スペシャルインタビュー 夜クラシックVol.27

~2020年11月13日(金)「夜クラシックVol.27」~

神尾真由子(ヴァイオリン)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
Vol.27には、神尾真由子(ヴァイオリン)と田村 響(ピアノ )※が出演。
"夜クラシック"初登場となる神尾真由子に、本公演への意気込みを語っていただきました!


※インタビューは2020年8月に行いました。
その後、出演を予定しておりましたミロスラフ・クルティシェフは、
新型コロナウイルス感染症に係る入国制限により、来日の目途が立たないため、
出演を見送ることとなりました。

Mayuko Kamio_12002_(c)Makoto Kamiya

©Makoto Kamiya

ヴァイオリン

神尾真由子

Mayuko Kamio

4歳よりヴァイオリンをはじめる。2007年に第13回チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、世界中の注目を浴びた。ニューヨーク・タイムズ紙でも「聴く者を魅了する若手演奏家」「輝くばかりの才能」と絶賛される。国内の主要オーケストラはもとより、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、バイエルン州立歌劇場管弦楽団、ロシア・ナショナル・フィルハーモニー交響楽団、BBC交響楽団などと共演。近年では、ズービン・メータ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団と南米ツアー、ルドヴィク・モルロー指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団とイスラエルツアーを行った。サン・モリッツ、コルマール、ヴェルビエなどの著名フェスティバル、ニューヨーク、ワシントン、サンクトペテルブルグ、モスクワ、フランクフルト、ミラノなどでリサイタルを行っている。レコーディングにおいては、RCA Red Sealレーベルより「パガニーニ:24のカプリース」「チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲」「ロマンティック・ソナタ」をリリースしている。 これまで里屋智佳子、小栗まち絵、工藤千博、原田幸一郎、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫、ザハール・ブロンの各氏に師事。楽器は宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス1731年製作「Rubinoff」を使用している。大阪府知事賞、京都府知事賞、第13回出光音楽賞、文化庁長官表彰、ホテルオークラ音楽賞はじめ数々の賞を受賞。


取材・文:高坂はる香  写真:星ひかる

もともと感覚的なタイプではなく、しっかりプランを立てるほう。

3月以降多くの演奏会が中止や延期となり、しばらく舞台に立てない時期があったと思いますが、どのようにお過ごしでしたか?

 忙しかった状態から通常の暮らしに戻ることができて、ほっとしたというのが正直なところです。いつもより時間をかけて一つの作品に取り組むことができましたし、その傍らで、教えることは継続していました。 特に、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」のレコーディングのためにしっかりと練習できたことで、いつも以上の達成感を得られました。

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神尾さんがヴァイオリン部門で優勝し、ご主人のクルティシェフさんがピアノ部門で最高位となった2007年のチャイコフスキー国際音楽コンクールから、13年が経ちました。これまでの活動を振り返って、どうお感じになりますか

 コツコツとやってきたという感じです。あの頃はまだ技術的な弱点があって、技巧的な曲はたくさん弾いていましたが、安定のためにはあともう一歩必要なものがあると感じていました。技術的な問題はすぐに直りませんから、時間をかけて弱点をなくし、表現の選択肢を広げていきました。

神尾さんの演奏は、情熱的でありながらクールさも感じます。そのみごとなバランスはどのようにして保っているのでしょうか。

 ある意味、情熱的な表現の仕方がわかっているからかもしれません。もちろん情熱をもって弾いていますが、情熱まかせに弾くと、ちょっとダサくなってしまいますよね。もともと感覚的なタイプではなく、しっかりプランを立てるほう。本番であえて変えて演奏することはありますが、100回同じように弾けといわれたら、ほとんど同じように弾くことができると思いますよ。

以前クルティシェフさんが、自分は思ったことをすぐに言ってしまうのに対して、神尾さんは「情熱的なところもあるけれど、例えば怒っていても、10回くらいためこんでから言う」とおっしゃっていたことを思い出しました。演奏における冷静さと共通しているのでしょうか。

 それについては彼が、私のポロっと言ったことには気づかず、ちゃんと怒ったところでやっと気がつくからのような気もしますけれど(笑)。
 彼は感情型で、とても情熱的です。でも、音楽的な面ではいつもとても尊重してくれて、私の好きに弾いていいと言ってくれます。意見を言い合うこともたくさんありますが、最終的にはいつも気持ちよく演奏しています。

苦しみを超えてどこか軽さが出てきた曲のほうに、今は共感しますね。

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今回は、ロシアとフランスの文化が混ざり合うプログラムです。選曲はどのようにされたのですか?

