~ばっちり予習~
オススメ公演の聴きどころ指南
フランスのエスプリを受け継ぐ木管アンサンブルとして結成されたレ・ヴァン・フランセ。
シビックホール通算5度目の登場となる彼らの来日公演を前に、その魅力を音楽ライターがご紹介!
レ・ヴァン・フランセ
レ・ヴァン・フランセ
Ⓒwildundleise. de Georg Thum 2014
掛け値なしに"現代最高のアンサンブル"と言い切れるのがレ・ヴァン・フランセだ。未知の方は絶対に一度聴くべきであり、体験した人は繰り返し聴きたくなること必至のスーパー・グループが、再び文京シビックホールに登場する。
レ・ヴァン・フランセは、管楽器王国フランスのエスプリを受け継ぐ木管アンサンブル。1990年代後半、世界を代表するクラリネット奏者ポール・メイエが、国際的に活躍する友人の奏者たちに声がけして結成された。名称は"フランスの風"の意味。メンバーが参加したプーランクの室内楽全集のCDは1999年発売と同時に絶賛を博し、日本では第37回レコード・アカデミー大賞を受賞。以来、ワーナー・クラシックス等から数多くのCDをリリースし、2012年発売の「ザ・ベスト・クインテット」も第50回レコード・アカデミー賞大賞銀賞を受賞した。また2002年の初来日公演の模様がNHKテレビで放映され、あまりに完璧な演奏は皆に衝撃を与えた。本来は流動的なグループだが、固定されたベスト・メンバーで定期的に来日している点も特筆物。そのハイクオリティなコンサートは毎回聴く者を魅了している。
とにかくメンバーが物凄い。メイエをはじめ、フルート界の大スター、エマニュエル・パユ、ソリストとして名高いオーボエのフランソワ・ルルー、同じくホルンのラドヴァン・ヴラトコヴィチ、フランス式バスーン=バソンの第一人者ジルベール・オダンと、各楽器の頂点に立つ名手が顔を揃え、フランスを代表するピアニスト、エリック・ル・サージュが音楽に幅をもたらす。まさに世界のトップ級が居並ぶドリーム・チームである。
メンバーはヴラトコヴィチを除く全員がフランス人(パユはスイス生まれ)でパリ音楽院の出身。ゆえに同一方向の奏法や音色を身に付けている。これも多大な強みとなり、色調の一致したサウンドは明朗かつ軽妙で音のブレンドが実に芳醇。質朴でまろやかなバソンの存在も独自の音色に大きく貢献している。さらに、通常の木管五重奏と異なる特徴が、ピアノを加えたアンサンブルである点。この特別な編成によって柔軟で多彩なレパートリーとサウンドが生み出される。
精妙な音のバランスと絶妙なハーモニー、驚異的なまでに揃ったアーティキュレーション(フレーズの中の音の切り方やつなぎ方)、流れるようなフレーズの受け渡し、丁々発止にして洒脱なやりとり、自在に変化する色彩感、雄弁な表現力を併せ持った演奏には、もはやあぜんとするほかない。そこにフランスならではの洗練味やウィットが加わり、愉悦感も満点。そのステージには誰もが引き込まれること請け合いだ。
©Nicolas Tavernier
ここでメンバーの経歴をご紹介しておこう。
エマニュエル・パユ(フルート)は、 1970年スイス・フランス語圏のジュネーヴ生まれ。パリ音楽院で学び、1989年神戸、1992年ジュネーヴの両国際コンクールで優勝。1993年23歳の若さでベルリン・フィルの首席奏者に就任し、以来ソリストとしても世界的に活躍している。深い音楽性と色彩感豊かな音色をもつ現代最高の奏者であり、人気も抜群に高いフルート界の大スター。
フランソワ・ルルー(オーボエ)は、1971年フランス生まれ。パリ音楽院で学び、1991年ミュンヘン国際コンクールの優勝で一躍注目を集める。18歳でパリ・オペラ座管、21歳でバイエルン放送響の首席奏者に就任。現在はソリストとして世界的に活躍しているほか、指揮者としても実績を上げるなど、無類の音楽性の高さと幅広さを誇る。繊細で優美な音色と驚異的なテクニックで知られるオーボエ界のスター。
ポール・メイエ(クラリネット)は、1965年フランス生まれ。パリ音楽院等で学ぶ。1985年パリ・オペラ座管の首席奏者に就任し、トゥーロン国際コンクールでも優勝。以来、完璧な技術と品のある音色をもったソリストとして活躍を続けており、指揮者としての活動も目覚しい。名実共に世界のトップに立つクラリネット奏者。
ラドヴァン・ヴラトコヴィチ(ホルン)は、1962年クロアチア生まれ。地元やデトモルトで学び、20歳でベルリン・ドイツ響の首席奏者に就任した。1983年ミュンヘン国際コンクールのホルン部門で14年ぶりの1位を獲得して以来、世界中でソリストとして活躍。現代最高のホルン奏者の一人である。
