スペシャルインタビュー
文の京リーディングドラマ 文豪たちのことば ~文学作品×朗読×演劇~

2023年4月15日(土)・16日(日)/5月6日(土)・7日(日)
文京シビックホールリニューアル記念公演「文の京リーディングドラマ 文豪たちのことば ~文学作品×朗読×演劇~」

演出家
山本卓卓/田上 豊/島 貴之
スペシャルインタビュー

太宰 治、夏目漱石、泉 鏡花にゆかりのある県出身の、3人の演出家が文人たちの作品を
リーディングドラマにして上演します!演出家の山本卓卓、田上 豊、島 貴之に作品や
コロナ禍での変化等をメールインタビューで伺いました。

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山本卓卓

Suguru Yamamoto

劇作家・演出家・範宙遊泳代表。加速度的に倫理観が変貌する現代情報社会をビビッドに反映した劇世界を構築。子どもと一緒に楽しめる「シリーズ おとなもこどもも」、青少年や福祉施設に向けたワークショップ事業など、幅広いレパートリーを持つ。アジア諸国や北米での公演や国際共同制作、戯曲提供も多数。『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞。公益財団法人セゾン文化財団フェロー。

ゆかりの県:山梨県
太宰 治が新婚時代を過ごした甲府市があり、山本卓卓の出身県(笛吹市)。

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田上 豊

Yutaka Tanoue

劇作家・演出家・田上パル主宰。創作と並行し、創作型、体験型、育成講座など幅広く演劇ワークショップも行う。青年団演出部、一般財団法人地域創造リージョナル事業派遣アーティスト。奈良市アートプロジェクト舞台芸術プログラムディレクター。芸術文化観光専門職大学助教。




ゆかりの県:熊本県

夏目漱石が英語教師として赴任した第五高等学校(熊本大学の前身)があった熊本市は田上 豊の出身地。

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島 貴之

Takayuki Shima

演出家。Potluck Theater 代表。2013年「紙風船」で利賀演劇人コンクールにて優秀演出家賞受賞。利賀インター・ゼミ、石川県高文連演劇専門部演劇講習会にて講師を務めるなど演劇の裾野を広げる活動もしている。2022年9月劇団SCOT鈴木忠志氏より招聘され、富山県南砺市利賀芸術公園にて、岸田國士「紙風船」を上演。



ゆかりの県:石川県

泉 鏡花は「金沢三文豪」の一人であり、金沢市出身。島 貴之はシアトル生まれ、金沢育ち。



この物語の冒頭にある汽車の部分を読む度に、東京に向かった日のことを思い出します。(田上)


ー本公演では太宰 治(山梨県)、夏目漱石(熊本県)、泉 鏡花(石川県)にゆかりのあるお三方に、それぞれの文人の作品の中からお好きな1作品を選んでいただきました。その作品を選んだ理由をお聞かせください。

山本:『富嶽百景』を選んだのは山梨の風景描写が精密で人物描写に人間味があって面白く、リーディングとして遊び甲斐があると思ったからです。 太宰の文章は苦悩の奥底にいつもユーモアが光るのが特徴ですが、この『富嶽百景』はエッセイのようなサラッとした軽いタッチで苦悩を横に置いて描かれているところがポップです。紛れもなく太宰は純文学の作家ですが、大衆性つまり俗っぽさを嫌うそぶりをみせながらも、自身の性根からそれを排除しきれなかったのではないかと思います。この太宰の持つポップさ、愛らしさ、憎めなさ、に遊びで応答したいと考えました。


田上:『三四郎』のように、私も熊本から上京した経験のある人間です。この物語の冒頭にある汽車の部分を読む度に、東京に向かった日のことを思い出します。田舎から新世界に飛び出した「青年時代」を思い返すと、何かを得ることで失ったものがあり、それがあまりに切なく儚い気がして、今の年齢なら今作をやってみる価値があると思いました。

島:今回選んだ『露宿』は、大正12年の関東大震災を体験した泉 鏡花が書いたルポルタージュで、タイトルの意味は野宿という意味です。一般に広く知られている泉 鏡花の作品は幻想的なものが多いように感じますが、そういう作家が未曽有の事態にあってどのような「ことば」を残したのか知りたいと思いました。それは震災、コロナ禍を経験している私達に示唆するものがあると考えたからです。これは2020年に一度中止になってしまった本企画の実現や芸術文化再興への私の想いでもあります。

聞き慣れない「ことば」についてあれこれ想像すると面白いことが多いです。(島)

ー公演タイトルに「文豪たちのことば」とありますが、「ことば」は時代とともに変化し、常に新しい表現や造語が生まれます。この「ことば」の変化について思うことはありますか。

山本:特にここ5、6年の間の日本では、言葉は目まぐるしく新しく生まれ、死んでいます。昨日まで普通に使っていた言葉が明日には禁句になっている、ということもたくさんあります。そして文学は、こうした非常に流動的で不安定な言葉という生き物をどう取捨選択するかの世界です。だからこそかつての文豪たちはどの時代にも適応する普遍的な「ことば」を残し続けてきた・・・と私はまったく思いません。文豪たちの「ことば」は非常に個人的かつ自己本意で、自分の美醜感覚なりを最大限研ぎ澄ませて純度高く表現してきました。ですから今では「アウト」な表現や価値観もたくさんあるでしょう。問題はそれを、今日の私たちがどのように受け止めるか、受け流すか、捨てるか、だと思います。今回の上演を経て文豪がもう文豪ではなくなる可能性だってあるので、それはとてもスリリングです。

