オススメ公演の聴きどころ指南
山田和樹 指揮 バーミンガム市交響楽団 ピアノ:チョ・ソンジン

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。
これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

山田和樹 指揮 バーミンガム市交響楽団 ピアノ:チョ・ソンジン

2023年6月28日(水)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

 今年6月に行われる山田和樹指揮/バーミンガム市交響楽団のコンサートは、文京シビックホールのリニューアル記念公演のみならず、上半期の来日オーケストラの中でも最注目と言っていい。なぜならこれは、稀有の国際的指揮者・山田和樹が、イギリスの世界的名門オーケストラのシェフに就任後、初めて行う日本公演であり、"海外のトップ楽団を率いる日本人指揮者"という点で小澤征爾以来の快挙を成し遂げた彼が、"世界のヤマカズ"としての本領を日本で真に発揮する様を最初に目撃&体験できる歴史的な機会となるからだ。しかも、ショパン国際ピアノ・コンクールの覇者である人気奏者チョ・ソンジンも参加するとなれば、いやが応にも期待が膨らむ。演目はショパンとラフマニノフの飛び切りロマンティックな協奏曲と交響曲。これは、旬の音楽家の精彩に富んだパフォーマンスとオーケストラ音楽の醍醐味が満載された公演と言って間違いない。

山田和樹 (c) Marco Borggreve.jpg

         山田和樹(指揮)  Ⓒ Marco Borggreve

 イギリス第2の都市バーミンガムを本拠とするバーミンガム市交響楽団は、1920年に創設された同国を代表するオーケストラの一つ。創設当時からエルガー、ホルスト、シベリウスといった有名作曲家たちと共演し、1962年のブリテン「戦争レクイエム」の世界初演でも注目を浴びた。そして1980年、当時無名の若手サイモン・ラトルを首席指揮者に任命。1998年まで同ポストを務めた彼のもとで大幅に飛躍し、数々の録音やツアー等の精力的な活動を通して世界的に有名な存在となった。その後も旺盛な活動を続けると同時に、サカリ・オラモ(19982008年)や今をときめくアンドリス・ネルソンス(200815年)がポストを持つなど、指揮者にとって巨匠への道筋的なオーケストラともなっている。

 20234月、その首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーに就任したのが、世界で活動を展開している数少ない日本人指揮者の一人、山田和樹である。1979年に生まれ、東京藝大で学んだ彼は、2009年にかつて小澤征爾も制したブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。その後、国内はもとより、パリ管、ドレスデン国立歌劇場管、チェコ・フィル、フィルハーモニア管、サンクトペテルブルグ・フィルほか多数の一流楽団に客演し、2012年から18年までスイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者、2016/17年シーズンからモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼音楽監督を務めている。2012年に初めてバーミンガム市響を指揮した彼は、2016年の日本公演も成功に導き、2018年からは首席客演指揮者として信頼関係を深めてきた。

 バーミンガム市響は、イギリスの楽団ならではの高い機能性と、ヨーロピアンな柔らかみや深い味わいを兼ね備えたオーケストラ。そうした名器を、ファンタジーに溢れ、音楽の喜びと真髄を引き出して皆を熱狂の渦に巻き込む山田が、シェフとしていかに鳴らし、いかなる演奏を聴かせるか? 期待と興味は尽きることがない。

チョ・ソンジン (c)  Christoph Köstlin  Deutsche Grammophon.jpg

       チョ・ソンジン(ピアノ)Ⓒ Christoph Köstlin

 また今回は、ピアノのチョ・ソンジンの文京シビックホール初登場も大きな話題だ。1994年ソウル生まれの彼は、2009年の浜松国際ピアノ・コンクールで最年少優勝を果たし、2011年には17歳にしてチャイコフスキー国際コンクールで第3位に入賞。そして2015年、ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝し、国際的な脚光を浴びた。その後も、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ロンドン響、パリ管をはじめとする数々の一流オーケストラや、チョン・ミョンフン、ドゥダメル、ネルソンス、ネゼ=セガンといった著名指揮者との共演、カーネギー・ホール、コンセルトヘボウ、ベルリンのフィルハーモニーほか世界各地の権威あるコンサートホールでのリサイタル、名門ドイツ・グラモフォンへのCD録音等を行い、圧倒的な才能と豊かな音楽性で賞賛を博している。

