2016年6月11日(土)・12日(日) 特集 ~『バレエ・エデュケーション・シリーズ in Bunkyo 牧阿佐美バレヱ団60周年記念公演シリーズⅥ 「ノートルダム・ド・パリ(全2幕)」』~ 菊地 研 清瀧千晴 ラグワスレン・オトゴンニャム スペシャルインタビュー

“ダンスの魔術師”の異名を持つ振付家ローラン・プティが生み出した20世紀最高のスペクタクル・バレエ《ノートルダム・ド・パリ》。

 20世紀を代表する振付家として、バレエ史に残る多くの作品を生み出したローラン・プティの代表作。イヴ・サン=ローランの色鮮やかでスタイリッシュなデザインの衣裳、映画『アラビアのロレンス』の作曲家モーリス・ジャールの音楽、舞台美術や画家・映画監督など多才なルネ・アリオが創り出すノートルダム大聖堂。同時代のファッション、アートの優れたクリエイターも参加して、文豪ヴィクトル・ユーゴー原作の濃密な物語世界から、人間の愛と死を鮮やかに描き出した傑作。

ストーリー

 大聖堂の司教代理フロロの庇護のもとで鐘突きの仕事をする男カジモド。その醜い姿を誰からも嘲笑されるばかりだったカジモドに、初めて優しさを見せたのは美しい移動型生活者の女エスメラルダでした。一方、エスメラルダと歩兵隊長フェビュスが愛し合う姿に、強い嫉妬と怒りを覚えるフロロ。フロロはフェビュスを殺し、その罪をエスメラルダに着せようとします。カジモドとエスメラルダが心を通わせる優しく切ないパ・ド・ドゥ。厳格で冷酷なフロロが密かに女に魅了され、苦しみ悶える心の葛藤。プティの振付は人物の心情を細やかに語り、愛と死のドラマを描き出します。

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牧阿佐美バレヱ団ダンサー 菊地 研 Ken Kikuchi

 16歳でプティ振付「デューク・エリントン・バレエ」のソリストに抜擢、一躍注目を集める。「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「リーズの結婚」「ラ・シルフィード」「白鳥の湖」「ノートルダム・ド・パリ」、新国立劇場バレエ団「椿姫」に主演する他、ダイナミックな踊りと華やかな個性で「ノートルダム・ド・パリ」のフロロ、「ライモンダ」のアブデラクマン、「眠れる森の美女」のカラボス等を巧みに演じる。02年こうべ全国洋舞コンクール男性ジュニアの部1位。06年舞踊批評家協会賞・新人賞受賞。

牧阿佐美バレヱ団ダンサー 清瀧千晴 Chiharu Kiyotaki

 日本ジュニアバレヱ、AMステューデンツ、橘バレヱ学校などで学ぶ。「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「リーズの結婚」「ロメオとジュリエット」に主演。優れた技術と豊かな音楽性でファンを魅了する。 04年埼玉全国舞踊コンクール・成人の部1位、07年全国舞踊コンクール・バレエ第一部1位。

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牧阿佐美バレヱ団ダンサー ラグワスレン・オトゴンニャム Lkhagvasuren Otgonnyam

 モンゴル国立音楽舞踊学校で学び、2000年、モンゴル国立バレエ団に入団。「ドン・キホーテ」「くるみ割り人形」と創作バレエの主役のほか、「ジゼル」のヒラリオン、「ロミオとジュリエット」のマキューシオ、パリス、ベンボーリオ、「白鳥の湖」のロットバルト、道化など多くの役柄を踊る。07年より牧阿佐美バレヱ団公演に参加。ドミニク・ウォルシュ振付「牧神の午後」の牧神、優れたリズム感で「デューク・エリントン・バレエ」のソロ・パート“Mood Indigo / Dancers in Love”などを踊っている。

取材・文:守山実花 写真:三浦興一

色々なものが積み重なって、
パフォーマンスになると、目が釘付けになる

——「ノートルダム・ド・パリ」はローラン・プティさんの代表作です。今回の上演では、菊地さんはノートルダムの鐘つき男カジモドを、清瀧さん、オトゴンニャムさんはカジモドを庇護する司教代理フロロをダブルキャストで演じられます。

