東京フィルハーモニー交響楽団
響きの森クラシックin東京オペラシティ<第2回>
出演メンバーに聞く
2002年11月よりスタートした人気シリーズ、東京フィルハーモニー交響楽団「響きの森クラシック・シリーズ」。
文京シビックホール改修工事中の今年度は、東京オペラシティ リサイタルホールに場所を変え、室内楽公演として開催しています。
来る2022年3月17日の第2回公演は、東京フィルの精鋭メンバーがおくる木管アンサンブル。
そこで、出演する5人の奏者にメール・インタビューを行いました。さて、彼らが本公演にかける思いとは?
フルート
神田勇哉
Yuya Kanda
東京フィルハーモニー交響楽団首席フルート奏者。東京藝術大学を首席で卒業後、文化庁海外派遣研修生として渡仏。パリ地方音楽院、エコール・ノルマルにて研鑽を積む。これまでにアンサンブルofトウキョウ、藝大フィルハーモニア管弦楽団、カメラータ・ザルツブルグ、チェコ・フィルハーモニー弦楽三重奏団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団と共演。ソリストとして日本各地、ソウル(韓国)、マンチェスター(イギリス)、トロント(カナダ)、サンクトペテルブルク(ロシア)にて演奏。日本、フランスのコンクールにて、優勝および入賞多数。東京音楽大学非常勤講師。
オーボエ
荒川文吉
Bunkichi Arakawa
東京藝術大学卒業。同大学院修士課程修了。第82回日本音楽コンクール第2位、第31回日本管打楽器コンクール第1位、The Muri Competition 2019(スイス)第1位等受賞多数。
2017年秋より、アフィニス文化財団海外研修員としてベルリンへ留学。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「カラヤンアカデミー」に在籍。ジョナサン・ケリー氏に師事。
2014年より、東京フィルハーモニー交響楽団首席オーボエ奏者。
クラリネット
アレッサンドロ・べヴェラリ
Alessandro Beverari
1988年ヴェローナ生まれ。9歳よりクラリネットを始める。2009年国立ヴェローナ音楽院を最高得点で卒業後、ピアチェンツァ音楽院、ジュネーブの高等音楽学院、ローマ・サンタ・チェチーリア音楽院にて研鑽を積む。
2017年より、東京フィルハーモニー交響楽団首席クラリネット奏者に就任。
第4回ジャック・ランスロ国際コンクール(横須賀)で優勝、聴衆賞、浜中賞を受賞した。2019年にはチャイコフスキー国際コンクール管楽器 (木管楽器・金管楽器) 部門3位、その他数々のコンクールに優勝している。
パオロ・ベルトラミニ、ロマン・ギュイオ、アレッサンドロ・カルボナーレの各氏に師事。
ファゴット
廣幡敦子
Atsuko Hirohata
岡山県出身。東京藝術大学音楽学部を経て東京藝術大学修士課程修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞受賞。
2009年~2011年 小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト及びサイトウキネンフェスティバル 青少年のためのオペラに参加。
これまでにファゴットを東口泰之、岡崎耕治の各氏に、広島交響楽団を経て現在、東京フィルハーモニー交響楽団首席ファゴット奏者。明誠学院高校特別講師。都立総合芸術高校非常勤講師。エリザベト音楽大学非常勤講師。
ホルン
豊田万紀
Maki Toyoda
千葉県出身。習志野市立習志野高等学校、東京藝術大学卒。
ホルンを丸山勉、守山光三、日高 剛、五十畑勉、西條貴人、伴野涼介の各氏に、室内楽を岡本正之、伴野涼介、有森博、山本正治の各氏に師事。
これまでにエサ・タパニ、デニス・トライオンのマスタークラスを受講。
リベルタスブラスクインテットメンバー。現在東京フィルハーモニー交響楽団ホルン奏者。
インタビュー・文:柴田克彦
今回は私たちにとって素晴らしい機会といえるでしょう
―東京フィル・メンバーとの室内楽ならではの魅力とは?
