スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.32




~2024年3月15日(金)「夜クラシックVol.32」~

前橋汀子&弦楽アンサンブル
スペシャルインタビュー

日本のクラシック音楽界のパイオニアであり、2022年に演奏活動60周年を迎えたヴァイオリニストの前橋汀子さん。
今回は、信頼を寄せる10名の弦楽アンサンブルメンバーとともに「夜クラシック」シリーズに出演します。
前橋さんと、弦楽アンサンブルメンバーの3名に、共演のきっかけやアンサンブルへの想いなどを伺いました。

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©篠山紀信

ヴァイオリン

前橋汀子

Teiko Maehashi


 日本を代表する国際的ヴァイオリニストとして、その優雅さと円熟味あふれる演奏で多くの聴衆を魅了し続けている。近年、親しみやすいプログラムによるリサイタルを展開する一方、バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティタ」全曲や、ベートーヴェン「ヴァイオリンソナタ」全曲などにも力を入れている。最新CDは「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ全集」。著書「私のヴァイオリン 前橋汀子回想録」が早川書房、最新刊「ヴァイオリニストの第五楽章」が日本経済新聞出版より出版されている。
 2004
年日本芸術院賞。2011年春に紫綬褒章、2017年春に旭日小綬章を受章。
 使用楽器は1736年製作のデル・ジェス・グァルネリウス。

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ヴァイオリン

平山慎一郎

Shinichiro Hirayama

9歳で渡米、ニューヨークのマネス音楽大学にて学ぶ。 1998年秋に一時帰国。ゲスト・コンサートマスター、フォアシュピーラーなど、国内オーケストラにて活動。また、ソリストとしてこれまでに数多くの協奏曲を演奏。ピアノ・トリオ、カルテットなど室内楽においても精力的に活動をしている。 これまでにサリー・トーマス、小林健次両氏に師事。 2023年8月より東京21世紀管弦楽団コンサートマスター。

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コントラバス

石川 徹

Toru Ishikawa

東京音楽大学卒業。西独ヴュルツブルグ音楽大学大学院に留学。2002年ローマ、ヴァレンティノブッキ国際コンクールファイナリスト。フランクフルト、アーヘン、オスナブリュクの市立歌劇場にて研鑽を積む。コントラバスを渡邊彰考、永島義男、河原泰則、文屋充徳、野田一郎、新真二の各氏に師事。現在長岡京室内アンサンブルのメンバーや日本の各オーケストラで客演首席として数々の演奏会・録音に参加。また後進の指導やコンクールの審査員も務める。

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チェンバロ

重岡麻衣

Mai Shigeoka

東京藝術大学チェンバロ専攻卒業。同大学院フォルテピアノ専攻修了。ブリュッセル王立音楽院フォルテピアノ科修了。ブルージュ国際古楽コンクール入賞。チェンバロ・オルガン・フォルテピアノによる通奏低音奏者として「バッハ・コレギウム・ジャパン」など国内外のアンサンブルに多数参加。200813年ベルギー・アントワープ王立音楽院フォルテピアノ科客員教授。現在、ソロ、アンサンブル等の活動を活発に行い、後進の指導にも力を入れている。


取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

いろいろな表現を試しながら毎回楽しみに本番に臨んでいます。

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―このメンバーが集まったきっかけからお聞かせください。

前橋 8年前、あらためてヴィヴァルディの「四季」を弾きたいと思い、以前からお付き合いのあったヴァイオリニストでコンサートマスターの森下幸路さんに相談したことがきっかけです。彼がすばらしい演奏家を集めてくれて、ほぼ同じ顔ぶれで回を重ね、今度の「夜クラシック」が15回目です。

―「四季」に再び取り組もうと思われたのは?

前橋 初めて「四季」を弾いたのは40年ほど前、ミラノのスカラ座合奏団との協演です。私がそれまで学んできたロシアの奏法やソリストとしての弾き方とは全く違うイタリアのバロック奏法を知りました。メンバーは個性的で食事の時など、ワインはこれだ、肉はこうじゃないといけないとか、みんなそれぞれ主張が強くて一体どうなるかと思ったのですが(笑)、演奏になるとその個性が一つにまとまり昇華するようで素晴らしい音になりました。
 それからしばらく機会がなかったところ、2015年の戸塚のさくらプラザオープンの際、私の好きな楽器編成での公演ができることになり、「四季」に再び取り組めたのです。メンバーはみんな真剣に練習に向き合ってくれるので、いろいろな表現を試しながら毎回楽しみに本番に臨んでいます。

私からすると、みなさん若くて本当にかわいい。

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―前橋さんと「四季」で共演できると聞いて、最初どう感じましたか?

重岡 本当の話?と思うくらい驚きました!私はチェンバロ奏者ですが、楽器を学ぶ身として前橋先生は子どもの頃からの憧れです。2015年から参加しているのですが、初めてリハーサルに行ったら前橋先生がいらして、現実なんだと思いました(笑)。

平山 私は9歳からアメリカに住んで、小学校で初めてヴァイオリンを手にしたのですが、まだ有名なヴァイオリニストも知らなかった当時、日本から来た知人がくれたカセットテープが前橋先生の演奏でした。3、4年毎日のように聴き続け、その後、一時帰国の際にオーケストラの演奏会を聴きにいったら、偶然、前橋先生がソリストだったのです。
 先生の音楽を聴いて育ち、影響を受けてきたので、2019年に森下さんからお誘いいただいて、心の中では月まで跳びあがって喜びました(笑)。今日は当時もらったテープを持ってきました。聴きすぎて擦り切れていると思いますが。

前橋 まあ、ずいぶん前のもので恥ずかしいけれど(笑)。そんなことがあったなんて初めて聞きました!

