オススメ公演の聴きどころ指南
サー・ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

150年の歴史を誇る名門ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団が、初来日となる名匠とともにシビックホールに登場。
ソリストに迎えるのは、今最も勢いのあるピアニストの一人、期待の俊英"亀井聖矢"。
本公演の魅力を、音楽学者・近松博郎氏が徹底解説いたします。

サー・ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:亀井聖矢 

2026年6月26日(金)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:近松博郎

 音楽の都ドレスデン


 ドイツ、ザクセン州の州都ドレスデン。エルベ川沿いに広がるこの美しい街は、古くから音楽の重要な拠点でもあった。ザクセン選帝侯国の首都として繁栄し、とくに政治的駆け引きによってポーランド王をも兼ねることとなったフリードリヒ・アウグスト1世(強王。在位16941733年)の治世には国力の増強とともに豊かな文化が花開いた。近隣の商業都市ライプツィヒで教会音楽を監督する立場にあったJ. S. バッハは恒常的な演奏人員の不足に悩んでおり、1730年に市参事会に提出した『整備された教会音楽のための短くも最重要の草案』の中で、ドレスデンの音楽家は十分な給料を得て一つの楽器に専念しているので質の高い音楽ができると訴えている。

 1806年にザクセンは王国に昇格し、より近代的な都市として発展していく。1817年に開場したザクセン王立宮廷歌劇場(現ザクセン州立歌劇場)はその代表的な産物であり、ウェーバーやワーグナーといった指揮者のもとでドレスデンはオペラの発信基地としても存在感を示すこととなる。

 第二次世界大戦後は旧東ドイツに属し、自由な行き来は困難となった。しかしこのことは結果的に19世紀以来の音楽伝統を保存することに繋がり、同地の演奏家たちが受け継ぐ柔らかく、底光りするような独特の音色はしばしば「ドレスデン・サウンド」と評される。

 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の栄光

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ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 ⒸMarco Borggreve

 市民社会の広がりとともに、現在まで続く有名オーケストラの誕生が19世紀中ごろから相次いだ。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1842年創設)やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1882年創設)はその典型といえ、1870年に誕生したドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団(以下ドレスデン・フィル)はその間に挟まれる。1129日、ドレスデンの商工会議所内に新たなホールがオープンした。このとき演奏した商工会議所オーケストラ(Gewerbehausorchester)がドレスデン・フィルの前身であり、この日をもってドレスデン・フィルの誕生としている(ドレスデン・フィルとなるのは1924年)。演奏されたのはベートーヴェンの《献堂式》序曲Op. 124とウェーバーの祝典序曲《歓呼》Op. 59であった。
 
 1884
年にはブラームスが来演し、35日の演奏会で自作の《ピアノ協奏曲第1番》ニ短調Op. 15のソロを弾き、カンタータ《リナルド》Op. 50と《アルト・ラプソディ》Op. 53を指揮している。1903年から1915年まで首席指揮者を務めたヘンリク・ウィリー・オルセンの時代には演奏旅行も積極的に行い、1909年にニューヨーク、デトロイトほかで演奏したことにより、最も早くアメリカに渡ったヨーロッパの楽団の一つに数えられる。

 ドレスデン・フィルの歴史の重みを物語るのが、これまでに共演してきた世界的演奏家たちの顔ぶれだろう。とくに歴代の首席指揮者にはパウル・ファン・ケンペン、カール・シューリヒト、ハインツ・ボンガルツ、クルト・マズア、ヘルベルト・ケーゲルといった巨匠たちが名を連ね、近年では2011年から2019年まで首席指揮者を務めたミヒャエル・ザンデルリングが同団とショスタコーヴィチとベートーヴェンの交響曲全曲録音を完遂し高い評価を得た。
 
 2017
年からはドレスデン文化宮殿内にオープンした理想的音響のコンサートホールを本拠地として、ファミリー・コンサートやデジタル・コンテンツの充実にも力を入れ、150年以上の歴史を誇る名門オーケストラとしての新たな価値を提供し続けている。


 注目の出演者たち

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サー・ドナルド・ラニクルズ(指揮) ⒸRobert Kusel

 指揮者のラニクルズは1954年にスコットランドのエディンバラで生まれた。ケンブリッジ大学とエディンバラ大学で学んだ秀才である。音楽家としての経歴は1980年にマンハイムで劇場の練習ピアニストを務めたことに始まる。この、いわゆる「コレペティ」からスタートする路線は、往年の指揮者フルトヴェングラーやカラヤン、また現在活躍中のクリスティアン・ティーレマンやファビオ・ルイージらに共通する王道といえる。その後バイロイト音楽祭でアシスタントを務めたのを皮切りに、フライブルク・フィルハーモニー管弦楽団音楽総監督、サンフランシスコ・オペラ音楽監督を務め、2009年から今シーズンまでベルリン・ドイツ・オペラの音楽監督として類まれな力を発揮した。BBC交響楽団、ウィーン・フィル、ミュンヘン・フィルほか一流オーケストラとの共演も数知れず、音楽を知り尽くした巨匠といえる。2025/2026シーズンからドレスデン・フィル首席指揮者に就任し、新たな音楽作りに世界中の注目が集まる中での来日公演となった。

