特集 ~極上の音楽で安らぎのひとときを~ 中野将太(ピアノ)×金子三勇士(ピアノ)スペシャルインタビュー

ピアニスト 中野 翔太

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 茨城県つくば市生まれ。5歳からピアノを始める。江戸弘子に師事し、1999年からジュリアード音楽院プレ・カレッジに留学。その後、同音楽院に進み、ピアノをカプリンスキーに、室内楽をパールマンに師事、2009年に同大学院を卒業。これまでに明治安田生命クオリティオブライフ文化財団、財団法人江副育英会の助成やソニー・フェローシップ・グラントを受けている。1996年第50回全日本学生音楽コンクール小学生の部で全国1位および野村賞受賞。これまでにバーメルト指揮/N響、デュトワ指揮/N響、小林研一郎指揮/読響、小澤征爾指揮/ウィーン・フィル、国内主要オーケストラと共演。リサイタルでは、2007年トッパンホール、2009年紀尾井ホール、2012年東京文化小ホールなど毎年意欲的な活動を続け、最近では、ジャズの松永貴志と即興も交えた2台ピアノの演奏でも各地で好評を得ている。CDは、オクタヴィア・レコードより、「シューマンピアノ曲集」、「ガーシュウィンピアノ曲集」に加え2014年6月ラヴェル作品を中心とした『ラ・ヴァルス~ラヴェル&コリリアーノ:ピアノ作品集』が発売された。3枚のCDはいずれもレコード芸術誌の特選盤、”ガーシュウィン”は、あわせて優秀録音盤に選出されている。2014年6月には、アシュケナージ指揮/NHK交響楽団と共演、豊かな表現力と透明感のある響きで好評を得る。2015年10月、東京文化会館小ホールにてリサイタルを予定。第15回出光音楽賞受賞。

ピアニスト 金子 三勇士

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 1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校にてチェ・ナジュ・タマーシュネーに師事。2001年、11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学、エックハルト・ガーボル、ケヴェハージ・ジュンジ、ワグナー・リタに師事。2006年に全課程取得とともに帰国。東京音楽大学付属高等学校に編入し、清水和音、迫昭嘉、三浦捷子に師事。2008年、バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々の国際コンクールで優勝。これまでに、ゾルタン・コチシュ指揮/ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団(現日本センチュリー交響楽団)と共演。海外ではハンガリー、アメリカ、フランス、ドイツ、オーストリア、スイス、ギリシャ、ルーマニア、チェコ、ポーランド、中国などで演奏活動を行なう。東京音楽大学大学院修了。ハンガリー国立リスト音楽院大学博士課程に在籍。

取材・文:オヤマダアツシ 写真:三浦興一

「これはおもしろくなる」という予感はありました。

お二人はそれぞれソロ・ピアニストとして活躍されていますが、ピアノ・デュオ(2台ピアノ)を組んだきっかけは何だったのでしょうか。

中野:同じ音楽事務所に所属しているのですが、その中に同年代のピアニストが少なく、あるとき事務所の新年パーティーで話をしたのがきっかけでしたね。僕はジャズ・ピアニストの松永貴志さんとデュオでコンサートをしていますが、とても刺激を受けましたし、自分でも即興演奏に挑戦するなどいい経験ができました。ですから、もっといろいろなタイプのピアニストと共演したいと思っていました。

金子:僕はハンガリーに住んでいた頃からピアノ・デュオに興味がありましたけれど、一緒に演奏してくれるピアニストが見つからず、年齢差のある相手だとディスカッションがしづらいかも、という心配もあって遠慮気味でしたが、日本に帰ってきて「やっと相手が見つかった!」と思いました。

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中野:デュオとしてのお披露目は2012年の「仙台クラシックフェスティバル」でした。二人ともソロではレパートリーも違いますし、音楽的なスタイルが似ているわけでもないのですが、リハーサルをしてみたらとても息が合って、すぐに「これはおもしろくなる」という予感がしました。

