オススメ公演の聴きどころ指南 「日本の響き、世界の調べ 第5回 打楽器とリズム」

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールの注目公演を徹底解説。
これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

東京2020応援プログラム
日本の響き、世界の調べ 第5回 打楽器とリズム
~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて~

2020年7月11日(土)14:00開演 文京シビックホール 小ホール

日本と世界の音楽をトークを交えて紹介するコンサートシリーズ。
第5回のテーマは、打楽器とリズム。能楽囃子、バリ島のガムラン、マリンバなどのパーカッションを取り上げます。
当財団の広報紙「文京アカデミースクエア」(2020年5月号~6月号)にて、2回にわたり掲載していたコラムをご覧ください。

連載コラム その1
バリのガムラン・ググンタンガンの聴きどころ

文:増野亜子(マメタンガン代表/音楽学)

 バリ島のガムラン・ググンタンガンは竹笛を中心とする小編成の音楽です。ガムランとはインドネシア各地で演奏されている打楽器中心の伝統的な器楽合奏の総称ですが、各地にさまざまな編成やスタイルがあります。ヒンドゥー教徒が多いバリ島では、ガムランをはじめとする音楽や芸能は、儀礼に欠かせない神々や祖霊への供物として、また人間が楽しむエンターテインメントとして大切にされてきました。もっとも有名なのはガムラン・ゴング・クビャールという、青銅楽器を中心とした大編成のガムランです。「クビャール」とは稲妻という意味。その名の通り、金属製打楽器の鋭い音色、ダイナミックな演奏が特徴で、テレビなどでもよく紹介されるので聞いたことがある方も多いでしょう。

ググンタンガンの楽器


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 ゴング・クビャールが稲妻ならググンタンガンは月夜の涼風。演奏者は10人前後と小編成で、竹笛が主旋律を演奏するため、全体的に柔らかく繊細な響きが持ち味です。小型の太鼓と金属打楽器を使って軽妙に演奏します。観光客のために上演することはほとんどありませんが、古典声楽や歌芝居アルジャの伴奏などに用いられ、バリの人たちの間ではとても人気があります。

 竹笛スリンはブレスする時も音を切ることなく吹き続ける、循環呼吸の技法で演奏します。スリンの演奏は比較的フレキシブルで、お互いにタイミングをわずかにずらしたり、装飾的なフレーズを即興的に付け加えたりして呼吸感の微妙なずれを楽しみます。歌と同じく息によってうまれる笛の音色や抑揚は打楽器よりも人間の声に近いこともあって、ググンタンガンはバリのガムランの中でも独特の音楽的な表情をもっています。

 ググンタンガンの打楽器群の隊長は太鼓クンダンです。2台一組で、それぞれ異なるリズム・パターンを演奏します。複雑な音型がお互いに組み合わさったときに、音が一つに連なってグルーヴを生み出します。クンダンはまた、曲の始めと終わり、テンポの変化などを楽団全体に指示する合奏のリーダーでもあります。ガムランでは基本的に楽譜を使わず、どの旋律を何回繰り返す、どのタイミングで盛り上がる、といった構成も予め厳密に決めておくよりも演奏の場でフレキシブルに判断するのが普通です。クンダン奏者はちょっとしたリズムや音量の変化によって他の演奏者たちに合図を送り、それによって加速・減速したり、音が激しくなったりと合奏全体が自在に変化します。フレキシブルであるからこそ、演奏者はお互いの音をよく聞いて、常にコミュニケーションを図る必要があり、緊張感と一体感が生まれる、そこにガムランの醍醐味があります。

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         マメタンガン

   

 クンダン以外にググンタンガンには金属ゴング類、小型のシンバル、竹の打楽器グンタンが加わります。これら一つ一つの楽器の演奏法は一見シンプルですが、それぞれビートをキープする、ダイナミズムを強調するといった音楽的な役割があり、どれ一つ欠けても演奏が成立しません。

 合奏全体が一つになるためには一人一人の技術やセンスが必要なだけではありません。何度も繰り返し一緒に演奏することで、互いの呼吸が自然にあってくるという実感があります。バリの楽団の多くは、同じ村に暮らす気心知れた音楽家で結成されおり、何ヶ月も何年も一緒に演奏し、一緒にご飯を食べ、一緒に泣いたり笑ったり、音楽だけでなく人生のさまざまな経験を共にして深いところでつながっている仲間同士です。そこから立ち上がって来るバリ独特の一体感を、音楽を通して少しでも実現したいと思いながら演奏しています。


 ※お知らせ※
  7月11日の公演では、ググンタンガンではなく、同じくバリ島のガムランであるグンデル・ワヤンに変更になりました。

増野亜子

増野亜子(ましの あこ)

東京藝術大学音楽学部楽理科卒、同大学院修士課程修了。お茶の水女子大学大学院博士後期課程単位取得退学。大学在学中よりバリのガムランを学び始め、1993~1995年インドネシア国立芸術大学デンパサール校に留学。現地の音楽家に師事してグンデル・ワヤンをはじめとする各種ガムラン音楽を学ぶ。以降、バリと日本を往復しながら伝統音楽の調査研究と演奏、指導を行っている。





連載コラム その2
能楽囃子について

文:藤田貴寛(能楽師/一噌流 笛方)

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       笛/藤田貴寛

♪明かりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花
  五人囃子の笛太鼓 今日は楽しいひな祭り

 誰もが一度は耳にしたことのある、ひなまつりの歌。この五人囃子、実は能のことなのです。能は650年程前に成立した現存する世界最古の舞台芸術です。謡(うたい)や舞に楽器が奏でる音楽『囃子(はやし)』が入り、囃し立てる事で魅力を深めています。

