スペシャルインタビュー 中野翔太・金子三勇士・山中惇史 トリプルピアノ

~2023年4月23日(日) 文京シビックホールリニューアル記念公演「中野翔太・金子三勇士・山中惇史 トリプルピアノ」~

中野翔太(ピアノ)/金子三勇士(ピアノ)/山中惇史(ピアノ)
スペシャルインタビュー

クラシックをはじめ、ジャズ、作曲などジャンルレスに活動の幅を広げる中野翔太。
2021年日本デビュー10周年を迎え、その大胆かつ繊細な演奏でさらなる飛躍をみせる金子三勇士。
ピアニスト、作曲家、アレンジャーとして多士済々の活躍が絶大な評価を受けている山中惇史。
個性輝く3名のピアニストに、"トリプルピアノ・プログラム"の魅力や、本公演への意気込みを伺いました。

中野翔太

ピアノ

中野翔太

Shota Nakano

江戸弘子に師事し、1999年からジュリアード音楽院プレ・カレッジに留学。その後、同音楽院に進み、2009年に同大学院を卒業。1996年第50回全日本学生音楽コンクール小学生の部で全国1位および野村賞受賞。これまでにシャルル・デュトワ指揮/NHK交響楽団、小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、小澤征爾指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団等、多数共演。また、リサイタルのほかジャズの松永貴志と即興も交えた2台ピアノ、そのほか3台ピアノや室内楽等でも各地で好評を得ている。CDは、オクタヴィア・レコードより3枚をリリース。いずれもレコード芸術誌の特選盤に選出されている。2014年、ウラディーミル・アシュケナージ指揮/NHK交響楽団との共演は豊かな表現力と透明感のある響きで好評を得た。第15回出光音楽賞受賞。浜松国際ピアノアカデミー2023の講師を務める。クラシックを基盤に、作曲、編曲、ジャズ演奏など音楽活動の幅を広げている。

金子三勇士

ピアノ

金子三勇士

Miyuji Kaneko

1989年日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校に入学、2001年からは11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学。2006年に全課程取得とともに帰国、東京音楽大学付属高等学校に編入する。東京音楽大学を首席で卒業、同大学院修了。2008年、バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々の国際コンクールで優勝。第22回出光音楽賞他を受賞。これまでにゾルタン・コチシュ、小林研一郎、ジョナサン・ノット他と共演。国外でも広く演奏活動を行っている。NHK-FM「リサイタル・パッシオ」に司会者としてレギュラー出演。2019年5月にはCD「リスト・リサイタル」をリリースした。2021年には日本デビュー10周年を迎え、それを記念して2022年3月にドイツ・グラモフォンより新譜CD「フロイデ」をリリースした。コロナ禍でも、オンラインを活用したさまざまな企画を発信中。キシュマロシュ名誉市民。スタインウェイ・アーティスト。

山中惇史

ピアノ

山中惇史

Atsushi Yamanaka

東京藝術大学音楽学部作曲科を経て同大学音楽研究科修士課程作曲専攻修了。後に同大学器楽専攻ピアノ科卒業。第26回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第1位受賞。器楽、室内楽、合唱など多数がヤマハミュージックメディア、カワイ出版などから出版されている。またピアニストとしては2018年にリサイタル・デビュー。共演者としても絶大なる信頼を置かれ、国内外の著名なアーティストと共演を重ねる。ピアニスト、作曲家、アレンジャーとして参加した各CDはレコード芸術誌にて特選盤、 準特選盤に選出されている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、群馬交響楽団など多数のオーケストラとの共演、作品が演奏されている。最新アルバムは「ジョン・ウィリアムズ・ピアノコレクション」。


取材・文:高坂はる香

ソロはテーマを決めずに三人三様で

ShotaNakano

ーお三方それぞれがソロで演奏するプログラムの選曲理由と、楽曲の聴きどころを教えてください。

中野:今回ソロでは、テーマを決めずに三人三様で演奏したい曲を選びました。私はジュリアード音楽院へ留学し、学生時代の10年間をニューヨークで過ごしました。ニューヨークにいた頃、人生で初めてジャズをライブハウスで生で聴き、世の中にはこんな音楽もあるのか!と衝撃を受けました。生活の中でジャズに触れる機会も多く、また、独学でジャズも学ぶようになりました。ガーシュウィンは逆に、ジャズの世界で活動する中、クラシック音楽に強い憧れを持ち、独学で作曲法などを学んで「ラプソディ・イン・ブルー」を作曲しています。そんなガーシュウィンは私の中でも思い入れの強い作曲家の一人。カデンツァなど即興を取り入れた部分も合わせて、ジャズとクラシックの要素が絶妙なバランスで混ざり合った「ラプソディ・イン・ブルー」を楽しんでいただけたらと思います。

山中:僕はショパンの「バラード第1番」を演奏します。僕にとって、ショパンは最も尊敬する作曲家の1人です。最近、その素晴らしさをより感じるようになってきたところなので、選曲しました。特にこの有名な「バラード第1番」は、彼の4つのバラードの中でも、最も悲劇的でドラマチックな構成になっています。あの冒頭から、次の展開を誰が予想し得たでしょうか!ピアノを弾く人で知らない人はいない有名曲ですが、あの意味深な冒頭の部分をはじめ、よく考えると謎に満ちている作品です。

金子:リストの「ハンガリー狂詩曲第2番」は、半分ハンガリー人の僕にとって名刺がわりの作品であり、デビュー以来多くの公演で取り上げてきた特別な1曲です。自分の中の解釈が日に日に変化していき、間の取り方、テンポ感、アクセントなど、毎回新しいアイディアが浮かびます。飽きることなく、いつも新鮮な気持ちで弾けるため、二度と同じ演奏ができません。そんな一期一会の演奏にご期待ください!

