特集 ~2017年1月27日(金)「夜クラシックVol.11」~ 幸田浩子(ソプラノ)スペシャルインタビュー

ソプラノ 幸田浩子 Hiroko Kouda

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 東京藝術大学を首席卒業。同大学院、及びオペラ研修所修了後、ボローニャ並びにウィーンに留学。
 数々の国際コンクールで上位入賞後、欧州の主要歌劇場へ次々とデビュー。カターニア・ベッリーニ大劇場、ローマ歌劇場、シュトゥットガルト州立劇場等数多くの大舞台で重要な役を演じ、2000年にはウィーン・フォルクスオーパーと専属契約。
 帰国後は新国立劇場、二期会公演などに出演。最近では新国立劇場『ホフマン物語』オランピア、『夜叉ヶ池』百合、びわ湖ホール『リゴレット』ジルダ、二期会『魔笛』パミーナで好評を博し、幸田をかぐや姫役に想定して書かれた『竹取物語』は、日本のみならず海外でも公演されている。
 その他主要オーケストラとの共演や全国各地でのリサイタルなど多彩な活動を展開。
 メディアへの登場も多く、2012年からはBSフジの音楽&トーク番組「レシピ・アン」(毎週土曜午後6時30分)にMCとしてレギュラー出演中。
 CDは『スマイルー母を想うー』をはじめ7枚のソロ・アルバムをリリース。
 第14回五島記念文化財団オペラ新人賞、第38回エクソンモービル音楽賞洋楽部門奨励賞受賞。第3代クルーズアンバサダー(クルーズ振興大使)。
 二期会会員

http://columbia.jp/koudahiroko/

取材・文:高坂はる香 写真:星ひかる

夜の90分の演奏会ならではの気持ちを味わっていただけたらと思います。

——月と夜にまつわる曲が集められた素敵な内容ですが、プログラムはどのように選ばれたのですか?

 今回、「夜クラシック」というコンセプトにインスパイアされて、月をテーマに歌いたいと心の中にあった作品を集めました。プログラムを考えるのはとても楽しかったです。
 というのも、2014年に指揮者の沼尻竜典さん作曲、オペラ「竹取物語」でかぐや姫の役をいただいたことがきっかけで、月に対しての思い入れが強くなっていきました。日本初演後、ベトナム公演などもあったので、2年近くこの作品と共に過ごしました。オペラの中では、月を見ながら誰かを想うという歌詞がたくさん出てくるので、その影響もあって、私自身も月を眺めて過ごすことが増えたように思います。このオペラとの出会いによって、古今東西の作曲家が月を想って書いた曲を集めて歌いたいと思うようになっていたので、「夜クラシック」のお話をいただいたときは、つながった!という気持ちでした。
 今回はシューベルトの歌曲や、ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」の“月に寄せる歌”、そしてこの「竹取物語」からのアリアなど、月とのいろいろなシーンが思い浮かぶ作品を選びました。
 普段の演奏会であれば、途中にビビットな作品を織り交ぜたりします。でも、今回はテーマが「夜」とはっきりしていますし、このシリーズのファンで、それぞれの演奏家が思う夜はどんなものかしらと聴きにいらっしゃる方も多いと思いますので、あえてしっとりとした雰囲気の作品だけを集めました。夜の90分の演奏会ならではの気持ちを味わっていただけたらと思います。

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——月にまつわる作品がこれだけたくさんあるということは、多くの作曲家が月に魅せられていたということなのでしょうね。幸田さんは、月のどのようなところに魅力を感じますか?