神田:東京フィルの活動は、通常のオーケストラ曲のほかにオペラやバレエも多く、さらにはポップスやジャズなど多岐にわたっています。クラシック音楽はヨーロピアンなスタイルの再現も重要ですが、個々の音楽的なアイディアや発想も音楽作りに少なからず影響を与えます。つまり東京フィルのメンバーは、ひとつの曲の中で多くのファンタジーを作りあげる色を持っているのです。それをこうした室内楽に色濃く反映させることができれば きっと皆さんを惹き付ける音楽が生まれると思います。
荒川:気心の知れた仲間とのアンサンブルなので、良い意味で遠慮のない、痒いところに手が届くような演奏になるのではないかと思っています。オーケストラでは最終的な決定は概ね指揮者に委ねられるますが、室内楽はメンバーひとりひとりが意見を出し合って作っていくので、より高いレベルでの積極性が求められます。ですから、各自の個性がダイレクトに反映された、丁々発止のやり取りを生で体感していただける点も魅力といえるでしょう。
べヴェラリ:今回、東京フィルの仲間と一緒に室内楽を演奏するのがとても楽しみです。なぜなら、これによって友情を深め、音楽により深く取り組むことができるからです。オーケストラの場合、公演準備のための時間は大抵限られていますが、室内楽の場合は、リハーサル時間の管理が当事者たる音楽家の欲求に委ねられています。仲間と話をし、リハーサルをし、時にはその後に食事をしたりと、より多くの時間を楽しむことができます。東京フィル以外の奏者(特に友人ではない場合)との室内楽も有意義な体験ですが、個人的なつながりを築くことが難しい場合もありますから、今回は私たちにとって素晴らしい機会といえるでしょう。ですから私は、東京フィルは毎年の定期演奏会と連動した室内楽シーズンを設けるべきだと思っています。
廣幡:東京フィルのメンバーとの室内楽は、個性を存分に生かしながらアンサンブルをできる点が妙味だと思います。決して型にはまらないというか、主旋律の人が思うように歌い、周りの伴奏もふむふむ、なるほどと楽しくそれを支えます。私自身はそうした自由さが足りないところもあるので、いつも刺激をいただいています。それに、オーケストラという大人数の枠から飛び出して、より自由度が増す点も楽しみのひとつですね!
豊田:同じオーケストラで演奏しているメンバーによる室内楽なので、東京フィルならではのサウンドをお届けできるのではないかと思います。また、オーケストラの中での音色とは違った小編成ならではの各楽器の響きもお楽しみいただけたら嬉しいですね。
楽器単体の音色を楽しむも良し、音の重なりを楽しむも良し
―今回のプログラムの聴きどころは?
廣幡:今回はフランス音楽中心のプログラムとなっております。冒頭にお送りするドビュッシーの作品で、木管五重奏ならではの楽器の融合をお聴きいただき、フルート、クラリネットの二重奏、トリオ・ダンシュと呼ばれるオーボエ、クラリネット、ファゴットのリード楽器の三重奏やピアノ・ソロまで、それぞれ違ったサウンドをお楽しみいただけます。
荒川:木管五重奏という編成は、オーケストラの中でもソロを担当することが多い楽器ばかりが集まっています。ですから個々の主張が強くなりやすく、響きを整えるのが難しいアンサンブルともいえるでしょう。そこをいかに自然にまとめていくか......にご注目ください。 また、デュオやトリオなど、組み合わせによってそれぞれ違った響きが味わえるのも木管アンサンブルの魅力です。楽器単体の音色を楽しむも良し、音の重なりを楽しむも良し、様々な聴き方をしていただけたら嬉しいですね。
べヴェラリ:私たちは木管楽器とピアノのためのフランス音楽に注目しました。フランスの木管楽器のレパートリーは、古典派から現代にかけて大きく発展しましたが、今回は20世紀フランスで最も有名な2人の作曲家の作品を演奏します。クロード・ドビュッシーとフランシス・プーランクです。木管五重奏にピアノを加えると、「オーケストラ」的な側面が強くなります。プーランクの六重奏曲は、最も有名な曲のひとつで、コントラストや独特の雰囲気に満ちた、魔法のような作品です。第2楽章では、オーボエが非常にリリカルな旋律を奏で、他の楽器と会話を交わしながら各楽器に置き換えられていきます。第3楽章では、各楽器の緊密な対話が、ダイナミックでエキサイティングな雰囲気を醸し出します。プーランクの音楽の特徴は、刻々と雰囲気が変わること。甘美で叙情的かと思えば、アクセントを多用して急激にとげとげしくなったりします。また木管五重奏は、木管楽器による弦楽四重奏と同様のアンサンブルです。それはオルガンの音にも似ています。皆さんは、楽器それぞれの音と、それらがどのように調和するかに注目するとより楽しめると思います。
