オススメ公演の聴きどころ指南 セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。
これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

2019年10月24日(木)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

聴き逃せない、文京シビックホール公演のみの"2大名曲プログラム"

 文京シビックホール20周年記念公演の幕開けを飾るのは、セミヨン・ビシュコフ指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団。新音楽監督を迎えた世界屈指のオーケストラが、世界的ヴァイオリニスト、樫本大進と共に、文京シビックホール初登場を果たす、記念イヤーの開幕に相応しいコンサートだ。

 チェコ・フィルは、音楽大国チェコが誇る東欧随一の名門オーケストラ。1881年に開設されたプラハ国民劇場付属のオーケストラが、1896年1月にドヴォルザークの指揮で第1回演奏会(自作の交響曲「新世界より」他)を行い、それがチェコ・フィルとしてのスタートとなった。1901年コンサート・オーケストラとして独立。1908年にはマーラーの交響曲第7番を作曲者自身の指揮により初演した。

 1919〜41年に首席指揮者を務めたヴァーツラフ・ターリヒが、実力を大きく向上させ、1941~48年ラファエル・クーベリック、1950~68年カレル・アンチェル、1968~90年ヴァーツラフ・ノイマンと続いたチェコの名指揮者が世界的オーケストラとしての地位を確たるものとした。特にノイマンは、数多くの録音やツアーを通じて国際的な名声を高め、日本ツアーも再三行って、全国に及ぶチェコ・フィル人気を確立した。

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        セミヨン・ビシュコフ
                   ©Marco Borggreve

 1990年イルジー・ビエロフラーヴェクが首席指揮者に就任。そのポストは、ゲルト・アルブレヒト、ウラディーミル・アシュケナージ、ズデニェク・マーカル、エリアフ・インバルに引き継がれ、外国人指揮者が核となって音楽性を多様化させた。2013年ビエロフラーヴェクが再び首席指揮者に就任。圧倒的な名演を展開し、チェコの指揮者による黄金時代を蘇らせた。しかし彼は2017年5月に逝去。2018年10月からセミヨン・ビシュコフが音楽監督・首席指揮者に就任し、新たな時代を歩んでいる。

 セミヨン・ビシュコフは、1952年サンクトペテルブルク生まれ。名教師イリヤ・ムーシンに師事し、20歳にしてラフマニノフ指揮者コンクールで優勝。1975年アメリカに渡り、1985~89年バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を務めた。並行してヨーロッパにも進出。1985年ムーティの代役でベルリン・フィルを指揮して大成功を収め、翌年同楽団を指揮したショスタコーヴィチの交響曲第5番で、衝撃のCDデビューを果たした。1989年にはパリ管弦楽団の音楽監督に就任。1998年まで同ポストを務め、再三の来日公演でも存在を知らしめた。さらに1997~2010年ケルン放送交響楽団、1998~2002年ドレスデン国立歌劇場の首席指揮者を務め、2018年10月、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者・音楽監督としての任期をスタートさせた。

 これまでに、ウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ロンドン響、ミュンヘン・フィル、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ニューヨーク・フィル、シカゴ響、フィラデルフィア管などの著名オーケストラに客演。ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座、メトロポリタン・オペラなど世界の主要歌劇場にも登場し、2018年にはウィーン国立歌劇場とバイロイト音楽祭でワーグナーの「パルジファル」を指揮するなど、オペラでも実績をあげている。

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            樫本大進
                     ©Keita Osada

 樫本大進は、1979年ロンドン生まれ。7歳でジュリアード音楽院のプレカレッジに入り、 11歳からリューベックでザハール・ブロンに師事した。1996年にはフリッツ・クライスラー国際コンクールとロン・ティボー国際コンクールで第1位を獲得。中でも後者の最年少優勝によってその名を知らしめた。20歳からはフライブルク音楽院でベルリン・フィルの元コンサートマスターのライナー・クスマウルに師事。早期からソリストとして国際的に活躍していたが、2010年ベルリン・フィルの第1コンサートマスターに(正式)就任し、ソリストとしても活動しながら、この世界最高峰オーケストラの顔となっている。

