スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.36




~2025年3月28日(金)「夜クラシックVol.36」~

大谷康子(ヴァイオリン)・福間洸太朗(ピアノ)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
Vol.36に出演のお二人に、公演への意気込みや選曲のポイントなどをうかがいました。

art_dl_image4_138 (c)Masashige Ogata.jpg

©Masashige Ogata

ヴァイオリン

大谷康子

Yasuko Ohtani

2025年にデビュー50周年。人気・実力ともに日本を代表するヴァイオリニスト。20251月には、サントリーホール大ホールにてデビュー50周年記念演奏会を開催。世界初演のヴァイオリン協奏曲「未来への讃歌」を含む意欲的なプログラムで、満員の聴衆を魅了した。5月にはデビュー50周年記念全国ツアー(ピアノ:イタマール・ゴラン/全14公演)を開催予定。これまでにリサイタルはもとより、N響、モスクワ・フィル、スロヴァキアフィルなど国内外の著名なオーケストラと多数共演。キーウ(キエフ)国立フィルとは2017年以降毎年招聘されている(情勢により中断)。また、20195月に実力派ピアニスト、イタマール・ゴランと全国ツアー(12都市)を開催し、好評を博す。最新CDはイタマール・ゴランとのフランスのエスプリ薫る珠玉の名曲集。CDは他に、ベストセラー「椿姫ファンタジー」(SONY)や、「R.シュトラウス/ベートーヴェン・ソナタ№5(ピアノ: イタマール・ゴラン)」(SONY)も評価が高い。著書に「ヴァイオリニスト 今日も走る!」(KADOKAWA)がある。BSテレ東(毎週土曜朝8時)「おんがく交差点」では司会・演奏を務める。文化庁「芸術祭大賞」受賞。東京音楽大学教授。元東京芸術大学客員教授。東京芸大ジュニア・アカデミー特別教授。(公財)練馬区文化振興協会理事長。川崎市市民文化大使。高知県観光特使。(公財)日本交響楽振興財団理事。(公社)日本演奏連盟理事。使用楽器はピエトロ・グァルネリ(1708年製)と日本音楽財団より貸与のストラディヴァリウス「ロード・ニューランズ」(1702年製)。
オフィシャル・ホームページ: https://www.yasukoohtani.com
【公式YouTube】「大谷康子のやっこチャンネル」演奏動画続々公開中!


art_dl_image9_321 (c)Shuga Chiba.jpg

©Shuga Chiba

ピアノ

福間洸太朗

Kotaro Fukuma

20歳でクリーヴランド国際コンクール日本人初の優勝およびショパン賞受賞。
パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学、コモ湖国際ピアノアカデミーにて学ぶ。これまでにカーネギーホール、リンカーン・センター、ウィグモア・ホール、サントリーホールなどでリサイタルを開催する他、クリーヴランド管、モスクワ・フィル、イスラエル・フィル、フィンランド放送響、NHK交響楽団など国内外の著名オーケストラと多数共演、50曲以上のピアノ協奏曲を演奏してきた。CDは多数録音しており、2023年にリリースした「幻想を求めて - スクリャービン&ラフマニノフ」(ナクソス)は欧州のInternational Classical Music Awardsにノミネートされた。20249月、通算20作目のCD「ショパンの想い出」(ナクソス)が日欧同時発売。そのほか、珍しいピアノ作品を取り上げる演奏会シリーズ『レア・ピアノミュージック』のプロデュースや、OTTAVA、ぶらあぼweb stationでの番組パーソナリティを務め、自身のYouTubeチャンネルでも、演奏動画、解説動画、ライブ配信などで幅広い世代から注目されている。多彩なレパートリーと表現力、コンセプチュアルなプログラム、また5か国語を操り国内外で活躍中。テレビ朝日系「徹子の部屋」や「題名のない音楽会」などメディア出演も多数。第39回日本ショパン協会賞、2024年スペインのアルベニス・メダルを受賞。2024年、日本デビュー20周年を迎え、全国10ヵ所での記念リサイタルツアーを行い、各地で好評を博し、高い評価を得た。
公式サイト https://kotarofukuma.com/
公式ファンクラブ https://shimmeringwater.net/

取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

  本インタビューの本文に記載の「文京区は夏目漱石が最後に住んだ場所でもある」は誤りです。
  謹んでお詫び申し上げます。

「月」と「愛」をテーマにプログラムを考えました。

2024.10.29-044.jpg

「夏目漱石と月」をテーマとした興味深いプログラムです。

大谷 「月の光」から始まるというコンセプトを伺い、月といえば夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した言い伝えが大好きなので、そこから「月」と「愛」をテーマにプログラムを考えました。
 今の若い方の感性だともっとダイレクトに愛を表現するのかもしれませんが、私はこの日本人らしい気質を表すエピソードが素敵だと思います。また、文京区は夏目漱石が最後に住んだ場所でもあることにご縁も感じました。

―山田耕筰と幸田 延の曲を取り上げた理由は?

