オススメ公演の聴きどころ指南 FUJITEC presents ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ:辻井伸行

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。
これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

FUJITEC presents
ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:辻井伸行

2019年11月5日(火)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

欧米を股にかけて活躍するマエストロに率いられたドイツの名門オーケストラ
大人気ピアニスト、辻井伸行と共に、文京シビックホール初登場

 ハンブルク・フィルは、ハンブルク州立歌劇場の専属オーケストラであり、華やかな歴史に彩られたドイツの名門オーケストラのひとつ。歌劇場の創設は300年以上前の1678年に遡り、1828年に始まったオーケストラの定期演奏会の歴史もウィーン・フィル(1842年)より長い。同楽団は、1891年から97年まで歌劇場の首席指揮者を務めたマーラーの薫陶を受け、チャイコフスキー、R.シュトラウス、ストラヴィンスキーなどの大作曲家や、フルトヴェングラー、ワルターなどの巨匠が指揮台に立ってきた。

 1922~33年カール・ムック、1934~49年オイゲン・ヨッフムが音楽監督を務めて、近代オーケストラとしての基礎を固めた後、1950~59年ヨゼフ・カイルベルト、1961~73年ヴォルフガング・サヴァリッシュ、1973~76年ホルスト・シュタインとドイツの名匠が歴任し、伝統の響きを浸透させた。さらに、イタリア人のアルド・チェッカートを挟んで、ハンス・ツェンダー、ゲルト・アルブレヒト、インゴ・メッツマッハーと続くドイツ人指揮者たちが伝統を継承し、彼らが得意とする現代作品でも評価を高めた。

 2005~15年にはオーストラリア出身の女性指揮者シモーネ・ヤングが新風を吹き込み、録音でも世界的な話題を提供。2015年からケント・ナガノが、ハンブルク市の音楽総監督、歌劇場とオーケストラの首席指揮者に就任し、新たな充実期を迎えている。

★KentNagano

          ケント・ナガノ
                   ©Benjamin Ealovega

 ケント・ナガノは、1951年カリフォルニア生まれの日系3世。地元の大学で学んだ後、1978年バークレー交響楽団の音楽監督に就任(2008年まで)。1984年小澤征爾の代役でボストン響を指揮して脚光を浴び、1988~98年リヨン国立歌劇場の音楽監督、1991~2000年ハレ管弦楽団の音楽監督、2000~06年ベルリン・ドイツ交響楽団の芸術監督、2001~06年ロサンゼルス・オペラの首席指揮者(2003年からは初代音楽監督)を歴任した。2006~13年にはバイエルン州立歌劇場の音楽総監督、2006年から現在までモントリオール交響楽団の音楽監督を務め、共に意欲的なプログラムで高い評価を確立。2015年からハンブルク市の音楽総監督、歌劇場とオーケストラの首席指揮者に就任し、北米とヨーロッパ、シンフォニーとオペラ両オーケストラのポストを兼任しての活躍を続けている。

 これまでに、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ニューヨーク・フィル、シカゴ響、ドレスデン・シュターツカペレ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管など世界最高峰のオーケストラとたびたび共演。ベルリン州立歌劇場、パリ・オペラ座、メトロポリタン・オペラなどにも客演し、現代オペラの世界初演でも実績をあげている。米グラミー賞を受賞するなど、録音での評価も高い。

 辻井伸行は、1988年東京生まれ。幼少の頃よりピアノの才能に恵まれ、1998年、10歳でオーケストラと共演してデビューを飾る。2005年ショパン国際ピアノ・コンクールに最年少で参加し、「批評家賞」を受賞。そして2009年6月、ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人初の優勝を果たし、以来、日本を代表するピアニストの一人として国際的な活躍を繰り広げている。

 これまでに、日本各地はもとより、カーネギーホール、ウィーン楽友協会、ベルリンのフィルハーモニーや、ロンドンのプロムスなどで演奏。ウラディーミル・アシュケナージ、ワレリー・ゲルギエフなどの名指揮者、フィルハーモニア管、マリインスキー劇場管、スカラ・フィル、ミュンヘン・フィル、ベルリン・ドイツ響などの著名オーケストラとも共演を重ねている。

