スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.21

~2019年7月5日(金)「夜クラシックVol.21」~

上野星矢(フルート)/吉野直子(ハープ)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
シリーズ5周年のオープニングを飾る
上野星矢と吉野直子に本公演への意気込みをうかがいました!

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フルート

上野星矢

Seiya Ueno

19才で、フランスで開催された世界的フルート奏者の登竜門である「第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」で優勝。その後、世界を舞台に活躍。2009年、パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で入学し、2012年に同音楽院を審査員満場一致の最優秀賞並びに審査員特別賞を受賞し卒業。同年、ファーストCD『万華響』でCDデビュー。翌年には2ndCD『デジタルバード組曲』を発売し、2作連続で雑誌『レコード芸術』特選盤に選ばれる。2015年1月に3rdCD『into Love』を発売。これまでに東京交響楽団、チェコフィル八重奏団、イル・ド・フランス国立管弦楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハ-モニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、オーヴェルニュ室内管弦楽団、群馬交響楽団等、国内外のオーケストラと共演。テレビ朝日「報道ステーション」、NHK「ニューイヤーオペラコンサート」に出演。杉並区文化功労賞、第25回青山音楽賞新人賞、第17回ホテルオークラ音楽賞受賞。2014年、NewYork Young Concert Artistにて最優秀受賞し、2015年秋には全8か所のアメリカツアーを成功させ、最終公演はニューヨーク・カーネギーホールでリサイタルデビューを果たした。

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©Akira Muto

ハープ

吉野直子

Naoko Yoshino

ロンドン生まれ。6歳よりロサンゼルスでスーザン・マクドナルド女史のもとでハープを学び始める。第1回ローマ国際ハープ・コンクール第2位入賞。第9回イスラエル国際ハープ・コンクールに参加者中最年少で優勝。以後、ベルリン・フィル、イスラエル・フィル、フィルハーモニア管、フィラデルフィア管、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス等トップ・オーケストラおよび小澤、アーノンクール、ブーレーズ、アバド他世界的指揮者との共演、G. クレーメル、V. ハーゲン、C. ハーゲン、W. シュルツ、E. パユ、J. ズーン等一流アーティストとの室内楽、ザルツブルク、ルツェルン他主要音楽祭への参加など華やかに活躍。レコーディング活動も活発で多数録音、最新盤は「ハープ・リサイタル3 ~バッハ・モーツァルト・シューベルト・ブラームス他」(grazioso)。1985年アリオン賞、87年村松賞、88年芸術祭賞、1989年モービル音楽賞奨励賞、1991年文化庁芸術選奨文部大臣新人賞、エイボン女性芸術賞をそれぞれ受賞。国際基督教大学卒業。

http://www.naokoyoshino.com/


取材・文:高坂はる香  写真:星ひかる

夜クラシックにぴったりのプログラム

ー今回のプログラムは、どのように選ばれたのでしょうか。

上野:まず演奏したいと思ったのは、フランスの作曲家、ダマーズの「ハープとフルートのためのソナタ」です。7月は、これから夏のヴァカンスシーズンが始まる季節ですから、ダマーズならではのリラックスした雰囲気の音楽が似合うのではないかと。彼は、サロン風のイメージの作品にフルートを使うことが多かったように思います。

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吉野:洒落っ気と遊びを感じる楽しい作品ですよね。ダマーズのお母様はミシュリーヌ・カーンというハーピストで、フォーレが作品を献呈したこともある人物です。そのためハープにも親しみを感じていたようで、たくさん曲を書いています。

上野:そんなダマーズに加えて、同じフランスもので、ドビュッシーの「美しき夕暮れ」や「星の夜」というタイトルもきれいな曲を合わせると、夜クラシックにぴったりのプログラムになるのではないかと思いました。

ーフルートとハープという楽器の相性についてはどう感じますか?

上野:それぞれ、音の出るシステムは全く違いますが、音が出た瞬間の柔らかさがちょうどうまく響きあうのだと思います。混ざり合い方が美しいというか。この組み合わせの曲は、ドビュッシーあたりの時代から増えてきます。たとえば彼は、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタを書いていますが、当時この編成は珍しいものでした。しかし、その後、こうしたアンサンブルの響きの美しさは、作曲家のイマジネーションのおかげで広く親しまれるようになり、今や、フルートとハープは定番の組み合わせとなりました。

吉野:フルートの方とご一緒するときによく言われるのは、普段ピアノと共演することが多いなか、ハープとのデュオだと、無理せず、いろいろな表情が出しやすいということです。ハープもかなりの音量はありますが、響きが柔らかいため、お互いに良いバランスで自然な演奏ができるのでしょう。

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ーお二人での共演には、どのようなことを期待していますか?

吉野:前回共演したのは、ラ・フォル・ジュルネでモーツアルトの「フルートとハープのための協奏曲」を演奏したときでしたから、二人だけでじっくり音楽をすり合わせて演奏するのは今回が初めてです。アンサンブルは、同じ曲でもご一緒する方で全然違うものになりますし、今まで見えなかった部分が発見できることもあります。最初からこうなるだろうと決めつけず、お互いが思う音楽を持ち寄る作業が楽しみですね。

上野:僕はもう、吉野さんと共演させていただくことがとにかく光栄なので、ひたすら楽しみです!