 ロシア音楽から選ぼうと思い、彼と共演したことのないプロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ」を演奏することにしました。少し軽やかで、フランスの影響を受けている作品なので、ショーソンとラヴェルを合わせました。

プロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ第2番」の魅力は、どのようなところに感じますか?

 夫は1番のソナタが演奏したいと言っていたのですが、私の独断で2番にしました(笑)。
 ロシアでは、プロコフィエフの後期は体制に迎合した作品ばかりだから、前期作品のほうが良いという風潮があるんです。実際、1番のソナタには深刻さが感じられます。
 私も若い頃は短調の深刻な作品をたくさん弾きました。でも、最近の私はひたすら暗い作品よりも、深刻な時期を経験したからこそ生まれる、明るさや軽さのある作品に魅かれます。これはプロコフィエフに限ったことではありません。苦しみ真っ只中という作品より、それを超えてどこか軽さが出てきた曲のほうに、今は共感しますね。

ショーソンの「詩曲」は、ロシアの文学から影響を受けている作品ですね。

 最初から最後まで歌いこんで弾くこともできる作品ですが、それをすると無粋になりがちです。少し長すぎると言われることがある曲なので、多くの方に魅力をちゃんと受け取っていただけるよう、テンポと演奏時間をうまく調節しながら演奏するつもりです。曲に欠点があるときは、それが目立たないように演奏し、作品の良さがしっかり伝わるようにするのも私たちの役割です。

一方、ラヴェルの「ツィガーヌ」のような超絶技巧の超有名曲を演奏するときに心がけることはありますか?

 超有名曲は、そう呼ばれるだけの理由があります。ラヴェルという作曲家はとてもバランスの取れた天才なので、この作品もすごく弾きやすい。どのように演奏してもさまになります。

安心して、楽しい時間を過ごしていただけたら嬉しいです。

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ところで、息子さんはヴァイオリンとピアノを両方やっていらっしゃるそうですね。クルティシェフさんは以前、ピアニストは大変だから、ヴァイオリンのほうがいいだろうとおっしゃっていましたが。

 一応、ヴァイオリンは毎朝練習しています。ピアノのほうが長くやっているので上手ですけれど。
 私と息子は日本、夫はロシアにいて会えない間は、ほとんど毎日ピアノの練習の動画を送っていました。難しい曲を弾いていると電話が来て、すごいじゃないと褒めたり、しばらく動画を送らないとちゃんと練習しているか聞いてきたり。とにかく気になるみたいです(笑)。

息子さんのヴァイオリンの練習を見ていて、ご自身の幼少期と重ねるところはありますか?

 私とは、性格も成長の仕方も全然違います。息子はいい子なので子育ては楽なのですが、私はさらに、母親にとってものすごく楽な子供だったのだろうと思います(笑)。とにかくヴァイオリンが好きだったので、自主的に勉強したがって、母には練習に付き合ってもらっている感じでしたから。

文京シビックホールやこのエリアに思い出はありますか?

 以前、茗荷谷に住んでいた頃は、息子の幼稚園バスのお迎えの場所がホールの目の前の交差点だったので、この辺りはいつも自転車で激走していました(笑)。文京区には学問の街というイメージがあってとても好きなのですが、その後やむをえず引っ越すことになってしまい、残念でしたね。

「夜クラシック」ということで、お気に入りの夜の過ごし方があれば教えてください

 昔は夜更かしでしたが、今は子供を寝かしつけたら、疲れて9時ごろにはお風呂に入って寝てしまいます。
 あとは、ドキュメンタリーやコメディが好きなので、動画を見て過ごすことはあります。外国のコメディを観ることが多いですが、最近は久しぶりに「笑ってはいけない」シリーズの昔の放送を見返したりしています。

それでは最後に、お客様へのメッセージをお願いします

 このような状況の中、来場するのが不安だという方のお気持ちもよくわかります。当日は間隔を開けて座っていただくなど、安全な場所をご提供できると思いますので、安心して、楽しい時間を過ごしていただけたら嬉しいです。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル



夜クラシックVol.27

2020年11月13日(金)19:30開演

文京シビックホール 大ホール

出演

ヴァイオリン/神尾真由子
ピアノ/田村 響

曲名

ショーソン:詩曲
ラヴェル:ツィガーヌ
プロコフィエフ:5つのメロディ
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番

料金《全席指定・税込》

S席 3,000円 A席 2,000円

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)
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