スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.30




~2023年10月13日(金)「夜クラシックVol.30」~

實川 風(ピアノ)・周防亮介(ヴァイオリン)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
初共演となるお二人に本公演への意気込みをうかがいました。

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©T.Tairadate

ピアノ

實川 風

Kaoru Jitsukawa

2015年、パリのシャンゼリゼ劇場で行われたロン・ティボー・クレスパン国際コンクールにて、第3(1位なし)、最優秀リサイタル賞、最優秀新曲演奏賞を受賞。2016年、イタリアで行われたカラーリョ国際ピアノコンクールにて第1位・聴衆賞を受賞。現在、日本の若手を代表するピアニストの一人として、国内外での演奏活動を広げる。ソリストとしてベートーヴェンを核とした本格的なレパートリーに取り組む一方、邦人作品の新作初演などでも作曲家より信頼を寄せられている。海外の音楽祭への招待には、上海音楽祭、ソウル国際音楽祭、ノアン・ショパンナイト(フランス)・アルソノーレ(オーストリア)などがある。 東京藝術大学附属高校・東京藝術大学を首席で卒業し、同大学大学院(修士課程)修了。山田千代子、御木本澄子、多 美智子、江口玲の各氏に師事。グラーツ国立音楽大学ポストグラデュエート課程を修了。マルクス・シルマー氏に学ぶ。2023年、最新アルバムとしてバッハの作品集をリリース。また、オーケストラの弾き振りに挑戦するなど、注目を集めている。

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©JUNICHIRO MATSUO

ヴァイオリン

周防亮介

Ryosuke Suho

2016年ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール入賞及び審査員特別賞受賞をはじめ、日本音楽コンクールやダヴィッド・オイストラフ国際ヴァイオリンコンクールなど、国内外の数々のコンクールで優勝や入賞の実績を持つ。 2015年「第25回出光音楽賞」、2016年「第25回青山音楽新人賞」を受賞。 12歳で京都市交響楽団との共演を皮切りに、パリ管弦楽団やシュトゥットガルト室内管弦楽団、NHK交響楽団など、数多くの国内外オーケストラと共演。 東京音楽大学アーティスト・ディプロマコースを修了し、現在は江副記念リクルート財団奨学生としてメニューイン国際音楽アカデミーにて研鑽を積む。 使用楽器はNPO法人イエローエンジェルより貸与されている、1678年製ニコロ・アマティ。2022年は群響、日本センチュリー、京都市響などと、グラズノフやコルンゴルトの協奏曲を共演。さらなる飛躍の年となった。また、今年、新日本フィルと3曲の協奏曲を含む7曲の連続演奏を企画。今後が最も期待されている若手ヴァイオリニストの一人。

取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

ピアノの限界を感じさせないように弾きたいです。

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―今回が初共演だそうですね。

實川 はい。「夜クラシック」への出演が決まったあと、今年1月に周防さんが出演した演奏会を聴きにいって、打ち上げ2軒目のラーメン屋でご一緒したときに初めてお会いしました(笑)。

周防 初共演をすごく楽しみにしています。何度も演奏してきた作品から新たにいろいろ学べたらいいなと思って。

ープログラムはどのように決めたのですか?

周防 冒頭のテーマ曲「月の光」と合う雰囲気を考えて、フランクのヴァイオリン・ソナタを久しぶりに弾きたいと思いました。ヴィエニャフスキコンクールやデビューアルバムなど、大切なポイントで演奏してきた思い入れのある作品です。

實川 僕にとっては、ヴァイオリン・ソナタの中でこれまで一番演奏した作品です。チェロやヴィオラでも弾かれるので2ヶ月に1回くらいの頻度で演奏していたら、だいぶ暗譜できてきました(笑)。
 フランクはオルガニストだったので、複雑なフーガが多用されていて、ピアノパートがとても難しい。でもそんな緻密に書かれた曲だからこそ、次はこのラインを出してみようと楽しみながら弾いています。パズル的な音楽が好きで、これまでフランクはピアノ曲にも取り組んでいます。

