スペシャルインタビュー 昼クラシック 2025
奥村 愛 ~ヴァイオリンとヴァイオリニストが辿った道~




~2025年9月19日(金)「昼クラシック 2025 奥村 愛 ~ヴァイオリンとヴァイオリニストが辿った道~」~

奥村 愛(ヴァイオリン)・加藤昌則(ピアノ)
スペシャルインタビュー

平日の昼下がり、音楽と心なごむトークをお届けする「昼クラシック」。
今回は、「ヴァイオリン」と「奥村 愛」の物語をテーマに、バロックから現代まで幅広い時代の作品をお届けします。
本公演にご出演いただく奥村 愛さん(ヴァイオリン)、加藤昌則さん(ピアノ)に、プログラムの聴きどころや意気込みを伺いました。

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©Toru Hasumi

ヴァイオリン

奥村 愛

Ai Okumura

7歳までアムステルダムに在住。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースで学ぶ。辰巳明子氏に師事。第48回全日本学生音楽コンクール全国大会中学生の部第1位、第68回日本音楽コンクール第2位など受賞多数。
02年、『愛のあいさつ』でCDデビューを飾り、一躍楽壇の注目を集める。以来Avex Classicsより数々のCDをリリース。国内の主要なホールでのリサイタル、海外を含むオーケストラへの客演を多数重ねている。
リサイタル活動の傍ら「キッズのためのはじめての音楽会」をプロデュース。自身のライフワークとして位置付け、長年に渡り全国各地で上演を続けている。クラシックのみならず、ジャズ、タンゴ、アイリッシュトラッドなど様々なユニットに参加。その瑞々しい演奏はジャンルの垣根を越えた魅力を放つ。これまでに、須川展也、小松亮太、レ・フレール、斎藤圭土、渡辺香津美、加羽沢美濃、新垣隆、岩田桃楠、甲斐田裕子、cobaといったアーティストとのコラボレーションを成功させている。また国内の気鋭の弦楽器奏者たちで構成された「奥村愛ストリングス」としても活発に活動。自然体なトークも好評を得ており、テレビやラジオへの出演も多い。
桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。使用楽器は1738年イタリア製のカミロ・カミリ。




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ピアノ

加藤昌則

Masanori Kato

東京藝術大学作曲科首席卒業、同大学大学院修了。作品のジャンルはオペラ、管弦楽、声楽、合唱曲など幅広く、作品に新しい息吹を吹き込む創意あふれる編曲にも定評がある。福田進一、藤木大地、福川伸陽、三浦友理枝、奥村愛など多くのソリストに楽曲を提供しており、共演ピアニストとしても評価が高い。
王子ホール「銀座ぶらっとコンサート Caféシリーズ」(企画・ピアノ)、横浜市栄区民文化センター リリス「リリス藝術大学クラシック学部」(企画・ピアノ)、長野市芸術館「加藤昌則のぶっとび!クラシック」(企画・ピアノ)など独自の視点・切り口で企画する公演やクラシック講座などのプロデュース力にも注目を集めている。作品は2012年オペラ「白虎」(第11回佐川吉男音楽賞受賞)、2018年「Sixteenth Montage」(セントラル愛知交響楽団委嘱作品)ほか、数多くの作品を発表。NHK2020応援ソング「パプリカ」の合唱編曲も手掛けている。
最新CDは2017年発売「PIANO COLOURS」(エイベックス・クラシックス)。
2016年4月よりNHK-FM「鍵盤のつばさ」番組パーソナリティーを担当。長野市芸術館レジデント・プロデューサー(2019-2023)。2022年4月よりひらしん平塚文化芸術ホール音楽アンバサダーを務める。

取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

ヴァイオリン「カミロ・カミリ」とは、人生を共に歩んでもう30年近くになります。

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―今回の公演は《音楽とトークで紡がれる「ヴァイオリン」と「奥村 愛」の物語》がテーマです。ヴァイオリンとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?

奥村 私のヴァイオリン「カミロ・カミリ」は1738年製で、300年弱の歴史を生きてきた楽器です。もともと父が使っていて、私が高校生の頃、コンクールを受ける時に良い楽器を使ったほうがいいからと交換してもらい、そのまま私が譲り受けました。
 音色はとても好きでしたが馬力がある楽器ではないので、最初はそこまで気に入ったわけではありませんでした。でも弾いていくうちに、また顎あてやコマなどパーツを替えることで音が変化していって、今では大好きな楽器です。自分好みに進化してくれるのが楽しくて、人生を共に歩んでもう30年近くになります。

―加藤さんは、今のお話を聞かれてどう思いましたか?

加藤 羨ましいですよね。ピアニストは会場にある楽器と短時間でいかに仲良くなるかが求められますから。
 このヴァイオリンが、奥村さんが手にする前にどんな道を辿ってきたのか、もしかしたらモーツァルトが聴いたかもしれない、サラサーテが弾いたかもしれないと想像を働かせて聴くと、感慨がまた違ったものになります。
 ただ、あんなに高価なものを常に持ち歩くのはどういう気持ちなんだろうと思うことはあります。僕はよく電車の網棚に荷物を置き忘れるほうなので(笑)。

奥村 実は2回くらい置き忘れたことがあって...。一瞬のこととはいえ、家族の支えのもと弾いてきたヴァイオリンですし、自分を捧げてきたものを失うかもしれないというのは、手足がなくなるぐらいの感覚でした。どちらの時も無事に戻ってきたので本当によかったです!

