~ばっちり予習~オススメ公演の聴きどころ指南 文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

佐渡裕×シエナ

2017年12月13日(水)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

ブラスの醍醐味と極上のエンタテインメントを同時に味わえる公演

 ブラス界の最強コンビ、佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラの公演が、2年ぶりに文京シビックホールで実現する!
 シエナ・ウインド・オーケストラは、2010年10月から文京区と事業提携を結び、定期演奏会をはじめとする様々なコンサートやイベントを同ホールで行ってきた。特に首席指揮者・佐渡裕がタクトを振る公演は注目の的。毎回エキサイティングな熱演と愉しいステージで、幅広い層の支持を集めている。今回は、コンビとしても佐渡個人としても2015年8月以来となる文京シビックホール登場。演目も同コンビの定番中の定番揃いだけに、期待は大きい。

 シエナ・ウインド・オーケストラは、1990年に結成された、国内屈指の吹奏楽団。現在、文京シビックホールにおけるコンサートのほか、全国各地での公演、音楽祭やイベントへの参加、音楽鑑賞教室などを行い、国内吹奏楽愛好家の先頭に立つフラッグシップオーケストラとして高い人気を誇っている。
 2002年より佐渡裕を首席指揮者に擁し、吹奏楽オリジナル曲やマーチはもとより、クラシック、ジャズ、ポップス、映画やミュージカルのナンバー等々の幅広いレパートリーによるダイナミックな演奏と、バリエーション豊富なパフォーマンスで聴衆を魅了。また、テレビ朝日系列「題名のない音楽会」に多数出演して好評を得るなど、メディアからも注目される存在となっている。2011年4月には吹奏楽アカデミー賞を佐渡裕と共に受賞。次々にリリースするCDも絶賛を博している。

シエナ・ウインド・オーケストラ

©Hikaru. ☆

 15年にわたって首席指揮者を務め、同楽団の演奏水準と知名度を大きく引き上げた佐渡裕は、京都市立芸術大学を卒業後、故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年ブザンソン指揮者コンクールの優勝を機に、国内外で目覚ましい活躍を続けている。2015年にはオーストリアを代表するトーンキュンストラー管弦楽団の首席指揮者に就任。現在はヨーロッパの拠点をウィーンに置いて活動している。また、パリ管弦楽団、ケルンWDR放送交響楽団、ベルリン・ドイツ交響楽団、ロンドン交響楽団など、ヨーロッパの一流オーケストラに毎年多数客演。2011年5月にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会にデビューし、大きな注目を集めた。

佐渡裕

©飯島 隆

 国内では、兵庫県立芸術文化センターの芸術監督も務め、2008~15年には「題名のない音楽会」の司会者としても存在感を示した。録音も数多く、シエナを指揮した「ブラスの祭典」シリーズなどが大ヒットを記録している。最近はトーンキュンストラー管との録音を続けてリリース。それらも高い評価を得ている。
 佐渡裕率いるシエナ・ウインド・オーケストラは、躍動感と生気に溢れた演奏で、聴く者を強く惹き付ける。何より“音楽の愉しさ”をストレートに伝えてくれるので、吹奏楽愛好家以外の一般ファンの支持も厚い。
 また佐渡は、幅広い層の支持を得ている点において日本屈指の存在だが、現在オーストリアでポストを持っているため、国内での活動は兵庫県立芸術文化センター管弦楽団などに限定されており、中でも首都圏への登場機会は稀少。今回はその意味でも聴き逃せない。

 佐渡&シエナの代名詞ともいうべき作品が並んだ今回のプログラムは、実に魅力的だ。
 ロバート・ジェイガーの「シンフォニア・ノビリッシマ」は、古くからの吹奏楽ファンにとって思い出深い作品。1939年アメリカ生まれのジェイガーが1963年に作曲したこの曲は、1970年代に日本中の吹奏楽団がこぞって取り上げ、その後は“吹奏楽の古典”的な存在となっている。曲は「高貴なるシンフォニア」の意味をもつタイトル通り、気品漂う荘厳な音楽。しかもメロディアスで美しく、なじみのない方も魅了されること請け合いだし、今再び佐渡&シエナの名奏で耳にできる喜びも大きい。
 レナード・バーンスタインの「キャンディード」序曲は、佐渡が「題名のない音楽会」の司会を務めた際のオープニング・テーマ曲。来年生誕100周年を迎える作曲者が、かの「ウエスト・サイド・ストーリー」の1年前=1956年に完成したミュージカルの序曲で、アメリカの
オーケストラ音楽中、屈指の人気作である。明快な旋律を用いて賑やかに展開される、軽妙で躍動的な音楽を聴けば、心が踊ること間違いなし。同曲を十八番とする佐渡の、師匠バーンスタインへの思いをこめた熱演にも期待がかかる。
 そして今回の目玉が、アルフレッド・リードの「アルメニアン・ダンス」全曲。“吹奏楽の神様”と称されたアメリカの作曲家リードが、1972年と75年に作曲した本作は、これまた“吹奏楽の古典”であり、特に第1楽章にあたる「パート1」は、オーケストラでいえば「運命」クラスの超定番曲だ。全4楽章、30分に及ぶ大作だが、美しいアルメニア民謡や軽快な舞曲に彩られた音楽は、溌剌としたリズム、哀愁を帯びたメロディ、熱狂的なクライマックス、変化に富んだ構成……など多彩な魅力に溢れ、吹奏楽らしいダイナミズムと豊かな民族色を存分に堪能できる。しかも佐渡&シエナの演奏は、作曲者リードが「私の生涯で最も素晴らしい」と絶賛したことで名高く、その圧倒的な高揚感は、コンサートやCDで感動を呼び続けている。これは文句なしに必聴!

 さらなるお楽しみは「音楽のおもちゃ箱」。佐渡のトークと楽しい演出で大人気を集めるこのコーナーを、久々に満喫できる。今回は、特別ゲストとしてバリトン歌手のキュウ・ウォン・ハンが出演。ソウル生まれの彼は、ベルヴェデーレ国際声楽コンクール(オーストリア)など、多くの受賞歴を持ち、1999年、サンフランシスコ歌劇場の「ドン・ジョヴァンニ」タイトルロールでオペラ・デビュー後、世界各地で活躍している。日本でも、新国立劇場や佐渡裕が指揮する兵庫芸術文化センター制作のオペラのほか、各地の著名オーケストラと多数共演。芳醇な声をもつ本格派の上に、ミュージカルやポップスも得意としている。今回の「クリスマス・スペシャル!」では、彼をまじえていかなるステージが展開されるのか? 何にせよ誰もが理屈抜きに陶酔できること必至だ。

 ブラスの醍醐味と極上のエンタテインメントを同時に味わえるのが、佐渡&シエナの大きな魅力。老若男女こぞって足を運びたい。

キュウ・ウォン・ハン

©Yuji Hori

佐渡裕×シエナ

2017年12月13日(水)19:00開演
文京シビックホール  大ホール

公演情報

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プロフィール

柴田 克彦(しばた・かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、
CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も
受け持つなど、幅広く活動中。このほど、「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)を上梓。
文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。