スペシャルインタビュー  わが青春のポピュラーミュージック!<Part.6>
憧れのフレンチ・ポップにつつまれて




~2024年6月15日(土)「わが青春のポピュラーミュージック!<Part.6> 憧れのフレンチ・ポップにつつまれて」~

吉田 誠(クラリネット)
スペシャルインタビュー

文京シビックホールとシエナ・ウインド・オーケストラのオリジナルシリーズ『わが青春のポピュラーミュージック!』。
第6弾は、オリンピックで注目の集まるフランスに想いを寄せて、フレンチ・ポップを特集します。
今回シリーズ初登場であるクラリネット奏者の吉田 誠さんと、
文京シビックホール音楽プロデューサーで、本シリーズの構成も手掛ける岩下恵一が公演に向けての想いを語りました。

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©Aurélien Tranchet

クラリネット

吉田 誠

Makoto Yoshida

15歳からクラリネットを、22歳から小澤征爾、湯浅勇治の各氏のもとで指揮を学ぶ。文化庁海外新進芸術家派遣員として、パリ国立高等音楽院、ジュネーヴ国立高等音楽院で学んだ。第19回欧日音楽講座でミシェル・アリニョン特別賞を特設され授与。第5回東京音楽コンクール木管部門第1位及び聴衆賞。2014年「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン」のソリストに抜擢され、巨匠ペーター・シュミードル氏と共演。2018年2月にはウィグモアホールへデビュー。2019年6月にはサントリーホールでキュッヒル・クァルテットとブラームス:クラリネット五重奏曲を共演。文科省学習指導要領教育芸術社小学校音楽教科書準拠DVDで演奏が紹介された。これまでに数多くの国際音楽祭やオーケストラにソリストとして招かれ、日欧でリサイタル、室内楽公演を重ねている。教育活動に積極的に関わっており、自信が主催する室内楽セミナーは高い評価を得ている。コンサートプロデュースには定評があり、2022年から5年間芸術監修を努める園城寺での「おとの三井寺」プロジェクトは注目されている。ソニーミュージックから「ブラームス:クラリネット・ソナタ、シューマン:幻想小曲集ほか」を世界リリース。

取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

そもそもクラシックとシャンソンは遠い存在ではありません。

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ー「わが青春のポピュラー・ミュージック」は、どのようにしてスタートしたのでしょうか?

岩下(文京シビックホール音楽プロデューサー) そもそもこのシリーズを立ち上げたきっかけですが、これまでのシビックホールの自主事業にはシニア層の皆さまをメインターゲットにした企画が少なかったため、その世代にお楽しみいただけるようなコンサートを開催したいと思ったのが始まりです。幸いにも私の両親が音楽好きだったこともあって、子ども時代はレコードやラジオによってクラシック、洋楽、邦楽などいろいろなジャンルの音楽で溢れている日常でした。昭和の初めに生まれた両親が好んで聞いていた音楽ですから古い時代のものばかり。いつの間にか自ら好んで聴くようになり今に至りました。そんなこともあって、このシリーズで取り上げる1950年代、60年代の音楽にもとても愛着があり楽しみながら構成をしています。

ー今回は「憧れのフレンチ・ポップにつつまれて」がテーマです。

岩下 前半は没後20年のジェリー・ゴールドスミス(※1)・メドレーをはじめ映画音楽が中心で、後半はイージーリスニングやシャンソンと、男性でも女性でも楽しんでいただけるようにしました。
 特にシャンソンは以前から取り上げたいと思っていたところ、今年はパリ五輪があるので良いタイミングだと思いました。ただ、シャンソンは歌や詩ありきのジャンルなので、吹奏楽の公演でどう取り入れたらいいか考えていたところ、以前「夜クラシック・シリーズ」(※2)で吉田誠さんが有名なシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」を取り上げてくれたことを思い出したのです。それがきっかけとなり実現しました。