石川 私は2021年から参加しています。実はその前にもお話があり、これまでにないくらい楽譜を読み込んだのですがコロナで中止になってしまって...どん底に突き落とされた気分で落ち込みました。その後改めてお話をいただいて、大阪からコントラバスを抱えどこでも行きます!と、喜んでお引き受けしました。私は口下手なので、演奏で先生とコミュニケーションできることがとにかく嬉しいです。

前橋 私からすると、みなさん若くて本当にかわいい。でもおもしろかったのは、私が立って弾くスタイルを提案したら、最初の頃は1時間くらい練習するとみんな疲れてくるみたいで、若いのにどうしてって(笑)。

重岡 先生はいつも34時間くらい平気で立ちっぱなしなんですよ!

前橋 逆にこれまで立って弾くことばかりだったので、数年前カルテットを始めたときは座って弾く感覚に慣れるのが大変でした。体の使い方が違うんですよね。このメンバーは優れているので、立とうが座ろうが中腰だろうがよく弾けますけれど(笑)、やはり立つと出る音が違うので、そうさせてもらっています。

こだわったり、譲れない信念を貫いたりすることは大事だと思います。

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―共演を通じて前橋さんから教わったことはありますか?

平山 たくさんありますが、一番は毎回新しい扉を開くことの大切さです。本番を迎えてこれで完成したと思っても、次の公演ではまた新しい扉がパンっと開くんです。

重岡 ご自身が大変な努力をされて得た知識や経験を、惜しみなく私たちに教えてくださることが本当にありがたいです。それと私がチェンバロで新たに試したいことを提案すると、すぐやってみてと言ってくださるし、即興のパートでもいつも笑顔を向けて信じてくださるので、次は何をやろうかと考えるのが楽しいです。

石川 僕は音に対してこだわりすぎるところがあって、追求すると止まらなくなるんです。でも以前、先生のリハーサルの動画で、舞台の端からカニ歩きで一歩ずつ場所をずらしながら弾いて音を確認していらっしゃるのを見て、僕もこうありたい、やはりこだわっていいのだと迷いが晴れました。

前橋 こだわったり、譲れない信念を貫いたりすることは大事だと思います。自分で考えて見つけないといけないことはたくさんあります。もちろん素晴らしい演奏家に教えてもらえることもありますけれど。
 私も若い頃、習いたい先生たちを追いかけてあちこちの国に行きました。晩年のミルシテイン*のレッスンを受けたこともあります。ホテルの部屋で朝から練習しているところをずっと聴かせてもらいました。近くでの音は大きくないのに、広いホールでとてもよく通るのです。体の使い方が上手なのでしょう。

平山 そのよく通る音の話、まさに先生のリハーサルでありましたよ!みんなが大音量で鳴らしている前で先生がソロを弾いていて、森下さんが音のバランスが心配だからと客席に確認しに行ったんだけれど、結果、「客席側では先生の音しか聴こえません!」って(笑)。

ヴァイオリンや音楽のさまざまな可能性をお聴かせします。

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―前半には小品の名曲が並んでいますね。

前橋 小品は、数分に物語を込めなくてはならないので実は難しいのですが、私はとても好きです。今回、この編成用に丸山貴幸さんがアレンジしてくださいました。ときには管楽器やハープなどそこにない楽器まで感じてもらえるようだといいですね。

―アンサンブルで大切にしていることは何でしょうか?

平山 昔は、はみ出してはいけないと意識することが多かったですが、結局大切なのはそれよりも同じ音楽を感じているかだと思うようになって、音楽をすることが楽になりました。このアンサンブルはみんなが同じ方を向いているので、すごく自然な気持ちで舞台に立てます。

重岡 同じように息を吸って吐くことをみんなでできるアンサンブルですよね。理想という感じ。

石川 私はここで求められるものに応えたいと、引き出しを増やせるよう自分なりにがんばっています。前橋先生が見ている景色は、経験値の少ない自分には到底届かないけれど、旅をしたり見聞を広めたりすることで、より多くの感覚や価値観を知りたいです。

前橋 音楽のために限らず、経験はとても大事です。私も60年の演奏活動で多くのアドバイスをもらい、取り入れることもあれば、その時納得いかなくても後で意味がわかったこともあります。演奏家としてやっていくことは簡単ではないと思いますが、諦めずに進み続けてほしいです。
 このアンサンブルは本当に素敵な音楽家ばかり。多様な時代と場所で作られた音楽で、ヴァイオリンや音楽のさまざまな可能性をお聴かせします。楽しんでいただけたら嬉しいです。


*
オデーサ(現ウクライナ)出身。20世紀を代表するヴァイオリニストの一人。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.32 

2024年3月15日(金)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ソロ・ヴァイオリン/前橋汀子

弦楽アンサンブル
コンサートマスター/森下幸路
1stヴァイオリン/森岡 聡
2ndヴァイオリン/伝田正秀
2ndヴァイオリン/平山慎一郎
ヴィオラ/伴野 剛
ヴィオラ/小倉萌子
チェロ/門脇大樹
チェロ/村井 将
コントラバス/石川 徹
チェンバロ/重岡麻衣

曲名

ドビュッシー /月の光*
マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲*
サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ* ★
マスネ/タイスの瞑想曲* ★
ドヴォルザーク/スラヴ舞曲 Op.72-2* ★
ドヴォルザーク/わが母の教え給いし歌* ★
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」★                  

*丸山貴幸 編

★試聴できます(2024年4月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合もございます。)

料金<税込>

全席指定  S席:3,000円 
      A席:2,000円(完売)  

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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