豊田:ホルンは金管にも木管にも属する楽器ですが、今回の木管五重奏と六重奏は、ホルンの最大の魅力のひとつでもある音色が活かされる編成だと思います。音域の広い楽器ですから、室内楽では、低音で支えるパートを演奏することも、中音域から高音域でメロディを担当することもあります。なのでどのように吹き分けているか?にも注目していただきたいと思います。
神田:木管アンサンブルは、弦楽アンサンブルとは違って音色が全員異なります。ですから束ねるのは容易ではありませんが、その分上手くハーモニーを作れれば、無限ともいえる音色のバラエティを楽しむことができます。東京フィルは各楽器に個性的な奏者が揃っていますので、個人プレーとアンサンブルの両面に着目してお聴き下さい!
―オフの時の過ごし方、趣味、マイブームなどを教えてください。
神田:オフはなるべく作らないようにしていますが、時間が空いた時はひたすら楽器を吹いています。これは練習でもあり、趣味としての楽しみでもあります。
荒川:映画が好きなので、月ごとに鑑賞スケジュールをしっかり組んで映画館に通っています。早稲田松竹、新文芸坐といった、いわゆる二本立ての劇場にもよく出入りしています。 ほかには、(一人)カラオケに行ったり、家でアニメを観たり、早くからお酒を飲んだり......。時間がある時は、小旅行を兼ねてフラッと温泉に浸かりに行くのも好きです。
べヴェラリ:最近は、オーケストラの活動以外に他のリハーサルやレッスンや練習があるので、あまり自由な時間がとれません。でも自由時間はガールフレンドと過ごすのが好きです。趣味は写真を撮ったり、美しい景色を見ながら山歩きをすることですね。
廣幡:最近のマイブームは自炊です。やはり演奏する上で極限の緊張感やパワーが必要なので、身体は大切な資本。きちんとした食事を自分で3食作ることを心がけています。体に優しい調味料を選んだり、旬の食材を使って作るのは楽しいですね。と、いかにも真面目風ですが、実はアニメやマンガを観るのも大好きです。特に今は少年マンガにハマっていて、これが演奏や生き方に影響があるものばかりなんです。毎週月曜にマンガが更新されるのでそれが一週間の楽しみです(笑)。
豊田:オフの日は犬とのんびり過ごすのが最大の癒しです。私が楽器を練習すると2匹揃って歌い出します。それがとても可愛いのですが、彼らのボリュームのあまりの大きさに自分の音が聴こえないことも多々あるので、最近は少し困っています(笑)。
インタビュー・文:柴田克彦(しばたかつひこ)
音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」等の雑誌、公演プログラム、WEB、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。
響きの森クラシックin東京オペラシティ<第2回>
2022年3月17日(木) 19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ リサイタルホール
出演
小林海都(ピアノ)
東京フィルハーモニー交響楽団メンバーによる木管五重奏
神田勇哉(フルート)
荒川文吉(オーボエ)
アレッサンドロ・べヴェラリ(クラリネット)
廣幡敦子(ファゴット)
豊田万紀(ホルン)
曲名
ドビュッシー/子どもの領分からゴリウォーグのケークウォーク※試聴できます
ドビュッシー/小組曲(神田寛明編曲版)
ジョリヴェ/フルートとクラリネットのための二重奏※試聴できます
プーランク/六重奏曲 ※試聴できます
ほか
料金
全席指定:1,500円