そういう場で挑戦できるレパートリーに向き合いたいと思いました。

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―プログラムはどのように選ばれたのでしょうか。

奥村 ヴァイオリンの歴史は作曲家の歴史とリンクするので、バロック、古典派からロマン派へという流れになっています。モーツァルトは好きな作曲家で、中でも「ロンド」はいつか弾いてみたかったレパートリーです。
 タルティーニ「悪魔のトリル」は、バロック作品を入れたいと思ったところ加藤さんが提案してくれて、「それだ!」と選びました。10年以上前に弾いて、とにかく難しいのでしばらく封印していたのですが、昼クラシックのお客様はクラシックの公演がお好きな方も多いと思うので、そういう場で挑戦できるレパートリーに向き合いたいと思いました。

加藤 僕は奥村さんの演奏がきっかけでこの曲を良いと感じたんです。それからいろいろなヴァイオリニストに提案するけれど、なにしろ難しいこともあって断られることが多いので、今回はうれしいですね。

奥村 ブラームスのヴァイオリンソナタ第2番も、加藤さんと久しぶりにご一緒できるので新しい曲に挑戦したいと思い、選びました。まだリサイタルで一度も弾いたことがない初挑戦の曲で、今の力で一から組み立てるおもしろさがあります。

加藤 僕は2番のソナタがすごく好きなんですよ。一般的には、「雨の歌」というタイトルのついた1番や、作品自体が演奏家を盛り上げてくれる3番が人気です。
 一方の2番は牧歌的な雰囲気があるので、歳を重ね、人生観や自然に対する気持ちが豊かになるにつれて表現が変わる作品です。今回は久しぶりの共演なので、2番をやったらどうなるのか、すごく変わっているかもしれないし、もしかしたら全然変わっていないかもしれない。それが楽しみでご提案しました。

新しい音楽を体感する機会を楽しみに来ていただけたらと思います。

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―お二人の最初の出会いは?当時の印象はいかがでしょう。

奥村 15年くらい前ですよね。ツアーでご一緒して、家族より長い時間を共にしているような時期もありました(笑)。

加藤 でも最初のうちは奥村さんがなかなか打ち解けてくれなくて。共演して話すようになったと思っても、次に会うと元に戻ってしまうんですよ! 

奥村 私がすごく人見知りなうえに、加藤さんは東京藝術大学出身で作曲家でもあるから、理論的でとっつきにくい方なのではないか、ちゃんとしなくてはという意識があったのだと思います。地方で終演後に食事に行って、その時は楽しくおしゃべりしているんだけれど、翌朝ホテルのロビーで会うと「あ、おはようございます......」みたいな感じ(笑)。

加藤 何か失礼なことでもしたのかなと毎回心配になっていました(笑)。それを4、5回繰り返して、ようやく打ち解けましたね。

―とはいえ演奏はうまく行っていたから共演は続いていたのですよね?

奥村 それはもちろんです!加藤さんとのリハーサルは、なんとなくこう弾くということを力半分で確かめておいて、いざ本番になるとお互い全然違うことをするという感じで、それがすごく好きなんです。打ち合わせ通りにやろうとする本番は、全然おもしろくないですから。


―今回は加藤さんの作品も演奏されます。

加藤 「Breezing air」は、それこそ奥村さんがまだ僕に対して"人見知り"だった頃、こんな曲を弾いてほしいと自発的に書いた作品です。変に思われたらどうしようとためらっていたら、マネージャーから「気にしないで渡したら」と言われて。勇気を出して渡したらパッと弾いてくれて安心しました。

つまり昔の印象で書いた作品ということですね。受け取った時どう感じましたか?

奥村 本当に私のことを知らないんだなと思うような、すごく爽やかな曲でした(笑)。

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加藤 デビューアルバムのイメージで書いているからね(笑)。そこから10年経ち、デビュー15周年の時、今度は奥村さんから作品を委嘱してくれたんです。彼女の音楽性やその表現を知り、茨木のり子の詩「怒るときと許すとき」がイメージに合うと感じて書いたのが、「燻(くゆ)る煙と共に」です。

―こちらを受け取ったときは「理解してくれた」と感じましたか?

奥村 逆にそこまでのイメージになってしまったんだという感じもありましたが(笑)、こちらのほうが自分に近いですね。2曲には「この間に何があったんだろう」と思われそうなくらいの差があります。一度に演奏することはなかなかないので、この機会にぜひ聴いていただきたいです。

加藤 今回のプログラムには、出会いをもたらすような要素が散りばめてあります。有名でない作品についてはトークで補いながらお届けするので、新しい音楽を体感する機会を楽しみに来ていただけたらと思います。

奥村 加藤さんの曲の解説は、視点がおもしろいのでとても興味深いですよ!私自身も久しぶりの共演をすごく楽しみにしているので、そんな雰囲気もみなさんと共有できたらと思います。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

昼クラシック 2025 奥村 愛 ~ヴァイオリンとヴァイオリニストが辿った道~ 

2025年9月19日(金)14:00開演

文京シビックホール 小ホール

出演

ヴァイオリン/奥村 愛
ピアノ/加藤昌則

曲名

モーツァルト/ロンド kv.373 ★
タルティーニ/ヴァイオリンソナタ "悪魔のトリル" ★
サラサーテ/序奏とタランテラ ★
ブラームス/ヴァイオリンソナタ 第2番 ★

加藤昌則/Breezing air
加藤昌則/燻る煙と共に

※曲目及び曲順は変更になる場合があります。
【★マーク】
試聴できます(2025年10月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合がございます。)


ライブ配信&アーカイブ配信についてはこちら
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料金<税込>

全席指定 3,500円

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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