スペシャルインタビュー 響きの森クラシック・シリーズVol.79

~2024年3月9日(土)「響きの森クラシック・シリーズVol.79」~

アンドレア・バッティストーニ(指揮)
スペシャルインタビュー

響きの森クラシック・シリーズVol.79に登場する東京フィル首席指揮者アンドレア・バッティストーニ氏。
東京フィルとの演奏会のため来日している貴重な時間の中、ホールの印象やシリーズへの意気込み、
プログラムへの思いなど、お話をうかがいました。

アンドレア・バッティストーニ(C)TakafumiUeno.jpg

©Takafumi Ueno

指揮

アンドレア・バッティストーニ

Andrea Battistoni

1987年ヴェローナ生まれ。国際的に頭角を現している同世代の最も重要な指揮者の一人と評されている。2013年ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場の首席客演指揮者、2016年10月東京フィル首席指揮者に就任。
 『ナブッコ』、『リゴレット』、『蝶々夫人』(二期会)、グランドオペラ共同制作『アイーダ』のほか、ローマ三部作、『展覧会の絵』『春の祭典』等数多くの管弦楽プログラムで東京フィルを指揮。東京フィルとのコンサート形式オペラ『トゥーランドット』(2015年)、『イリス(あやめ)』(2016年)、『メフィストーフェレ』(2018年)で批評家、聴衆の双方から音楽界を牽引するスターとしての評価を得た。同コンビで日本コロムビア株式会社よりCDのリリースを継続している。
 スカラ座、フェニーチェ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、スウェーデン王立歌劇場、アレーナ・ディ・ヴェローナ、バイエルン国立歌劇場、マリインスキー劇場、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管、イスラエル・フィル等世界の主要歌劇場・オーケストラと共演を重ねている。2017年には初の著書『マエストロ・バッティストーニの ぼくたちのクラシック音楽』(音楽之友社)を刊行。
 2021年、東京フィルとの録音『ドヴォルザーク新世界&伊福部作品』欧米盤が欧州の権威ある賞の一つ「OPUS KLASSIK 2021」交響曲部門(20-21世紀)を受賞した。


取材・文:柴田克彦  

大きな曲も皆が身近に楽しめる、そのような演奏をしたいと思います。

─ バッティストーニさんは、2016年から4年続けて「響きの森クラシック・シリーズ」に出演されています。文京シビックホールの印象はいかがですか?

 遊園地などに近い好立地にあって、雰囲気がよく、リラックスできます。音響も素晴らしいので、毎回やりたい曲、いい音楽ができるホールといった印象があります。

─ では、今季の「響きの森クラシック・シリーズ」の再開にあたり、意気込みをお聞かせください。

 文京シビックホールは、大編成の曲も演奏できますが、決して大き過ぎることはなく、お客さんも大オーケストラのインパクトを間近で、しかも美しいままに味わえます。そこでまたコンサートができるのは幸せなこと。以前と同様、大きな曲も皆が身近に楽しめる、そのような演奏をしたいと思います。

バッティストーニ03.jpg

─ バッティストーニさんが指揮されるVol.79のプログラムのポイントを教えてください。まずは前半のラフマニノフのピアノ協奏曲第3番から。

 ピアノと一緒に奏でる交響曲のような作品です。ラフマニノフのピアノ協奏曲では、2番が好まれることが多いのですが、3番の方が構成も複雑で野心的。2番ともどもラフマニノフの内面を表していますが、3番の方がより内向的でドラマティックです。中でも最後に出てくる鐘の音のような部分は、暗闇と光の闘いを表していて、悪の脅迫を受けながら最後は善が勝つ。それはラフマニノフ自身の苦悩との闘いでもあります。

─ 後半最初のラフマニノフの「ヴォカリーズ」は元々歌曲ですね。

 日本を含めてオーケストラでも数回演奏しています。この曲は、メロディがとてもラフマニノフらしくて、彼の内面の苦悩やノスタルジーを表した、非常に美しい作品。ラフマニノフは歌曲を沢山書いていますが、この曲だけ管弦楽版にしていますので、彼にとっても意味のある作品だったのだと思います。

─ 最後はラヴェルの「ボレロ」。これはお馴染みの作品です。

 大好きな作品でありながら、実は恐怖にかられる曲なんです。オーケストレーションの魔術師としての腕だけで成り立っていて、曲が発展していかずに同じことが繰り返されます。それはまるでオーケストラが呪いにかかって、同じ箇所を繰り返し演奏せざるを得なくなったかのようです。そして音色を変えつつ輝きを増してドラマティックになっていくのですが、そこから抜け出すには最後にそれを壊すしかない。そうしたカタストロフに向かっていきます。私が恐怖を感じるのはそこなんです。これは曲が書かれた20世紀初頭のデカダンスの時代、戦争の足音が聞こえてきた時代の気分を反映していると思います。また各楽器のソロが複雑で、オーケストラにとって演奏が大変な曲ですが、指揮者にとってもそう。速めに演奏すると本来の味が出ませんので、指揮者は小太鼓と一緒にゆっくりしたテンポを保つのがポイントになります。

ラフマニノフは再発見されていると思います。

バッティストーニ01.jpg

─ ラフマニノフのピアノ協奏曲でソロを弾く阪田知樹さんの印象は?

