スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.24

~2020年1月17日(金)「夜クラシックVol.24」~

萩原麻未(ピアノ)/安達真理(ヴィオラ)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
Vol.24には、ソリストとして活躍する萩原麻未、辻 彩奈、安達真理、横坂 源、加藤雄太の若手演奏家5名が出演。
萩原麻未と安達真理のお二人に、本公演への意気込みをうかがいました!

MAMI HAGIWARA 05(c)Marco Borggreve

©Marco Borggreve

ピアノ

萩原麻未

Mami Hagiwara


2010年第65回ジュネーブ国際コンクール〈ピアノ部門〉において、日本人として初めて優勝。広島県出身。第27回パルマドーロ国際コンクールにて史上最年少の13歳で第1位。広島音楽高等学校を卒業後、文化庁海外新進芸術家派遣員としてフランスに留学。パリ国立高等音楽院及び同音楽院修士課程、パリ地方音楽院室内楽科、モーツァルテウム音楽院を卒業。これまでに、スイス・ロマンド管、南西ドイツ放送響など国内外における主要オーケストラとも多数共演を重ねているほか、フランスのラ・ロック・ダンテロン等の様々な音楽祭に招かれている。

安達真理

ヴィオラ

安達真理

Mari Adachi

4歳よりヴァイオリンを始め、桐朋学園大学在学中にヴィオラに転向。卒業後、同大学研究生修了。ウィーン国立音楽大学室内楽科を経て、ローザンヌ高等音楽院修士課程(最高点)、ソリスト修士課程を修了。小澤征爾氏率いる小澤征爾音楽塾日中公演に首席として参加。ピエール・アモイヤル率いるカメラータ・デ・ローザンヌとして欧州各地で公演。バンベルク交響楽団、インスブルック交響楽団を経て、2016年よりパーヴォ・ヤルヴィ氏率いるエストニア・フェスティバル管弦楽団メンバー。Amity QuartetEnsemble FOVEなど、室内楽奏者としても精力的に活動している。

取材・文:高坂はる香  写真:星ひかる

相手によって自分を変えていくことを楽しみたい

ー5人での共演は、2017年の「題名のない音楽会」の収録が初めてだそうですね。

安達:はい、番組ではシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」の4楽章を演奏しました。そこで仲良くなって、いつか全楽章できたらいいねと言っていたんです。

萩原:あのときは、常に笑っていたよね(笑)。演奏していないときも、プラスのオーラが出ている感じで楽しかった。

安達:みんな性格がオープンで、優しい人ばかりだよね。今回は、その時以来の共演になります。

ー初共演で意気投合するメンバーというのは、どんなところが違うのでしょうか?

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萩原:そうですね......それは、人を好きになるときに理由がないのと同じなんじゃないかなと思いますけど。

安達:今、キュンとした(笑)! でも確かに、みんなが感じる音楽が一致して、話し合わなくても自然とうまくいくんですよね。

─5人で集まったときの役どころは、どんな感じなのでしょうか?

安達:一番歳上ということと、ヴィオラという楽器の性格もあって、私が母親的というか、世話焼き役のようなところがあるかもしれません(笑)。彩奈ちゃんは、音もしっかりしていて歳下とは思えません。麻未ちゃんはこの通り穏やかだけど、しっかりと芯があって音楽をまとめてくれます。雄太くんはおもしろくて完全にムードメーカー、源くんは、かわいらしい感じ。

萩原:源くんは、私からみると大人なお兄ちゃんタイプだと思っていたんだけど(笑)。

安達:弾く音は巨匠のようだけど、演奏中に目で訴えてくる感じとか、かわいいなと(笑)。私は歳上だからそう感じるのかも。

萩原:音楽家としても人としても信頼できていることは、演奏にも影響すると思います。こういうみんなに出会えて本当に嬉しいですね。

ーお二人が良いアンサンブルのために心がけていることはなんでしょうか?

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安達:ヴィオラは基本的に縁の下の力持ちの役割で、他の奏者にいかに自由に弾いてもらえるかが大切です。自然な流れや雰囲気を作ることは、私たち内声の"刻み"にかかっているので、責任を感じますし楽しいですね。

萩原:アンサンブルがうまくいく時は、お互いを思いあっているから、のせあうことができるのだと思います。一緒に弾いてる人が気持ちよくいてくれることが、重要ですよね。会話にも似ていると思います。

安達:相槌の打ち方ひとつで変わってきますよね。「ます」のようなシンプルな曲だと特に、誰かがちょっと装飾を入れたとき、みんなが機転をきかせて返していくとおもしろくなっていきます。

萩原:私は室内楽が本当に好きで、少し前まで、ソロよりも誰かと弾いているコンサートのほうが多いくらいでした。自分だけで完結しない演奏の方が好きなんです。室内楽では、自分一人で作り込み過ぎず、カメレオンのように、相手によって自分を変えていくことを楽しみたいと思っています。

弦楽器の音の作り方の変化がわかって、おもしろい

ーシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」は、コントラバスが入る珍しい編成ですが、その特徴や魅力はどこに感じますか?

