スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.39




~2025年12月4日(木)「夜クラシックVol.39 前橋汀子・荘村清志」~

前橋汀子(ヴァイオリン)・荘村清志(クラシック・ギター
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
Vol.39に出演のお二人に、共演の思い出や選曲のポイントなどをうかがいました。

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©岡本隆史

ヴァイオリン

前橋汀子

Teiko Maehashi

日本を代表する国際的ヴァイオリニストとして、その優雅さと円熟味に溢れる演奏で、多くの聴衆を魅了してやまない。5歳から小野アンナにヴァイオリンを学び、その後、桐朋学園子供のための音楽教室、桐朋学園高校で斎藤秀雄、ジャンヌ・イスナールに師事。17歳で旧ソ連国立レニングラード音楽院(現サンクトペテルブルク音楽院)日本人初の留学生に選ばれ、ミハイル・ヴァイマンのもとで学んだ。その後、ニューヨーク・ジュリアード音楽院でロバート・マン、ドロシー・ディレイ、スイスでヨーゼフ・シゲティ、ナタン・ミルシテインの薫陶を受けた。これまでにベルリン・フィル、ロイヤル・フィル、フランス国立管などの名楽団、メータ、ロストロポーヴィチ、小澤征爾など世界の一線で活躍するアーティストとの共演を重ねている。近年、小品を中心とした親しみやすいプログラムによるリサイタルを全国各地で展開。一方、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティ―タ」、ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ」、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ」などにも意欲的に取り組んでいる。また、最新録音として、ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ全集」のCD20252月にソニーミュージックより発売。著書『私のヴァイオリン 前橋汀子回想録』が早川書房より、最新刊『ヴァイオリニストの第五楽章』が日本経済新聞出版より出版されている。これまでに日本芸術院賞、第37回エクソンモービル(現・ENEOS音楽賞)音楽賞洋楽部門本賞受賞。紫綬褒章、旭日小綬章を受章。使用楽器は1736年製作のデル・ジェス・グァルネリウス。


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©良知賀津也

クラシック・ギター

荘村清志

Kiyoshi Shomura

9歳よりギターを始める。1963年に巨匠イエペスに認められ、翌年スペインで師事。69年の日本デビューで、「テクニック、音楽性ともに第一人者」との高い評価を得た。71年には北米で28に及ぶ公演を行い、国際的評価を不動のものにした。74年にはNHK教育テレビ「ギターを弾こう」に、2007年にもNHK教育テレビ「趣味悠々」にそれぞれギター講師として登場し、日本ギター界の第一人者としての存在を強く印象づけた。08年ビルバオ交響楽団の定期演奏会に出演。同団とは《アランフェス協奏曲》を録音、09年にCDをリリースした。15年にはイ・ムジチ合奏団と共演、録音も行った。
2017年からギターの様々な可能性を追求する「荘村清志スペシャル・プロジェクト」(全4回)に取り組み、さだまさし、coba、古澤巌、錦織健らと共演し、ジャンルの垣根を越えたコラボレーションが話題となる。最終回では、cobaに委嘱したギター協奏曲も演奏し、注目を集めた。
2020年、朝日新聞の連載「人生の贈りもの」をまとめた書籍「弾いて飲んで酔いしれて ギターとともに50年」(吉田純子編著)を出版。22年10月にcoba編曲による世界のポップス名曲選「ゴッドファーザー~愛のテーマ~」をリリース。
現在、東京音楽大学特任教授。2024年にデビュー55周年を迎えた。

取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

自分も頑張らなくてはと感じましたね。

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―お二人の出会いはいつでしょうか? 当時の思い出はありますか?

荘村 初めて共演したのは僕が30代半ばのことなので、40年ほど前だと思います。いろいろな地方を巡ってかなりの公演数ご一緒しましたよね。

前橋 荘村さん、あの頃は車で移動していらして、いろいろなところに一緒に乗せていってもらったことをよく覚えています。

―お家にお迎えに行かれて?

荘村 そうです、お姫様をお迎えにいって(笑)。

前橋 その節はありがとうございました!当時ステージでご一緒していて感じたのは、荘村さんは本番にすごく強いということ。練習中、うまくいくのかしらと思う部分があっても、どこから切り替わるのか本番はすばらしくて、いつも尊敬していました。私は小品を弾くのが好きで、それもかなり自由に表現するほうなのですが、すごく音を聴いて合わせてくださるんです。本番に強いというのは、一番素晴らしいことですよね。

荘村 その言葉は、そっくりそのままお返ししますよ!前橋さんは昔から表現の幅が広く、音楽から強烈な個性を感じます。あれから年月が空いて2023年からまた共演するようになりましたが、"自分はこう感じている"という主張をヴァイオリンに乗せる表現力が一層増していました。絶え間なく勉強を続けていらっしゃることが伝わってきて、自分も頑張らなくてはと感じましたね。

同年代のお客様には、一緒に懐かしんでいただけると思います。

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―ヴァイオリンとギターのデュオはあまりない組み合わせですね。

前橋 はい。オリジナル曲は少ないですが、パガニーニの時代までさかのぼるとわりとあるんです。今とは少し形が違うけれど、ストラディヴァリが作製したギターもあります。

荘村 当時はヴァイオリンとギターの曲もけっこう書かれていたのですが、だんだんギターが、音量があり音域も広いピアノに取って代わられました。そのため我々がヴァイオリンと共演するときは、ピアノパートをギター用にアレンジしてよく合うものを選んでいます。


―テーマ曲「月の光」にはじまり、日本の歌やスペイン系のレパートリーまで幅広いですね。


荘村 「夜クラ」シリーズでヴァイオリンとギターのデュオは初めてということで、「月の光」は僕が編曲します。日本の歌は、この歳になってメロディの良さをしみじみ感じられるようになってきたところがありますね。

前橋 私たちが子供の頃に見た自然豊かな景色って、だんだんなくなってきましたよね。同年代のお客様には、一緒に懐かしんでいただけると思います。

荘村 あとサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」はとてもいい曲で、ピアノパートをギターにするとまた別の良さが出ると思ってご提案しました。

前橋 スペインの踊りを感じる部分が多いので、ギターにはよく合うと思います!

