1987年ヴェローナ生まれ。アンドレア・バッティストーニは、国際的に頭角を表している若き才能であり、同世代の最も重要な指揮者の一人と評されている。2013年1月よりジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場の首席客演指揮者に、年間にオペラ2作品、交響曲公演2プログラムを指揮する3年契約で就任。
2015年、東京フィルハーモニー交響楽団首席客演指揮者に指名された。
東京では「ナブッコ」(二期会)等のオペラ、ローマ三部作等の交響曲プログラムで東京フィルを指揮し、そのカリスマ性と繊細な音楽性でセンセーションを巻き起こした。2015年東京フィルとのコンサート形式「トゥーランドット」では批評家、聴衆両者に対し音楽界を牽引するスターとしての評価を確立。東京フィルとは日本コロムビア株式会社より3枚のCDを発表している。
注目すべきキャリアとしては、スカラ座、トリノ・レージョ劇場、カルロ・フェリーチェ劇場、ヴェニス・フェニーチェ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、スウェーデン王立歌劇場、アレーナ・ディ・ヴェローナ等と共に、東京フィルハーモニー、スカラ・フィルハーモニー、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー等世界的に最も著名なオーケストラ等とも多くの共演を重ねている。
今後の予定としては、アレーナ・ディ・ヴェローナ、トリノ・レージョ劇場、バイエルン国立歌劇場、中国国家大劇院、シドニー・オペラハウス等への出演がある。
最初の出会いは、2012年二期会でのヴェルディのオペラ「ナブッコ」です。そのときすぐ、東京フィルとのコラボレーションに面白さを感じました。なぜなら日本のオーケストラでイタリアの音が出たからです。彼らは最初から私の意図を理解してくれましたし、その後レスピーギやマーラー、ドヴォルザークといった様々な音楽を共にする内に、第一印象の良さがさらに強まりました。そこでオペラとコンサートの双方をより深めていきたい気持ちが生まれ、継続して指揮できるポストに就いたわけです。
オペラを熟知したオーケストラであるのは、とても大事なことです。オペラでは色々なことが起きますし、様々なスタイルの楽曲を演奏しますから、柔軟で素早い対応が身に付き、指揮者のアイディアも即座に実現できます。それゆえシンフォニックな作品におけるアプローチの仕方やファンタジーの表現にも長けてきます。つまり音でストーリーを描き、ドラマを語れるということ。オペラをよく知る東京フィルは、シンフォニーにおいても優れた点が多々あると思います。
特別なことは何もしていませんが、私はまずコミュニケーションが大事だと考えています。それが上手くいっていれば、リハーサルでも細かな要求が可能になります。その点、東京フィルのメンバーとの付き合いはとても良好で、色々な話をし、友情も育っています。また、東京フィルはテクニカルな面では最高のレベルにありますので、ドラマ性や色彩の変化を大事にし、作曲家や作品のパーソナリティを共に探求するよう努めています。
イタリアのオーケストラ音楽を軸にしました。イタリアの作曲家といえばオペラが浮かぶと思いますが、このプログラムを見れば、シンフォニックな分野に関しても偉大な存在であったことを、おわかり頂けるでしょう。
ロッシーニは、単なるオペラの導入ではなく、発展的な内容の序曲を書いています。特に「セミラーミデ」は、非常にドラマティックで、英雄的な面や戦いの雰囲気がよく出ています。彼の代名詞である「ロッシーニ・クレッシェンド」(※1)が、とりわけ特徴的に使われるなど、ロッシーニの典型的な部分を味わえるのも魅力です。
※1 長いスパンで音が徐々に大きくなる
でもメンデルスゾーンは、交響曲第4番「イタリア」を残したように、この地をよく知っていました。何度も旅行し、作曲家たちと交流してもいます。それに彼は抒情性に優れた作曲家で、言葉を付ければオペラのアリアになるようなメロディを書いており、この曲もそうした面をもっています。
初めての共演です。協奏曲は、とにかく一緒に演奏し、互いにインスピレーションを与え合うことが大事。共演をとても楽しみにしています。
プッチーニのオペラ以外の曲を聴いて頂けるのは、とても嬉しいですね。この曲は、ミラノ音楽院時代の集大成であり、師匠のポンキエッリや彼が大好きだったマスネ、さらにはワーグナーの影響が色濃い作品です。ただそれだけでなく、彼のオペラで特徴的なロマンティックで抒情的な部分も表現されています。彼がこの曲を大事に思っていたのは、主要テーマを後の名作、歌劇「ラ・ボエーム」の冒頭で使ったことにも表れていますね。
レスピーギは、マリピエロやカゼッラなどと共に、1880年頃生まれたイタリアの代表的作曲家の一人です。ただ、オペラに距離を置き、ドイツ的な器楽曲に向かった他の作曲家とは違って、両方を大切にしました。「ローマ三部作」は、オペラの伝統を生かしながら、20世紀の近代的なオーケストレーションを併せ持つ作品。だからこそ個性的な名曲になったと思います。
クラシック音楽の良いところは、深く探究して新たな面を発見できること。ですから新たな要素を追求し、より良く、より面白い演奏をしたいと思っています。サントリーホールやCDで聴かれた方も、またぜひ聴いて欲しいですね。
初めてのホールでの演奏は、新しい海を航海するようなもの。水質や航法を短時間で確認しなければいけません。ですから音量や残響などをチェックし、ホールの良い面を生かすために、できる限りのことをやります。今回は特に「ローマの松」のバンダ(※2)が効果的に響く位置を見つける必要がありますね。
※2 主舞台以外で奏する別働隊。同曲ではトランペットやトロンボーンなど
重要なのは、音の色彩をどう使って、音楽のストーリーやポエムをいかに表現するか? です。そこをもっともっと深め、個性のある音が出せるよう共に努力していきたい。具体的に言うと、今年秋に、日本を舞台にしたマスカーニのオペラ「イリス」をコンサート形式で演奏しますが、有名な「カヴァレリア・ルスティカーナ」に劣らないこの名作の輝きや美しさをどう引き出せるか? それをとても楽しみにしています。また今後は、このような隠れたイタリアの名作を紹介すると同時に、自分の感性に合うマーラー、ラフマニノフ、チャイコフスキーなども取り上げていきたいと考えています。
まずは好奇心を失わないこと。過去の伝統的な演奏が耳に焼き付いている名曲を、初めて聴くかのように演奏することが大事だと思っています。もちろん名曲へのリスペクトは忘れないようにしながら、自分たちのために書かれた現代の音楽としてビビッドに表現したいのです。
沢山いますが、あえて一人挙げればトスカニーニ(※3)です。彼の音楽は今聴いてもフレッシュで、現代の学術的な研究のもとでも成り立っています。それはまるで昨日の録音のよう。1940〜50年代の演奏とはとても信じられません。
※3 20世紀半ばのイタリアの大指揮者
読書がすごく好きで、主に小説や学術書を読みます。旅行が多い仕事なので、本がお供です。
仕事で行く場所以外はあまり観ていないのですが、観光地でなくとも、その町らしいところ、例えば上野の東京文化会館の近くにある寛永寺が好きですね。メランコリックな雰囲気がとても美しい。
音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、
CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も
受け持つなど、幅広く活動中。
文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。