オススメ公演の聴きどころ指南 レ・ヴァン・フランセ

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

世界中から注目が集まる至高の木管六重奏が再び登場!
本公演の魅力を、音楽学者・近松博郎氏が徹底解説いたします。

レ・ヴァン・フランセ 

2026年11月24日(火)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:近松博郎

 フランスが運び伝える音楽の息吹


 世界的プレーヤーたちで構成され、日本でも高い人気を誇るドリーム・チーム「レ・ヴァン・フランセ」(「フランスの風」の意)が昨年3月に続き今年も文京シビックホールに登場し、晩秋の東京にフランス音楽の息吹を届けてくれる。文京シビックホールでの公演は6度目となり、いかに多くのファンに支持されているかが窺われる。昨年はプログラム前半がブラームス、ヴェルディ、後半がカプレ、プーランクという構成で独・伊・仏と三様の音楽を披露してくれた。今年は前半のモーツァルト1曲を別として、「フランスもの」に注力しているのが大きな特徴といえる。

 プロイセンのフリードリヒ大王(1712~1786)に仕えた有名なフルート奏者・作曲家のヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ(1697~1773)は、その著書『フルート奏法』(1752年)で楽器の歴史についても記している。クヴァンツはフルートの起源について確かなことは分からないとしつつも、この楽器を再発見したのはドイツ人だと主張する。だがその後、楽器には有用な改良が加えられ、「たぶん改良がなされてから、まだ1世紀とたっていないだろう。またシャルマイがオーボエに、ボンバルドがファゴットに変じたのと同じころに、フランスで行なわれたに違いない」として、改良されたフルートの特性を心得てうまく奏したのはフランスの音楽家たちだと述べている(クヴァンツ著/荒川恒子訳『フルート奏法』改訂版、全音楽譜出版社、22~23ページ)。19世紀に入ってもフランスが管楽器に関して独特の歴史と感性を保ったことは明らかで、とくにベルリオーズが《幻想交響曲》において、オフィクレイドやセルパンといった今では珍しい楽器を含め、管楽器を効果的に用いて成功を収めたことはよく知られる(※)。フランスがときに「管楽器の王国」と表現されるのには、こうした歴史的な背景がある。

 ※オフィクレイドは19世紀前半のフランスで発明された低音金管楽器。セルパン(serpent)はフランス語で「蛇」を意味し、ルネサンス時代に登場した木製の低音管楽器。文字通り蛇のようなS字型をしており、19世紀後半には廃れた。ベルリオーズは《幻想交響曲》の自筆譜でこの2つの楽器を指定したが、こんにちではチューバで代用される。

 世界最高峰の演奏仲間たち

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レ・ヴァン・フランセ

 レ・ヴァン・フランセはクラリネットのポール・メイエの呼びかけで結成された。演奏機会の少ない優れた管楽アンサンブル作品を最高のメンバーの演奏で紹介することを活動の基軸としており(各奏者の輝かしい経歴については公演フライヤーを参照)、現代作品の積極的な演奏を通じて新たな地平を切り開き続けていることも特筆される。作品の編成に応じて柔軟に人数を増減し、さらにピアノのエリック・ル・サージュが加わることで事実上あらゆるレパートリーをカバーしている。世界の主要なホールや音楽祭に出場しており、2026-27年のシーズンはリスボン、ライプツィヒ等でのコンサートのほか、ブレーメン音楽祭にも参加する。メンバーで演奏し1999年に発売されたプーランク室内楽全集のCDはその完成度の高さにより第37回「レコード・アカデミー大賞」を受賞し、その後ワーナー・クラシックスからリリースされた7枚のCDはいずれも高い評価を得ている。


 本アンサンブル最大の聴きどころの一つは、まず現代最高の奏者たち一人ひとりの圧倒的な演奏技術である。近現代の木管作品は技術的難易度の上昇が著しいが、レ・ヴァン・フランセのメンバーはこのハードルをいとも簡単に越えてゆく。聴き手は音楽の自然な流れに安心して身をゆだねることができ、その圧巻の演奏は聴いていて爽快である。その上で、各奏者たちはアンサンブルとしての一体感も決して損なわない。それはそれぞれがフランスの音楽に深く通じ、確固とした基盤を共有しているためでもあろうが、何よりも普段から仲が良く、少年のように音楽を楽しんでいる様子が演奏からも伝わってくる。
*山野雄大氏によるインタビュー記事も参照 → https://www.japanarts.co.jp/news/p9066/

 こうして彼らの個性と協調が見事に両立し、いわゆるフランスのエスプリ(精神)──冗談、機知、皮肉、繊細、洗練、お洒落、気取り、などの性質でよく表現される──が自然と演奏に醸し出されているといえる。

 初来日は2002年。その精緻な演奏がNHKで放映されて話題となり、以後熱狂的なファンの増大と支持により定期的な来日公演へと繋がっている。

 演奏曲について

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 フランシス・プーランク(1899~1963)はレ・ヴァン・フランセにとって特別な作曲家といえる。パリの裕福な家庭に生まれ気鋭の作曲家集団「フランス6人組」のひとりとして活躍したプーランクは、フランスの近代を体現する音楽家といえ、その音楽は凝った仕掛けと親しみやすい旋律を特徴とする。オーボエ、バソン、ピアノのために書かれた《三重奏曲》は20代半ばの作品だが、当時のプーランクはピアノ曲《3つの無窮動》(1919年)、バレエ《牝鹿》(1923年)などの成功ですでに実力を証明していた。全3楽章からなり、一瞬古典派作品のような趣きをみせるが、次第に生じていく様々な逸脱が楽しめる。