荘村 ギターのラスゲアードという掻き鳴らす奏法をうまく取り入れ、ピアノのパートをより雰囲気を出して表現したいと思います。響きが良いホールなので、PAなしの生の音で聴いていただく予定です。そのほうがぐっと感覚を集中させて、作品の魅力をより感じられるでしょう。

留学できたのは本当に運がよかったと思います。

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―前橋さんは1961年にソ連、荘村さんは1964年にスペインと、まだ留学が一般的でなかった時代に海外に渡られました。そんな経験をした演奏家同士だからこそ共有できる感覚もあると思いますが?

荘村 安い航空券を買って簡単に帰ってこられる時代ではありませんからね。前橋さんからは、ヴァイオリンにかける執念のようなものを感じます。17歳の女の子が一人船に乗ってソ連に渡り、寮生活に苦労しながら耐え、素晴らしい先生のもと研鑽を積んできたのですから、やっぱり強いんですよ。そういう音楽家ならではのオーラがあります。

前橋 あの時代のソ連の教育は本当にすばらしかったので、留学できたのは本当に運がよかったと思います。食べものも十分になく、栄養不足が原因か、体を壊してレニングラードの病院に入院したことありましたけれど、なぜか乗り越えられました。若さってすごいわよね(笑)! 

荘村 若さだけでは乗り越えられませんよ!精神的にまいって帰国する人もいっぱいいましたから。僕は16歳からスペインで過ごしましたが、ソ連の生活に比べたらだいぶ甘いほうだったと思います(笑)。
 それでも羽田の出発ロビーに100人も見送りが集まり、万歳三唱で送り出されたので、これは簡単に帰ってくるわけにはいかないと感じるわけです。しんどいことを歯を食いしばって乗り越えた瞬間もたくさんありました。

―お二人とも、今の若い音楽家が"生の音に触れられたらどんなにいいだろう"と夢見る巨匠のもと勉強されています。

荘村 僕の場合はナルシソ・イエペス先生に師事し、アンドレス・セゴビアという巨匠の音を実際に音で聴いて、これこそがギターの音なのだとはっきり認識させられました。その音を自分がすぐ出せるようになるわけではありませんが、あれを体感したことは大きかったです。前橋さんはオイストラフに憧れてソ連に行かれたんですよね?

前橋 はい、他にもあの時代は私が師事したミハイル・ヴァイマンや、レオニード・コーガン、チェロではロストロポーヴィチ、ピアノはリヒテルやオボーリンなどきら星のようなスターが活躍していました。ムラヴィンスキーが常任指揮者のレニングラード・フィル、キーロフ劇場のオペラやバレエなどを連日聴きにいく、芸術に浸る3年間でしたね。

荘村 そういう経験は心の財産ですよね。

貴重な経験に基づき、長い年月をかけて磨いた音楽をお二人が持ち寄ってくださる演奏会になるかと思います。今もこうして精力的に活動を続けられる元気の秘訣を最後に教えてください!

荘村 僕はとにかく歩くことですね。若い頃は車で移動していましたが、50歳ごろからやめて、基本的に電車と歩きで移動しています。以前ロストロポーヴィチをホールの近くで見かけたのですが、移動は全部タクシーかと思いきや、チェロを背負って一人で駅の方に歩いていたんですよ。ああして元気を保っているんだなと思いましたね。
 駅ではエスカレーターではなく階段、電車では座らない!それと、週一回テニスをしています。

前橋 私は以前からパーソナルトレーナーについてトレーニングを続けています。他に趣味はないけれど......ただ、食べることは大好きなので、食材を選んで自分で料理することはよくやっています。とにかく美味しいものを食べたいの(笑)。

荘村 楽しいからやるというのが一番ですね!

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後、ピアノ専門誌の編集者を経て、2011年よりフリーライターとして活動。国内外でピアニスト等の取材を行うほか、世界のピアノコンクールの現地レポートも配信している。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.39 前橋汀子・荘村清志

2025年12月4日(木)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ヴァイオリン/前橋汀子
クラシック・ギター/荘村清志

曲名

≪夜クラシック テーマ曲≫
ドビュッシー/月の光

エルガー/愛の挨拶
ドヴォルザーク/ユーモレスク
バッハ/無伴奏パルティータ第3番より「プレリュード」「ガヴォット」 [ヴァイオリン・ソロ]
アルベニス/アストゥリアス[ギター・ソロ]
クライスラー/美しきロスマリン
クライスラー/愛の悲しみ
クライスラー/中国の太鼓
山田耕筰/赤とんぼ
成田為三/浜辺の歌
北原白秋/この道
シャミナード/スペインのセレナーデ
タレガ/アルハンブラの想い出 [ギター・ソロ]
グラナドス/スペイン舞曲集第5番「アンダルーサ」
サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28

料金<税込>

全席指定 S席:3,000円 A席:2,000円  

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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