~2024年9月27日(金)・11月8日(金)「昼クラシック 2024 金子三勇士~ピアノとトークで巡る欧州音楽紀行~」~
金子三勇士(ピアノ)
スペシャルインタビュー
平日の昼下がり、音楽と心なごむトークをお届けする「昼クラシック」。
昨年に続いてご出演いただくピアニスト金子三勇士さんに、本公演への思いや意気込みを伺いました。
©K.Miura
ピアノ
金子三勇士
Miyuji Kaneko
1989 年日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6 歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校に入学、2001 年からは11 歳でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に飛び級で入学。2006 年に全課程取得とともに帰国、東京音楽大学付属高等学校に編入する。東京音楽大学を首席で卒業、同大学院修了。2008 年、バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々の国際コンクールで優勝。 第22 回出光音楽賞他を受賞。これまでにゾルタン・コチシュ、小林研一郎、ジョナサン・ノット他と共演。 国外でも広く演奏活動を行っている。
NHK-FM「リサイタル・パッシオ」に司会者としてレギュラー出演。2019 年5 月にはCD「リスト・リサイタル」をリリースした。2021 年には日本デビュー10 周年を迎え、それを記念して2022 年3 月にドイツ・グラモフォンより新譜CD「フロイデ」をリリース。
キシュマロシュ名誉市民。スタインウェイ・アーティスト。
オフィシャルHP http://miyuji.jp/
取材・文:高坂はる香 写真:三浦興一
遠慮なくさらにこだわったプログラムをお届けします!
--2024年も昨年に続き「ピアノとトークでめぐる欧州音楽紀行」と題した全2回公演にご出演されます。前回の公演はいかがでしたか?
小ホールならではの距離感もあって、一歩踏み込んで音楽の世界に触れたいというみなさんの意識の高さが強く感じられました。ここまで踏み込んだ内容でも大丈夫なのだとわかったので、次は遠慮なくさらにこだわったプログラムをお届けします!
--今回は第1回「ベートーヴェン&リストの世界」、第2回「バッハ&バルトークの世界」で、4人の作曲家を取り上げますが。
こうしたシリーズ企画で私がみなさんにお届けするなら、やはりハンガリーという軸は外せません。昨年は国で比較しましたが、今年はリスト、バルトークというハンガリーの作曲家ともう一人を対比させて、共通点や違い、影響を深掘りします。演奏家として何を感じているかをしっかりお伝えできるのは、トークを交えたこの企画ならではです。
調性の関連や飽きのこない流れを考えて全体のプログラムを組んだので、最後まで楽しんでいただけるのではないかと思います。
--まず、第1回の「ベートーヴェンとリスト」の関係について教えてください。
リストがベートーヴェンを敬愛していたことは知られていますが、この二人の距離が実はすごく近かったことまでは、あまり知られていません。
少年だったリストが、ベートーヴェンの前でピアノを弾いておでこにキスをしてもらったというエピソードもあります。ただその真偽は定かでなく、実際、当時のベートーヴェンは既にピアノの音が聴こえなかったのではという疑問もあります。そこで私が注目したいのは別の点、二人をつないだチェルニーの存在です。
チェルニーはベートーヴェンの弟子であり、リストの師でした。自分の先生がベートーヴェンのような偉大な人のもとで学んでいたということは、当時のリストにとって、舞い上がってしまうほどの大きなことだったと想像します。ベートーヴェン先生がなぜこう書いたのかとチェルニーに質問していたかもしれません。近い距離で育ったからこそ、リストは生涯ベートーヴェンへの敬意を忘れず、その魂や作品をどうやって後世に引き継ぐか真剣に考えたのだと思います。シリーズ第1回では、そんなつながりを感じていただきたいですね。
実は今回のプログラムにはもう一つ、裏テーマがあります。
--続いて第2回の「バッハとバルトーク」の関係についてはいかがですか?
バルトークのピアノソナタは昨年も演奏して、その際、「最初は衝撃が強いかもしれないけれど、知るほどに味が出てくる作品なので、この先何回も聴いてほしい」とお話ししました。その後すぐ、シリーズ続編の話をいただいたので、それなら自らその機会をつくろうと、今回も演奏することにしました。しかも今度はバッハを聴いたあとにスパイシーなバルトークがくる流れなので、また一味違い、「意外とおいしかったな!」と感じてもらえるのではないかと思います。
...と、ここまで表テーマについて話しましたが、実は今回のプログラムにはもう一つ、裏テーマがあります。
--裏テーマとは、なんでしょうか!