 また室内楽にも力を注ぎ、クレーメル、バシュメット、アルゲリッチなど世界有数のソリストと共演。2007年から毎秋開催している室内楽音楽祭「ル・ポン国際音楽祭~赤穂・姫路」の音楽監督としても手腕を発揮しており、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集をはじめ、録音でも話題を集めている。

 チェコ・フィルは、柔らかくしなやかな弦楽器と素朴で美しい管楽器が生み出す芳醇な質感が大きな魅力。距離の近いウィーン・フィルとも共通するヨーロッパ伝統のクラシックなサウンドは、日本でも広く愛されている。そしてもちろんドヴォルザークをはじめとするチェコ物、引いてはスラヴ民族系の音楽での味わいは、他の追随を許さない。

 特にビエロフラーヴェクが首席指揮者に再就任後は、引き締まった機能美とまろやかなサウンドを併せ持つ極上の演奏を展開。それだけに2017年の急逝が惜しまれたが、そうした状態の良い時期に、キャリア豊富な国際派のビシュコフが就任したことで、新たな興味が生まれたのも確か。コンビ初来日となる今回は、その清新なコラボレーションに注目が集まる。

 ビシュコフは元々、骨太で恰幅の良い音楽作りが持ち味だが、キャリアを重ねるにつれて繊細なニュアンスや瑞々しさを加えており、指揮者として円熟期を迎える60代後半にコンビを組んだチェコ・フィルと聴かせる音楽が興味をそそる。

 しかも彼は、チェコと同じスラヴ文化園のロシア出身。同楽団とは就任前の2016年から英デッカによる「チャイコフスキー・プロジェクト」を進行させており、第1弾の「悲愴」交響曲のCDでも、雄弁かつ生気に充ちた演奏を聴かせているので、期待はさらに高まる。

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       チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
                     ©Petra Hajska

 樫本大進も、ベルリン・フィルのコンサートマスター就任後は、豊かな音楽経験がソロにも反映され、持ち前の艶やかな美音と完璧なテクニックに、表現の幅や行間の妙を加えている。中でもベルリン・フィルで幾多の名ヴァイオリニストと共演して刺激を受けた協奏曲では、豊穣で奥深い演奏を聴かせているので期待大。彼も文京シビックホール初登場となるので、その点でも要注目だ。

 スラヴ圏の2大名曲が並んだ今回のプログラムはまさに極め付け。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、このジャンル最大の人気曲の1つで、ソロもオーケストラも民族的かつ濃密でダイナミック。成熟度を増した樫本大進のソロはもちろん、チャイコフスキー・プロジェクトが進行中のビシュコフ&チェコ・フィルのバックも楽しみだ。

 ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」は、本場の本丸ともいうべき作品。新世界アメリカの印象と故郷ボヘミアへの郷愁を併せ持つメロディアスで雄大な音楽は、日本でも絶大な人気を誇っている。今回は、チェコ・フィルがこの本命曲をビシュコフと組んでいかに聴かせるか?興味津々だし、何より本ツアーで同曲が演奏される=新コンビの「新世界」を聴けるのは、この文京シビックホール公演のみ。これはあらゆる意味で聴き逃せない一夜となる。

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柴田克彦(しばた かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

2019年10月24日(木)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/セミヨン・ビシュコフ
ヴァイオリン/樫本大進
管弦楽/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

曲名

【試聴できます】 曲目をクリックしてください。
※ 試聴音源の演奏家・楽器編成は、本演奏会の出演者・楽器編成と異なる場合もございます。
一部、試聴できない曲目がございます。

スメタナ/連作交響詩「わが祖国」より "ヴィシェフラト(高い城)"
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」

料金

プレミアムシート(公演プログラム付)17,000円【残席僅少】
S席14,000円 A席12,000円 <全席指定・税込>
※B・C・D席は完売。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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