人気アーティストの演奏による極上の音楽で安らぎのひとときを・・・
夜クラシック 2026-2027シーズン
全4回ラインアップ紹介
テーマ曲「月の光」ではじまり、人々を安らぎのひとときへ誘う「夜クラシック」。
2026-2027シーズンの聴きどころを、音楽ライターがご紹介いたします!
文:高坂 はる香
12年目のシーズンを迎え、ますますそのラインアップを充実させている、文京シビックホール「夜クラシック」。2014年のスタート以来、他ではないアーティストの組み合わせや"夜クラ"のコンセプトに合わせた特別な演目、時には王道のプログラムと、バラエティに富んだ内容で、クラシックファンの注目を集めてきた。テーマ曲として冒頭に演奏されるドビュッシー「月の光」を、出演者や楽器編成ごとに異なる表情で聴けることも、このシリーズのお楽しみの一つ。
2026-2027シーズンも、"夜クラ"おなじみの演奏家から人気の初登場アーティストまで、バラエティに富んだ顔ぶれが揃った。プログラムも、彼らのこだわりが込められたものばかり。それぞれの公演の聴きどころ、注目ポイントをご紹介しよう。
Vol.41
2026年7月3日(金)19:00開演
出演:仲道郁代(ピアノ)
弦楽アンサンブル
[島田真千子・水谷 晃(ヴァイオリン)、
大島 亮(ヴィオラ)、植木昭雄(チェロ)]
曲目:
ショパン/バラード第1番~第4番
ショパン/ピアノ協奏曲第1番(ピアノ五重奏版)ほか
Vol.1以来、これまで"夜クラ"にさまざまなスタイルで出演してきた、ピアニストの仲道郁代。今回は、彼女が長らく向き合い続けている作曲家であるショパンをテーマに、聴きごたえたっぷりのプログラムを用意してくれた。
前半は、ピアノの詩人と呼ばれたショパンの魅力が存分に詰まったバラード全4曲。ショパンが生涯抱き続けた愛国心や胸の奥にたぎらせた情熱を、仲道がピアノでドラマティックに描き上げる。そして後半は、「ピアノ協奏曲第1番」の室内楽版!島田真千子(1stヴァイオリン)、水谷 晃(2ndヴァイオリン)、大島 亮(ヴィオラ)、植木昭雄(チェロ)という名手を共演者に迎え、若き日のショパンの手による傑作を披露する。
現代ではオーケストラと共演されることが多い作品だが、ショパン自身は、これをしばしば室内楽で演奏していた。当時親しまれた姿で聴くからわかる作品の魅力、また、室内楽版ならではのより親密なアンサンブルを味わうことができるだろう。
Vol.42
2026年11月27日(金)19:00開演
出演:郷古 廉(ヴァイオリン)、 横坂 源(チェロ)、北村朋幹(ピアノ)
曲目:プロコフィエフ/5つのメロディ
武満 徹/オリオン
ラヴェル/ピアノ三重奏曲 第1楽章
エネスク/夜の鐘
シェーンベルク(シュトイアーマン編)/浄められた夜 ほか
第一線で活躍する演奏家が集う人気トリオが、"夜クラ"初登場。とはいえ、それぞれが別の共演者と登場経験があるので、"夜クラ"ファンの皆さんにとっては親しみのある顔ぶれかもしれない。
ヴァイオリンの郷古 廉は、2017年ぶりの再登場。ソリストとしての活躍に加えて、N響第1コンサートマスターにも就任し、ますます音楽の幅を広げている。チェロの横坂 源は、昨シーズンのレアなチェロ四重奏公演に続いての登場。そして、こだわりの音楽性で独自の道を歩むピアノの北村朋幹は、2019年以来の登場となる。
それぞれ忙しく活動しながら、彼らはたびたびトリオで活動する。個々の演奏活動で培ったものを持ち寄り、一つの音楽を作る機会が、良い刺激になっているようだ。
今回のプログラムは、前半が「月の光」、プロコフィエフ、武満、ラヴェル、そして後半がエネスク「夜の鐘」、シェーンベルク「浄められた夜」という、ミステリアスな夜の空気に満ちたもの。3人ならではの趣向を凝らした選曲が、好奇心を刺激する。
Vol.43
2027年1月22日(金)19:00開演
出演:鈴木優人(チェンバロ)、上野星矢(フルート)
曲目:クープラン/恋の鶯
吉松 隆/デジタルバード組曲
ヴィヴァルディ/フルート協奏曲「ごしきひわ」 第2楽章
グルック/オルフェオとエウリディーチェより
バッハ/フルートとチェンバロのためのソナタ ロ短調 ほか
首席指揮者を務めるバッハ・コレギウム・ジャパンをはじめ数々のオーケストラと共演する指揮者、古楽のスペシャリストであり、チェンバロ奏者としても活動する鈴木優人が、"夜クラ"に初登場。彼とタッグを組むのは、2019年・2023年以来の再登場、日本の同世代を牽引する人気フルート奏者の上野星矢。これまで指揮者とソリストとしての共演は多いが、デュオは貴重な機会だ。
用意されているのは、センスの光るプログラム。前半の軸となるのは、現代日本を代表する作曲家であり、NHK大河ドラマ「平清盛」の音楽でも知られる吉松 隆が手がけた「デジタルバード組曲」。機械じかけの鳥を主人公とした空想の世界を、フルートとチェンバロで描き上げる。その間に300年以上前のバロック作品を挟むことで、どんな相乗効果が現れるのか、興味深い。
後半は、グルックとバッハ。バロック時代のフルートの名作を、現代ピアノではなく、当時の鍵盤楽器であるチェンバロとの共演で聴くことができる、またとないチャンスだ。
Vol.44
2027年3月19日(金)19:00開演
出演:吉田 誠(クラリネット)、児玉 桃(ピアノ)
曲目:プーランク/愛の小径
プーランク/クラリネットとピアノのためのソナタ
フォーレ/月の光
メシアン/「鳥のカタログ」より"モリヒバリ"
サン=サーンス/クラリネットとピアノのためのソナタ ほか
"夜クラ"には2017年に続く再登場、また2024年「BUNKYO SIENA POPS」ではシャンソンのスペシャルメドレーを披露してくれた、クラリネットの吉田 誠。今回は、大阪生まれヨーロッパ育ち、フランスを拠点に活動するピアニストの児玉 桃と、珠玉のフランス音楽を届ける。吉田もまた、兵庫に生まれ、大学卒業後フランスで研鑽を積んでいるため、彼ら二人の根源にある感性が発揮されるプログラムといえる。
そのセレクトは、プーランクのシャンソン風の楽曲やソナタ、メシアンの小品、サン=サーンス最晩年の作である「クラリネットとピアノのためのソナタ」とバラエティに富む。テーマ曲のドビュッシー「月の光」に対比させるように、後半の冒頭に、フォーレの「月の光」が置かれているのもポイントだ。両者には同じ題材をもとに書いた作品が少なくなく、その聴き比べは興味深い。
二人の名手が奏でる音により、フランスの色彩、香り、空気がホールに満ちる時間になるだろう。
おなじみの顔ぶれ、初登場のアーティストが、それぞれ魅力的なパートナーと舞台に立ち、"夜クラ"ならではのプログラムを届ける。そのコンセプトや裏に秘められたアイデアを教えてくれる、恒例の幕間トークも楽しみ。
心地よい音楽に包まれる体験ができ、なおかつ刺激や発見もある「夜クラシック」。
2026-2027シーズンにも、どうぞご期待ください!
取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)
音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」