最近、自分の中でブームになっているのが、作曲家を理系と文系に分けること。そこで今回、私が理系だと思う作曲家ばかり4人を取り上げています。私の人生の大事なときに必ずいる作曲家たちであり、自分が理系の頭ということもあって近くに感じる存在なのです。
理系の作曲家は、ブロックを組み立てていくかのように作曲していて、最初の音を書き始めたときからどう終わるかをわかっていたように感じます。一方で文系の作曲家は、ショパンやシューマンなどが良い例ですが、湧き出たインスピレーションをそのまま曲にした印象です。
第1回でいうと、古典派、ロマン派の表現の違いはありますが、ベートーヴェンとリストはやはりどちらも理系だと思います。特にリストは、文系作曲家のようなシンプルにラブレターを書く雰囲気の作品は作れなかったからこそ、シューベルトやシューマンの歌曲をピアノに編曲して、自分に何かを取り込もうとしていたのではないかと思います。今回は、設計図を思い描いて書いたかのような彼らならではの作品とあわせて、ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」のようなピュアさが感じられる作品、リストの「オーベルマンの谷」のような哲学的な作品という、少し違った一面の出た曲も選びました。
第2回については、まずバッハといえば数学ですし、バルトークは、若い頃からそんなバッハの「平均律クラヴィーア」の楽曲分析をしていました。バルトークの数学愛と音楽愛は、バッハがいたからこそ育まれたといえるでしょう。作品にもバッハの影が見られます。
ただ実際、バッハがこれだけの作品数を、例えばフィボナッチ数列に照らしてどうか計算しながら書いていたとは思えません。一気に書いたものが結果的にそうなったのでしょう。そこがバッハの偉大さであり、未知な部分のある魅力です。
偶然が重なって今ここにこうしてピアニストとしているのだと感じますね。
--4人とも大切な作曲家ということですが、中でも一番近いのは誰ですか?
人生で最初に触れ、長く付き合ってきたのは、バルトークです。出会いは2歳ですから、自分でも随分早かったと思いますね。祖母が持っていた、ゾルタン・コチシュの弾く「子供のために」のCDが気に入って、聴くために、ソファによじ登って自分でCDプレイヤーの四角い再生ボタンを押していたことを覚えているくらいです。1曲目が一番好きで、左上にあった「1」のボタンを押すとそれがまた聞けると思っていたことも記憶にあります。
あの録音でなければそれほど引き込まれていなかったかもしれませんし、ちょうど2歳児の手が届くところにプレイヤーがなければ何度も聴けなかったかもしれません。偶然が重なって今ここにこうしてピアニストとしているのだと感じますね。
--前回公演では、ロビーでのハンガリーゆかりの品やワインの販売があったり、公演でもいろいろな仕掛けがありました。今回も何か計画されていますか?
もちろんです! みなさんからの反応が温かくて安心したので、次回はまた別のサプライズをお届けする予定です。ぜひ楽しみにご来場いただけたらと思います。
取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)
音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」
昼クラシック 2023
〈第1回〉2024年9月27日(金)14:00開演
〈第2回〉2024年11月8日(金)14:00開演
文京シビックホール 小ホール
出演
ピアノ/金子三勇士
曲目
第1回(9月27日公演)
ベートーヴェン&リストの世界
ベートーヴェン/ピアノソナタ第8番「悲愴」 ★
ベートーヴェン/エリーゼのために
ベートーヴェン/ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」
リスト/愛の夢第3番 ★
リスト/ハンガリー狂詩曲第12番
リスト/オーバルマンの谷
リスト/スペイン狂詩曲 ★
★曲名をクリックで試聴できます(2024年10月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合がございます。)
第2回(11月8日公演)
バッハ&バルトークの世界バッハ/インヴェンション第1番
バッハ/イタリア協奏曲 ★
バッハ/フランス組曲第5番
バルトーク/ミクロコスモスより「バッハに捧ぐ」 ★
バルトーク/「子どものために」より第1番、第2番、第3番、第6番、第40番
バルトーク/ミクロコスモスより「小さなハエの物語」「オスティナート」
バルトーク/ピアノソナタ ★
★曲名をクリックで試聴できます(2024年11月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合がございます。)
※曲目及び曲順は変更になる場合があります。
料金<税込>
<1回券>全席指定 3,500円
<セット券>全席指定6,000円
※セット券はシビックチケットでのみ取扱い
配信チケット(各回) 1,000円
お問い合わせ
シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)
ライブ配信&アーカイブ配信についてはこちら
→「昼クラシック2024」ライブ配信&アーカイブ配信