 作曲家、オルガニスト、即興演奏家と多様な側面をあわせ持つティエリー・エスケーシュ(1965~)はフランス音楽の伝統を継承する現代音楽家である。有名な《レクイエム》の作曲者モーリス・デュリュフレ(1902~1986)の後任としてパリのサン=テティエンヌ・デュ・モン教会オルガニストに就任し、2024年からはパリのノートルダム大聖堂の首席オルガニストを務める。《メカニック・ソング》は2007年のレ・ヴァン・フランセ来日公演で初演された。ピアノで提示される不安定な主題に各種の素材が投入され音楽が生成されていく過程は緊迫感に満ちて非常にスリリングである。

 現在でも多くの奏者に使用されているフルート教本の作者として有名なポール・タファネル(1844~1908)はパリ音楽院教授を務め、のちにフランスを代表することとなる弟子たちを多く育てた。彼の《木管五重奏曲》は1876年に書かれ、これによりタファネルはフランスの作曲家協会の正会員に認められた。今回唯一ピアノを伴わない曲目であり、憂いを帯びたその曲調は管楽器の深みある響きをじっくりと味わうのにふさわしい。

 他の作曲家とは出身地も時代も異なるにもかかわらず、不思議と演目に馴染むのがモーツァルト(1756~1791)である。奇しくも、モーツァルトが1778年のパリ滞在中に作曲したとみられるフルートとハープのための7作品の自筆譜が今年2月にフランス国立図書館で発見されてニュースとなったが、彼が常に管楽器に強い関心を寄せていたことは思い返されるべきだろう。《ピアノと管楽器のための五重奏曲》K. 452は1784年に作曲され、モーツァルトがピアノを弾き、心許せる管楽器奏者たちとともに初演した。父宛の手紙で自ら「これまでの人生で書いた最高のもの」と評したように、優美な旋律に彩られた名作である。

 ギョーム・コネッソン(1970~)はパリ近郊のブローニュ=ビヤンクール出身で、管弦楽曲(独唱・合唱付きのものを含む)、室内楽曲、劇・バレエ・映画用音楽など幅広い作品を手掛けている。フルート、クラリネット、ピアノのための《テクノ・パレード》は、メイエ、パユ、ル・サージュが主宰するサロン・ド・プロヴァンス音楽祭のために2002年に作曲された。荒々しいビート感に乗って、ピアノの小気味良い刻み、クラリネットの甲高い叫び、フルートの息漏れのノイズ音などが次々に登場し、息つく暇もなく鮮やかなパフォーマンスを繰り広げる。

 レ・ヴァン・フランセの公演で毎回最後を飾っているのがプーランクの《六重奏曲》。1932年に作曲され、彼の室内楽曲では最大の編成となる集大成的作品である。上昇する短い序奏に急速で愉快な音楽が続く第1楽章、オーボエのゆったりと美しい旋律で始まりどこか幻想的な世界をさまようような第2楽章、再び速いテンポでリズミカルな跳躍と流れるようなフレーズを自在に行き来する第3楽章と、聴きどころが満載である。

 終演後には、またこの曲と演奏を聴きに来たいという熱気が会場を包むことだろう。初めての方も常連の方も、ぜひこの幸福な一体感をホールでじかに体験していただきたい。

文近松博郎(ちかまつ ひろお)

桐朋学園大学院大学教授、昭和音楽大学非常勤講師、立教大学兼任講師。専門はドイツのバロックを中心とする西洋音楽史。東京藝術大学大学院博士後期課程修了。博士(音楽学)。各種公演のプログラム・ノートのほか、音楽情報誌「ぶらあぼ」で公演紹介記事を執筆するなど、音楽を広める活動にも尽力している。

レ・ヴァン・フランセ

2026年11月24日(火曜)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

レ・ヴァン・フランセ
  エマニュエル・パユ(フルート)
  フランソワ・ルルー(オーボエ)
  ポール・メイエ(クラリネット)
  ラドヴァン・ヴラトコヴィチ(ホルン)
  ジルベール・オダン(バソン)
  エリック・ル・サージュ(ピアノ)

曲目

プーランク/三重奏曲(Ob,Bsn,Pf)★
エスケーシュ/メカニック・ソング(Fl,Ob,Cl,Hrn,Bsn,Pf)
タファネル/木管五重奏曲(Fl,Ob,Cl,Hrn,Bsn)
モーツァルト/ピアノと管弦楽のための五重奏曲(Ob,Cl,Hrn,Bsn,Pf)★
コネッソン/テクノ・パレード(Fl,Cl,Pf)
プーランク/六重奏曲 ★

*Fl=フルート,Ob=オーボエ,Cl=クラリネット,Hrn=ホルン,Bsn=バソン,Pf=ピアノ


【★マーク】
試聴できます(2026年12月まで/試聴音源の演奏家・楽器編成は演奏会のものと異なる場合もございます。)

料金

【全席指定・税込】
S席 6,000円
A席 5,000円
B席 4,000円

学生割引あり
S席3,000円、A席2,500円
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※学生割引は、JR各社の学生割引定期券を利用できる学生の方に限ります。

※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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