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 お月さまって、女性的ですよね。形が満ち欠けして変化するし、色も柔らかいクリーム色。ベールがかかったような輝きは、ソプラノの声に合うように思います。
 月を眺めていると、切なくなったり、心がいつもより素直になったり。そして、夜の闇の中でも、月が輝いていると、守られているような気持ちになります。ゲーテの詩によるシューベルトの歌曲は、まさにそのような世界を描いていますね。
 今回は、河原さんによるピアノの独奏で、「竹取物語」から“月の間奏曲”もお送りします。これは、オペラの中で沼尻さんが最初にお書きになったそうで、本当に素敵な曲です。物語中では、この間奏曲の間、かぐや姫はただ座って月を見ているのですが、そのうちに想いが溢れて泣き出してしまいます。お稽古の間から本番まで、繰り返しそんなシーンを経験したことで、月の存在が自分の中でどんどん特別なものになっていきました。 
 私はもともと、お天気の良い日に太陽が輝いていればそれだけで嬉しいという、健康優良児がそのまま大人になったようなタイプなのですが(笑)、この竹取物語と出会ったせいか、最近、月にとってもシンパシーを感じるようになりました。

河原さんのピアノがどんな夜と光の輝きを表現してくださるのか、
今からわくわくしています。

——日本のオペラ作品では、香月修さん作曲「夜叉ヶ池」から“百合の子守歌”も歌われますね。

 私にとって、「夜叉ヶ池」は、日本のオペラに対しての取り組み方を変えてくれた大切な作品です。初演で百合の役をいただいた際、初めて“百合の子守歌”の楽譜を拝見した時から、こんなにも切なく愛しい歌があるのね、と感動し、大切に歌っていきたい作品となりました。普段のリサイタルではなかなか取り上げる機会がありませんでしたから、今回はとても良い機会をいただきました。

——オープニング曲の「月の光」に続き、最初に歌われるシューベルトには、どんな想いがありますか?

 シューベルトの歌曲は、歌手を目指す人にとって、学生時代に勉強するレパートリーの一つです。私の場合は大学を卒業後、長らくシューベルトから離れていました。それはオペラなどに関連する他のレパートリーに興味が向いたのと、どこか、学生時代に“お勉強していた”という印象がしみついていたからかもしれません。
 ですが、数年前からもう一度シューベルトと向き合う機会があり、“ピアノと歌と詩”というシンプルな佇まいを、とても素敵だと思うようになりました。そして今、シューベルトの音楽が持つ静かな世界を見直していきたいという時期に入っているのかもしれません。そのように学生のころとは異なった感覚で作品に向き合っています。
 今回は、河原さんの包容力のあるピアノとの共演で、シューベルトの作品がどのようになるのかとても楽しみにしています。同じように 「ムーンリバー」や「星に願いを」など、クラシックと違って楽譜に細かい指示がない作品で、河原さんのピアノがどんな夜と光の輝きを表現してくださるのか、今からわくわくしています。

それぞれ自由な想いに浸っていただけると嬉しいです。

——国内外の劇場でオペラにも多く出演されていますが、オペラとリサイタルでは、ステージでの感覚やお客様との距離感などに違いがありますか?

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 とても違いますね。オペラでは、もちろん物語の役になりきっていますし、お客様もそのストーリーを楽しんでいらっしゃいます。でも、リサイタルは、もっとパーソナルな感覚で舞台に立っています。ですから、今回も私の大好きな作品を取り上げました。お客様も、曲を聴きながら、あの月が美しかったとか、あの人はどうしているだろうかなど、それぞれ自由な想いに浸っていただけると嬉しいです。

——文京シビックホールやホールがある「後楽園」についての思い出などはありますか?

 ホールの近くに遊園地があるので、終演後はジェットコースターに乗って遊んで帰れる場所、という印象でしょうか(笑)。実はこの夏、姪っ子が東京に遊びに来た際、一緒に観覧車やジェットコースターに乗ったばかりなんです。絶叫マシンでは、なるべく声は出さないようにしています(笑)。

——最後に、公演を楽しみにされているみなさんにメッセージをお願いします。

 コンサート当日、お天気に恵まれるかはわかりませんが、終演後に月を見上げて、大切な誰かに会いたくなるような、そして、愛しい人がより愛しくなるような、そんな演奏会にできたらと思っています。てるてる坊主を下げて、当日晴れるように皆さんも祈っていてください!

プロフィール

高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。
その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。
2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、
「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシック Vol.11

2017年1月27日(金)19:30開演 文京シビックホール 大ホール

公演情報

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