大谷 こだわったのは、夏目漱石と同時代の日本人の作品を取り上げること。幸田露伴の妹であり、日本人初の西洋クラシック作曲家、ヴァイオリニストの幸田 延は、夏目漱石と親しい間柄でした。
 さらに、ドイツ系ロシア人の哲学者で音楽家のラファエル・フォン・ケーベルは、東京帝国大学(現・東京大学)で教え、その生徒に夏目漱石がいました。ケーベル先生は、東京音楽学校(現・東京藝術大学)でも教えていて、幸田 延はこちらで彼と交流しています。つまり、夏目漱石と幸田 延には共通の師もいたわけです。
 そんな幸田 延の愛弟子は、瀧廉太郎でした。若くして亡くなった彼を偲んで山田耕筰が書いたのが、今回演奏する「《荒城の月》を主題とする変奏曲」です。そして山田耕筰と夏目漱石もまた尊敬し合う間柄でした。山田耕筰は夏目漱石を題材にした曲を書こうとしていたこともあるそうです。

福間 「夏目漱石と月」というテーマの裏にそんなお話が隠されていたとは、私も驚きました!私はわりとよく日本人作曲家を取り上げていますが、日本の西洋クラシック黎明期の作品は、歌曲の伴奏をしたことがあるくらいでほとんど弾いたことがありません。「《荒城の月》を主題とする変奏曲」も、音源を改めて聴いたらすごくすてきなので、演奏するのが楽しみです。



彼らが切り拓いてくれたから、私たちが今こうして活動できていると感じます。

2024.10.29-025.jpg


漱石の文章には西洋クラシックに関連する記述がよく出てきますが、当時の知識人の嗜みのようなところもあったのかなと感じます。

大谷 ケーベル先生の教えはかなり影響があったでしょうね。新しいものが入ってきたら自分も学んでみようとして、そのうちに魅了されていったというのは、当時の知識人ならではかもしれません。
 そんな時代に生きた幸田 延は、第1回文部省派遣留学生として外国で学んだ方です。14歳の時点でピアノとヴァイオリンともに優れた演奏をする、大変な天才でした。彼女の作品は今聴いても新鮮です。日本で最初の器楽曲を書いたのも彼女で、これがヴァイオリン作品だったというのが、ヴァイオリニストとしては嬉しいんですよね!

福間 実は今、幸田 延さんのヴァイオリン・ソナタの楽譜をいただいて初めて見ているのですが、知らずに見ていたら、ブラームスかシューマンあたりかなと思いそうです。カデンツァで始まるとても詩的な作品ですね。ピアノはオクターブの連続もあるので、当時の女性としてこうした超絶技巧の演奏もされていたことがわかります。

大谷 私も最初に弾いた瞬間から大好きになりました。皆さん、こんないい曲があったの!? と驚かれます。
 また、今回演奏する「竹取物語」を作曲した貴志康一さんは、芦屋の裕福な家庭で育って17歳でヨーロッパに留学し、ベルリン・フィルを指揮するなど、今の日本人でも大変なことを成し遂げました。早逝されましたが、すばらしい作品を残しています。

福間 「竹取物語」のメロディは、日本的でとても美しいですね。山田耕筰さんの作品も、広く親しまれている歌曲とは違った一面が感じられます。演奏会を通じて、この時代の日本音楽史の勉強ができそうです。

大谷 彼らが切り拓いてくれたから、私たちが今こうして活動できていると感じます。当時、才能豊かな日本人がどれほどたくさんいたか、しかも彼らは、現代作品とはまた別の耳になじみやすい作品をたくさん書いていたということを知ってほしいです。



