文京シビックホール 大ホールにて行われる
2013年6月29日(土)15:30開演 「文の京スペシャルコンサート小林研一郎&NHK交響楽団」に、人気・実力共に日本を代表するピアニスト、小山実稚恵が出演。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏する。そこで彼女に、注目のポイントや公演への意気込みを聞いた。
人気・実力ともに日本を代表するピアニスト。チャイコフスキー国際コンクール第3位、ショパン国際ピアノコンクール第4位という、二大コンクールともに入賞した日本人で唯一のピアニスト。
コンチェルトのレパートリーは60曲にも及び、国内外のオーケストラや著名指揮者とも数多く共演を重ねている。
2010年には、第16回ショパン国際ピアノコンクール(ポーランド)に審査員として参加。また、2011年の東日本大震災以降、東北出身の小山は「被災地に生の音を届けたい」との強い思いで、岩手、宮城、福島の被災地の学校や公共施設等で演奏を続けている。
CDは、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルと専属契約を結び26枚をリリース。最新CD『ヴォカリーズ』は、レコード芸術誌特選盤に選ばれ、2013年4月17日には、27枚目のCD『シャコンヌ』のリリースを予定している。
2005年度文化庁芸術祭音楽部門大賞。東京藝術大学、同大学院修了。吉田見知子、田村宏両氏に師事。
はい、仙台に生まれて盛岡で育ちました。
幼い頃、おもちゃのピアノで遊ぶのが大好きだったんです。黒鍵は絵で白鍵しか鳴らない小さなピアノ(笑)。数あるおもちゃの中でもそれが一番でした。でもその内本物が欲しいとねだって、5~6歳頃にアップライトのピアノを買ってもらい、母が盛岡の教室の発表会をいくつか観て決めてくれた教室に通い始めました。
そうです。父の転勤で中3のとき東京に移ったのですが、東京の先生を知らないので、1~2ヶ月に1回、盛岡まで通っていました。普通は地方から東京に通うのに、逆ですよね(笑)。その後は藝大附属高校に入って、プロを目指す方々と同じ道を進みました。ですから田舎の、のんびり育ちです。
私にとって、これ以上面白いものはないですね。ピアノは作品数が多く、素晴らしい曲で溢れています。でもそれら全てを一生に弾くことは無理なので、どの曲を選ぶかというのが大変。幸せな悩みですね。それに、楽器自体との相性や出会いが左右する楽器と違って、そこにあるピアノを弾くことがほとんどですから、色々な楽器に触れて、様々なシチュエーションを体験する機会が多く、ひとつとして同じ状況がありません。自分が知らない世界を毎回感じ、発見があり、本当に興味が尽きませんね。あと譜読みや楽譜を眺めるのも趣味なんです(笑)。
そう、色々な楽譜を見ているとワクワクしてきます。同じ曲でも、校訂者が違い、譜割が違い、紙質や色が違えば、印象が変わります。この版と最初に出会っていたら弾き方も違っていたかな……などと考える、そんな楽しさが楽譜にはあります。
新しい版が出ると買ってしまうので、同じ曲が次々と増えて……(笑)。どうしても全部見たくなるんです。実際演奏する時には、好きになったものや一番しっくりきた楽譜を使います。でも時には、譜読みとその後馴染んでいく段階で、楽譜を使い分けることもあります。イマジネーションを膨らませやすい楽譜があったり、思いもよらない指番号が書いてあったり……もう、やめられないですね(笑)。
5~6回くらいではないかと思います。ベートーヴェンの中ではやはり「皇帝(協奏曲第5番)」が圧倒的に多くて、もう100回以上は……(笑)
重要ですし、素晴らしい曲。私は本当に大好きです。最大の魅力は、ピアノが縦横無尽に駆使されること。非常にピアニスティックであり、またオーケストラとの掛け合いがとても重要な作品です。「皇帝」がどちらかというと和声重視なのに対して、4番は単音のスケールやアルペジオなどが多く、ベートーヴェンの柔軟性と音楽性がよく表れています。それに、両曲とも珍しくピアノが最初に登場するのですが、「皇帝」が華麗に始まるのに対して、4番は静かな和音で始まる。そこはとてもドキドキする部分です。
緊張はしますよね(笑)。鍵盤の鳴り具合に対して、耳の用意がない状態ですから。もちろんリハーサルでは弾いていますが、聴衆が入ったときの響きは、まだ知らない。先にオーケストラが鳴れば響きもわかりますけど、本当の初音ですから、音を出して初めて知るわけです。なので、音の響きを感じてからタッチを微妙に変化させることもあります。
そう。同じ曲でも、野原で歌うのとお風呂で歌うのとでは歌い方もテンポも変わるでしょう。それと同じで、ピアノも響きが多ければ少しゆったり弾くなど、第一音の響き具合でテンポが決まったりします。もちろん基本的なテンポは頭の中にあるので、ほんの少しの差ではありますが……。また同じピアニッシモでも、響きによって、音量やタッチが変わります。
ベートーヴェンとしては本当に柔和で自然。「皇帝」は人間的な部分が前面に出ていますが、4番は自然の中にいる人間を感じさせます。また、下に向かうのではなく、宙に飛ばすような響きの美しさも素晴らしい。
そこがベートーヴェンの見事なところ。第1楽章の最後を、柔和な雰囲気から力感のある形にもっていき、それが第2楽章のオーケストラに繋がる。第2楽章では、弦の粘りが訴えになり、ピアノが受けて答える。そのあたりが斬新です。そして第3楽章は、華やかでリズムが躍動し、心の中から勇気や希望が溢れ出ます。
オーケストラとの色々な対話でしょうか。第2楽章のわかりやすい対話もあれば、第1楽章の一緒になって進んで行く対話があり、第3楽章のブリリアントに歌い合うような対話がある。そこに注目して頂ければと思います。
本当にたくさん共演させていただいています。間違いなく50回以上はあると思います。ただベートーヴェンの4番は久しぶりです。
私もこの曲で良かったと思います。ベートーヴェンならば4番をと希望していましたのでとても嬉しいです。今回のプログラムの曲の並びは美しいですね。
小林先生は、2曲の演目があった場合、1曲目と2曲目は別個ではなく、常に一つの流れとしてその日のコンサートを創られるように感じます。またクライマックスで激しく燃えながらも、一面では緻密な音楽を構成されるのです。いつも感銘を受けます。それにオーケストラのツアーで同じ曲が何日も続く場合、場の空気に即して、グッと踏みとどまられる瞬間などもあったり・・・、おそらく、コンチェルトを良い形にするにはどうあるべきかを考えられてのことでしょう。その辺を自然にリードして下さるのでソリストは非常に弾きやすいんです。
はい、とても多いですね。これまで100回近く共演しています。もちろん日本を代表するオーケストラですから光栄なことです。最近は、昨年8月の北海道ツアーで、チャイコフスキーの協奏曲を共演しました。今年は今回が初めてです。
そうですね。そういった伝統は代々メンバーに受け継がれていて、演奏にも自然に表われるのではないかと思います。
音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、
CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も
受け持つなど、幅広く活動中。
文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。