 さらにエイベックス・クラシックスからリリースしたアルバムは、クラシックでは異例の大ヒットを記録。作曲家としても活躍し、映画「神様のカルテ」で第21回日本映画批評家大賞を受賞している。

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            辻井伸行
                     ©Yuji Hori

 ハンブルク・フィルは、長い歴史に裏打ちされた伝統的な表現と、いかにもドイツらしい重厚な響きが持ち味。同時に北ドイツならではのくすんだ色合いと質朴な味わいも特徴をなしており、これらはカイルベルト時代の録音などを聴くと強く感じられる。

 近年はシモーネ・ヤングが指揮したブルックナーの交響曲の初稿でのCD全集やワーグナーの「ニーベルングの指環」全曲録音で話題を呼んだが、演奏の根幹は変わらない。ただ、こうした曲を録音するだけあって、サウンドの精度が上がり、壮麗さが増しているのも確か。今回はまず、今や稀少なドイツ伝統の響きと機能美の融合を生体験できるのが妙味となる。

 またケント・ナガノは、明晰なアプローチで緻密かつ洗練された音楽作りを行うマエストロ。そこにオペラで培った劇的表現力が加わり、いかなる曲からも新たな魅力を引き出す才に長けている。そうした特徴を持つ彼が、老舗格のオーケストラを指揮していかなる音楽を生み出すか? 実に興味深い。ただ彼はこれまで、バイエルン州立歌劇場やベルリン・ドイツ響といったドイツの名門で成功を収めた実績があるので、ポスト就任から4年を経た今回は、良きコラボが期待できる。

 辻井伸行は、高度なテクニックと美しい音色、情熱的な演奏に定評があったが、最近は表情のこまやかさや深みが加わり、様々な楽曲で刮目すべき名奏を聴かせている。耳を惹きつけて離さない彼のピアノも、文京シビックホール初登場と相まって聴き逃せない。

 ドイツ音楽のみのプログラムも魅力十分だ。最初に登場するイェルク・ヴィトマンは、1973年ミュンヘン生まれの作曲家&クラリネット奏者。天才的な音楽家として多彩な活動を行い、ザルツブルク音楽祭、ウィーン・コンツェルトハウスなどのコンポーザー・イン・レジデンスも務めている。2018年にはサントリーホール国際作曲委嘱シリーズのテーマ作曲家に選ばれ、数々の作品を披露。その際にも演奏された本演目「コン・ブリオ」(2008年作)は、ベートーヴェンの交響曲第7番の骨格を用いた面白い音楽で、生演奏を聴けば間違いなく楽しめる。

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     ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
                     ©FelixBroede kl

 あとの2曲は言わずもがなの名曲。ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第5番《皇帝》」は、このジャンルを代表する華麗な作品で、進境著しい辻井伸行が、知的なケント・ナガノおよび本場のオーケストラと生み出す音楽に注目が集まる。

 そしてブラームスの「交響曲第1番」は、ドイツ・ロマン派の代表作。重厚なこの曲をブラームスが生まれたハンブルクのオーケストラの音で聴ける点が何よりの魅力だし、同楽団はシモーネ・ヤング指揮のCDでも濃厚かつ大スケールの演奏を展開しているので、今回のパフォーマンスに熱視線が注がれる。

 これは、ステージから終始耳目を離せない濃密な一夜だ。

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柴田克彦(しばた かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

FUJITEC presents
ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:辻井伸行

2019年11月5日(火)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/ケント・ナガノ
ピアノ/辻井伸行
管弦楽/ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団

曲名

【試聴できます】 曲目をクリックしてください。
※ 試聴音源の演奏家・楽器編成は、本演奏会の出演者・楽器編成と異なる場合もございます。
一部、試聴できない曲目がございます。

イェルク・ヴィトマン/コン・ブリオ
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
ブラームス /交響曲第1番

料金

S席14,000円【予定枚数終了】<全席指定・税込>
※SS・A・B・C・D席は完売。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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