕出ずっぱりで踊り続けて、もうクタクタだから、ここで「終わった~」と思っちゃうんだけど、くれぐれも最後まで気をぬかないように。

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第4幕より コール・ド・バレエ(群舞)の1シーン

経験と努力を重ね、バレヱ団の伝統を受け継いでいくことの大切さ

——それでは、最後にお客様にメッセージをお願いします。

清瀧:僕は音楽一家で育ったという家庭環境もあって、これまでも舞台ではいつも音楽に助けられてきたという感覚があります。カウントにこだわったテリー・ウエストモーランドの音楽性と僕自身の音楽性を重ねて、音楽に表現をのせていきたいと思っています。

阿部:バレエといえば『白鳥の湖』というほど、バレエを知らない方でもご存知の有名な作品なので、だからこそ難しいというプレッシャーがあります。やはり、今回自分にとって一番の課題は、二つの役をこなさなければならないということ。白鳥と黒鳥のそれぞれの魅力を研究して表現していきたいです。

小嶋:僕からは二人にメッセージ。二人ともすでにいろいろなカラーの大役を数多く経験しているので、もう100パーセント信頼しています。初役というのは、最初があるから次がある、ここから君らの経験がはじまる。最初の経験を積むことで次にまた同じ役をやったときに前の経験が参考になるし、またそれよりも努力することでお客様がついてきて下さる。それと、千晴君には後輩として期待しています。テリーさんの芝居なりカウントなり、それは僕も三谷先生からこのバレヱ団のものとして引き継いだものなので、それを千晴君もきちんと守り、伝えていってほしい。それが伝統であって、バレヱ団の財産でもあるからね。

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——ありがとうございました。

プロフィール

取材・文 川島京子(かわしまきょうこ)

早稲田大学、東京藝術大学、共立女子大学、洗足学園音楽大学講師。早稲田大学演劇博物館招聘研究員。専門は、舞踊学、バレエ史。
これまでに、日本学術振興会特別研究員、早稲田大学演劇博物館COE演劇研究センター客員研究助手、米国コロンビア大学客員研究員、
法政大学兼任講師、早稲田大学文学部助教などを経て現職。2010年博士号取得。
著書に『日本バレエの母 エリアナ・パヴロバ』(早稲田大学出版部、2012年)。
文京シビックホールでは、「公演前の作品鑑賞教室」「バレエを楽しむ基礎知識講座」などの講師も担当。

バレエ・エデュケーション・プログラム in Bunkyo 牧阿佐美バレヱ団 『白鳥の湖』

2018年9月29日(土)15:00開演 9月30日(日)15:00開演 文京シビックホール  大ホール

公演情報

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