~ばっちり予習~
オススメ公演の聴きどころ指南
テーマ曲「月の光」ではじまり、人々を安らぎのひとときへ誘う「夜クラシック」。
Vol.38には、ソリストとしてのみならず、室内楽の分野でも多彩な活躍を続ける笹沼 樹と實川 風が、デュオで登場!
本公演の魅力と公演プログラムを音楽ライターがご紹介いたします。
夜クラシックVol.38 笹沼 樹・實川 風
2025年10月3日(金)19:00開演 文京シビックホール 大ホール
文:高坂はる香
伸びやかで甘く、深い音色を持つチェロと、幅広い音域、さまざまな質感の音を奏でるピアノのデュオは、シンプルな編成でありながら、室内楽の中でも最も複雑で、幾重にも音が重なる深い表現が可能なアンサンブルといえるだろう。
笹沼 樹(チェロ) Ⓒ Taira Tairadate
この秋の〈夜クラシック〉Vol.38では、そんなチェロとピアノのデュオを、技術的にも音楽的にも脂の乗った同世代の音楽家の演奏で聴くことができる。一見爽やかでありつつ実のところは個性的な二人だけに、おもしろいコンサートになりそうだ。
チェロの笹沼 樹は、1994年生まれ。ソリストとして活躍しているのはもちろん、東京交響楽団の客演首席チェロ奏者としての顔、さらにはクァルテット・アマービレ、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団、トリオ・リズルなど室内楽団のメンバーとしての顔も持つ。なかでもクァルテット・アマービレでは、2016年、難関として知られるARDミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第3位に入賞したことで注目を集めた。
桐朋学園大学のソリスト・ディプロマコースと同時に、学習院大学文学部ドイツ語圏文化学科でも学び、さらにパリでも研鑽を積むという経歴を持つ、知性と感性を兼ね備えた演奏家だ。長身の体をチェロと一体化させて奏でる力強い音、情熱的でありながらクールさも保ったバランスの良い演奏で魅了する。
一方の實川 風もまた、ドラマティックな歌心と、統制のとれた表現のバランスが抜群なピアニストだ。1989年に生まれ、東京藝術大学附属音楽高校、同大学と大学院ののち、オーストリアのグラーツ音楽大学で学んだ。2015年にはパリのロン・ティボー国際コンクールピアノ部門で第3位に入賞を果たし、キャリアを切り拓いた。人気ピアニストはソロの活動が中心となりがちだが、實川は室内楽奏者としても声楽家や弦楽器奏者などさまざまな共演者からあつい信頼を得ているので、そちらの活動でも引っ張りだこだ。
二人とも穏やかなキャラクターなのだが、同時に、イマジネーション豊かで音楽へのこだわりが強いタイプでもあるという印象。それだけに、今回のプログラムも趣向を凝らしたものとなった。〈夜クラシック〉には、過去にそれぞれ別の共演者と出演しているが、今回は彼らならではの選曲で、自由かつ豊かな音楽性を披露してくれる。
實川 風(ピアノ) Ⓒ Taira Tairadate
〈夜クラシック〉シリーズ・テーマ曲のドビュッシー「月の光」からつなぐ、同じくドビュッシーの「チェロとピアノのためのソナタ」は、作曲家がすでに病魔に侵されていた最晩年の作品。チェロの多様な表現が用いられ、ドビュッシーらしい響きを持ちながら、暗くミステリアスな美しさが際立つ。冒頭から、近代フランス音楽の刺激的かつ幻想的な世界にどっぷりと浸ることができそうだ。
グラナドスの「スペイン舞曲」は、原曲は全12曲からなるピアノのための作品。民謡の要素が巧みに取り入れられた楽曲で、耳馴染みの良いメロディとスペインを旅するような音楽に、気分が上がる。スペインのダンスや光、懐かしさを感じさせる曲想が愛され、さまざまな楽器編成のための編曲がなされており、チェロとピアノ版にも既存の編曲版が複数あるが、今回は笹沼自身の編曲による5曲が披露されるという。作品への愛着たっぷりの演奏が聴けることだろう。
続けて取り上げるのは、同じスペインから20世紀を代表するチェリスト、カサドの「チェロとピアノのためのソナタ」。ちょうど今から100年前の1925年に書かれた作品で、コンサートで取り上げられる機会は多くないが、スペインの情熱的な歌とリズムの妙、チェロとピアノの掛け合いを楽しめる楽曲だ。
そこから南米アルゼンチンに飛び、タンゴの鬼才ピアソラからは、「ル・グラン・タンゴ」を演奏する。これは20世紀後半を代表するチェリスト、ロストロポーヴィチの演奏を聴いて感銘を受けたピアソラが1982年に書いた名作。魅惑のメロディと力強いリズムが生み出す、物悲しさが漂いつつも静かに燃えるようなタンゴの世界に惹き込まれるに違いない。パワフルな音と優れた技術を持つ二人のキレのよい表現に、大いに期待しよう。
そして未知の出会いとなるのが、近ごろ積極的に作曲にも取り組んでいる實川が手がける「遊戯 チェロとピアノのための」の世界初演!實川によれば、「ラテン系の作曲家を集めたプログラムに混じりあうような、チェロとピアノの協奏的な作品」が披露される予定だとのこと。どんな作品なのかは今のところまったくわからないが、實川が内に秘めたラテン的な感性と遊び心が開花する、熱い曲になるということなのだろうか......。いずれにしても聴衆は、新たな作品が音として世に放たれる、貴重な瞬間に立ち会うことになる。
名曲からレアな作品、さらには新作初演まで、実に多彩な楽曲が揃う、聴きごたえたっぷりのプログラム。年齢が近くユニークな感性を持つ二人が、演奏の間にどんなトークを繰り広げるのかも楽しみ。すでに共演を重ねる彼らだけに、もちろん音楽のほうでも、呼吸をあわせ、ときにぶつかりあい、対話をしながら、エキサイティングで情熱的な一夜を届けてくれることだろう。
文高坂はる香(こうさかはるか)
音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」
夜クラシックVol.38 笹沼 樹・實川 風
2025年10月3日(金)19:00開演
文京シビックホール 大ホール
出演
チェロ/笹沼 樹
ピアノ/實川 風
曲名[全曲デュオ]
≪夜クラシック テーマ曲≫
ドビュッシー/月の光
ドビュッシー/チェロとピアノのためのソナタ ★
グラナドス/スペイン舞曲より
第1番 ガランテ
第3番 ファンダンゴ
第5番 アンダルーサ
第6番 ロンダーリャ・アラゴネーサ
第8番 サルダーナ
カサド/チェロとピアノのためのソナタ
ピアソラ/ル・グラン・タンゴ ★
實川 風/遊戯 チェロとピアノのための (2025・初演)
【★マーク】
試聴できます(2025年10月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合がございます。)
料金
【全席指定・税込】
S席 3,000円
A席 2,000円
お問い合わせ
シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)