菊池:カジモドを踊るのは2012年に続き二回目です。前回のリハーサルでは何をやっても、振付指導のルイジ・ボニーノさんに全否定される毎日でした。やっても、やっても、「ダメ」。本当に苦しみました。僕は、頭で考え、わかりやすい形として表現しようとしていたんです、背中が湾曲しているので、片方の肩をあげて…というように。ルイジさんはそこを見抜く。その状態から突き抜けるまでが大変でしたが、結果としては、内側からカジモドとして表現できるところまでたどり着けたのではないかと思います。
今回は周りのメンバーも違うし、パートナーも前回とは違います。新しい作品としてまたゼロからのスタートです。

清瀧:作品は全体的に抽象的な感じを受けます。シンプルだけど、美術やイヴ・サン=ローランの衣装の配色もデザイン性が高く、視覚的な印象が強い。振付もそれにマッチし、クラシックを基本にした動きですが、抽象化されています。舞台から強いエネルギーが伝わってきます。
フロロは、周りが色鮮やかな中で、一人だけ黒い衣装で際立った存在です。黒という色は、普通だったら見えない存在なのに、黒がすごく浮き上がって見える。負のオーラがあり、悪役だけど、どこかかっこいい印象です。
僕がこれまで全く演じたことのないタイプの役なので、この役を通じてまた違った面が出せたらいいですね。

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オトゴンニャム:
どなたが観てもわかりやすい作品だと思います。出てくるキャラクターもそれぞれはっきりしていて、カラーがある。その中でフロロはかっこよくてすごく目立つ、いつかやってみたいと思っていた役です。内側に大きな何かがこもっていて危うく爆発しそうなところを、自分の力で抑え込んでいる。そこを表現できたらいいなと思っています。

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清瀧:肉体的に大変な作品なので、それに耐えられる身体を作ることも必要です。

菊池:かなりハードな踊りです。それを何度も繰り返しリハーサルするので頭が真っ白になってきますが、そこでさらに「もう一回」と言われる。本当に失神しそうになったこともあります。

オトゴンニャム:
周りもきついですね。ダンサーたちはかなりハードです。振付もかなり詰め込まれているので、一つでも動きを間違えたら、大事故になってしまいます。
色々なものが積み重なって、パフォーマンスになるとすごいエネルギーが出て、目が釘付けになる。

清瀧:群舞が心情表現をしていて、真ん中がそれに乗せて踊る。一枚の絵という感じがします。

衣装に注目したり、音楽だったり、その人の興味で観方が変わる

——プティさんの振付には、クラシック・バレエにはない独特の動きも出てきます。

清瀧:規則正しく動く、例えば90度に脚を曲げるなどの単純な動きを、物凄い速さで、正確さで行う、といったところがあります。訓練を積み重ねたバレエダンサーの身体で瞬発力を使って、パッとやるからインパクトがある。クラシック・バレエは決まった型があり、そこから発展していますが、それをいったん白紙に戻して、基本的な単純な形を身体で作るのがセンセーショナルでした。

菊池:プティさんはポジションに本当に厳しく、正確なものを徹底して求められました。

清瀧:クラシックにはない足を揃えるポジションも使いますが、その時は少しでも開いたらダメ。確実に揃える。開くポジションであれば正確に開く。簡単なことのようですが、それが難しい。

オトゴンニャム:
お客様には難しい動きには見えないと思います。

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菊池:ストーリー自体も難しくない。前回友達を誘ったのですが、初めてバレエを観た人たちも皆よくわかったと言っていましたし、衣装に注目したり、音楽だったり、その人の興味で観方が変わるんですよ。

——菊地さんはプティ作品で衝撃的なデビューをされましたね。プティさんの印象はいかがですか?

菊池:思い出がいっぱいありすぎて…。まず出てくる言葉は“厳しい人”。そして面白いものが大好きで、新しい発見を求める人でした。相手から色々なものが出てくるのを待っている人でしたから、僕は思いっきり自分をぶつけて、色々なものを引き出して貰いました。
前回の公演が終わったあと、色々報告したくて、お墓参りにフランスに行きました。

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オトゴンニャム:
明るい人という印象です。僕は直接リハーサルを受けたことはないのですが、リハーサルは観たことがあって、休憩時間は誰かとふざけたりしていたのに、仕事になると厳しくなる様を目の当たりにしました。

菊池:いつも目に力が宿っているんです。

清瀧:常に貪欲に何かを求めていると感じました。プティさんの作品を経験したことで、自分に足りない部分がわかってきて、客観的にどう自分を見せるか考えるきっかけになりました。 肉体的にも精神的にも鍛えられましたし、表現することについて考えさせられました。

ダンサーと客席の皆さんが共有できるところも最高の芸術だと思います

——バレエをあまりご覧になったことのない方にバレエの魅力を伝えるとしたら?