このデュオがどう変化していくのかを自分たちも楽しんでいきたい。

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デュオを組んでみて、なにか発見はありましたか。

金子:初めて演奏した曲は、今回の『夜クラシック』でもお聴きいただくホルストの「木星」でしたが、二人ともレパートリーにない未知の曲でしたから新鮮な気持ちで取り組め、それがよかったのかもしれません。2人の感覚が似過ぎてしまうともめ事が起きたり、相手が自分に見えてくるような気がして落ち着きませんからね。それに二人とも「とりあえず演奏してみて、そこから考えようか」というタイプの人間なので、リハーサルもやりやすいです。

中野:自分が普段は弾かないような曲を演奏できるのは、いい刺激になりますね。たとえば、ハンガリーのことをよく知る彼とブラームスの「ハンガリー舞曲」を一緒に演奏できるのはいろいろと勉強になりますし、今後のソロ活動にもいい影響を与えていくと思えます。

金子:逆に僕の場合は、近現代のアメリカ音楽やジャズに近い曲などに取り組むことができ、ミヨーの「スカラムーシュ」も新鮮な気持ちで演奏しています。実はときどき、互いのパートを交代して弾いてみるのです。そうすると相手が何を弾いて、どこが難しいのかが分かり、自分も別の方法を試してみようと思えます。これは、決してソロではできない経験ですね。

中野:最近、僕たちがデュオをやっているということを少しずつ知っていただけるようになり、コンサートも徐々に増えてきました。若いうちにいいパートナーと出会えてよかったと思いますし、時間をかけてレパートリーを増やしながら、このデュオがどう変化していくのかを自分たちも楽しんでいきたいと思っています。

今回ピアノ・デュオで演奏されるミヨー作曲の「スカラムーシュ」と、ホルスト作曲の「木星」についてうかがいます。

中野:「スカラムーシュ」はフランスの作曲家による曲ですが、サンバなどブラジル音楽の影響を受けており、ピアノ・デュオの定番と言える作品ですね。これは外せません。リズムの取り方がクラシックとはまったく違いますし、アクセントの置き方によって別物の音楽になってしまうという曲です。

金子:もう「やろう、やろう!」という勢いで、あっさりと決まりました。南米風でもあるしヨーロッパ的なものも感じるし、こういう曲でどこまで遊べるかも演奏者としては楽しみです。ホルストの「木星」は、初めて二人が共演した曲ですし、最初からうまくいきましたので、これも「もちろん、演奏するよね!」と。

中野:もともとはオーケストラの曲ですから迫力がありますけれど、ピアノ・デュオになると違った迫力や魅力が出てきますし、今の自分たちを聴いていただくのであれば、やはりこの曲が一番でしょうね。

金子:作曲者による編曲譜を使っていますが、弾くときのパワーを要求される曲なので、ガーシュウィンやリストを得意としている僕たちには向いていると思います。いらっしゃる皆様はオーケストラのイメージをお持ちだと思いますので、それを裏切らない演奏をお届けできるでしょう。

安心して自分が得意な曲を選ぶことができます。

それぞれソロで演奏される曲について、ご紹介ください。

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金子:まず僕は、リストの「スペイン狂詩曲」を演奏しますが、有名な「ハンガリー狂詩曲」などと比べると、あまりコンサートで聴けるチャンスのない珍しい作品かもしれません。いかにもリストの曲らしい派手な雰囲気もありつつ、スペイン風のメロディやリズムが使われており、異色の作品だと言えるでしょう。僕はハンガリーで暮らしていたこともあって、音楽家としてのリストや彼の曲に憧れていますから、気持ちの上では自分に一番近い音楽だと思っています。

中野:僕も、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を選んでしまうのは、やはりニューヨークで暮らしていたからですね。ガーシュウィン自身も生活していた街ですし、今の自分を一番出せる音楽だと感じています。彼はポピュラー・ミュージックの音楽家でしたけれどクラシックに憧れ、ほぼ独学でクラシックの作曲法やオーケストレーションを学びました。僕は逆にジャズへの憧れが強く、いろいろなものを吸収したいと思っていますから、そういったところでもガーシュウィンに共感できるのです。

