~ばっちり予習~オススメ公演の聴きどころ指南 文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

フレッシュ名曲コンサート 響きの森クラシック・シリーズVol.68

2019年5月18日(土)15:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

一流指揮者&ソリストと共におくる《響きの森クラシック・シリーズ》

 日本最古の歴史を誇る名門オーケストラの東京フィルハーモニー交響楽団が、一流指揮者&ソリストと共におくる《響きの森クラシック・シリーズ》。選りすぐりの名曲を、響きのよい文京シビックホールで堪能できる当シリーズは、開始から17年に亘って高い支持を集め、ソールドアウトが相次ぐ人気公演となっている。
 2019-2020シーズンでまず注目したいのが、開幕を告げる5月のVol.68。人気指揮者の大友直人が9年ぶりに当シリーズに登場し、気鋭のピアニスト鈴木隆太郎がフレッシュな共演を果たす、話題性十分の公演だ。演目は、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」とリムスキー=コルサコフ「交響組曲《シェエラザード》」。ロシアの人気名曲が2つ並んだ濃密なプログラムも目を奪う。

大友直人

©Rowland Kirishima

 大友直人は1958年東京生まれ。桐朋学園大学在学中からNHK交響楽団の指揮研究員となり、22歳で同楽団を指揮してデビュー。以来、国内の主要オーケストラに定期的に客演し、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、大阪フィルハーモニー交響楽団指揮者、東京交響楽団正指揮者および常任指揮者、京都市交響楽団首席指揮者および常任指揮者兼アーティスティック・アドバイザー、群馬交響楽団音楽監督を経て、現在、東京交響楽団名誉客演指揮者、京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団音楽監督を務めている。また2004年から8年間、東京文化会館の初代音楽監督も務めた。
 コロラド交響楽団、インディアナポリス交響楽団、ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団など海外のオーケストラにも客演。2001年には、フィルハーモニア管弦楽団の日本ツアーで同楽団を指揮した。2012年3月には、ハワイ交響楽団のオープニングコンサートを指揮し、以降定期的に客演。同年6月にはロレーヌ国立管弦楽団の定期公演に客演し、絶賛された。
 レパートリーは古典から現代まで幅広く、オペラの実績も豊富。CDも多数リリースしている。また他のジャンルとのコラボレーションによる新たな音楽シーンを発信し、音楽プロデューサーとしても活躍。

さらに国際音楽セミナー《ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン》を盟友である指揮者A.ギルバートと毎年開催するなど、教育活動にも力を注いでいる。
 彼の魅力はまず、端正な中にもコクのある音楽。楽曲の美点をストレートに伝えると同時に、何気ないフレーズにも命を吹き込み、フレッシュな感覚をもたらす。それゆえに聴き手は、楽曲が有する様々な要素を明快に感知しながら、充実した演奏を味わうことができる。

 鈴木隆太郎は1990年鎌倉生まれ。2008年に栄光学園高等学校を卒業後渡仏し、パリ国立高等音楽院に首席で入学。ブルーノ・リグットとオルタンス・カルティエ=ブレッソンに学び、フランスの大家ミシェル・ダルベルトとミシェル・ベロフにも師事した。現在は、イタリアのフィレンツェで、ロシアの大ピアニスト、エリソ・ヴィルサラーゼに学びながら、パリを拠点に演奏活動を行っている。
 これまでに、イル・ド・フランス国際ピアノ・コンクール第1位、カンピージョス国際ピアノ・コンクール第2位、エミール・ギレリス国際ピアノ・コンクール第2位を獲得し、2017年にはヴァルティドネ国際音楽コンクール第2位と、トビリシ国際ピアノ・コンクールで2つの特別賞を受賞した。
 また、コロンビア国立交響楽団、パリ音楽院管弦楽団、ルイジアナ・フィルハーモニー管弦楽団、オデッサ国立管弦楽団などのオーケストラと共演。フランスをはじめヨーロッパ各地でリサイタルや音楽祭への出演を続け、室内楽でも五嶋 龍と共演するなど、活躍の幅を広げている。2017年には、クラヴェス・レーベルよりデビューアルバムをリリースしたほか、フランス国営ラジオでの公開録音コンサートでも高評を得ている。

鈴木隆太郎

 彼の魅力は、温かい音色と瑞々しい感性。フランスで学び、実績を積んでいることで、音に対する鋭敏な感覚やヨーロピアンなセンスを身につけているのが強みでもある。パリを拠点とする彼は、日本での公演が少ないので、今回はそのパフォーマンスを知る貴重な機会となる。

日本人の琴線を刺激するメロディに溢れたロシアの名曲

 プログラム前半のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」は、チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」と並ぶロシアのピアノ協奏曲の代表格。近代ロシアの大ピアニスト&大作曲家ラフマニノフが、ピアニズムの粋を尽くした作品であり、ロマンティシズムが横溢した陶酔的な音楽でもある。特に憂愁を帯びたメロディの数々は、デヴィッド・リーン監督の名作「逢びき」(1945)をはじめ、多数の映画音楽やポピュラー音楽にもなったほど魅力的。滔々(とうとう)と流れる大河のように運ばれるロマンの世界には、誰しも魅了されるに違いない。
 今回は、細かな動きと息の長さを共に求められるこの曲を、鈴木が“いかに聴かせるか?”がポイント。ロシアの大家ヴィルサラーゼに学んでいるだけに期待も大きいし、バランス感覚に優れた大友と歌の伴奏などの経験豊富な東京フィルのバックも強力な援軍となるであろう。

 後半のリムスキー=コルサコフ「交響組曲《シェエラザード》」は、ロシア国民楽派「五人組」の一人、リムスキー=コルサコフの代表作。シェエラザードとは、「千一夜物語(アラビアン・ナイト)」の語り部となる女性の名で、本作では「海とシンドバッドの船」「カランダール王子の物語」「若き王子と王女」「バグダッドの祭り、海、青銅の騎士のある岩での難破、終曲」の4つの物語(楽章)が展開され、オリエンタリズム濃厚でエキゾティックな音絵巻が耳を楽しませる。注目すべきは、“管弦楽法の大家”リムスキー=コルサコフならではの色彩的かつ精妙な楽器用法。シェエラザードを表すヴァイオリン(通常はコンサートマスターが演奏する)をはじめ、様々な楽器のソロも登場し、オーケストラ音楽の醍醐味を堪能させる。
 今回は、ロシア物も得意とする大友のハイセンスな語り口と、それに応える東京フィルのカラフルなサウンドが聴きもの。次々に繰り出される同楽団の名手たちのソロにも酔わされること間違いなしだ。

 日本人の琴線を刺激するメロディに溢れたロシアの名曲が並び、オーケストラとピアノの名人芸が結集された本公演で、オーケストラのライヴの妙味を満喫しよう。

フレッシュ名曲コンサート 響きの森クラシック・シリーズVol.68

2019年5月18日(土)15:00開演 文京シビックホール  大ホール

公演情報

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プロフィール

柴田 克彦(しばた・かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、
CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も
受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。
文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。