~2018年1月25日(木)「夜クラシックVol.15」~仲道郁代(ピアノ)成田達輝(ヴァイオリン)上野通明(チェロ)スペシャルインタビュー

ピアノ 仲道 郁代 Ikuyo Nakamichi

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©Kiyotaka Saito

4歳からピアノを始める。国内外での受賞を経て、1987年ヨーロッパと日本で本格的にデビュー。 温かい音色と叙情性、卓越した音楽性が高く評価され、人気、実力ともに日本を代表するピアニストとして活躍している。これまでに国内外のオーケストラと共演を重ねており、2016~2017年はデビュー30周年を記念し、全国各地で記念公演を行っている他、冠番組も放送されている。音楽の無限の可能性を信じ、子どものためのプロジェクト、ワークショップ、演劇とのコラボレーションなど多彩な活動も実施。魅力的な内容とともに豊かな人間性が多くのファンを魅了している。CDはソニー・ミュージックと専属契約を結び多数リリース。新著の『ピアニストはおもしろい』(春秋社)も版を重ねている。メディアへの出演も多く、音楽の素晴らしさを広く深く伝える姿勢は多くの共感を集めている。

仲道郁代オフィシャル・ホームページ
http://www.ikuyo-nakamichi.com

ヴァイオリン 成田 達輝 Tatsuki Narita

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©Hiroki Sugiura

札幌市生まれ。3歳からヴァイオリンを始める。 2010年ロン=ティボー国際コンクール第2位、あわせてリサイタルで優秀な演奏をした音楽家に与えられる「サセム賞」を受賞。2012年にはエリザベート国際コンクール第2位及びイザイ賞を受賞。国内外の指揮者、オーケストラと共演し高い評価を得るとともに、室内楽奏者としても活動を広げる注目の若手ヴァイオリニストである。CDは「フランク:ヴァイオリン・ソナタ、フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第2番他」をリリース。ホテル・オークラ音楽賞、出光音楽賞、上毛芸術文化賞受賞、道銀芸術文化奨励賞を受賞。使用楽器は、ストラディヴァリウス1711年製 "Tartini" (宗次コレクションより貸与)、およびガルネリ・デル・ジェス1738年製 "ex-William Kroll" (匿名の所有者より貸与)。

チェロ 上野 通明 Michiaki Ueno

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©g_jagoutz

2009年13歳で第6回若い音楽家のためのチャイコフスキー国際音楽コンクール日本人初の優勝。第6回ルーマニア国際音楽コンクール最年少第1位、併せてルーマニア大使館賞、ルーマニアラジオ文化局賞受賞。2014年第21回ヨハネス・ブラームス国際コンクールチェロ部門第1位。これまでに新日本フィル、東響、東フィル、日フィル、山形響、ロシア響など国内外の数々のオーケストラと共演。TV朝日「題名のない音楽会」、NHKBS「クラシック倶楽部」、NHKFM「リサイタル・ノヴァ」等に出演。岩谷時子音楽文化振興財団「第1回Foundation for Youth」「第6回岩谷時子賞奨励賞」受賞。宗次エンジェル基金、ロームミュージックファンデーション、江副記念財団奨学生。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース全額免除特待生として、毛利伯郎氏に師事。現在デュッセルドルフ音楽大学にてピーター・ウィスペルウェイに師事し、ドイツ国内でも積極的に演奏活動を始めつつさらなる研鑽を積む。

取材・文:高坂はる香

リハーサルで第一音を出す瞬間が楽しみです。

——まずは、「夜クラシック」3度目のご登場となる仲道さんにお聞きします。オープニングのテーマ曲、ドビュッシー「月の光」を演奏されるときの心境は、どのようなものなのでしょうか?

仲道郁代

©Kiyotaka Saito

仲道:暗闇の中、ステージに出て「月の光」を弾き始めるという演出が恒例となっていますが、この瞬間はいつもゾクゾクしますね。子どもの頃から、暗闇で音を聴くのが好きでしたので、そんな原点に戻る感覚もあります。

——今回は、若手実力派アーティストのお二人と、初共演となります。成田さん、上野さんにはどのような印象をお持ちですか?

仲道:成田さんには貴公子の魅力、上野さんにはナチュラルな魅力があり、ぜひお二人とご一緒してみたいと思いました。どんな音楽創りができるのか、リハーサルで第一音を出す瞬間が楽しみです。

——上野さん、成田さんは、それぞれ共演者のお二人についてどんな印象をお持ちですか?

上野:お二人とも、とてもすばらしいご活躍をされている演奏家ですから、初合わせのとき、どんな音楽とどんな会話をさせていただけることになるのか、とても楽しみです!

