オススメ公演の聴きどころ指南
ファビオ・ルイージ 指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

世界屈指のオーケストラと、名匠ルイージの魅力を、音楽ライター・柴田克彦氏が徹底解説。
今秋注目の公演をお聴き逃しなく!

ファビオ・ルイージ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 

2023年11月9日(木)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

 世界屈指のオーケストラ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が、今秋、文京シビックホールに初登場。名匠ファビオ・ルイージの指揮のもと、至高のサウンドを響かせる。これは、リニューアルを記念して著名アーティストの出演が続く今年の同ホールの公演の中でも、とびきりスペシャルなステージだ。

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ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団  Ⓒ SimonVanBoxtel

 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルと並ぶ世界のトップ・オーケストラ。イギリスの音楽雑誌「グラモフォン」のオーケストラ・ランキングでは、常にベスト3を占めており、2008年には両楽団を抑えて第1位を獲得している。

 オランダのアムステルダムを拠点とする同楽団は、1888年に創設され、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の名称で長く親しまれてきた。そして創立100年を迎えた1988年に「ロイヤル(王立)」の称号を与えられ、現在は同国のマキシマ王妃がパトロンを務めている。

 創立以来、同楽団に多大な影響を与えてきた首席指揮者はわずか7名。ウィレム・ケス(188895年)、ウィレム・メンゲルベルク(18951945年)、エドゥアルト・ファン・ベイヌム(194559年)、ベルナルト・ハイティンク(196388年)、リッカルド・シャイー(19882004年)、マリス・ヤンソンス(200415年)、ダニエレ・ガッティ(201618年)である。この限られたマエストロたちの元で育まれたことも、独特の魅力を持つサウンドの伝統が維持された要因の1つだろう。

 中でも半世紀に亘って君臨したメンゲルベルクは、徹底したリハーサルを通して、甘美で陶酔的なサウンドと緻密なアンサンブルを創出。同楽団の方向性を決定付けた。またマーラーやR.シュトラウスと親交のあった彼は、当時新しかった両者の音楽を積極的に取り上げ、今にも至る演奏伝統を築き上げた。そして30代前半でシェフ(首席指揮者)になったハイティンクが25年の在任中に堅牢かつしなやかな個性を確立。初のオランダ人以外のシェフである(今回の指揮者ルイージと同じ)イタリア人のシャイーがフレキシブルな対応力を付与し、稀代の名伯楽ヤンソンスが豊麗なサウンドと濃密な音楽を創造して、新たな黄金時代と呼べる充実期をもたらした。

 また、マーラー、R.シュトラウス、ストラヴィンスキーといった大作曲家が指揮台に立ち、作品の真髄を伝授。今日でも、現代作曲家たちと定期的に協働し、彼らに作品を委嘱することで新たなレパートリーの創作に貢献している。加えて、クレンペラー、ヨッフム(短期間ハイティンクと共に首席指揮者を務めた)、セル、バーンスタイン、ジュリーニやカルロス・クライバーなどが客演し、古楽界の雄ニコラウス・アーノンクールをいち早く起用するなど、大指揮者の様々な演奏スタイルを吸収しながら進化を遂げている。

 さらには、1000を超える録音をリリースし、国際的な賞も多数受賞。2004年には自主レーベル「RCO Live」を立ち上げ、数多の名盤を世に送り出している。

 同楽団は、世界最高クラスの機能性を誇ると同時に、弦楽器は「ビロードのよう」、金管は「黄金」、木管は「際立った個性」と呼ばれ、それらが融け合った類い稀なサウンドは長きにわたって称えられてきた。その柔らかくまろやかでまとまりの良い響きは、他の楽団では聴けないもの。4年ぶりの来日となる今回は、このサウンドを久々に生で体感できるのが、まずは大きな楽しみとなる。

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ファビオ・ルイージ(指揮)     Ⓒ Monika Rittershaus