金子:デュオのコンサートでは互いにソロも弾きますが、プログラムを決める時、主要なレパートリーが違うのでほとんどかぶることがありません。だから安心して(笑)、自分が得意な曲を選ぶことができます。

中野:ただ二人とも、興味がある作曲家や曲が少しずつ変わってきたり、興味の範囲が広がっていますので、もっと面白くなるでしょうね。今回の選曲はそうした意味で、自分たちが得意とする曲をお楽しみいただくコンサートになると思います。

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ところで、お二人は音楽以外では、いま何を楽しんでいらっしゃいますか

中野:僕は10代後半の頃、偶然にテレビで観て以来、F1レースの観戦に夢中ですね。毎戦欠かさず、観られないときは録画をしているくらい好きなんです。ジュリアード音楽院へ留学したときにニューヨークへ行ったら、アメリカではまったく人気がなくて放送もなく、仕方がないのでF1を観るためだけにわざわざ新しいチャンネルを契約しました。今年はホンダが復帰しますので、もちろんマクラーレン=ホンダを応援します。

金子:自分で夜中に高速を飛ばしたりはしていない?

中野:それが、逆で、おとなしい運転なんです。

金子:乗り物といえば、僕はハンガリーにあるトロッコ電車の運転免許を持っているんだけど。

中野:え!そんなこと初めて聞いたよ。

金子:子供の頃に遊びで車掌さんのお手伝いをしていたら気に入られて、そんなに好きなら運転の資格を取ればいいと薦められて取得しました。せっかく合格したと思ったら日本に帰って来たので、僕の運転士生活はとても短かいものでした。

中野:今はまさか、日本で運転士の勉強をしていないよね。

金子:そんな余裕はないです。僕は料理をしたり、お笑いを観たりするのが好きですけれど、今一番面白いと思っているのは生け花です。ハンガリーに住んでいた頃から日本的なものに触れたいと思っていたところ、仕事で次期家元になる方と偶然知り合うことができ、時間を作っては教室へ通っています。もちろんまだまだ初心者レベルですが、生け花の精神性や空間の取り方など、音楽との共通点も多いので奥深いですね。趣味というより、本格的な習い事です。(中野さんに)お薦めだよ。

中野:いやあ僕は、似合わないなあ。料理は僕もするけれど、どういうものを作るの?

金子:ハンガリーの煮込み料理も作るし、最近はカレーがブーム。スパイスから作ることもあるし、作った人だけ種類があるというくらいだから、何度作っても面白いんですよ。料理はメニューを決めてから作るのではなく、今ある材料から考えて作る方が楽しいです。

中野:それは本当に料理上手な人だよ。僕はそんなに凝った料理はしないけど………最近は豚しゃぶかな。

金子:こだわり過ぎて豚から育てているということは……ないよね?

中野:(笑)そんなことをしていたらピアノを弾く時間がなくなるじゃない。そういえば『夜クラシック』ではドビュッシーの「月の光」も演奏するお約束!どうしようか。

金子:二人羽織で弾くのはどうかな。当日までのお楽しみとして、考えます!

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プロフィール

取材・文オヤマダアツシ

音楽ライター。音楽家のインタビュー記事、コンサートのプログラムノート等を中心に執筆。
『ぶらあぼ』『ぴあクラシック』『モーストリー・クラシック』『ショパン』等で記事を執筆するほか、クラシック音楽の魅力を伝える音楽講座なども担当。
著書に『ロシア音楽はじめてブック』(アルテスパブリッシング刊)。共著は多数。

夜クラシックVol.5  中野翔太  金子三勇士 ~フレッシュな感性と情熱の2台ピアノ~

2015年8月28日(金)19:30開演 文京シビックホール 大ホール

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公演情報

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