ーお互いの音楽についてはどんな印象をお持ちですか。

吉野:上野さんは、現代音楽にも取り組むなど、幅広い演奏活動をされているという印象がありますが・・・。

上野:そうですね、楽器の発展とともにキャパシティが広がったことを生かし、現代曲を取り上げたり、逆にバロックの曲をモダン楽器で演奏したり、幅広い活動をしていきたいと思っています。夜クラシックでも大小いくつか楽器を用意して、曲にあわせて持ち替えるつもりです。

吉野:ハープは何台も持ってこられませんからね、チューニングも大変ですし。

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上野:僕、吉野さんのコンサートには何回も行っているんです。家族に吉野さんのファンがいるので。

吉野:そうなんですか!? 知らなかった(笑)

上野:フランスに留学していた頃、周りにハープの方がたくさんいたので近くで演奏を見る機会も多くて、見た目の優雅さと裏腹に、ものすごく運動量が多い楽器だと知りました。弦をはじく瞬間の圧力も強く、一つのフレーズをレガートで演奏するためにこれだけのことをしているのかと。それを知ってから改めて吉野さんの演奏会に伺ったとき、あの運動量をこなしていながら、それを感じさせない高貴な雰囲気の演奏をされていることに、さらに感動してしまいました。

吉野:あんまりバタバタと演奏して、聴いている方に大変そうだなと思わせてしまってはいけませんからね(笑)

ーそう思わせないコツというか、心がけていることはあるのでしょうか?

吉野:弾くという技術的なことに一生懸命になってしまいがちですが、そこに入り込みすぎず、自分が出している音を聴くことが大切です。そのためには、音のイメージを持っていることが重要になります。ハープはヴァイオリンやフルートと違って、一度弦から指が離れたあとは、その音を長く伸ばしたり、音に新たな表情をつけたりすることができません。長く響く音から短く鋭く響く音まで、弦をはじくスピードや圧力のかけ方、はじいた後の動きなどで変化をつけます。そのうえ楽器全体が響くので、ずっとどこかに前の音の余韻が残り、その処理の仕方にも神経を使います。こういったところがこの楽器のユニークさであり、難しさ、魅力でもあります。

ーフルートの難しさはどんなところにありますか?

上野:フルートは、音が簡単に出せるため、うまく操れたことで、満足しやすい楽器だと思います。楽器のシステムもいいので練習すれば曲も吹けるようになります。でも、そこからが難しいのです。僕がいつも意識してるのは、ため息をつくように呼吸を滑り込ませるということ。そうすると、体の重さをナチュラルに息に乗せることができます。言葉のように、歌のように演奏するには、楽器と一体化しなくてはいけません。

ー口が伸びている、みたいな...。

上野:そうですね。あと、多くの楽器と違って、日常の自然な状態とは違う、斜めに構えるフォームで演奏するので、その体勢でも自分の体の幹の部分が意識できるようでないと、"演奏している自分"になってしまうのです。楽器を構えて何かを操っているという感覚すらなく、いつもの自分でいられるようにと心がけています。難しいのですが。

全員で一つの世界を味わう、親密な空間ができたらいいなと思います。

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ーフランスものを演奏する上で、楽器の鳴らし方として心がけることはありますか。

上野:作曲家によりますが、例えばドビュッシーなら、言葉でいう冠詞のようなものがないのが特徴なので、それを意識した音の鳴らし方をします。大切なことを言う前の準備のようなものであるアウフタクトがなく、フレーズがいきなり始まるので、水が一滴落ちた時の感動のような、音が生まれる瞬間の色彩感が重要になります。ハープのような音の出方の楽器は、それでドビュッシーに適しているのではないかと思いますね。

吉野:そうですね。ドビュッシーの作品には無駄な音がありませんが、そういうところもハープの音の特徴と共通しているかもしれません。

上野:ハープは一度音を出したらそのあとは何もできないという話がありましたが、そんな一音一音無駄のない作られ方をするハープに、息で後から音をコントロールできるフルートを合わせて演奏することになります。フルートでも、音の始まりに色彩を感じられるような表現を目指しています。

ー夜クラシックでハープとフルートが登場するのは今回が初めてです。どんな演奏会になりそうですか?

吉野:大ホールという空間でこの二つの楽器がすごく繊細なことをするので、お客様の耳をこちらに引きつけられるような演奏をしたいです。そうして、全員で一つの世界を味わう、親密な空間ができたらいいなと思います。今回のプログラムは、それにぴったりな曲ばかりです。

上野:広い空間だからこその、繊細な響きに耳をすます瞬間が生まれたらいいなと思います。

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ー不思議なもので、最初は音量が小さいかなと感じても、だんだん聴こえるようになっていきますよね。

上野:そこがおもしろいですよね。夜空を見ていて、だんだん目が慣れて集中が高まってくると、小さな光の星も見えるようになる。それに近いかなと思います。

吉野:構えることなくリラックスして、二つの楽器のやりとり、フルートとハープの心地よい音の世界を一緒に楽しんでいただけたらと思います。

プロフィール

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.21

2019年7月5日(金)19:30開演

文京シビックホール 大ホール

出演

フルート/上野星矢
ハープ/吉野直子

曲名

【試聴できます】 曲目をクリックしてください。
※ 試聴音源の演奏家・楽器編成は、本演奏会の出演者・楽器編成と異なる場合もございます。
一部、試聴できない曲目がございます。

ドビュッシー:月の光
フォーレ:月の光
フォーレ:シシリエンヌ
ラヴェル:ハバネラ形式の小品
ダマーズ:フルートとハープのためのソナタ
ドビュッシー:シリンクス
テレマン:「無伴奏フルートのための12の幻想曲」より第10番第12番
トゥルニエ:妖精~前奏曲と舞曲~
ドビュッシー:美しき夕暮れ
ドビュッシー:星の夜
ビゼー:歌劇「カルメン」より "セギディーリャ" "間奏曲" "ハバネラ"

料金

S席 3,000円 A席 2,000円<全席指定・税込>

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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