清瀧:バレエは総合芸術です。言葉はありませんが、音楽やダンサーの肉体が語りかけます。だからこそ観る人も作品の一部になれるのではないでしょうか。同じものを観ても、感じ方はそれぞれですし、ダンサーが違えば、また観る方が感じるものも違ってきます。そして舞台は一回限りのもの、同じ作品であっても毎回まったく同じではない、同じ瞬間は二度とない。その一瞬の空気をダンサーと客席の皆さんが共有できるところも最高の芸術だと思います。

オトゴンニャム:
僕は、最初はモンゴルのサーカス学校に行って、そのあとでバレエを始めました。最初は身体をバレエの規則にはめないといけないのがしんどくて、もっと自由に遊びたいなと感じていた。でも卒業近くなり、色々な作品に触れて、表現の幅を知るうちにバレエが楽しくなってきて、自分も様々な作品を踊りたい、海外で踊りたいと思うようになりました。夢がかなって、こうして日本で踊っています。

菊池:そういえばそうでした。違和感がなくて、言われるまで忘れてました。

オトゴンニャム:
もう自分が外国にいるって感覚がないですね。日本人だと思っています。(笑)
バレエは誰が見ても分かりやすいし、またそうなるように演じたいといつも思っています。さっき千晴(清瀧)も言ってたけど、同じ作品でもそれぞれのダンサーの表現になりますし、どんな動きもそのとき一回限りのもの、そこが魅力です。

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——バレエというと、難しいんじゃないか、わからないんじゃないかと躊躇してしまうという声もあります。

菊池:まずは舞台を観てください。言葉を話さないからこそ、わかる、感じられることがあります。

オトゴンニャム:難しく考えすぎずに観てくだされば、きっと何かが伝わってきます。

清瀧:体幹を鍛える、身体の均整を整える面から、バレエがいかに身体能力を引き出すかが注目されています。一度観ていただければ、しなやかさ、身体能力の高さにも興味を持っていただけるのではないでしょうか。

菊池:女の子を連れてバレエでデートなんてかなりおしゃれだと思うんですよね。チケットは学生割引もあるし。

清瀧:文京シビックホールはアクセスもいいし、バレエの後は後楽園で…(笑)、かなり充実した、かっこいいデートじゃないかな。

——楽しいお話しをありがとうございます。最後にメルマガをご覧のみなさんに一言ずつお願いします。

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清瀧:つくる側も物凄いエネルギーを使って、舞台をつくっています。プティ、サン=ローラン…素晴らしい先人たちが作ってきた作品なので、演じる僕たちも楽しみにしています。期待していらしてください。

オトゴンニャム:
音楽も面白いですし、ストーリーもわかりやすいですから心配は無用です。僕が初めて演じる役フロロ、どんな風にできあがったのかを是非ご覧ください。

菊池:今回もゼロに戻って、一からまた新鮮なものをつくりあげるために精一杯努力します。観てくださる方に舞台の熱が伝わることを祈って、取り組んでいます。

プロフィール

守山実花

バレエ評論家。新聞、雑誌、公演プログラムなどに、作品解説、インタビュー記事、公演評などを執筆。
これまでに200人を超えるダンサー・振付家へのインタビュー取材を行っている。
現在は尚美学園大学非常勤講師。清泉女子大学生涯学習講座ラファエラアカデミアなどでバレエ鑑賞講座を担当。
「魅惑のドガ」監修・著(世界文化社)「バレエDVDコレクション」監修・著(デアゴスティーニ・ジャパン)ほか。

バレエ・エデュケーション・シリーズ in Bunkyo 牧阿佐美バレヱ団60周年記念公演シリーズⅥ ノートルダム・ド・パリ

2016年6月11日(土)17:00開演 12日(日)14:00開演 文京シビックホール 大ホール

公演情報

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