オススメ公演の聴きどころ指南 オーケストラ・アンサンブル金沢 in Bunkyo 2023

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。
これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

オーケストラ・アンサンブル金沢 in Bunkyo 2023

2023年5月14日(日)15:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

今年前半の「文京シビックホールリニューアル記念公演」にラインナップされたオーケストラの中でも、ひときわ個性を放つのが、514日(日)の「オーケストラ・アンサンブル金沢」だ。
20198月、文京区と金沢市が友好交流都市協定を締結したことを記念し、翌202010月に文京シビックホールに初登場した彼らが、当ホールのリニューアルを記念して再び登場する。ここでは、公演の内容とその魅力をご紹介しよう。

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  川瀬賢太郎(指揮)

 オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は、石川県と金沢市によって1988年に設立された、日本初のプロの常設室内オーケストラ。世界からのメンバー募集、座付き作曲家の導入、2001年以来の拠点・石川県立音楽堂と一体化した公演、定期的な国内各地での公演や積極的な海外公演、90枚を超える録音......など新たな視座による活動でその名を馳せている、"ハイクオリティな個性派"だ。選り抜きの名手たちによる演奏は、室内オーケストラならではの柔軟かつ緻密な合奏力と自発性豊かな表現力が特徴をなしている。中でも、バロックから古典派、初期ロマン派にかけてのコンパクトな編成の作品の演奏はまさに唯一無二。そうしたレパートリーにおける独特のサウンドと音楽表現は、大編成のフル・オーケストラとはひと味違った魅力を持っている。
 今回の指揮は川瀬賢太郎。1984年生まれの彼は、2006年の東京国際音楽コンクール<指揮>において1位なしの2位(最高位)に入賞後、各地のオーケストラに客演し、意欲的な選曲と若さ溢れる指揮で聴衆を魅了。海外やオペラでも活躍しつつ、201422年には神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を務め、現在は、名古屋フィルハーモニー交響楽団の正指揮者(2023年4月からは第6代音楽監督に就任する)、札幌交響楽団正指揮者、そしてオーケストラ・アンサンブル金沢のパーマネント・コンダクターを務めている。彼の魅力は、生気溢れる音楽作り。そのタクトから生まれる精彩と活力に富んだ音楽は、聴く者にエキサイティングな感銘をもたらす。

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 大谷康子(ヴァイオリン)

 

 ソリストにはまず、前回に続いて登場するヴァイオリンの大谷康子。2023年にデビュー48周年を迎えた彼女は、人気・実力ともに日本を代表するヴァイオリニストの一人。これまでにリサイタルはもとより、N響、モスクワ・フィル、スロヴァキアフィル等、国内外の著名なオーケストラとの共演も数多い。キーウ(キエフ)国立フィルとは2017年以降毎年招聘され、2023年にも共演を予定している。CDも多数リリース。BSテレ東(毎週土曜朝8時)「おんがく交差点」では司会・演奏を務め、東京音楽大学教授東京藝術大学客員教授として後進の指導にもあたっている。八面六臂の活躍を続ける彼女の魅力は、華のあるステージと深く表情豊かな音楽。温もりを感じさせる演奏は、耳を惹きつけて離さない。

 もう1人のソリストは、ピアノの阪田知樹。2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール・ピアノ部門第4位入賞、2016年ハンガリー・フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)第1位等、多くの賞を獲得し、エリザベート王妃国際音楽コンクールでは「多彩な音色をもつ、知性派ヴィルトゥーゾ」、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙を成し遂げたリスト国際コンクールでは、「天使が弾いているようだ!」と称賛されている。これまでに、チェコ国立響、ハンガリー国立フィル、ベルギー国立管、N響、東響、都響、東京フィル、読響等々と共演。室内楽奏者としても腕をふるい、国内はもとより世界20カ国で演奏を重ねている。彼は、目覚ましいテクニックを生かして、ダイナミックかつきめ細かなピアノを奏でる。表現は的確で説得力に富んでおり、音楽そのものの魅力を余すところなく伝えてくれる。若手ピアニスト中、最上位ともいえる実力を持つ彼の演奏は、「絶対に聴くべき」と断言してもいい。

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   阪田知樹(ピアノ)

  プログラムは、2人がソロを弾く協奏曲が中心をなしている。大谷康子は、前回に続いてヴィヴァルディの人気作、ヴァイオリン協奏曲集「四季」を取り上げ、今回は明朗な「春」と変化に富んだ「夏」を披露する。作品は爽快なサウンドと旋律美に溢れた"バロック音楽の代名詞"。様々な事象の描写が協奏曲では稀な魅力だし、ソリストの名人芸のみならず、オーケストラ・メンバーのソロも多くあるので、見せ場は尽きない。それに今回は、大谷の艶やかで鮮やかなソロと名手集うOEKメンバーとの絶妙な絡みが、我々の気持ちを晴れやかにしてくれること間違いなしだ。

 阪田知樹が弾くのは、ショパンのピアノ協奏曲第1番。前回2020年公演で横山幸雄がソロを弾いた第2番と合わせて、"ピアノの詩人"の2つのピアノ協奏曲を生体験できることになる。若きショパンの想いが詰まった意欲作にして、故国からの旅立ちの音楽でもあるこの曲は、ピアノの華やかな名人芸と甘美な旋律に溢れた、詩情豊かでロマンティックな名作。今回は、高度な技巧と雄弁な表現力を持つ若手屈指の実力者・阪田の妙技をじっくりと堪能できるのがまず嬉しい。さらには川瀬&OEKの端正で瑞々しいバックとの絡みも耳目を楽しませてくれる。

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   オーケストラ・アンサンブル金沢

  また今回は、ベートーヴェンの交響曲第8番も演奏される。創作中期の最後を飾るこの曲は、楽聖の作曲技法の粋を集めた、リズミカルで軽妙かつ典雅でユーモアをも湛えた佳品。おなじみの第7番と同時期に書かれた作品だが、ベートーヴェン自身は第8番の方が傑作だと自負していたともいわれている。加えて、ベートーヴェンの交響曲の中でもコンパクトな同曲は、OEKの編成や演奏スタイルにもピッタリだ。ここは、川瀬の溌剌としたリードがもたらす無類の躍動感が、聴く者の心を弾ませるに違いない。

 本公演は、しなやかで爽やかなサウンドと親しみやすい演目が魅力の、万人が楽しめるコンサート。特に1回のコンサートで人気の協奏曲を2曲味わえる機会は少ないので、それだけでも得難い公演となる。もちろんOEKの快演に東京で接する貴重なチャンスは逃せないし、名手が弾く2つの協奏曲に加えて、ベートーヴェンの名交響曲も聴けるとなれば、ぜひとも足を運びたい。 

柴田克彦(しばた かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」等の雑誌、公演プログラム、WEB、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

オーケストラ・アンサンブル金沢 in Bunkyo 2023

2023年5月14日(日)15:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/川瀬賢太郎
ヴァイオリン/大谷康子
ピアノ/阪田知樹
管弦楽/オーケストラ・アンサンブル金沢

曲名

【試聴できます】
*が付いている曲目をクリックしてください。
※ 試聴音源の演奏家・楽器編成は、本演奏会の出演者・楽器編成と異なる場合もございます。

ベートーヴェン/交響曲第8番*
ヴィヴァルディ/「四季」より"春" "夏"
ショパン/ピアノ協奏曲第1番*

料金

S席:5,000円
A席:4,000円
B席:3,000円

学生割引あり
S席3,000円、A席2,500円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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