春風亭一之輔 インタビュー

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 昨年、先輩落語家21人を追い抜いて真打(しんうち)<*>に昇進し、落語界を騒然とさせた春風亭一之輔が、2013年9月13日(金)の「文京シビック寄席」に初登場。自身がパーソナリティを務めるラジオ番組『SUNDAY FLICKERS(サンデーフリッカーズ)』の公開収録を兼ねた、いつもとはひと味違う落語会!

今、ひときわ注目を集める春風亭一之輔。ラジオ番組収録スタジオにおじゃまして、落語の魅力や楽しみ方について話を聞きました。

<*>真打…落語家の最高の位

落語家 春風亭 一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)

1978年生まれ。千葉県出身。2001年3月、日本大学芸術学部を卒業。同年5月春風亭一朝に入門。同年7月、前座となる。前座名は「朝佐久」。2004年11月、二ツ目昇進。「一之輔」と改名。2012年3月、真打昇進。

2005年5月、岡本マキ賞。2008年6月、国立演芸場花形演芸大賞銀賞。同年10月、東西若手落語家コンペティション優勝。2009年2月、北とぴあ若手落語家競演会大賞。2010年10月、NHK新人演芸大賞。文化庁芸術祭新人賞受賞。
2012年6月、国立演芸場花形演芸大賞大賞。

ラジオ番組『SUNDAY FLICKERS』メインパーソナリティ。
毎週日曜日朝6時~8時30分生放送。JFN系FM全国27局ネット。(放送局により放送時間は異なります)

未知なる「大人の世界」を知った高校時代

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——落語との出会いを教えてください。

 春日部高校でラグビー部に入っていたのですが、根性が足りなくて(笑)、2年生の春に辞めたんです。持て余した放課後の時間に、浅草の街をふらふらしていたら、のぼりがひらめいている場所に目が留まりました。そこが浅草演芸ホールだったんです。
 初めての寄席(よせ)<*1>は、周りのお客さんも大人ばかりだし、登場する芸人も、おじいさんやおばあさんが多かったものですから、同級生も知らない「大人の世界」を知ったという感じでした。そしてさまざまな芸人が15分ずつ演芸をしてお客さんを笑わせ、スッと袖に帰っていく。その去り際の格好良さに惹かれました。
 芸人には面白い人もいればつまらない人もいます。でもそこが魅力なんですよね。演芸の流れも、若手がガンガン笑わせた後はおじいさんが出てきて軽い噺をしたり、どこかで息を抜けるような構成になっていて押しつけがましくない。自由で不思議な空間は、僕にとってとても心地良いものでした。「大人の芸能」である落語に惚れたのはそのときですね。
<*1> 寄席…演芸が専門に行われている劇場

——寄席がお好きなんですね。

 そうですね。だから出ていると嬉しいですよ。「高校生の時に通っていた高座(こうざ)<*2>に上がってる」と思うと。寄席の良さは、芸人が全員「俺が俺が」と目立とうとせず、エンターテインメントとしての流れをみんなで作り上げていこうとしているところです。特定の芸人を観に来て「良かったね」ではなく、全体を通して観てもらい、「寄席って楽しいね」、「落語って楽しいね」と思ってもらえたら嬉しいですね。
<*2> 高座…演芸が行われる舞台のこと。また、そこで演じること

——寄席の“流れ”の中で一之輔師匠はどんな役どころでいたいと思いますか?

 これは年齢によって変わっていくと思います。これから自分の落語がどう変わっていくか分かりませんからね。今の僕の役目は、幸い真打(しんうち)に昇進してからちょっと目を向けてもらっている状況にはあるので、お客さんを離さないように、フルスイングで笑わせることだと思います。

大抜擢の真打昇進

——真打昇進披露興行を終えて今のご感想は?

 定席(じょうせき)<*3>と呼ばれる4つの寄席(上野鈴本演芸場、浅草演芸ホール、新宿末広亭、池袋演芸場)と、国立演芸場で10日間ずつ、全部で50日間トリを務めました。毎日楽しかったですよ。「今日はどのくらいお客さんが来てくれるかな」から始まり、「落語は何を演じようかな」「楽屋で何を食べようかな」「打ち上げはどこに行こうかな」など(笑)。
 二ツ目(ふたつめ)<*4>の頃の出番は前座の次、2番目でした。それが、寄席によっては20番目にもなるトリを、いきなり50日間務めるなんて、興行の世界からすればありえないですよね。だからダメでもともとだと思って臨んでいました。
<*4> 定席…常に興行が行われている、都内の4つの演芸場
<*5> 二ツ目…前座と真打の間

——ダメでもともととは?

 真打昇進披露興行に関わらず、僕はそもそも、落語は職業としてダメでもともとだと思っています。なぜなら、落語はこの世に絶対に必要な仕事というわけではないからです。震災の時につくづくそう思いました。落語で生活をしていること自体がありえない、幸せなことなのです。だから文句や贅沢を言ったらバチが当たると、いつも思っています。

——真打に昇進して、変化はありましたか?