安達:ベースがピアノの左手とコントラバスの二つになるので、よりオーケストラに近い響きが感じられると思います。室内楽は、ピアノ VS 弦みたいな構造になりがちですが、コントラバスが入るとより混ざりやすくなりますね。

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萩原:ハンマーで弦を叩くピアノは、弦楽器とはもともと音の出る構造が違いますからね。私、弦楽合奏って、違う楽器同士が溶け合っていて、でもそれぞれの違いも感じられて、すごく好きなんです。実は昔、弦楽器を弾いてみたいって憧れていた時期もあって。普段誕生日に何か欲しがることなんてなかったのに、中学生の頃、お願いして一番安いヴァイオリンを買ってもらいました。

安達:そうだったんだ! 先生について習ったりしたの?

萩原:全然そこまでいかなかった。まず構えるのが難しくて、体が痛くなりそうで諦めました。首にはさむだけで楽器が固定できるのが本当にすごいなって......体の一部みたいになりますよね。憧れます。

安達:私からすると、ピアノは一人で完結できるのがすごくうらやましい。ヴィオラ一本で弾ける曲って、バッハとヒンデミットくらいしかないから(笑)。今回は、ピアノや弦楽器のソロもあり、弦楽三重奏があって、最後にピアノ五重奏なので、それぞれのアンサンブルによる響きの違い、とくにピアノがあるときとないときの弦楽器の音の作り方の変化がわかって、おもしろいのではないでしょうか。

シューベルトの作品の魅力はどこに感じますか?

萩原:「ます」は、散歩中に風が吹いてきたとか、野花が咲いていたとか、そういうことが感じられる作品です。シューベルトの歌曲をいろいろ勉強して、歌詞が聞こえてくるように弾けたらいいなと思います。

安達:風景が浮かびやすい作曲家ですよね。あと、オーストリアの歌曲らしい、音の行き先を見ながら音楽が自然に流れていく空気感とか、ワルツらしい、上にあがって重力で落ちてくるようなリズムの取り方などは、シューベルトならではです。私は、歌曲集「冬の旅」をヴィオラで録音していて、シューベルトの歌詞や歌心、内向的でしっとり心の中に響いてくる優しさのようなものに魅力を感じています。ピアノ五重奏曲の「ます」は、装飾音も多かったり器楽ならではの魅力がたくさんあります。歌らしい部分と、器楽らしく華やかに動き回る部分との両方がうまく表現できたらいいですね。

音楽に一緒に巻き込まれていただけたらと思います

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ーところで、お二人が好きな夜の過ごし方や、聴きたい音楽を教えてください。

萩原:私は、メディテーションの音楽を聴くことが多いですね。シンギングボウルの音とか結構好きで。あと、海や森に行ったときに録っておいた音を聴いたり。

安達:私も聴く! 雨の音とか好きです。それと、メディテーションも毎日やっています。実は4年ほど前、日本に帰国する頃までセラピーやヒーリングのことを勉強していたんです。はじめは自分のメンテナンスのためでしたが、時間を割いて私の音楽を真剣に聴きにきてくださる方々に、できるだけピュアな音やいいエネルギーを届けたいと思うようになって、大きな公演の前に瞑想を取り入れるようになりました。結局、音楽は見えない波動を送って伝えたいことを届けているわけで、似たところがありますよね。

萩原:そうだったんだ! 確かに、真理ちゃんと会った後って元気になる。今度の本番の前も、みんなで瞑想しようか。あのメンバーは集まるとすぐしゃべっちゃうから、集中を高めるために、1分くらいやってみてもいいかもしれない(笑)。

ー最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。

安達:普段ソリストとして活躍しているメンバーを含むこの顔ぶれで「ます」にしっかり取り組む珍しい機会です。私たち自身が楽しんでいると思うので、その音楽に一緒に巻き込まれていただけたらと思います。プログラムも軽やかな内容ですので、リラックスして聴いてほしいです。

萩原:室内楽は会話のようなもので、そこには演奏者だけでなく、お客さまも関わっていると私は思っています。音を出すのは私たちですが、みなさんの空気を感じていますから。私たちの会話のキャッチボールに、自然と溶け込んで参加してもらえたら嬉しいです。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.24

2020年1月17日(金)19:30開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ピアノ/萩原麻未
ヴァイオリン/辻 彩奈
ヴィオラ/安達真理
チェロ/横坂 源
コントラバス/加藤雄太

曲名

ドビュッシー:月の光
エルンスト:シューベルト「魔王」の主題による大奇想曲
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番より プレリュード
シューベルト:弦楽三重奏曲第1番 変ロ長調 D.471
シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調「ます」D.667

料金

S席 3,000円 A席 2,000円<全席指定・税込>

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

夜クラ24