周防 その前に置く作品として、フランクの弟子だったショーソンの「詩曲」を選びました。物語性があって大好きです。嘆き、もがくような心の叫び、内に秘めた強烈なエネルギーを感じ、弾いていると胸がギュッと締め付けられます。

實川 僕が初めてこの曲を伴奏した時は高校生だったので、そのドロドロ感があまり好きになれませんでした。でも2年前にまた弾く機会があり、なんていい曲なのだろうと。原曲のオーケストラ部分をピアノで弾きますが、楽譜によってアレンジが違うので、毎回どうしようかなと迷います。

周防 ヘンレ版の楽譜など、音がすごく少ないですよね!

實川 そう、あまり音が少ないと寂しい印象なので、2種類くらいを混ぜながら工夫します。独奏を引き継いで膨らむ芳醇なオーケストラサウンドをイメージして、ピアノの限界を感じさせないように弾きたいです。

ヴァイオリンやピアノのいろいろな技術も楽しんでいただきたいです。

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ー實川さんは、ソロでフォーレを演奏します。

實川 フォーレが好きで、13曲あるノクターンなど全部譜読みしているのですが、なかなか演奏会で弾ける機会がありませんでした。だけどやっぱり好きだから、去年から"フォーレ活"に力を入れようと思っていたんです。そこに、夜がテーマでフランスものを弾ける今回のお話があってちょうどいいと思い、夜想曲第4番と舟歌第6番を選びました。

ーそこから華やかなラヴェルの「ツィガーヌ」に続きます。

周防 フランスものといっても、美しいもの、リズミカルなもの、ロマの風情を感じるものなど、それぞれ強いキャラクターがあります。流れるような美しい作品が続いた後、ガラッと雰囲気を変えようと思いました。ヴァイオリンやピアノのいろいろな技術も楽しんでいただきたいです。

ーフランス音楽にどんな印象がありますか?

實川 子供の頃は描写的で淡い色彩感の音楽だと思っていましたが、歳を重ね、原色もたくさん使われていること、きれいなだけでない要素に気づきました。フランスのファッションや香水は、決して優しげなものばかりではないという話を聞いたことがありますが、例えば確かにドビュッシーには、ムンムンとした濃い香水の香り、男女の感情の揺れが感じられる部分も多くあります。感じ方の幅が広がりました。

周防 色彩や表情が豊かで、ポルタメントやちょっとしたタイミングを変えるだけで雰囲気がガラッと変わります。ドイツ音楽にはない色が感じられますね。美しい音楽のなかに自由があります。

母がよく演奏会に連れていってくれて、そこでヴァイオリンに出会いました。

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ー子供の頃の音楽体験で今につながるものはありますか? どうやら周防さんはお母様がピアノの先生だったけれどヴァイオリンを選び、實川さんは親御さんがヴァイオリンを習わせようとしていたけれどピアノの先生についていて、逆の環境からスタートしているようです。

周防 そうなんですね、おもしろい! 私は少し変わった子供で、友達と遊ぶより、部屋で一人、クラシックを聴いているのが好きでした。母がよく演奏会に連れていってくれて、そこでヴァイオリンに出会いました。でも母は、自分が昔ヴァイオリンをやっていた経験から、「あの楽器は音が出ないからやめておきなさい」といってピアノを勧めていて。でもやっぱりヴァイオリンがやりたくて、小学2年生でやっと習い始めました。趣味のつもりでしたが、小学4年生から受け始めたコンクールで運良く賞をいただくことが増え、このままヴァイオリンを弾き続ける人生になればいいなと思うようになりました。