吉田(クラリネット奏者) フランスで演奏活動をしていると、シャンソンを演奏したらお客様がすごく喜んでくれるので、普段からわりとよく取り上げているんです。
 そもそもクラシックとシャンソンは遠い存在ではありません。20世紀のパリの芸術界はおもしろい時代で、ピアフ(※3)にプーランク(※4)が曲を提供し、コクトー(※5)が親しく交流して、同じ頃にジョン・ケージ(※6)、シュトックハウゼン(※7)、ブーレーズ(※8)もいました。ポップスと、いわゆる芸術音楽のクラシックが並行して生み出されていたわけです。

ー普段クラシックのレパートリーを演奏されている中、日本でシャンソンを披露した時のお客様の反応の違いは感じますか?

吉田 人生のいろいろな場面と重なる曲を演奏して喜んでいただけた時は、音楽家冥利に尽きると感じますね。僕の年上の友人にもシャンソン好きは多く、教室に通い、発表会で歌うため日々鍛錬されている方もいらして、フランス語のアドバイスをしたこともあります! そういう方達は、この演奏会をすごく喜んでくれると思います。

岩下 今はモノや情報の多様化が進み、個人の趣味も趣向も多岐にわたりますが、戦後以降、多彩なサブカルチャーが爆発的に流行するまでは、きっとそうではなかったのだろうと思います。そのため、文化や娯楽を楽しむにしても割りと同じものを共有することの方が多かったのだろうと感じますね。だからシャンソンをはじめ、ここで取り上げる古き良き音楽にはひとかたならぬ思い入れがあるのではないでしょうか。

吹奏楽と一緒に演奏するのは初めてなんです。

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ー吉田さんは留学以前からフランス音楽がお好きだったということですが、シャンソンにも関心がありましたか?

吉田 そもそも、シャンソンというのはフランス中世の歌の形式を指す言葉なので、フランスのクラシックの作曲家の歌曲はシャンソンと呼ばれます。日本での一般的な理解とは少し違うんです。その意味で、フランス語の歌曲を聴いているとシャンソンという言葉に触れる機会が多く、自然と近い存在になりました。シャンソンは簡単な言葉が並んでいるし、韻が音楽と見事に合っているので、フランス語の勉強のうえでも通る道です。

ーインスピレーションを与えてくれる歌手はいますか?

吉田 やはりピアフの歌はすごく参考になります。この時代の歌手は、語尾が全部あがる昔のフランス語らしい歌い方をします。今の感覚からすると少しアクが強いのですが、聴いていて心地よく、飽きません。そのイメージを持ってクラリネットを演奏すると、言葉がなくても語っているニュアンスを生み出すことができます。言葉と音楽は繋がっているので、そこをいかに表現できるかが、良い音楽家か否かの境目だと思っています。

ーシャンソンメドレーに加えて、ベニー・グッドマン「メモリーズ・オブ・ユー」も吉田さんのクラリネットで聴くことができます。

岩下 吉田さんの多彩な魅力を感じてほしいと思い、ジャズ・クラリネットの定番曲を入れてみました。

吉田 実は僕、吹奏楽と一緒に演奏するのは初めてなんです。環境でコンディションが変化しやすい管楽器は大人数で合わせるのが簡単ではありませんが、だからこそどんな風になるのかとても楽しみです。

若い世代でシャンソンにはまって追いかけている方がいるという話を聞いたばかりです。

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     ―これまでの公演プログラム―

ー吹奏楽をしている若い世代にとってもおもしろい公演でしょうね。

岩下 祖父母や親御さんが孫や子供さんと一緒に来てくださったら、何かのきっかけになるかもしれませんね。変化に富んだ構成なので、知らない曲でも興味を持ってもらえるでしょう。

吉田 ちょうどこの前、若い世代でシャンソンにはまって追いかけている方がいるという話を聞いたばかりです。今の10代の間では、レコードや古いカメラなど昔のものが逆にかっこいいという流れがありますよね。シャンソンもその一つとしてまた広く聴かれるようになったらいいなと思います。