ジルベール・オダン(バソン)は、1956年フランス生まれ。パリ音楽院で学ぶ。1980年ジュネーヴ、1982年トゥーロンの両国際コンクールで第1位を獲得後、パリ・オペラ座管首席奏者やパリ音楽院教授を務めている。フランス式バスーン=バソンの第一人者であり、その官能的な音色が当グループのチャームポイントの1つにもなっている。
エリック・ル・サージュ(ピアノ)は、1964年フランス生まれ。パリ音楽院を経て、ロンドンで学ぶ。1989年シューマン国際コンクール第1位等を受賞。以来ソリスト、室内楽奏者として活躍し、メイエやパユと共にサロン・ド・プロヴァンス音楽祭も主宰している。知的な解釈と濃密かつ繊細な演奏で高い評価を受ける名奏者。
Ⓒwildundleise. de Georg Thum 2014
今回のプログラムは、前半がクラシックの編曲物で、後半がこうした編成のオリジナル作品。日頃オーケストラやソロで馴染んだ大家の音楽と、当グループでこそ映えるアンサンブルの名品を併せて堪能できる、嬉しい内容だ。
最初のブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」は、後期ロマン派の大家の名管弦楽曲。出だしから木管楽器が活躍する音楽はこの編成にもピッタリだし、クラシカルな作品の経験豊富な奏者たちだけに、音楽自体の魅力とオーケストラとはひと味違った妙味を共に満喫させてくれる。
次のヴェルディ「クインテット ホ短調」は、イタリア・オペラの巨匠が残した唯一の室内楽曲「弦楽四重奏曲 ホ短調」がオリジナル。同曲は、円熟期のオペラ「アイーダ」初演の2年後に作曲された作品で、イタリアにおける弦楽四重奏の稀少なレパートリーとなっている。曲は軽妙で表情豊かな音楽。緻密な構成がなされたこの作品が木管アンサンブルでどう表現されるか?がまずはポイントとなる。しかも弦楽器4本の作品が管楽器5本に移されているので、原曲とは異なる音の綾が大きな聴きもの。当グループならロマン派の新作アンサンブル曲発見の喜びをも与えてくれそうだ。
かわってはカプレの「フルート、オーボエ、クラリネット、バソンとピアノのための五重奏曲」。近代フランスの作曲家カプレは、ドビュッシーのピアノ曲「子供の領分」「月の光」の管弦楽編曲で知られている。1900年に初演されたこの曲は、古典的な装いとロマン派の香りにフランスのエスプリが加わった個性的な音楽で、実質的にレ・ヴァン・フランセのおかげで日の目を見た作品。ここは、当グループのフランス本流のセンスと、ピアノを含む編成のメリットが存分に発揮される。
最後はトレードマークというべきプーランクの「六重奏曲」。フランス六人組を代表する室内楽曲の1つで、おもちゃ箱をぶちまけたかのように多彩な楽想が飛び交いながらも、シリアスさと気品と粋なエスプリを湛えた快作だ。毎回演奏される曲だが、彼らはいつも瑞々しく生き生きと奏でるので、何度聴いても感嘆させられる。
今回は文京シビックホールにおける通算5回目の公演。2012年の初登場以来演奏を重ねてきたメンバーにとって、馴染みの会場である点も武器となる。彼らは木管アンサンブルを管楽器ファンから一般ファンの楽しみに変えた稀有の存在。その妙技を今回もぜひ味わいたい。
文柴田克彦(しばた かつひこ)
音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」等の雑誌、公演プログラム、WEB、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。
レ・ヴァン・フランセ
2025年3月13日(木)19:00開演
文京シビックホール 大ホール
出演
レ・ヴァン・フランセ
エマニュエル・パユ(フルート)
フランソワ・ルルー(オーボエ)
ポール・メイエ(クラリネット)
ラドヴァン・ヴラトコヴィチ(ホルン)
ジルベール・オダン(バソン)
エリック・ル・サージュ(ピアノ)
曲目
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲
ヴェルディ/クインテット ホ短調
カプレ/フルート、オーボエ、クラリネット、バソンとピアノのための五重奏曲
プーランク/六重奏曲
料金
【全席指定・税込】S席 5,500円 A席 4,500円 B席 3,500円
学生割引あり
S席3,000円 A席2,500円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。
お問い合わせ
シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)