 高い技巧と詩的かつ色彩豊かな表現で魅せる彼のピアノと、"合わせの名人"でもある山田和樹&バーミンガム市響とのコラボレーションもまた興味津々だ。 

 演目は、まずショパンのピアノ協奏曲第2番。かの"ピアノの詩人"がまだポーランドにいた青春時代に残した、瑞々しくメロディアスな名作であり、第2楽章をはじめピアノの美しさも比類がない。しかも第1番に比べると生演奏の機会が少ないので、ショパン・コンクールの覇者のソロで聴ける今回の公演は見逃すことができない。
 後半は近代ロシアの代表格で今年生誕150年を迎えたラフマニノフの交響曲第2番。この曲は、ロマンティシズムに満ち溢れた陶酔的な大曲で、甘く息の長いメロディ、ノスタルジーとメランコリーに充ちた曲想、分厚く豊麗な響きといった魅惑の要素が横溢している。しかも第3楽章のメイン主題がポピュラー音楽として有名になるなど、親しみやすさも抜群だ。ちなみに山田和樹も、「ロシアの厳しい自然を思い起こさせるような第1楽章、一転宇宙を駆け抜ける天馬(ペガサス)を彷彿とさせる第2楽章、抒情とロマンと切なさの極みの第3楽章、フェスティバル的な終楽章、さまざまなダイナミズムと繊細さが凝縮している作品」(文京シビックホールのHPより)と表現している。しかも本作は、山田和樹がロンドン・デビューやバーミンガム市響の首席客演指揮者就任のきっかけとなった公演など、大事な節目に演奏してきた「勝負曲」であり、2022年7月のバーミンガム市響とのBBCプロムス・デビューでも披露して絶賛されている。すなわち当コンビにとって完成度の高い作品でもあるだけに、ここはぜひ耳にしたい。

 加えて、この両曲の組み合わせは、東京では本公演のみ。その意味でも足を運ぶ意義は十分だし、注目度もすこぶる高い。

バーミンガム - cr. Hannah Fathers_1.jpg

    バーミンガム市交響楽団(管弦楽)ⒸHannah Fathers

 山田和樹は、バーミンガム市響との関係を「すでに本当の意味で『パートナー』と言える存在であり、世界で一番音楽を楽しめるオーケストラ、と言っても過言ではない」(同上)と語っている。今回は、彼がその「パートナー」と作り上げる音楽を生体験できる貴重な機会にして、アジアが誇る音楽家が主役をなす世界的本格派の演奏を、居ながらにして堪能できるビッグチャンスでもある。 

柴田克彦(しばた かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」等の雑誌、公演プログラム、WEB、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

山田和樹 指揮 バーミンガム市交響楽団 ピアノ:チョ・ソンジン

2023年6月28日(水)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/山田和樹
ピアノ/チョ・ソンジン
管弦楽/バーミンガム市交響楽団

曲名

ショパン/ピアノ協奏曲第2番
ラフマニノフ/交響曲第2番 
【試聴できます】
曲目をクリックしてください。
※ 試聴音源の演奏家・楽器編成は、本演奏会の出演者・楽器編成と異なる場合もございます。

料金

【全席指定・税込】
プレミアムシート 15,000円(公演プログラム付)[完売]
S席 12,000円
A席 10,000円
B席 8,000円[完売]
C席 6,000円[完売]
D席 4,000円[完売]

学生割引あり
S席6,000円、A席5,000円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

2023_city+of+birmingham+symphony+orchestra_360_511.jpg