 《皇帝》のソリストを務める亀井聖矢は、いうまでもなく現在もっとも注目される若手奏者の一人である。愛知県立明和高等学校音楽科から飛び入学特待生として桐朋学園大学に入学し首席で卒業。2022年のロン=ティボー国際音楽コンクール優勝や、昨年のエリザベート王妃国際コンクール第5位といった実績が証明する実力派である。特筆されるべきはその圧倒的な演奏技術で、バラキレフの《東洋風幻想曲「イスラメイ」》やサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番《エジプト風》といった超絶技巧作品を得意とする。一方でベートーヴェンのような古典的作品の演奏では、彼がいかに細部に至るまで楽譜を読み込んでいるかに驚かされる。2019年のピティナ特級セミファイナルにおけるソナタ第7番第1楽章の演奏動画が公式サイトで公開されているが、強弱変化の開始位置や細かなフレージングまで神経が行き届いている。また、仲道郁代氏の公式YouTubeチャンネルではベートーヴェン・マスタークラスにおける《ワルトシュタイン》のレッスン風景も視聴できるのでぜひご覧いただきたい。

 演奏曲について

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亀井聖矢(ピアノ) ⒸRyuya Amao

 本公演はドレスデンゆかりの作曲家、ウェーバーの歌劇《オベロン》序曲で幕を開ける。妖精の王オベロンをめぐって目まぐるしく展開する物語を凝縮した音楽で、聴き手を一気に非日常の世界へと誘う。

 ベートーヴェンの《皇帝》は独奏ピアノの役割を引き上げた画期的な協奏曲であり、曲の冒頭でいきなり華麗なカデンツァを奏でるピアノは何といっても聴き手の耳目を集める。オーケストラとソリストが「協奏/共奏」する旧来のスタイルから、ロマン派以降の「競奏」する協奏曲への道を開いた作品ともいえよう。行進曲風で勇壮な第1楽章、ときに翳(かげ)りを帯びるが満ち足りた情感に浸れる第2楽章、そして爆発的なエネルギーを放出する第3楽章と、魅力は尽きない。

 ベートーヴェンという越え難き壁を意識したブラームスが交響曲第1番を完成させるまでに20年もの年月を要したことはよく知られている。続く第2番、第3番はひと夏で書き上げたものの、最後の交響曲となる第4番には2年を費やし入念に作曲を進めた。第1楽章の切ないため息のような主題、第2楽章の古風なフリギア旋法(長調/短調の音階が確立される以前に用いられた古い教会旋法の一つ)による素朴な味わい、第3楽章の壮大な管弦楽の響き...。刻々と変化する多彩な表情はこの交響曲の醍醐味の一つといえるだろう。第4楽章は8小節の基本主題をベースとして変奏を展開させていくシャコンヌ/パッサカリアの形式を用いた珍しい終楽章。この主題はJ. S. バッハの教会カンタータ《主よ、われ汝を仰ぎ望む》BWV 150の終曲から採られたものだが、実はさらに《カノン》で有名なパッヘルベルのオルガン曲にさかのぼると考えられる(詳細は当日のプログラム・ノートを参照)。

 出演者たちは全員が文京シビックホール初登場とのことで貴重な出会いとなる。オケ、指揮者、ソリスト、演奏曲と、まさに聴きどころが揃った豪華公演。一生の思い出となる極上の音楽をぜひ多くの方々に体験していただきたい。

近松博郎(ちかまつ ひろお)

桐朋学園大学院大学教授、昭和音楽大学非常勤講師、立教大学兼任講師。専門はドイツのバロックを中心とする西洋音楽史。東京藝術大学大学院博士後期課程修了。博士(音楽学)。各種公演のプログラム・ノートのほか、音楽情報誌「ぶらあぼ」で公演紹介記事を執筆するなど、音楽を広める活動にも尽力している。

サー・ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:亀井聖矢

2026年6月26日(金曜)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/サー・ドナルド・ラニクルズ
ピアノ/亀井聖矢
管弦楽/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73「皇帝」
ブラームス/交響曲第4番 ホ短調 Op.98 ★

【★マーク】
試聴できます(2026年7月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合もございます。)

料金

【全席指定・税込】
SS席 18,500円
S席 16,500円
A席 14,500円
B席 12,500円
C席 10,500円【完売】
D席 8,500円【完売】

学生割引あり
S席8,250円、A席7,250円、B席6,250円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※学生割引は、JR各社の学生割引定期券を利用できる学生の方に限ります。

※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。ただし、5/17(日)は休業。)

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