 阪田さんとは東京フィルと共にこの曲を演奏しています(2020年1月定期)。私は彼のピアノが大好きですし、彼は本当のヴィルトゥオーゾでこの曲に向いています。ラフマニノフ自身の大きな手のために書かれていて、音の数も多いのですが、阪田さんも手が大きく、まるで彼のために存在している曲にさえ思えるほど。なのでまた共演できるのは嬉しいですね。

─ 今季のシリーズはロシア物が中心を成しています。バッティストーニさんのロシア物に対する思いをお聞かせください。

 チャイコフスキーは一番好きな作曲家です。エモーションを与えてくれますし、何しろ私にオーケストラ音楽の素晴らしさを教えてくれました。イタリアとロシアの音楽は一見違うように思えますが、情熱的でロマンティックで歌に溢れているといった共通点もあります。ですからチャイコフスキーはもちろん、ラフマニノフの交響曲第2番も私がよく指揮する作品になっています。

─ 本シリーズでは、今年生誕150年のラフマニノフの作品が多く取り上げられます。彼についての思いは?

 ラフマニノフは再発見されていると思います。過去には評論家などから、聴衆寄りでメロディに頼り過ぎ、同時代のストラヴィンスキーやシェーンベルクなどの前衛的な音楽に比べてあまりにロマンティック過ぎると、冷たく見られていました。でも実は、伝統と現代性のバランスに優れた音楽を書いた作曲家だと思うのです。しかも後期の作品を聴くと、コンテンポラリーの作曲家やジャズをよく知っていたことがわかります。ゆえに今、特にアプローチすべき作曲家ですし、何よりお客さんがその音楽を求めています。それこそが彼の音楽が本物であることの証しではないでしょうか。

できれば全部を指揮したいくらい。私がお客さんならば絶対にセット券を買いますよ。

バッティストーニ02.jpg

─ 2016年10月に首席指揮者に就任されて6年、東京フィルとの関係はいかがですか?

 私はとても良い関係だと思っています。お互いをよく理解し、言葉がなくても音楽をどんどん作っていけます。またパンデミックでオーケストラが困難に陥っている時は、私も彼らの近くにいたいとの気持ちを示し、訪日が可能になったらすぐに行くようにしました。それは事務局の皆さんの尽力もあってのこと。未曾有の危機を一緒に乗り越えてきたことで、ビジネスだけでなく、人間としてもいい関係を築けたと思いますし、今後もこの関係を続けて行けることを願っています。

─ サウンドやメンバーの気質などについてはどうお感じですか?

 それを語るのは難しいのですが、あえて言うとすれば、とても柔軟でオペラをよく知っているオーケストラ。指揮者に合わせることにとても協力的で、我々にも多くのものをおくってくれます。私はファンタジーを持つことや様々な音色やイタリア式の歌い方などの点で貢献できたかなと思いますが、オーケストラからも精密さ正確さなど多くのことを学びました。

─ 最後に、シリーズの年間プログラムをご覧になっての感想と、ファンへのメッセージをお願いします。

 素晴らしいラインナップですね。チャイコフスキー、ラフマニノフ、ドヴォルザーク等の、私が最も好きな曲、私をオーケストラ好きにしてくれた曲が沢山入っていますので、できれば全部を指揮したいくらい。私がお客さんならば絶対にセット券を買いますよ。

取材・文:柴田克彦(しばたかつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」等の雑誌、公演プログラム、WEB、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

東京フィルハーモニー交響楽団 響きの森クラシック・シリーズVol.79

2024年3月9日(土)15:00開演

文京シビックホール 大ホール


※「響きの森クラシック・シリーズVol.79」の1回券発売日は後日発表いたします。
 (2023/3/31現在)

出演

指揮 /アンドレア・バッティストーニ
ピアノ/阪田知樹
管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団

曲目

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
ラフマニノフ/ヴォカリーズ
ラヴェル/ボレロ

料金《全席指定・税込》

響きの森クラシック・シリーズ 2023-2024シーズン シリーズセット券
2023年4月30日までの期間限定販売中!

《全席指定・税込》
S席17,500円(S席4公演21,000円のところ3,500円OFF!
A席14,500円(A席4公演17,000円のところ2,500円OFF!
B席12,500円(B席4公演13,500円のところ1,000円OFF!

全4回の詳細はこちらをご覧ください
<響きの森クラシック・シリーズセット券>特設ページ

※本セット券は、全公演同一席となります。お席の変更はお受けできませんのでご了承ください。
※「響きの森クラシック・シリーズVol.79」1回券の料金および発売日は後日発表いたします。(2023/3/31現在)

セット券に関するお問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)