ピアノ3台による音響のシャワーをまず体感してほしいです

AtsushiYamanaka

ー中野さんはラヴェルの「ボレロ」の3台ピアノ版の編曲を手掛けられています。編曲をするにあたってこだわったこと、演奏が難しいところや、聴きどころとなるポイントをお聞かせください。

中野:「ボレロ」はもともとラヴェル自身が2台ピアノ版を編曲しています。今回3台ピアノ版に編曲するにあたり、この2台ピアノ版を土台に、より華やかな響きになるようにアレンジしました。ベースとなるリズムパートを3人交互に担当することになるのですが、その引き継ぎのスムーズさ、そして正確に刻み続けることが、演奏にあたり難しいことの一つになると思います。オーケストラ版のように、微かに聴こえる弱音から最後の壮大な響きにいたるまで、ピアノ3台で創りあげる音の世界をお楽しみください。

ーもとはバレエのためのオーケストラ曲であるラヴェルの「ボレロ」を、3台ピアノで演奏する魅力はどのようなところにありますか?

金子:"一人オーケストラ"と例えられるとはいえ、ピアノを実際にオーケストラと比較すると、当然、迫力も、音の厚みやボリュームも、本物には及びません。ですが、今回のようにピアノを3台使用することで、アップグレードされたサウンドが生まれ、ピアノの音色でしか表現できないオーケストラ作品の魅力が追求できるようになります。

中野:オーケストラでは聴き取りにくい音の動きが、ピアノ3台で奏でることにより浮き上がってくることもあるでしょう。オーケストラ版の香りも残しつつ、3台ピアノならではの、より音の粒立ちの良い「ボレロ」の世界をお聴きいただけたらと思います。そして、3人が奏でる音色の違いや音楽性、それが混ざり合い一つの音楽になる様子を楽しんでいただけるのも魅力の一つだと思います。

山中:ラヴェルのオーケストラ曲の魅力は、何といっても無限の色彩感です。特にこの「ボレロ」は、単純なリズムと2つの旋律を、さまざまな楽器やその組み合わせの妙で彩り、時間を進め、壮大な世界を作り上げている曲です。しかしそれを単一の音色のピアノだけで演奏するわけですから、それ自体がまず大きな挑戦です。だからどうなるのかまだ想像もつきません。僕自身、ピアノ3台の音圧はまだ体験したことがないので、お客様にはその音響のシャワーをまず体感してほしいです。

性格が全く違う3人です!

ー3人で演奏するにあたって楽しみにしていること、共演者のお二人に期待していることなどがあればお聞かせください。

MiyujiKaneko

金子:これは自信を持って言えますが、性格が全く違う3人です! しかし、その3人だからこそ作り出せる音楽があると信じ、公演に向けてたくさんアイディアを出しあい、ディスカッションをしていきたいです。

中野:金子さんとは何度か2台ピアノ、3台ピアノ公演でご一緒しています。レパートリーも音楽の作り方も違う私たちですが、一緒に演奏するといつも音楽がすんなりと体に入ってきて楽しい時間を過ごしています。山中さんとは今回初めての共演になります。作曲、編曲もされる多才な山中さんとの共演からどのようなインスピレーションが湧いてくるか、今からワクワクしています。ピアニストが複数人集まって一つの音楽を演奏する機会は、なかなかありません。ピアノを演奏することの楽しさ、大変さを知り尽くした者同士で音楽をつくり上げていく過程は、何ものにもかえがたいひと時です。その時間を共有できることを楽しみにしています。

山中:ピアニストは、基本的にコンサートでは1人のことが多いので、まず3人集まれる状況にとてもワクワクしています。そして心強くもあります。中野さん、金子さんとは、お話をしたことがあるだけで、音楽での交流は初めましてなので、どんな世界ができるのか未知数です。僕よりもずっとずっと経験値が高いお二人とご一緒できるのがとても楽しみです。文京シビックホールのすばらしい音響下で、皆さんとピアノの世界にどっぷりと浸かりたいです!



取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

文京シビックホールリニューアル記念公演
「中野翔太・金子三勇士・山中惇史 トリプルピアノ」

2023年4月23日(日)15:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ピアノ/中野翔太
ピアノ/金子三勇士
ピアノ/山中惇史

曲名

ショパン:バラード第1番 (ソロ)
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー (ソロ)
リスト:ハンガリー狂詩曲第2番 (ソロ)
ミヨー:スカラムーシュ (デュオ)
バーンスタイン(山中惇史編):ウェストサイド・ストーリーより (トリオ)
ラヴェル(中野翔太編):ボレロ (トリオ)
ほか スペシャルコーナーあり

料金

S席 3,000円 A席 2,000円<全席指定・税込>

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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