特集 ~2017年6月30日(金)「夜クラシックVol.13」~ 福間洸太朗(ピアノ)&吉田 誠(クラリネット)スペシャルインタビュー

ピアノ 福間洸太朗

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©Mark Bouhiron

パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学、コモ湖国際ピアノアカデミーにて学ぶ。20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝(日本人初)およびショパン賞受賞。
これまでにカーネギーホール、リンカーンセンター、ウィグモアホール、ベルリン・コンツェルトハウス、サルガヴォーでリサイタル他、クリーヴランド管、モスクワ・フィル、イスラエル・フィル、フィンランド放送響、ドレスデン・フィルなど、海外の著名オーケストラとの共演も多数。日本ではピアニスト100、トッパン・ピアニスツ、ピアノ・エトワール、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンなどのシリーズに出演する他、オーケストラとの共演も多数。昨年は「モーツァルト&シューマン:ピアノ協奏曲」と「モルダウ~水に寄せて歌う」(DENON)の2枚のCDを同時リリースするなど、これまでに10枚のCDをリリースしている。2016年には、NHK交響楽団との共演や、パリにてパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、マチュー・ガニオと共演するなど、幅広い活動を展開。そして7月にはネルソン・フレイレの代役として急遽、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団定期演奏会において、トゥガン・ソヒエフの指揮でブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏し喝采を浴びた。テレビ朝日系「徹子の部屋」やNHK FMなどにも出演。第34回日本ショパン協会賞受賞。現在ベルリン在住。

http://www.kotarofukuma.com/

クラリネット 吉田 誠

高い芸術性と抜群のテクニック、美しい音色でクラリネットによる新たな表現世界を開拓している期待の大器。1987年兵庫県生まれ。5歳からピアノを、15歳からクラリネットを、22歳から指揮を始める。東京藝術大学入学後、渡仏。パリ国立高等音楽院及びジュネーヴ国立高等音楽院で研鑽を積んだ。第19回欧日音楽講座に於いて、ミシェル・アリニョン特別賞を特設され授与。第 5 回東京音楽コンクール木管部門第1位及び聴衆賞。小澤征爾監督ロームミュージックファンデーション指揮クラスのオーディションに合格し、小澤征爾、湯浅勇治の各氏のもとで指揮を学ぶ。2014年、トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーンのソリストに抜擢され全国ツアーに参加し、巨匠ペーター・シュミードル氏と「クロンマー:2台のクラリネットのための協奏曲」を演奏。同年テビューアルバム「くらりずむ」をリリース。2015年より自主企画リサイタルシリーズ「五つの記憶」を始動。2016年2月、3月の2ヶ月連続でテレビ朝日「題名のない音楽会」で特集が組まれ、音楽業界の注目を集める。サイトウ・キネン・フェスティバル松本、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン、ルツェルン・フェスティバル・アークノヴァ、サントリホール チェンバー・ミュージック・ガーデン等の音楽祭に招かれ、秋山和慶、大植英次、大友直人、小林研一郎、藤岡幸夫各氏の指揮のもと、大阪フィル、東響、東京フィル、日本フィル、関西フィル等のオーケストラにソリストとして共演する他、国内外でリサイタル、室内楽公演を重ねている。アムステルダム在住。

http://makoto-yoshida.com/

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©RamAir.LLC

取材・文:高坂はる香 写真:星ひかる

パリに留学するというのは、こういうことだよ!

——今度の「夜クラシック」公演は、お二人にとって2度目の共演だそうですね。そもそも、初共演のきっかけは?

僕がぜひ共演したいとお声がけしました。福間さんはパリ国立高等音楽院の先輩なのですが、時期が重なっていなかったため、当時面識はありませんでした。でも以前、NHKの「スーパーピアノレッスン」で、マリア・ジョアン・ピリスさんのレッスンに福間さんが受講生として登場している回を観たことがあって、以来、一方的に知っていました。

えっ、あれ観ていたの(笑)! 知りませんでした。

僕は両親が音楽教育者でピアノを専門としていたので、「スーパーピアノレッスン」は家族で観ていました。他にもある番組で、福間さんが音楽院のアナリーゼの授業で発表しているシーンを観たことがあって、その時母に「パリに留学するとは、こういうことだよ!」と言われたのを覚えています。

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それが今こんな形でつながるとは、驚きですね。僕は、吉田誠さんのお名前は存じ上げていましたが、生演奏を聴いたことはありませんでした。実際に共演してみたら、はっきりと音楽のイメージを持っている方で、お互いに意見を交わしながら音楽をまとめていくことがとてもスムーズでした。シンプルに“楽しい”と感じましたね。

クラリネットのデュオ作品は、ピアノパートも内容の濃いものが多いので、僕はどうしても優れたピアニストと共演し、学びたいと思っています。福間さんのソロの演奏を聴いて、一緒に演奏したらこういうアンサンブルができるだろうと想像を膨らませていました。共演して、やはり期待通りの感覚で楽しみ合える相手だったので嬉しかったです。

それはよかった(笑)。吉田さんは、二人の掛け合いの部分はもちろん、僕のパートにもいろいろリクエストをくれて、楽譜のすみずみまで見ている人なのだと思いました。

——初共演のステージで印象に残っている出来事はありますか?