 落語に対するスタンスは変わりません。物理的に変わったことといえば、定席での出番が増えたことですね。二ツ目の時は、月に5~10回くらい出られれば十分でしたが、真打に昇進してからは毎日のように出番があって、複数の寄席を掛け持ちすることもあります。
 寄席には、「一之輔を聴こう」と足を運ぶお客さんだけではなく、「初めてだけど行ってみたいね」「落語でも聴きに行こうよ」といった、僕が目当てではないお客さんもたくさん集まってきます。ですから、寄席は落語家にとってホームグラウンドのようでアウェーなんです。自分を初めて見る人ばかりの前で、毎日一席ないし二席しゃべらせてもらうと、芸人としての感覚が磨かれていくような気がしますね。

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落語が持つ独特な魅力

——落語の魅力は、どんなところですか?

 古典落語が現代まで語り継がれて残っているのは、噺そのものが面白いからです。その古典落語が、それぞれの演者を通した時にどのようにお客さんに伝わるかが、見物であり聴き物ですね。同じ演目でもしゃべる人によって色合いが違って、噺(はなし)の裏に演者が透けて見えてくるところが面白いなと思っています。
 また、とてもシンプルなところも魅力です。たった一人の芸人が、座布団に座ってしゃべっているだけで、満場のお客さんを笑わせたり感動させたりできる芸能なんてほかにありませんからね。
 でもどこを魅力に感じるかは人それぞれなので、いろんな角度から見てもらえるとありがたいです。

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——初めて落語を聴く人へアドバイスはありますか?

 心構えなんていりません。もう、まっさらな気持ちで聴いてください。一生懸命理解しようとする気持ちが、かえって邪魔になることもあります。分からなかったら分からなかったでいいんです。音楽を聴いて心と体が乗ってくるように、落語にも乗れると良いのですが、出来なければ仕方がありません。芸能との出会いは一期一会ですから。
 その意味では、いろんな芸人が出る寄席を初心者におすすめするかどうかは難しいところです。最初につまらない人を見てしまうとそれで終わってしまう可能性もありますからね。ですから、まずは落語にちょっと詳しい人に聞いてみて、おすすめの人のところへ行ってみると良いのではないでしょうか。インターネットで調べて、興味を持てそうな人を探すのも良いですね。
 寄席の場合は、「木戸銭(きどせん)<*5>の分、楽しむぞ!」と気負わずに、ある程度ゆったりとした気持ちで行った方がいいかもしれません。寄席はショーウインドーのようなものです。いろんな人が出てくる中から、自分のお気に入りを見つける場所だと思ってください!落語はガツガツした芸能ではないので、優しい気持ちで観てくださると、僕たちは嬉しいですね。
<*5> 木戸銭(きどせん)…入場料

複雑に変化する客席の空気

——「文京シビック寄席」には初登場ですが、どんな会になりそうですか?

 どんなお客さんが来てくださるか分からないので、落語のネタは当日の様子を見てから決めます。面白いことに、寄席やホールによってお客さんの求めているものが違うんです。日曜と平日でも違いますし、昼と夜でも違います。さらに、天気によっても変わってきます。そういう雰囲気を感じ取りながら、どんな落語をするか考えるんです。
 今回の落語会は、僕がパーソナリティを務めているラジオ番組『SUNDAY FLICKERS(サンデーフリッカーズ)』の公開収録を兼ねていることが特色の一つです。でも不思議なもので、落語会で収録があると、たいていお客さんが緊張してしまうんです。ですから僕は高座で直接「緊張しないでください」と呼びかけることにしています。お互いにとってマイナスですからね。

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 今回は一緒にパーソナリティをしている番井奈歩(ばんいなほ)さんとのトークコーナーもありますので、ふだんの落語会とはちょっと違う感じになりそうで、とても楽しみです。落語の時とラジオの時とで、ちょっと違う一之輔をお楽しみいただければと思います。

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—— 今後の目標は?

 これから自分がどうなるか分かりませんから、明確な目標は持っていません。ただ、死ぬまで自分を磨き続けようと思っています。
 今まで通り、月に1本ずつくらい新しい落語を覚えて、ネタおろし<*6>の会をし、手応えを感じた噺は自分に合うように構成し直し、持ちネタの幅を広げられたらいいですね。
 あとは、初めて落語を聴く人の心に、もうちょっと残るように噺をつくり込んでいかなければと思っています。でもこればかりは、お客さんの前で実際に演じて反応を見てみないことには手がかりがありません。「今日のお客さんにはこの噺がいいのかな」と思って演じたら、全然違っていたなんてこともありますから。落語は生モノなんです。そこが面白いんですよね。
<*6> ネタおろし…新しく覚えた落語を初めて演じること

文京シビック寄席 春風亭一之輔独演会 feat.SUNDAY FLICKERS(公開録音あり)

2013年9月13日(金)  19:00開演 文京シビックホール 小ホール

シビックメンバーズweb

一般発売:5/20(月)10:00~

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コンサート情報