 ファビオ・ルイージは、1959年イタリアのジェノヴァに生まれた、現代を代表する指揮者の一人。オーストリアのグラーツ音楽院などで学び、グラーツの歌劇場や交響楽団での活動を経て、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督(19952000年)、スイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督(19972002年)、ライプツィヒ放送交響楽団の芸術監督(19992007年)、ウィーン交響楽団の首席指揮者(200513年)、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団および同歌劇場の音楽総監督(200710年)、メトロポリタン・オペラの首席指揮者(201117年)、チューリッヒ歌劇場の音楽総監督(201221年)などを歴任。現在は、ダラス交響楽団の音楽監督、デンマーク国立交響楽団の首席指揮者、そして2022年秋からNHK交響楽団の首席指揮者を務めている。

 また、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座管弦楽団、ロンドン交響楽団、サイトウ・キネン・オーケストラなど各地の著名楽団へ定期的に客演し、世界の主要歌劇場にもたびたび登場している。CD録音や映像のリリースも多く、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とのブルックナーの交響曲第9番はエコー・クラシック賞、メトロポリタン・オペラとのワーグナー「ジークフリート」「神々の黄昏」はグラミー賞を受賞している。

 日本でも、歴任した各楽団との来日公演で再三名演を聴かせてきたが、何といっても昨秋からコンビを組むN響との相次ぐ名演のインパクトが大。日本では初共演となるコンセルトヘボウ管弦楽団とも「この156年、毎年のように共演を重ねている」というから、相互の信頼も厚い。ルイージが生み出すのは、イタリア人ならではの歌とドイツ・オーストリア圏で磨いた造形美を併せ持つ、躍動的かつ味わい深い音楽。今回は、その持ち味が名器コンセルトヘボウ管弦楽団とのコラボでより明確かつ濃厚に発揮されるに違いない。

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                   ⒸSimonVanBoxtel

 今回の演目は、ビゼーの交響曲第1番とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の2曲。いずれもメロディアスで親しみやすい名作だ。

 「カルメン」や「アルルの女」で知られるフランスの天才ビゼーが若き日に書いた交響曲は、軽快で素朴な美しさに溢れた佳品。明るく快活な第1楽章、哀愁を帯びた歌が流れる第2楽章、田舎風で楽しい第3楽章、無窮動風に駆け抜ける第4楽章から成っている。ビゼー一流の旋律美と爽快なオーケストラ・サウンドを満喫できる上に、海外一流楽団の生演奏で聴く機会が稀な作品なので、今回ぜひ耳にしたい。

 ドヴォルザークの「新世界より」は、言わずと知れた有名曲。古今の交響曲の中でも特に人気の高い名曲で、入門者もベテランも等しく楽しめる作品だ。中でもイングリッシュ・ホルンが奏でる第2楽章の主旋律は、「家路」と題する歌で知られ、日本では帰宅や下校を促す音楽としてもお馴染み。第4楽章の勇壮な音楽もしばしばテレビ等で流れている。もちろんこの曲も、コンセルトヘボウ管弦楽団のような海外一流楽団の生演奏で聴ける好機を、見逃すことはできない。

 ビゼーの交響曲はハイティンクの指揮、ドヴォルザークの「新世界より」はヤンソンスの指揮によるコンセルトへボウ管弦楽団のCD録音を聴くことができるが、いずれもしなやかな弦楽器と瑞々しい管楽器の音色が楽曲とジャスト・フィットした、緻密かつ生気に富んだ名演となっている。今回は、このサウンドをただ体感するだけでもコンサートに足を運ぶ価値は十分。さらには、名匠ルイージの両曲への深いアプローチが、曲を聴き慣れた方にも清新な感銘を与えてくれるに違いない。

 唯一無二の響きを誇る名オーケストラ、その楽団と良き関係を築いてきた名指揮者が揃って、2つの名交響曲を奏でる本公演。新装なった文京シビックホールで、最高級のオーケストラ音楽の醍醐味を堪能したい。

柴田克彦(しばた かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」等の雑誌、公演プログラム、WEB、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

ファビオ・ルイージ 指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

2023年11月9日(木)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/ファビオ・ルイージ
管弦楽/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

曲名

ビゼー/交響曲第1番
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 

料金

【全席指定・税込】
プレミアムシート 25,000円(公演プログラム付)[完売]
S席 22,000円
A席 20,000円
B席 18,000円
C席 16,000円 [完売]
D席 14,000円 [完売]


学生割引あり
S席11,000円、A席10,000円、B席9,000円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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