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僕はとにかく音楽の印象が大きかったですけれど……。

僕は他にもありますよ。暗い袖からステージに出てお辞儀をして、ふと見たら、吉田さんが靴を履いていなかったという(笑)。

あの頃、靴を履かないで演奏することにハマっていたんですよ。ヒールの高い靴を履いていると重心が後ろにいってしまうので、身体の使い方を変えたいと、一時期、裸足でステージに出ていました。

僕はそれを知らなかったので、靴を履き忘れて出てきてしまったのかと、ステージ上で“履いてないよ”と言ってしまいました(笑)。

僕も常識はずれなことをしているという自覚があったから気を張っていて、なんでもないみたいな反応をして(笑)。

びっくりしました。でも、僕もわりとよく人と違うことをする方なので、吉田さんにも周りの目を気にせず自分のやり方を貫いてほしいですね。

嬉しいなぁ、温かい優しさを感じますね(笑)。でも最近は、ヒール部分を切ってもらうという方法を編み出したので、ちゃんと靴は履いていますよ!

フランス音楽のさまざまな魅力を感じていただけるプログラム

——今回は、お二人とも留学経験のあるフランスの音楽を中心としたプログラムですね。

テーマ曲のドビュッシー「月の光」から、うまく流れてゆくようなプログラムを考えました。そんな中、ミヨーの「協奏的二重奏曲」は、特に福間さんと演奏してみたいと思った曲です。ミヨーはブラジルをはじめ、いろいろな国を旅して、さまざまな踊りの感覚を体験と知識によって理解している人でした。以前福間さんはダンスをテーマとしたプログラムを演奏していたので、この曲は、お互いのセンスを活かして演奏できるのではないかと思って。
そしてプログラムの最後には、クラリネット奏者にとって大切なレパートリーである、サン=サーンスの「クラリネット・ソナタ」を置きました。

この作品は、初共演のときにも演奏しています。吉田さんが演奏前のMCで、「作曲家晩年の作品で、人生の最後を迎えてそっと本を閉じるように曲が終わる」と話しているのを聞いて、弾き始める直前にジーンとしてしまって。リハーサルの時とは違った感動の中で演奏したことを覚えています。

循環形式のようなスタイルで書かれていて、サン=サーンスが人生を回想しているかのような作品です。そして第3楽章では、ピアノとクラリネットが混ざり合うことによるオルガンのような響きを感じていただけると思います。プーランクやレーガーもそうですが、オルガンのことをよくわかっていた作曲家の多くが、晩年にクラリネット・ソナタを書いています。クラリネットとピアノが混ざり合う響きに、教会のオルガンの音のイメージを投影しているのではないかと最近感じています。

また、僕がソロで演奏するショパンはポーランドの作曲家ですが、後半生はパリで活躍しました。今回は、当時パリのサロンで演奏されたような小品を二つ選びました。なかでも「華麗なる円舞曲」は充実した内容の作品です。一度静かに終わるかと思うと、華やかに光を放つようなコーダがあって閉じられます。ピアノ曲に詳しくない方にはなじみのない作品かもしれませんが、この機会に多くの方に聴いてほしいです。
それぞれの楽器の良さを充分に出しつつ、フランス音楽のさまざまな魅力を感じていただけるプログラムになっていると思います。

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——お互い、フランスで学んだ演奏家ならではの特徴を感じる部分はありますか?

福間さんの演奏を聴いていると、その音色から、フランスにいた方ならではの色彩に敏感な部分がたくさん感じられます。音色が混ざり合うことを楽しめるパートナーです。

僕も吉田さんの優れた色彩感覚には、フランスで勉強した演奏家らしいのものを感じます。色の数が豊かということに加えて、素材や質感までイメージしながら音を追求している方です。

文京シビックホールは管楽器の演奏にとても良いホールで、キラキラと粒子が輝くような、とても好みの響きがします。あの場所でサン=サーンスを演奏したら、きっと色彩豊かな表現ができるだろうと期待しています。

ドビュッシー、ミヨー、サン=サーンスなど、作曲家によって異なるフランス音楽ならではの色彩の世界を楽しんでいただきたいと思います。

プロフィール

高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。
その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。
2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、
「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックVol.13

2017年6月30日(金)19:30開演 文京シビックホール 大ホール

公演情報

「夜クラシック」2017-2018シーズン

お得な“シリーズセット券”(Vol.13~Vol.16)も好評発売中!
(3月31日[金]まで期間限定販売)

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