今回は、月を一つの希望の象徴として捉えたいと思います。

2024.10.29-015.jpg

そこに、エルガー、ストラヴィンスキー、ベートーヴェン、フランクの作品が加わりますが。

福間 私はソロで弾く作品として、「月」というテーマでまず思い浮かぶベートーヴェンの「月光ソナタ」を選びました。

大谷 漱石はロンドンに留学していた頃、足繁くコンサートに通っていたようなので、当時よく演奏会で取り上げられていたベートーヴェンは耳にしていたかもしれません。

福間 ホルストの「夜の歌」も今回初めて知りましたが、すごく美しい曲ですね。

大谷 そうなんです。ホルストというと「惑星」が思い浮かびますが、ヴァイオリン曲にすてきなものがたくさんあることを、私もつい数年前に知りました。
 ストラヴィンスキーは、美しいメロディばかりのプログラムの中でスパイスを加えるために取り入れました。またフランクのヴァイオリン・ソナタは、イザイの結婚のお祝いに書かれた、「愛」というテーマによせた作品です。2楽章の情熱的な部分は、一説に夜の情景を表しているといわれます。
 月というのはどこで見ても美しく、戦地、被災地でも同じ月が見えている。今回は、月を一つの希望の象徴として捉えたいと思います。

お二人の初共演は2022年1月だそうですが、お互いの印象はいかがですか?

福間 私はメディアを通して大谷さんのことを以前から存じ上げていたわけですが、実際にお会いしたら、明るくお元気なイメージそのままで、しかもすごく優しくしてくださったことが印象に残っています。

大谷 初めての共演では、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番でご一緒しました。私にとって思い入れのある作品で、とくに2楽章は、あの豊かな世界をなんとか表現したいと考えながらずっとやってきていたんです。福間さんと演奏したとき、より人間的で豊かなブラームスを描けた気がして、すごく嬉しかったです。



皆さんの"音楽の図書館"のリストに入れてもらえたら嬉しいです。

2024.10.29-050.jpg

ところでお二人にとってお気に入りの夜の過ごし方はありますか?

大谷 私は演奏家人生ずっと、昼も夜もないかんじ(笑)。なんとか今すべきことをこなさないとと思いながら動いているので、何時だからこうしようという感覚がないんです。ずっと走っている状態ですけれど、でも、それが好きなんだとも思います。舞台で弾いて、お客様が喜んでくれて、終演後に皆さんとお会いして話をしていると、やっぱりこれが好きだと思うんですよね。

福間 私も大谷さんほどではありませんが、同じタイプかもしれません。
 夜型人間なので、練習できる夜11時まで弾いて、そのあと食事をして、そこからメールチェックや動画編集をしていると夜中3時ぐらいになって、やっと寝る、という感じ。全然ロマンティックじゃないですね(笑)。
 なんでそこまであれこれ自分でやろうとして抱え込むの?と言われることもあるのですが、お客様に喜んでもらうため本番前に解説動画を作るなど、好きなことだからできていると思います。
 大谷さんもYouTubeチャンネルでいろいろ発信されていて、やはりお話が面白いなと思いながらいつも観ています!

大谷 私、自分が寝る前に必ず観ているのは、かわいい柴犬のYouTubeチャンネルかな!早く寝たほうがいいんだけれど(笑)。お気に入りの子に会いに神戸まで行ったことがあるくらいです。

では最後に、この公演を通じて届けたいものがあればお聞かせください。

大谷 不朽の名作だけでなく、日本のクラシック黎明期の知られざるすばらしい作品もたくさんお届けします。また聴きたいと思える曲として、皆さんの"音楽の図書館"のリストに入れてもらえたら嬉しいです。そのためには、私たちがいろいろな音色と表現を使って心に届く演奏をしなくてはいけませんね!

福間 そうですね、この演奏をきっかけに皆さんが興味のある日本の作品を発掘していくことにつながったら、私も嬉しいです。あとは「愛」がテーマということで、聴き終えたあとは優しい気持ちになってもらえるかもしれません。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.36 

2025年3月28日(金)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ヴァイオリン/大谷康子
ピアノ/福間洸太朗

曲名

ドビュッシー/月の光
エルガー/愛の挨拶
山田耕筰/哀詩‐瀧 廉太郎「荒城の月」を主題とする変奏曲
幸田 延/「ヴァイオリン・ソナタ第1番」より 第1楽章
ストラヴィンスキー(シゲティ 編)/ミューズの神を率いるアポロ
貴志康一/竹取物語
ホルスト/夜の歌 ★
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番「月光」
フランク/ヴァイオリン・ソナタ ★

【★マーク】
試聴できます(2025年4月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合がございます。)

料金<税込>

全席指定  S席:3,000円 A席:2,000円  

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

2024_yoru_classic_vol36_360_512.jpg