やはり自分の青春の景色と重なるものが多いです。

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ー楽曲の編曲は、吹奏楽の編曲を多く手がけられている三浦秀秋さんです。

岩下 このように編曲がメインのコンサートでは、アレンジャーはとても重要なポジションを担います。たくさんの曲があると同時にたくさんの思い出が聴く方それぞれあると思います。いつ、誰と、どこで、それらの曲と出会いどう感じたか。その曲のフレーズ、テンポ、印象的な楽器の音色などは、その時の想い出と鮮烈にリンクしていつまでも忘れることはないと思います。だからこそ、その重要なパートをできる限り再現しつつ吹奏楽用にアレンジする必要があります。そんな神業的アレンジをしてくださるのが三浦さんです。三浦さんは、そのような"欠かすことのできないツボ"を押さえつつ、オリジナリティ溢れる編曲をしてくれます。

ー青春がテーマですが、今回のプログラムの中で吉田さんの青春の思い出と繋がるものはありますか? どれも吉田さんが生まれる前にヒットした曲だとは思いますが...。

吉田 僕は19歳からフランスに留学したので、やはり自分の青春の景色と重なるものが多いです。「オー・シャンゼリゼ」は、留学して初めてフランス人と仲良くなった頃、酔っ払ってみんなで歌った風景が思い浮かびます。「シェルブールの雨傘」は、フランスで恋をした人と観に行きましたし、「メモリーズ・オブ・ユー」は、当時付き合っていた相手に「いい曲でしょ」と言ったら、全然そう思わないという答えが返ってきた思い出があります(笑)。パリは、歌詞の中に出てくる街並みが残っているので、余計に昔の記憶を喚起させるのでしょう。今回は、言葉ではなくクラリネットの音で、みなさんの思い出、憧れなどの感情を呼び起すことができたらと思っています。



1 ジェリー・ゴールドスミス(1929-2004)は「スター・トレック」、「猿の惑星」等を手がけたアメリカを代表する作曲家。
2 夜クラシックは2014年から始まったシビックホール主催のクラシック室内楽シリーズ。
3 エディット・ピアフ(1915-1963)は戦前から1960年代にかけて活躍したフランスの国民的シャンソン歌手。
4 フランシス・プーランク(1899-1963)は新古典主義的な作風を多く残したフランスの作曲家、ピアニスト。
5 ジャン・コクトー(1889-1963)は20世紀前半に詩人、小説家として活躍したフランスの芸術家。
6 ジョン・ケージ(1912-1992)は実験的な音楽家として知られるアメリカの現代音楽の作曲家。代表作「433秒」。
7 カールハインツ・シュトックハウゼン(1928-2007)はドイツの現代音楽の作曲家、音楽評論家。電子音楽において前衛的な作品を残した。 
8 ピエール・ブーレーズ(1925-2016)はフランスの現代音楽の作曲家。世界的指揮者としても広く活躍した。



取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

BUNKYO SIENA POPS 2024 わが青春のポピュラーミュージック!<Part.6>憧れのフレンチ・ポップにつつまれて

2024年6月15日(土)15:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/栗田博文
クラリネット/吉田 誠
吹奏楽/シエナ・ウインド・オーケストラ
ナビゲーター/朝岡 聡

編曲

三浦秀秋

曲名

白い恋人たち
シェルブールの雨傘
「シャンソンのある風景」(サン・トワ・マミー~パリの空の下~ミロール~バラ色の人生~オー・シャンゼリゼ)
「魅惑のイージー・リスニング」(涙のトッカータ~シバの女王~蒼いノクターン~エーゲ海の真珠~恋は水色~オリーブの首飾り)
ほか

料金<税込>

全席指定
S席:5,500円 
A席:4,500円 :B席 3,500円

【グループ割引】
同席種2枚以上同時購入でS・A席各500円引き。 

※学生割引あり。詳細は公演ページをご覧ください。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。ただし、5/19(日)は休業。)

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