スペシャルインタビュー 夜クラシック特別編

~2020年2月23日(日・祝)「夜クラシック特別編 トリプルピアノ・リサイタル」~

中野翔太(ピアノ)/金子三勇士(ピアノ)/阪田知樹(ピアノ)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
その"夜クラシック"5周年と、文京シビックホール20周年を記念した特別公演に気鋭のピアニスト3名が登場!
本公演への意気込みをうかがいました!

中野翔太

             ©Yuuji

ピアノ

中野翔太

Shota Nakano

茨城県つくば市生まれ。江戸弘子に師事し、1999年からジュリアード音楽院プレ・カレッジに留学。その後、同音楽院に進み、2009年に同大学院を卒業。1996年第50回全日本学生音楽コンクール小学生の部で全国1位および野村賞受賞。これまでにシャルル・デュトワ指揮/NHK交響楽団、小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、小澤征爾指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団等、多数共演。また、リサイタルのほかジャズの松永貴志と即興も交えた2台ピアノ、そのほか3台ピアノや室内楽等でも各地で好評を得ている。CDは、オクタヴィア・レコードより3枚をリリース。いずれもレコード芸術誌の特選盤に選出されている。2014年には、ウラディミール・アシュケナージ指揮/NHK交響楽団と共演、豊かな表現力と透明感のある響きで好評を得る。クラシックを基盤に、作曲、編曲、ジャズ演奏など音楽活動の幅を広げている。第15回出光音楽賞受賞。

金子三勇士

       ©Ayako Yamamoto

ピアノ

金子三勇士

Miyuji Kaneko

1989年日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校に入学、2001年からは11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学。2006年に全課程取得とともに帰国、東京音楽大学付属高等学校に編入する。東京音楽大学を首席で卒業、同大学院修了。2008年、バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々の国際コンクールで優勝。第22回出光音楽賞他を受賞。これまでにゾルタン・コチシュ指揮/ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団等と共演。国外でも広く演奏活動を行っている。20184月よりNHK-FM「リサイタル・ノヴァ」に支配人としてレギュラー出演。近年はライフワークの一環としてアウトリーチ活動にも積極的に取り組んでいる。キシュマロシュ名誉市民。スタインウェイ・アーティスト。

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         ©Hideki Namai

ピアノ

阪田知樹

Tomoki Sakata

2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)1位、併せて6つの特別賞受賞。コンクール史上、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙。東京藝術大学を経て、ハノーファー音楽演劇メディア大学に特別首席入学し、現在同大学ソリスト課程ピアノ科に在籍。「コモ湖国際ピアノアカデミー」の最年少生徒として認められて以来、イタリアでも研鑽を積んでいる。(公財)江副記念リクルート財団奨学生、(公財)RMF奨学生。19歳で、第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて最年少入賞。第35回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、及び聴衆賞等5つの特別賞、クリーヴランド国際ピアノコンクールにてモーツァルト演奏における特別賞受賞。国内外問わず数多くの指揮者、オーケストラと共演を重ねるほか、室内楽奏者としても活躍している。2015年デビューCDアルバムをリリース。2017年横浜文化賞文化・芸術奨励賞受賞。


取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

最後の最後まで楽しみに聴いていただきたいです

ーとてもバラエティに富んだプログラムですが、どのように選曲されたのですか?

中野:いつもの「夜クラシック」とは違い、15時開演となりますが、少し夜を意識して、ソロによるショパンの夜想曲から始めることにしました。2台ピアノの曲はたくさん候補があがって決めるのが大変でしたが、そのなかから選りすぐりの曲をお届けします。

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阪田:普段から曲を調べるのが大好きで、あまり知られていない素晴らしい作品を見つけるとみんなに教えたくなるのですが、今回もあれこれ提案していたら、選ぶのが大変になってしまいました(笑)。後半に関して言えば、3台ピアノでホルスト作曲の「惑星」を演奏することが初めに決まっていたので、スター・ウォーズさながらの特別な世界観を持つこの曲へつなげるために、エコノムがアルゲリッチと録音するために編曲した特別な「花のワルツ」にはじまり、プーランク、そしてピアソラと音楽が変化していく流れにしました。ピアソラはシーグレルの編曲版で、とてもカッコいい曲。僕も客席で聴きたいくらい。

金子:結果的に、夜の雰囲気の小品で始まり、「惑星」の天体観測で締めるという、流れの良いプログラムになりました。終わる頃には日が暮れて、いつもの「夜クラシック」と同じ時間帯に入っていく。シリーズのファンの皆さんには特に、最後の最後まで楽しみに聴いていただきたいです。もしかしたらサプライズがあるかもしれませんよ。

ー特に楽しみにしている作品は?

