~2027年1月22日(金) 「夜クラシックVol.43 鈴木優人・上野星矢」~
鈴木優人(チェンバロ)/上野星矢(フルート)
スペシャルインタビュー
実力派アーティストが数々の名曲を気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
Vol.43は、鈴木優人さん(チェンバロ)、上野星矢さん(フルート)による貴重なデュオ。
二つの楽器ならではの魅力や、演奏の聴きどころについて、お話を伺いました。

チェンバロ
鈴木優人
Masato Suzuki
バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)首席指揮者、関西フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者、アンサンブル・ジェネシス音楽監督。読売日本交響楽団指揮者/クリエイティヴ・パートナーを2026年まで6年間務める。国内外での客演のほか、鈴木優人プロデュース・BCJオペラシリーズ、Bunkamura Produceのモーツァルト「魔笛」「ドン・ジョヴァンニ」「フィガロの結婚」などオペラ上演にも取り組む。調布国際音楽祭エグゼクティブ・プロデューサー。九州大学客員教授。

フルート
上野星矢
Seiya Ueno
19歳で第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクールで優勝。パリ国立高等音楽院を審査員満場一致の最優秀賞ならびに審査員特別賞を受賞して卒業し、計7作のCDをリリース。名古屋フィル、神奈川フィル、札響など、国内外の多数のオーケストラと共演。第25回青山音楽賞新人賞、第17回ホテルオークラ音楽賞受賞。大阪音楽大学准教授。
取材・文:高坂はる香
鈴木優人 インタビュー
文京シビックホールと聞くと一番に思い浮かぶ演目なんです。

―前半は吉松 隆「デジタルバード組曲」とバロック音楽(※1)を交互に演奏するユニークなプログラムです。
夜クラシックの共演者として、すぐ星矢君のことが思い浮かんでお誘いしたところ、彼が「デジタルバード組曲」を提案してくれました。
これに何を合わせるか考えたとき、バロック作品と交互に演奏する"ミルフィーユ仕立て"を思いつきました。バロックのパイ生地に、吉松さんのカスタードクリーム......あるいは逆かもしれませんが、これが合わさると作品同士どんな会話をするのか。吉松さんの作品を演奏するのが初めてなので楽しみです。
現代の作曲家には、誰もやったことがない手法を探すことだけに関心があるタイプもいますが、吉松さんはそうではなく、例えばラフマニノフやコルンゴルトもそうですが、古い語法を自分の言葉で言い換えることで温故知新を体現する方という印象です。
―確かに、組曲というバロックのスタイルの中で" デジタル" な鳥が描かれているという。
そう、それもあってバロック作品との親和性が高いと思うのです。バッハ、クープラン、マレは、みんな組曲を書いています。
冒頭は" 夜クラシック"テーマ曲のドビュッシー「月の光」ですが、そこからクープランに行くのも、フランスの中で一気にバロック時代にタイムスリップするようで良い流れになりました。
―後半はオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」から、オルフェオが冥界から妻を連れ戻そうとする場面の「精霊の踊り」と、バッハのロ短調ソナタです。
最後にバッハのソナタを演奏したいということは、はじめに思いついたことです。これはバッハが書いたいくつかのソナタの中でも一番大きな作品。終楽章には、ブランデンブルク協奏曲第4番の第3楽章にそっくりのフーガ(※2)が現れ、こちらは短調で書かれているだけにとてもかっこいいです。
そしてその前に置いた「オルフェオとエウリディーチェ」は、実は僕にとって、文京シビックホールと聞くと一番に思い浮かぶ演目なんです。
もう10年以上前、森 鷗外が日本語に翻訳したこのオペラを、日本舞踊も入れた新しい演出で上演する企画があり、僕にとって初めて全幕オペラを指揮する光栄な機会となりました。自由なアイデアにあふれた現場で、まとめるのがとても刺激的というか、毎日が挑戦の連続でした。果たして無事に終わるのかドキドキしながら本番を迎えた記憶が、強烈に残っています。
フルートといえば「精霊の踊り」ですから、あの時の舞台を思い出しながら、改めて演奏したいと思います。
星矢君がどれだけすごいのかよくわかります。

