オススメ公演の聴きどころ指南
佐渡裕指揮 シエナ・ウインド・オーケストラ演奏会《ブラスの祭典2025》

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールを拠点に活動するシエナ・ウインド・オーケストラが、首席指揮者・佐渡裕との黄金コンビで登場!
今回演奏されるのは、昨年のツアーにおいて、全国各地で大旋風を巻き起こした《オセロ》と《指輪物語》。
本公演の魅力を、音楽ライター・富樫鉄火氏が徹底解説いたします。

佐渡裕指揮 シエナ・ウインド・オーケストラ演奏会《ブラスの祭典2025》

2025年11月7日(金)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:富樫鉄火

名作《オセロ》と、生まれ変わった《指輪物語》―2つの〈ものがたり〉名曲に、佐渡裕×シエナが挑む!

 ひさびさに、シビックホールに佐渡裕×シエナ・ウインド・オーケストラが帰ってくる!しかも昨年、全国縦断6公演で、大反響を巻き起こした話題のプログラムである。
 今回のテーマは〈ものがたり〉。
 波乱万丈のストーリーを音楽にした、2つの吹奏楽オリジナル曲が中心だ。おそらく、このような重厚な名曲2曲を1回のコンサートのなかで演奏できるのは、佐渡裕×シエナくらいしかいないだろう。
 聴きどころをご紹介しよう。

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佐渡裕(指揮)             Ⓒ Takashi Iijima

 まず前半では、アルフレッド・リード(1921~2005)作曲の《吹奏楽のための交響的素描 オセロ》が演奏される。シェイクスピアの戯曲『オセロ』のために書かれた劇付随音楽をもとに、5曲で構成された組曲だ。
 本来は金管アンサンブル曲だったが、その後、現在のようなウインド・オーケストラ編成に改訂された。
 『オセロ』は、いうまでもなく、文学史上に残る究極の悲劇 =〈ものがたり〉である。シェイクスピア4大悲劇のひとつだ。嫉妬と誤解の積み重ねが招く悲劇―1602年初演以来、舞台上演はもちろん、数多くの映画、音楽になってきた。特にヴェルディ作曲のオペラが有名だが、それに勝るとも劣らない人気曲が、このリードによる吹奏楽組曲だ。
 現在までに、全日本吹奏楽コンクール(全国大会)に18回登場しているが、特に1980年代の天理高校(奈良)、神奈川県立野庭高校の名演がいまでも語り草である。
 "吹奏楽の神様"とも称されたリードは、《アルメニアン・ダンス》PART1・2が有名だ。かつて佐渡裕×シエナが定期演奏会で同曲を演奏した際、たまたま客席に、来日中のリード自身がいた。そして終演後、興奮さめやらぬ様子で楽屋に駆けつけ、「今まで聴いたなかで、最高の演奏だった!」と告げたというエピソードが伝わっている。
 以来、佐渡裕×シエナは、リード作品に格別の想いを抱いて演奏してきた。なかでも、この《オセロ》は、その劇的なストーリーを、音楽として見事に昇華させた名曲である。そんな昨年のツアーで約20年ぶりに演奏したこの曲を、今回、ひさびさに文京シビックホールで披露するのだ。
 その冒頭の凄絶な響きからして、ノックアウトされること、まちがいない。同時に、管打楽器だけで表現しているとは思えない、静謐(せいひつ)で美しい部分もある。
 じっくりと、耳を澄ませてほしい。

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シエナ・ウインド・オーケストラ(吹奏楽) Ⓒkenji Shimizu