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阪田:僕はプーランクの「エレジー」が好きで、演奏できるのが楽しみです。2台ピアノの短い作品はアクティブなものが多いため、そればかり並べると聴いていて忙しい感じがすると思うのですが、「エレジー」が入ることで、静と動のバランスもよくなると思います。それから、やはり最後に3人で演奏する「惑星」も楽しみ。3人のために中野さんが編曲してくれたものを、初めて演奏する特別な機会です。

中野:僕も「惑星」は楽しみですね。頑張って編曲中です(笑)。ピアノ版のオリジナリティを加えるというよりは、オーケストラ作品に忠実に編曲するつもりです。僕たちは3人、年齢も近く、意見交換もしやすいので、リハーサルを重ねながら曲を作り上げることで良いものになるのではないかと期待しています。

金子:僕はこれまでに2台ピアノで中野さんが編曲された作品を演奏していますが、いつも原曲に忠実なアレンジなので、弾いていてとてもおもしろいんですよ。

中野:そうですね、金子さんと「スター・ウォーズ」を演奏したときは、オーケストラで使われている音を100%に近い形で入れようと編曲しました。もともと映画の「スター・ウォーズ」が大好きで、旧三部作はおそらく100回以上は観ているということもあって(笑)。

金子:おかげで音が多いから弾くのは大変ですが(笑)、今回も、聴き応え十分だと思います。

阪田:3人とも全然個性が違いますから、それがどう調和していくのか、はたまたぶつかりあうのか......。

金子:当然、指揮者なしの演奏ですからね。

阪田:事前に話し合うことで、ある種、架空の指揮者が存在することになりますね。

聴く機会の少ない、おもしろい響きが生まれるはず

ー3人で演奏する作品としては、モーツァルトの「2台ピアノのためのソナタ」もありますね。

金子:はい、これは、各楽章、3人でペアを変えながら演奏することになります。3パターンの組み合わせで、違う楽器、パートを弾くので、オリジナルの2台ピアノとして弾く時とは別のものが生まれるはずです。一体どうなるのか、とても興味があります。

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ー前の楽章の流れを汲んで次の二人も音楽をつないでいくことになるのですか?

金子:そこは意識せずに、毎回のペアで自然と音楽を作っていくほうがいいのではないかなと思っています。楽譜に書かれていない、音色、間の取り方、呼吸の仕方、テンポ感などは、人によって違います。

阪田:向かいにいる人の鳴らす音が変わると、必然的に自分の音も変わりますよね。

中野:音楽的に大切な部分だけ守られていれば、あとはそれぞれ自由に演奏していくことで、自然体の音楽になるでしょうね。

金子:アンサンブルでは、自分自身を持ち続けながらも、その瞬間ごとに変化する相手に合わせていくことがとても大切です。

阪田:本当に、生ものですよね。

ー3台ピアノならではの楽しさや難しさはどんなところにありますか?

中野:まず、客席でどう聴こえているかを想像することが難しいです。2台でも簡単ではありませんが、3台だとより一層難しくなります。リハーサルでピアノの位置を変えながら、より良い配置を探るつもりです。

阪田:オーケストラでは場所によって隣の楽器の音が聞こえないことがありますが、3台ピアノの場合も特殊な配置になるので、発音源の位置の都合上、同じようなことが起こるんですよね。

金子:また、ペダルをいつものように使うと響きが濁ってしまうので、少しひかえ目に調整しないといけません。独奏の時にはない、細かい部分を意識する必要があります。

阪田:特に今回はオーケストラ曲を演奏するので、それぞれ、弦楽器なのか、管楽器なのか、ピチカートなのかによってペダルの踏み方が変わります。3台ピアノでは手が6本ありますから、それをより細かく調整できます。聴く機会の少ない、おもしろい響きが生まれるはずです。3つのオーケストラで演奏する、シュトックハウゼンの「グルッペン」()のような斬新さがあるのではないかと僕は一人で妄想しているんです! 