―当日演奏されるチェンバロは、どんな楽器ですか?
17世紀の名匠クシェの楽器をコピーした、フレンチタイプと呼ばれる二段鍵盤のチェンバロです。手がけたのはクルスベルヘンという高名な楽器製作者ですが、彼は第二の人生を送るべく全ての楽器を売り払って南アフリカに移住しているので、今ではプレミア付きの貴重な楽器となりました。昔から父が弾いていて、僕もこどもの頃から親しんでいます。
バロック時代のチェンバロが共演したのは、現代のフルートより音量が控えめなフラウト・トラヴェルソ(※3)という木製の楽器でした。ただ今回演奏するチェンバロは一般的なチェンバロの中でもよく鳴り、かつ遠くまで通る音を持っています。加えて星矢君は、豊かな音を鳴らせると同時にコントロールも素晴らしいので、音量のバランスは全く問題ないと思います。
―上野さんの演奏家としての魅力はどこに感じますか?
僕は小学生の頃はフラウト・トラヴェルソ、中学、高校のオーケストラ部ではフルートを吹いていたので、星矢君がどれだけすごいのかよくわかります。才能と楽譜がぶつかってバッと音楽が生まれてくるというか......楽譜からインプットされた情報が、彼のインスピレーションや経験と混ざってスパークするイメージです。
東京藝術大学の後輩ですが、当時個人的な付き合いはなく、でも"フルートにすごい子がいる" と名前が轟いていたので知っていました。彼は神童タイプで若い頃から活躍していますが、最近は人間が熟して、日常から得たいろいろなエッセンスを演奏に活かすことでますます音楽が充実していると感じます。
コンチェルトや室内楽での共演はありますが、デュオでフルのリサイタルをするのは初めて。とても楽しみです!
上野星矢 メールインタビュー
チェンバロとの共演はいつも新鮮で、表現の幅を広げてくれる大切な時間です。

―今回のプログラムにはどんな意図がありますか?
「デジタルバード組曲」は、機械仕掛けの鳥みたいな現代的な躍動感と、幻想的な鳥のさえずりが交じり合った、すごく魅力的な作品です。これをバロック音楽と交互に演奏すると、時代を超えた「鳥の対話」が生まれて、新鮮な驚きを届けられるのではないかなと思っています。バロックの透明で洗練された響きが、デジタルバードのキラキラした現代性に光を当ててくれて、逆に現代曲がバロックの深みを引き立てる----そんなコントラストが生まれるのが楽しみですね。
時代を行き来することで、音楽の普遍性と進化を感じられるプログラムになると思いますし、私たち自身にも新しい発見があるはずです。
―フルートとチェンバロの相性、音色を合わせたときの魅力は?
フルートの輝く響きとチェンバロの澄んだ弦の響きって、本当に相性がいいんですよ。チェンバロはピアノほどの音量はないけれど、倍音が豊かなので、フルートの歌うような旋律をきれいに支えてくれます。互いの音色が溶け合いながらも、それぞれがちゃんと独立して輝く感じがいいんです。特にバロック作品だと、フルートの流麗なフレーズにチェンバロの繊細な装飾が絡みついて、優雅な舞踏みたいな一体感が生まれます。音色を合わせると透明感のある空間が広がって、心に直接響く親密さと華やかさを同時に味わえるんですよね。チェンバロとの共演はいつも新鮮で、表現の幅を広げてくれる大切な時間です。
―鈴木さんとの共演で楽しみにしていることは?
たくさんあり過ぎるのですが、優人さんは古楽から現代まで幅広いレパートリーを持っていて、深い音楽的な洞察力と柔軟な表現力をお持ちの、本当に素晴らしい芸術家です。指揮者・チェンバロ奏者、オルガン奏者として、作品の本質を丁寧に掘り下げながら、常に新鮮な息吹を与えてくれるところが魅力的だと思います。
彼の鋭い感性と私のフルートがどう化学反応を起こすのか、すごく楽しみです。バロック音楽の解釈を共有しながら、自由な即興性や情感を分かち合えるはずですし、私にとっても大きな成長の機会になると思います。
※1 バロック音楽...17世紀初頭から18世紀半ばにかけてヨーロッパで発展した音楽様式。
※2 フーガ...主題となる旋律を複数の声部が時間差で繰り返し演奏しながら発展させていく音楽形式。
※3 フラウト・トラヴェルソ...17世紀後半から18世紀後半にかけてヨーロッパで広く用いられた木製の横笛。
取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)
大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。演奏家へのインタビュー、曲目解説の執筆、インドの西洋クラシック音楽事情の取材を行う。ショパン国際ピアノコンクール、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール、エリザベート王妃国際コンクールなど世界のコンクールの長期取材に基づくウェブ上での情報配信、講座などを行う。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」
「夜クラシックVol.43 鈴木優人・上野星矢」
2027年1月22日(金)19:00開演
文京シビックホール 大ホール
出演
チェンバロ/鈴木優人
フルート/上野星矢
曲名
≪夜クラシック テーマ曲≫
ドビュッシー/月の光
F.クープラン/恋の鶯
吉松 隆/デジタルバード組曲Ⅰ
J.S.バッハ/フルート・ソナタ 第2楽章「シチリアーノ」
吉松 隆/デジタルバード組曲Ⅱ
J.S.バッハ/ポロネーズとバディネリ
吉松 隆/デジタルバード組曲Ⅲ
F.クープラン/クラヴサン曲集 第2巻 第6組曲「神秘的なバリケード」
吉松 隆/デジタルバード組曲Ⅳ
ヴィヴァルディ/フルート協奏曲「ごしきひわ」第2楽章
吉松 隆/デジタルバード組曲Ⅴ
M.マレ/スペインのフォリアによる変奏曲より
グルック/オルフェオとエウリディーチェより
J.S.バッハ/フルートとチェンバロのためのソナタ ロ短調
料金
【全席指定・税込】
S席 3,500円
A席 2,500円
お問い合わせ
シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)