 後半も、波乱万丈の〈ものがたり〉がつづく。
 J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)は、20世紀最高の幻想文学と称されている(1954~55年発表)。伝説時代、異世界の地球を舞台に、世界を支配できる"一つの指輪"をめぐって展開する争奪戦を描いた、壮大な〈ものがたり〉である。全6部構成、邦訳文庫は全10巻におよぶ超大作だ。
 この小説は、いままでにロックやポップスなど、さまざまな形で音楽化されてきた。だがもっとも多くのひとたちに愛され、演奏されてきたのは、やはり、オランダのヨハン・デ=メイ作曲による吹奏楽曲、交響曲第1番《指輪物語》だろう(1988年世界初演)。全5楽章、45分におよぶ超大作である。
 この曲のユニークなところは、5楽章それぞれが、魔法使いガンダルフやホビット族といった特定のキャラクターや、一場面を描写していながら、通して聴くと、ちゃんと全体のストーリーも表現されている点だろう。いわば全10巻の文庫を、45分で駆け抜けるわけだが、それでいて、物語の本質や全体像もきちんと描かれている。いわゆる"ダイジェスト"的な音楽とは、ちょっとちがうのだ。よって、聴いたあと、壮大な叙事詩を読み切ったような満足感に襲われる。これほどの感慨を与えてくれる吹奏楽曲は、そうあるものではない。
 こちらは、コンクール全国大会に6回登場。なかでも、1993年の関東第一高校(東京)は、派手な大音響を避け、第4楽章の静謐で美しいエンディングで締めくくる、意外な抜粋構成で話題となった。
 ところで、原曲は、ベルギーの王立近衛軍楽隊「ベルギー・ギィデ交響吹奏楽団」が初演したのだが、その後、あまりの大作なのでどこも楽譜出版を請け負ってくれなかった。仕方ないので作曲者自身で会社を立ち上げて楽譜出版した......それほどの作品である(大編成の大曲なので、スクール・バンド向けに中編成のダイジェスト編曲までが出版されている)。
 初演後、サドラー国際吹奏楽作曲賞を受賞。それまで、トロンボーン奏者としての活躍が多かったデ=メイは、一躍、世界的な作曲家として名を馳せた。シエナも2012年11月、来日したデ=メイ本人の指揮で名演を披露し、CD化もされている。

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2023年公演の様子            photo:K.Miura

 その大作に、ついに"世界の佐渡"が挑む日がやってきた!
 佐渡裕は、すでに《エクストリーム・メイク・オーヴァー》や《カサノヴァ》などのデ=メイ作品で名演を聴かせてくれている。スピード感たっぷりに疾走するデ=メイの〈ものがたり〉と、佐渡の熱いタクトは、抜群の親和性を生んできた。今回は、その頂点となるにちがいない。
 なお本曲は、2023年、初演から35年ぶりにスコアが全面改訂された。楽器編成や強弱・表情指定が変更され、まさに21世紀の響きとなっている(期せずして、原作邦訳も2022年に全面改訂され、最新版となった)。今回は、その〈2023年改訂版〉で演奏される。
 この2大文学、〈ものがたり〉の音楽―古典的名曲《オセロ》と、生まれ変わった《指輪物語》を、佐渡裕×シエナがどのように聴かせてくれるか、期待でワクワクしているのは、わたしだけではないはずだ。
 もちろん、おなじみ、なにが飛び出すか当日までわからない、〈音楽のおもちゃ箱〉コーナーもあるので、お楽しみに!

富樫鉄火(とがし てっか)

1958年、東京生まれ。音楽ライターとして吹奏楽を中心に、コンサート・トーク、プログラムやCD解説を執筆。ウェブ・ニュース「デイリー新潮」にも音楽記事を寄稿。著書に『一音入魂!全日本吹奏楽コンクール名曲・名演50』(共著、河出書房新社)、『東京佼成ウインドオーケストラ60年史』(新潮社図書編集室)などがある。ブログ富樫鉄火のグル新を公開中。

佐渡裕指揮 シエナ・ウインド・オーケストラ演奏会《ブラスの祭典2025》

2025年11月7日(金)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/佐渡裕
吹奏楽/シエナ・ウインド・オーケストラ

曲名

A.リード/吹奏楽のための交響的素描《オセロ》
J.デ=メイ/交響曲第1番《指輪物語》
ほか

※曲目及び曲順は変更になる場合があります。

料金

【全席指定・税込】
S席 6,500円
A席 5,500円
B席 4,500円

学生割引あり
S席3,500円、A席2,500円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※学生割引は、JR各社の学生割引定期券を利用できる学生の方に限ります。

※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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