 ()ドイツの現代音楽作曲家、カールハインツ・シュトックハウゼンが1955年から57年にかけて作曲。3群のオーケストラを用いる25分程度の楽曲。

カレー作り...映画鑑賞...そしてF1...

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ーところで、それぞれお気に入りの夜の過ごし方は?

金子:カレー作りですね。普段忙しい時には手間をかけてできないことを、時間ができたときにやると良いものができますし、その作業によって、気持ちが解放されます。そうやって作ったカレーを、翌朝食べます(笑)。音楽も同じで、単に楽譜を読んで暗譜をするのではなく、時間をかけて120%曲と向き合うことで良いものが生まれます。

阪田:僕の場合は、ドイツでは練習できる時間が夜10時くらいまでなので、その後食事をして、曲を書きたいときは深夜12時から作曲し、集中するとそのまま朝の4時、5時まで続けて、その後寝るという生活です。作曲をしないときは、映画を観て人生について考えたり、一人で感激して泣いたりしています。結果、また曲を書きたくなるんですけれど(笑)。

中野:僕は可能な限り夕食前に練習を終わらせたいほうなので、食事の後は、シーズン中なら、大好きなF1(国際的自動車レース)を観ています。中学生の頃、夜眠れないときに偶然テレビで観たのがきっかけで好きになりました。ヨーロッパのレースだと、日本での放送はかなり夜遅い時間になるのですが。

金子:このようなわけで、3人とも夜型です(笑)。

ー最後にピアノづくしの特別公演によせて、それぞれピアノのどんなところが好きかお聞かせください。

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金子:これ以上はできないという限界がなく、可能性を秘めた楽器だというところです。常に新しいチャレンジができるので、いつまでも飽きません。また、通常自分のピアノは本番では使わないので、会場ごとに違うピアノと向き合わなければいけないことも、別の意味でチャレンジだと言えます。最近、改めてピアノを選んでよかったと感じています。

阪田:あるとき、自分はなぜピアノを弾き、これからも続けたいと思っているのか考えたことがあり、ある答えに行きつきました。それは、僕は、ピアノのために書かれた曲が好きだと言うこと。そして、それら弾ききれないほどのたくさんの名曲を、できることなら全部弾いてみたい。そんな不可能な欲求を感じています。だから新しい曲を探し続け、自分だけが弾くのではなく、友達にこの曲が合うんじゃないかと薦めたりしています(笑)。とにかくピアノ音楽が好きだということが、僕がピアノに関わり続けている理由です。

中野:子供の頃、ピアノを始めたのは音色が好きだったからですが、弾き続ける中で気づいたのは、僕はピアノで奏でるハーモニーが好きなのだということ。音楽にはリズムやメロディなどいろいろな要素がありますが、やはりハーモニーに魅力を感じるのです。ジャズも好きですが、その理由も多様なハーモニーを奏でることができる音楽だから。ピアノほどたくさんの音を一度に出せる楽器はありません。ピアノをやっていてよかったと思うのは、そういうところですね。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシック特別編 トリプルピアノ・リサイタル

2020年2月23日(日・祝)15:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ピアノ/中野翔太
ピアノ/金子三勇士
ピアノ/阪田知樹

曲名

ショパン:3つのノクターンより 第2番 Op.9-2
ショパン:ノクターン 第20番(遺作)
ショパン:2つのノクターンより 第16番 Op.55-2
モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ K.448
チャイコフスキー(エコノム編):2台のピアノのための組曲「くるみ割り人形」Op.71aより"花のワルツ"
プーランク:2台のピアノのためのエレジー
ピアソラ(シーグレル編):リベルタンゴ
ホルスト(中野翔太 編):「惑星」より"火星""金星""木星"

料金

S席 3,000円 A席 2,000円<全席指定・税込>

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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