 さて、雛壇の五人囃子は向かって右から能舞台と同じ様に謡、笛、小鼓(こつづみ)、大鼓(おおつづみ)、太鼓と、音が出る場所が口から遠くなる順に並んでいます。このうちの楽器を演奏している4人が、囃子方(はやしかた)と呼ばれます。能楽の囃子で能楽囃子です 

 笛は竹でできた横笛で、能で使われる笛と言う意味で、能管(のうかん)とも呼ばれます。能で使われる楽器で、唯一の旋律楽器です。見た目は雅楽で使われる龍笛(りゅうてき)に形がよく似ていますが、能の笛には喉(のど)という細長い管状の部品が入っています。私たちの声が一人一人違う様に、能管も喉がある事で一本一本音色が違い、また吹く人によっても音色が変わってきます。その為、楽譜も五線譜は使用せず、聞こえてきた音をカタカナで表した唱歌(しょうが)を使います。演奏法としては、謡にあわせたアシラヒ笛、小鼓・大鼓・太鼓の拍子(リズム)にあった吹き方と、拍子にとらわれずに吹く方法があります。拍子にとらわれないアシラヒ笛でも唱歌は決まったものを吹いています。

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         小鼓

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     大鼓/大倉慶乃助

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太鼓/金春惣右衛門

 

 小鼓、大鼓、太鼓は打楽器です。
 小鼓は仔馬の柔らかい皮で桜の木をくり抜いた胴を挟み、調べ(しらべ)と呼ばれる麻の紐で組んでいます。この調べを左手の握り方で調整します。湿気を好む楽器で裏皮(打たない方)へ調子紙(ちょうしがみ)という和紙を貼り付け、唾を付けたり息を吹きかけて音色を調整します。

 大鼓は小鼓と同じ馬皮ですが、厚手な成馬の皮を使います。甲高い音色を出す為に炭火で二時間程焙じ、調べをきつく締め組み上げます。炭火で焙じる為、10回程舞台で使用するとダメージで皮が使えなくなってしまいます。演奏する上で大変手が痛くなる楽器です
 太鼓は2枚の牛革で欅(けやき)などの胴を挟んだ締め太鼓です。台にかけ二本の撥(ばち)を一本ずつ握り、撥で革の真ん中を打って音を出します。能のすべての曲に登場するわけでなく、神や鬼、自然現象など非人間的なものが登場する曲で演奏する事が多いです。

 小鼓、大鼓、太鼓で特徴的なのは、掛け声です。演奏を聴いているとただ打っているだけでなく、ヤとかハァと聞こえてきます。気分が乗じて声が出ているわけでなく、楽器を打つ音と、決まった所の掛け声で、拍子(リズム)を取ったり、声の調子で曲の趣を表したりしています。

 ルールを知っているとさらに面白さが増すスポーツと同じ様に、能も決まり事を知るとより理解が深まります。例えば笛でしたら、初めは唱歌と指を覚え吹く、誰でも最初はこれで十分に楽しめます。しかし指揮者がいない能で、舞台をスムーズに進行させる為には、他の楽器、謡や型の事を知り、何が起こっているのか理解する必要があり、その為の稽古が必要です。素人の方の中にも、趣味で何かの稽古を始めても、段々と稽古が進むうちに謎が深まり、理解する為に色々と習い始める方もいます。大変そうですが、一度覚えてしまえば今まで何百年と伝わって来た様に、これからも何百年と通用する事でしょう。もしタイムマシーンがあれば、江戸時代の人とも未来の人とも同じルールで共演できるのです。

 日本発祥の音ですが、本シリーズ最終回に相応しく、能楽囃子の楽器も大陸、シルクロードの影響を受けています。上演と伝承の歴史が途切れず、何百年も使える楽器だからこそ聞く事のできる、室町時代から変わらない音をお楽しみ下さい。

 そして最後に、世阿弥が説いた衆人愛嬌 ── 人々に愛され観て頂く事が、能、そしてどの芸能でも長く続く為一番大事な事です。本公演で初めて能に接する方に興味を持って頂き、能楽堂での観能のきっかけになる事を願い、7月11日シビックホールにてお待ちしています。

藤田貴寛_正面

藤田貴寛(ふじた たかひろ)

一噌流 笛方。昭和58年生。藤田 次郎 長男。金沢藩(加賀藩)御抱えの笛方能役者であった藤田家に生まれる。10代目の祖父、故 藤田 大五郎(人間国宝・文化功労者)及び父に師事。東京芸術大学邦楽科卒、同大学院中退。在学中に主専攻笛を宗家 一噌 庸二、また一噌 幸弘、藤田 朝太郎 各師から教えを受ける。これまでに数々の難曲を披く。舞台を勤めるだけでなく愛好者が楽しく心を豊かにをモットーに一般向けの稽古もしている。平成30年度より東京芸術大学邦楽科非常勤講師。

 


東京2020応援プログラム
日本の響き、世界の調べ 第5回 打楽器とリズム
~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて~

2020年7月11日(土)14:00開演

文京シビックホール 小ホール

出演

能楽囃子/藤田貴寛(笛)、曽和伊喜夫(小鼓)、大倉慶乃助(大鼓)、金春惣右衛門(太鼓)
インドネシア・バリ島のガムラン/パドマ
パーカッション(マリンバほか)/神田 佳子 
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司会/薦田治子(武蔵野音楽大学教授)
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助成:Black_a[1]small.jpg 芸術文化振興基金

料金

3,000円<全席指定・税込>
学生割引  1,500円    ※シビックチケットでのみ受付

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)
※新型コロナウイルス感染症拡大の状況に応じて、
 シビックチケットの営業時間が変更となる場合がございます。
 最新情報はこちらでご確認ください。
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