田上:言葉遣いは移り変われど、言葉を発する人間の精神性の深いところは、時代を問わない気がします。ただし、他者に対してこの部分までは言葉にする、ここから先は言葉にしないという線引き、これを品性として捉えるのならば、インターネットの登場を機にここ数十年で急速な変化を感じています。「思いを秘める慎み深さ」こういった美学を夏目漱石などの文豪の言葉は常に思い出させてくれる気がします。

島:「ことば」は単独で存在することが出来ず常に誰かに使われるものですから、人間が変化すれば当然変わる物だと考えます。小説家や作家などの日本語を扱うプロだけではなく私達も日常的に言葉を選んで使っています。意味だけではなくその形、時間、音といった要素を複雑に組み合わせて、自分の全部を使って「ことば」と付き合っているのです。聴いたり書いたり読んだりする場合にもそうです。だとすれば「ことば」の変化というものは必然でまた興味深いものだと思います。実際に若者が使う、聞き慣れない「ことば」についてあれこれ想像すると面白いことが多いです。

この窮地のさなかに生まれた決意が、さらに舞台芸術を強固なものにしていくと考えています。(山本)

ー本公演は当初2020年6月に開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により中止となりました。コロナ禍を経験した今、公演や創作活動への取り組み方に変化はありましたか。

山本:ネガティブな変化とポジティブな変化があります。ネガティブな変化は、観客や作り手のマインドに「感染リスク」という言葉が刷り込まれてしまったことです。これは人間と人間の接触を基本とする舞台芸術にとって非常に大きな変化だと思います。だからこそ、その反動で「なぜリスクの中で我々はこれを行うのか」ということについても真剣に考えました。そしてこの窮地のさなかに生まれた決意が、さらに舞台芸術を強固なものにしていくと考えています。それはとてもポジティブな変化です。

田上:稽古を経て公演終了まで座組み全員が健康で最後まで走り抜けることがこんなに難しい時代が来るとは予想だにしませんでした。コロナ前のような環境下に戻ってくれることを常に願いつつ、創作の都度、最大限公演の成功に向けて挑む「粘り強い精神」を鍛えられていると思っています。一方で、どんなにリスクマネージメントに努めても非常事態が起きるご時世なので、良い塩梅で「無常観」とはいかなるものかが少し分かってきたような...。

島:演劇は、密になるしかない稽古や不特定多数の人が一箇所に集うライブパフォーマンスであるという点では、非常にやりにくい時期が続いていますが、インターネットのサービスを使った手法に発見があったり、一旦停止せざるを得なかった自身の創作活動について省みる良い機会にもなりましたが、そもそも紀元前から演劇が行われていることを思えば、どうということもないと感じています。私は地方に住んでおり東京は遠いなと思っていましたが、不要不急の外出を制限されたときには近所の飲食店と東京駅は同じくらいの距離感でした。(笑)

2020年に中止となったこの企画が再び立ち上がり、我々の作品を上演できることを心から嬉しく思っています。(島)

ー本公演のPRをスクエア読者の皆さんへお願いします。

山本:範宙遊泳という団体名の漢字にもあるように、観客のみなさんと「遊び」ながら富嶽百景を立ち上げられたらと思います。ぜひ文京区の天下茶屋へ遊びに来てください。

田上:2020年に上演していたらきっとたどり着けなかったものが出来上がると思います。本事業が「三年前にはお前にはまだ早かった」と、時間の猶予を与えてくれたのだと思っています。公演ができることに喜びを噛み締めつつ、「演劇」という芸術ならではの遊び心を忘れずに、みなさんに楽しんでいただける作品をお届けしたいと思います。ぜひ、ご期待ください。

島:2020年に中止となったこの企画が再び立ち上がり、我々の作品を上演できることを心から嬉しく思っています。観客の皆様と劇場でお会いできることを楽しみにしております。

文京シビックホールリニューアル記念公演
「文の京リーディングドラマ 文豪たちのことば ~文学作品×朗読×演劇~」

◆4月15日(土)、16日(日)14:00開演
 太宰治/「富嶽百景」 演出・構成:山本卓卓

◆5月6日(土)15:00開演、7日(日)16:30開演
 夏目漱石/「三四郎」 演出・構成:田上 豊

◆5月6日(土)17:30開演、7日(日)14:00開演
 泉 鏡花/「露宿」 演出・構成:島 貴之

文京シビックホール 小ホール

出演

富嶽百景:埜本幸良(範宙遊泳)、亀上空花、武谷公雄
 

三四郎:山内健司(青年団)、村井まどか(青年団)、山田遥野(青年団)
※「三四郎」出演者が財団広報紙「スクエア」1月号掲載の情報から変更となりました。

露宿:梨瑳子 ほか

料金

【全席指定・税込み】2,500円
 2公演セット券 4,500円
 3公演セット券 6,000円
 学生割引 1,500円(1公演)
 ※学生割引及びセット券はシビックチケットでのみ受付

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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