バレエ・エデュケーション・シリーズ in Bunkyo 牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』 牧阿佐美バレヱ団ダンサー 中川郁、菊地研、保坂アントン慶 スペシャルインタビュー~2017年10月8日(日)公演主役&カラボス役の3人に聞く~

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牧阿佐美バレヱ団ダンサー 中川 郁 Iku Nakagawa

 日本ジュニアバレエ、AMステューデンツ、橘バレエ学校、新国立劇場バレエ研修所(第6期生)を経て、11年牧阿佐美バレエ団入団。15年「リーズの結婚」で主役デビューを果たし、以降も「くるみ割り人形」金平糖の精、「三銃士」ミレディ、「白鳥の湖」パ・ド・トロワほか数多くの作品で重要な役を演じている。

「ワルプルギスの夜」 ©鹿摩隆司

牧阿佐美バレヱ団ダンサー 菊地 研 Ken Kikuchi

  東京都出身。10歳でバレエを始め、01年牧阿佐美バレエ団入団。16歳でローラン・プティにより「デューク・エリントン・バレエ」のソリストに抜擢され一躍注目される。2004年にはヨーロッパで行われたローラン・プティのガラ公演に日本人ただ一人の最年少ダンサーとして参加するなど、世界を舞台に活躍中。ダイナミックな踊りと華やかな個性で「ノートルダム・ド・パリ」のフロロ、「ライモンダ」のアブデラクマン、「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「リーズの結婚」「ラ・シルフィード」「白鳥の湖」「ノートルダム・ド・パリ」、新国立劇場バレエ団「椿姫」に主演。02年こうべ全国洋舞コンクール男性ジュニアの部1位。06年舞踊批評家協会賞・新人賞受賞、2016年 第37回ニムラ舞踊賞を受賞。

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「ドン・キホーテ」バジル ©鹿摩隆司

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牧阿佐美バレヱ団ダンサー 保坂アントン慶 Anton Kei Hosaka

 ミヤキバレエ学園でバレエを学び、英国Elmhurst Ballet School,London West st Ballet School.The Arts Educational School Londonを経て、94年牧阿佐美バレエ団入団。97年新国立劇場バレエ団参加、05/06年牧阿佐美バレエ団ヨーロッパツアー参加。クラシックから創作バレエまで幅広い作品に出演し続けている。

「眠れる森の美女」カラボス ©鹿摩隆司

取材・文:土屋美緒 撮影:菅原康太 (協力:「Confetti(カンフェティ)10月号」)

誰もが知るおとぎ話の世界を、高度なテクニック、華やかな衣裳や舞台装置で魅せる名作

——『眠りの森の美女』は、クラシックバレエの最高峰と謳われる名作です。この作品の魅力はどんなところにあるのでしょうか?

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菊池:豪華な装置と美しい衣裳、みんなが知ってる物語に高いテクニック。とにかく見どころがたくさんある、チャイコフスキー3大バレエの代表的な作品です。

中川:3幕には、赤ずきんとかブルーバードとか、他の童話のいろんなキャラクターが出てきて踊るんです。見ていて楽しくて、子供の頃はそこが特に好きでした。

保坂:お芝居、群舞といろいろな要素が入っている、ザ・古典。その分上演時間は長いんですけど、例えば水戸黄門で、早い時間に印籠出てきたらつまらないじゃないですか(笑)。みんな分かっ

てるけどなかなか出さない、そのたっぷり感、様式美が『眠り〜』の醍醐味だと思います。あとは、手前味噌になっちゃいますけど、やっぱり僕が演じる悪の妖精カラボスです。
実はこの作品、プロローグには主人公のオーロラ姫も王子も出てこないんですよ。プロローグはカラボスのために存在する幕になっているんです。牧阿佐美バレヱ団の演出では、馬車みたいなのに乗って手下に引っ張られて登場するんですけど、これがまあ気持ちいい(笑)。この登場シーンは必見です。

テクニックだけではダメ。お客様を惹きつけるには豊かな感情表現が求められます

——中川さんは、初のオーロラ姫役に挑戦されます。現時点でどんな風に取り組まれているのでしょうか?