實川 僕の場合は、ヴァイオリンの先生が見つからなくて結局ピアノになったという経緯です。子供の頃は野球などスポーツが好きだったので、ピアノも同じで、技術的に難しい曲を弾けるようになるのが楽しいという感覚でしたね。
 あとはオーケストラ曲を聴いていた父の影響で交響曲が好きでした。マーラーの6番のシンフォニーの冒頭30秒をリピートして聴いたり、目覚ましにブラームスのシンフォニー1番最初のティンパニをセットしたり。リズミカルでかっこいい曲が好きだったようです。
 でも東京芸大附属高校に入るころになると、ピアノを弾き表現することには、技術だけでなく、音符の読み方や作曲家の人生など多くの要素がからみあってくると気づきました。いろいろ見えるようになって、ますます音楽が好きになっていきました。

心が充実して、またやろうと思えるのです。

ー作品を探究し練習することと、人前で演奏することには違う面があると思いますが、どう感じていますか?

實川 練習でやってきたことが本番につながらないこともありますからね。でもうまくいったときの喜びを記憶しているから、またやろうというモチベーションが生まれるのだと思います。僕は自分の目指す音楽を部屋で一人弾いていると、確実に楽しめるタイプ。舞台でそれをそのまま届けられたらさらに嬉しいという感覚なので、いわばコンサートは"ハイリスク・ハイリターン"、練習は、"ローリスク・ハイリターン"......。

ーそれだと練習のほうが安全でリターンがあるから良いみたいですが(笑)。

實川 本当だ(笑)、でもコンサートはリターンがよりハイレベルです! お客様とのコミュニケーションの喜びが加わりますから。

周防 本当にそうですね。一人で練習していると、うまくいかずに悩むことなど毎日ですが、最後、お客様に聴いていただいて、拍手やあたたかい雰囲気に包まれると、そこまでの苦労が吹き飛びます。心が充実して、またやろうと思えるのです。

ーちなみに本番前に必ずすることは? 周防さんは赤い物を身につけていると聞いたことがありますが。

周防 それは今もやっていますよ! あと舞台に出る前、思いきり背中を叩いてもらいます。みんなが引くくらい思いっきり(笑)。それから扉の前で一回屈伸して、床にタッチしてから舞台に出ていきます。

實川 僕は公演前のルーティンはあまりないですが、前日よく寝ること、体をほぐすため楽屋で投球フォームの練習をすること、あとはよく食べることですね。エネルギー切れが怖くて、演奏会の日は1日4食になります。

弦を変えるだけで違う表情が生まれます。

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ー理想とする音や表現はありますか?

實川 僕は弦楽器の音がすごく好きで、羨ましいのが、同じ音程の音でも、G線を使うかD線を使うかで全く違う音色を出せること。同じフレーズが2度出てきたときなど、弦を変えるだけで違う表情が生まれます。
 ピアノの場合、単音で表せる色に限りがあるので、ペダルを工夫するとか、和音のバランスを変えるとかしないと、多くの色をつけることは難しいのです。単音であれだけ声色を変えられる弦楽器を羨ましく思いながら、ピアノで頑張ってその表現を目指しています。

周防 確かにヴァイオリンは弦や指の選択で音色がすごく変わるので、そこは追求したいといつも思っています。
 もう一つ常に頭にあるのが、昔先生に言われた「魂の音を出しなさい」という言葉。私は内に秘めたものが多く、それについて言葉より楽器で伝えるほうが得意なタイプなので、それをわかって先生はこのアドバイスをくださったのだと思います。
 大切にしているのは、音そのもの。色彩豊かで物語性のある音を出すという理想に、少しでも近づきたいと思っています。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.30 

2023年10月13日(金)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ピアノ/實川 風
ヴァイオリン/周防亮介

曲名

ドビュッシー/月の光
フォーレ/夜想曲 第4番
フォーレ/舟歌 第6番 * 
ラヴェル/ツィガーヌ 
ショーソン/詩曲*
フランク/ヴァイオリン・ソナタ*


...試聴できます(2023年10月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合もございます。)

料金<税込>

全席指定  S席:3,000円 A席:2,000円  

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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