成田:初めての顔合わせで室内楽を演奏する時は、予想のつかない化学反応が起きるものです。実際には、何度も共演しているメンバーとの演奏でも何がおきるかわからないのが室内楽の魅力。先入観を持たずに演奏に臨み、それぞれの自発性を活かした演奏ができたらと思います。
ただ最近、ホロスコープを調べることに凝っているので、それはあらかじめ見ておくつもりです。上野君の誕生日はまだ聞いていませんが、仲道さんは水瓶座ということなので、魚座の僕はどう一緒に音楽を創ったらいいか考えておかなくては(笑)。お二人と一緒に、作品が一番喜ぶような演奏を目指したいと思います。

——ピアノ、チェロ、ヴァイオリン、お三方それぞれがメインとなって演奏されるプログラムの聴き所を教えてください。

仲道:シューマンの「ロマンス」の中には、過去も現在も未来も聴くことができます。シンプルな旋律なのに、心が飛び、飛んだ心が戻ってくる。大好きな曲です。

上野:バッハの「無伴奏チェロ組曲」は、僕にとってチェロを始めるきっかけとなった曲です。これを弾きたくてチェロを始めたようなものですから、一生かけて演奏し続けていきたいと思っています。中でも今回演奏する第1番の「プレリュード」は、ドイツの爽やかな森の空気を感じる大好きな曲です。また、ドヴォルザークの「森の静けさ」は、ボヘミアの静かな森を思わせる音楽で、そこには、彼がいかに故郷の自然を愛していたかがよくあらわれています。僕も自然が大好きなので、共感をもって演奏したいです。

成田:僕は、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」のうち、「夜クラシック」というテーマにあわせて、静かで瞑想的な感覚が味わえる曲を選びました。ソナタ第3番第3楽章の「ラルゴ」は、心があたたまる作品。希望というよりは、過去のいろいろなイメージが浮かんでくる、思い出のような雰囲気を持っています。

成田達輝

©Hiroki Sugiura

旋律一辺倒になることなく、ドラマ性も味わえる作品

——一方、みなさんでの演奏となるブラームスのピアノ三重奏曲第1番の魅力は、どんなところにお感じになりますか?

上野通明

上野:この曲は、若いブラームスがメーレムとデュッセルドルフでスケッチし、円熟期に改訂した作品です。ライン川の大らかな自然や、ドイツの暗く長い冬の憂鬱さ、そして当時彼が抱いていた夢など、さまざまな心情が、3つの楽器の特性を生かした会話を通して、絶妙なバランスで表現されています。

成田:僕はブラームスが昔から大好きです。神秘的な一面もある作曲家で、このピアノ三重奏曲にも、静謐という言葉が似合う神秘性を感じます。ブラームスの音楽の良さは、多面的でバランスが取れているところ。旋律一辺倒になることなく、ドラマ性も味わえる作品です。ちなみに、ブラームスは牡牛座。バランスを保ち、平和的な解決に向かおうとするところが特徴ですね。例えばベートーヴェンのような、なりふり構わず突き進んでいくタイプとは正反対。そういうところが、ブラームスの魅力だと思います。

仲道:私がこの作品から感じるのは、雄大かつ深く、大きなもの。そこにあるのは、祈りと豊かさ、そして哀しみです。ブラームスの人生を貫く命題が、初期の作品ながらすべて詰まっていると思います。弾きがいのある曲ですし、聴きごたえのある曲でもあると思います。

今日も充実した!とお感じになるような演奏を目指したいと思います。

——さて、夜がテーマの演奏会ということで、それぞれお気に入りの夜の過ごし方や夜に聴くのにお勧めの音楽を教えていただけますか?

仲道:私は、夜もピアノを弾いているのが好きです。寝る直前まで練習できたら、なおいいですね。ただ、夜は興奮する曲を聴くと眠れなくなるので、なにかを聴くなら静かな曲の方がいいかもしれません。オーケストラ作品よりは、ピアノソロやヴァイオリンソロ。あとは、ドイツ歌曲もいいと思います。

上野:「夜クラシック」は、一日の終わりに音楽に浸り、日常とは少し違う世界に身を置くことによって、豊かな気持ちでその日を終えることができる、とても魅力的なコンセプトの演奏会ですね。僕自身、夜に音楽を聴くなら教会音楽が好きです。あと、眠るときには、雷雨の音、森の中の鳥や虫の鳴き声の音源を聞くと落ちつきます。

成田:僕のお気に入りの夜の過ごし方は、部屋を暗くして、音楽を聴きながら、大好きなスコッチウイスキーをストレートで楽しむこと。尊敬する音楽家であるミケランジェリの弾く、ドビュッシーの「プレリュード」を聴きながら、というのが理想的です。

——最後に仲道さんにお聞きします。当日はお三方で、どのような演奏を目指したいとお考えですか?

仲道:ブラームスのピアノ三重奏曲第1番からは、作曲家の若さ、そしてのちに作品を改訂した際に加わった練れた書法という、両方の魅力を味わうことができます。とにかく大きな曲です。若いお二人との演奏は、エネルギーにあふれたものになると思います。音楽が、文京シビックホール大ホールの空間を満たすことでしょう。聴き終わってホールを出られたお客さまが、空を見上げ、空気をいっぱい吸って、今日も充実した!とお感じになるような演奏を目指したいと思います。

プロフィール

取材・文 高坂はる香

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、
「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.15夜クラシックVol.15

2018年1月25日(木)19:30開演 文京シビックホール  大ホール

公演情報

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