中川:自分の中で、こう踊りたいっていうイメージはあるんですけど、まだちょっとそこにはいけてないですね。やっと課題は見えてきたかな…。1幕のローズアダージオという踊りがすごく難しいんです。テクニック的にもかなり難易度が高いんですけど、男性に初めて触れる16歳の初々しさを表現するシーンなので、テクニックで精一杯ではダメなんですよ。

菊池:動きへの意識が強すぎると、感情表現までなかなかいかないんだよね。初役だと特にそうだと思う。初めて出てきたシーンの初々しさから、最終的には結婚する姫として品格の高さも出す、そういう場面ごとの変化を創り上げられると、舞台がぴしっと締まってくると思う。

中川:そうなんです。1幕の元気で初々しいオーロラ姫、2幕のビジョンシーンと呼ばれる、幻想の姫が踊るシーン、3幕で眠りから覚めた姫、それぞれ全然違う表現をできるようにしたいです。

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菊池:俺は、郁ちゃんの踊りすごく好きだし、大丈夫だと思うよ。踊りっぷりが華やかなので、オーロラ姫は合ってると思う。

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——姫を救い出す王子役の菊地さん、悪の妖精カラボス役の保坂さんは、過去にもご経験のある役ですが、今回の課題などはありますか?

菊池:僕は、極力手数足数を減らして、余計なことしないで王子になりたい。すっと出てきて佇んでる、座ってるだけで王子に見えるというのが理想。昔だったら「僕らしい王子」とか言ってたと思うんだけど、今は、自分のカラーの王子っていうより、『眠り〜』の王子に近づけたいかな。

保坂:確かに引き算は大事。研君も大人になった(笑)。引き算で言うと、僕は、前回ロイヤル・バレエ団から先生がいらした時に、もっと感情表現を大きくするように言われたんですよ。でも今までバレエ団では、あんまりドタバタしない、ドスの利いた静かな怒り、みたいな感じを求められていたんです。あんたはただでさえ顔がうるさいんだから、それくらいが丁度いいって。

菊池:そこまでは言わないでしょ(笑)。

保坂:それが言われるんだよ(笑)。他の妖精が出てきた後、最後にドーンと出てきて、王や王妃と対峙しても揺るがないような大物感、ボス感というのかな。だけどこの前は、もうちょっとやりなさい、4時間全体を引きで見た時に、一回ここでピーク作んないで誰が作るの?と言われたんです。前回はそれでやってみたので、今回は、前回やり過ぎたかなっていうところを削ってみようかなと思ってます。同じ役を何回もやると、そういう演出の違いも楽しめますし、毎回試行錯誤を重ねて、次はどう良くできるか考えるのが楽しいですね。

菊池:同じ役でも、何か新しいことに挑戦しないと飽きちゃうよね。

保坂:うん。それに、カラボスはやってて本当に楽しいけど、実はとても難しいです。演技だけでシーンを全部持ってかないといけないのってプレッシャーなんですよ。

菊池:変な話、踊りの方が気楽かもしれない。あまり動かず、長い時間前に出て場を引っ張るのって、相当説得力がないとやりきれないから。僕も一回だけカラボスをやったことがあるので、その大変さは分かります。

来ていただければ、この作品がバレエの代名詞と言われている理由が分かります

——それでは最後に、読者の方へメッセージをお願いいたします。

菊池:郁ちゃんのオーロラ姫デビューを楽しみにしてください。ただ、初めてだとか年下だとか言ってたらお互いのためにならないと思うので、全員対等な気持ちでしっかり作っていこうと思います。

中川:配役が発表されたときは、血の気がさーっとひきました(笑)。それくらい大きな役なのですごいプレッシャーはありますが、やっぱり憧れの役なので、少しでも良い踊りができるようにリハーサル頑張ります。

保坂:バレエって、どれだけ足が上がるか、何回ピルエットを回れるか、どれだけ高く飛べるかっていう技術面が注目されがちなんだけど、テクニックは超上手だけどつまらないな、ってことも結構あるんですよ。でも、全幕ものっていうのは、テクニックがあってもストーリーを引っ張って行けなかったらお客さんは欠伸しちゃうんですよね。だから、演技の部分が絶対に必要なんです。演技をして物語を見せる。それって全幕バレエならではの面白さだし、カラボスはそれを代表する役。見に来ていただければ、この作品がなぜバレエの代名詞と言われているのか分かっていただけると思います。お楽しみに!

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※このインタビュー記事は「Confetti(カンフェティ)10月号」掲載のインタビューとして実施したものを再構成しました。

プロフィール

土屋美緒

編集者・ライター。女性誌や情報誌、フリーペーパーの編集部に勤務した後、2000年よりフリーランスとして活動。
日本及び世界の女性のライフスタイルを主なテーマにしたインタビューや作家インタビューを多数執筆。05〜07年ベルギー・ブリュッセル在住。
帰国後は、以前のテーマに加え、音楽・舞踏・演劇・古典芸能ほか、ジャンルを問わずパフォーミングアーツ全般の記事を多く手がけている。

バレエ・エデュケーション・シリーズ in Bunkyo 牧阿佐美バレヱ団 『眠れる森の美女』

2017年10月7日(土)15:00開演 10月8日(日)14:30開演 文京シビックホール 大ホール

公演情報

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