オススメ公演の聴きどころ指南 ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

~ばっちり予習~

オススメ公演の聴きどころ指南

文京シビックホールの注目公演を音楽ライターが徹底解説。
これを読めば公演がより一層楽しめること間違いなし。

ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

2020年4月24日(金)19:00開演 文京シビックホール 大ホール

文:柴田克彦

名匠テミルカーノフと、2019年チャイコフスキー国際コンクール覇者が繰り広げる
日本ツアーで一夜限りの特別コンサート

 今年82歳を迎えるロシアの巨匠ユーリ・テミルカーノフが、長きに亘る手兵である同国の看板オーケストラ、サンクトペテルブルグ・フィルを率いて、文京シビックホールに"還ってくる"。2019年チャイコフスキー国際コンクール・ヴァイオリン部門の覇者セルゲイ・ドガージンをソリストに迎えておくる本公演は、プログラムもチャイコフスキーの協奏曲と交響曲を代表する2大名曲。これは今回の日本ツアーで一夜限りの特別なコンサートとなる。

テミルカーノフ(&サンクトペテルブルグ・フィル)と文京シビックホールは、特別な関係にある。

過去公演チラシ

          過去の公演チラシ

 当コンビが初めて出演したのは2011年11月。ラフマニノフの交響曲第2番とチャイコフスキーの交響曲第4番を組み合わせた超重量級プログラムで快演を展開した。ちなみにこれは関東では文京シビックホールのみのプログラム。当初から特別な公演でもあった。しかもテミルカーノフは当ホールの音響と聴衆の反応に感銘を受け、「マーラーの交響曲第2番『復活』を、ぜひこのホールで取り上げたい」と要望した。それは2回目の出演となる2014年1月に実現。その際の日本ツアーで唯一同曲を披露し、壮絶きわまりない名演を残した。3回目の出演となった2016年6月も然り。リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」とチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」という、関東では当ホールのみのゴージャスなプログラムで快演を聴かせた。また2015年6月、テミルカーノフは文京シビックホールの開館15周年を祝う読売日本交響楽団との公演を指揮。マーラーの超大作・交響曲第3番で満場の喝采を浴びた。さらに2018年11月には、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とチャイコフスキーの交響曲第5番を組み合わせたプログラムを用意。この時もやはりチャイコフスキーの5番は東京では当ホールのみ、ラフマニノフの2番は全ツアーで1回のみの演奏だった。だがテミルカーノフは健康上の理由で来日できず、ニコライ・アレクセーエフが指揮しての公演となった。

 これでわかるように、テミルカーノフは毎回"文京シビックホールでしか聴けない"プログラムを企図し、ホールへの特別な思いを示している。しかしながら前回は指揮が叶わなかった。すなわち今回再びプロラミングされたチャイコフスキーの交響曲第5番には、「今度こそ」の思いが反映されている。加えてドガージンがソロを務めるのは今ツアーで当公演のみ。通算5回目となる今回も、"文京シビックホールのテミルカーノフ&サンクトペテルブルグ・フィル"は特別な公演なのだ。

 ここで出演者のプロフィールを振り返っておこう。

テミルカーノフ(指揮中)

         ユーリ・テミルカーノフ

 ユーリ・テミルカーノフは、現代屈指の巨匠指揮者の一人。1938年コーカサス地方に生まれ、レニングラード音楽院で学んだ。1966年第2回全ソ指揮者コンクールで優勝し、1968~77年にはサンクトペテルブルグ交響楽団の首席指揮者・音楽監督、1977~88年にはマリインスキー劇場の芸術監督・首席指揮者を歴任。1988年、ムラヴィンスキーの逝去後、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団(当時はレニングラード・フィル)の歴史上初めて、楽員の投票によって音楽監督・首席指揮者に選出され、現在に至っている。また、1992~98年ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(イギリス)の首席指揮者、2000~06年ボルティモア交響楽団(アメリカ)の首席指揮者・音楽監督、2009~13年パルマ王立劇場(イタリア)の音楽監督も歴任。こうした欧米での活躍も卓越した手腕を物語っている。さらに2015年には読売日本交響楽団から名誉指揮者に推挙され、同楽団との公演でもファンの熱い支持を得ている。

 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団は、ロシア最古のオーケストラ。前身を辿れば1772年に設立された「ペテルブルグ音楽協会」にまでさかのぼる。同協会のオーケストラは、1802年に設立された「ペテルブルグ・フィルハーモニー協会」のもとで発展。1824年にはベートーヴェンの「荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)」の世界初演も行った。その伝統を引き継ぎ、現楽団の直接の母体となったのが、1882年に皇帝の勅令で設立された「宮廷付属オーケストラ」。同楽団は何度か名を変え、1924年に「レニングラード・フィルハーモニー交響楽団」となった。また、一連の活動を通して、チャイコフスキーの名作の世界初演や、マーラー、ブルックナーの交響曲などのロシア初演を行い、ニキシュ、ワルター、クレンペラーなど西欧の著名指揮者が多数指揮台に立った。1938年には35歳のエフゲニー・ムラヴィンスキーが音楽監督・首席指揮者に就任。50年に亘ってその座に君臨した彼は、鋼のように強靭なサウンドと一糸乱れぬアンサンブルで世界に衝撃を与え、数々の伝説的名演を残した。そして1988年ムラヴィンスキーが逝去し、テミルカーノフが同ポストに就任。1991年には現名称となり、以後彼のもとで新たな黄金時代を迎えている。

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          セルゲイ・ドガージン

 ヴァイオリンのセルゲイ・ドガージンは サンクトペテルブルグ音楽院で学び、2012年国際メニューイン音楽アカデミーでマキシム・ヴェンゲーロフに師事。ケルン音楽舞踊大学とグラーツ大学で修士課程を修了した。さらにウィーン国立大学で研鑽を積み、数多くの国際コンクールで入賞。その中には第14回チャイコフスキー国際コンクール(1位なしの第2位及び聴衆賞)、ハノーファー・ヨーゼフ・ヨアヒム国際ヴァイオリン・コンクール(第1位)、シンガポール国際ヴァイオリン・コンクール(第1位)などがある。そして2019年第16回チャイコフスキー国際コンクールで第1位を獲得。すでに行っていた世界的な活動に、よりいっそうの熱視線が注がれることとなった。

 テミルカーノフとサンクトペテルブルグ・フィルの関係はもはや"あうんの呼吸"と呼ぶにふさわしい。テミルカーノフは楽団伝統の緊密なサウンドに艶やかな色彩感を加えた、ゴージャスかつ表情豊かな演奏を実現。グローバルな音楽性、内なるロシア的パッション、ノーブルな品格を併せ持つテミルカーノフが最高の機能を有する手兵と生み出す音楽は、聴く者に無類の充実感を与えてくれる。

 今回のプログラムは、彼らの本領発揮にこの上ない名曲集。チャイコフスキーの交響曲第5番は、円熟を深めた後期に生み出された人気作で、シリアスさ、甘美さ、情熱、メランコリー、迫力等々、チャイコフスキーの魅力が満載されている。さらには、サンクトペテルブルグ・フィルの前身のフィルハーモニー協会のオーケストラが作曲者の指揮で初演した作品でもある。今回はそうした本家伝統の表現を体感できるのはもちろん、テミルカーノフの類い稀な音楽性が生み出す優美さや格調や奥行きを堪能できる。

オーケストラ

   サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

  ヴァイオリン協奏曲は、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスの諸作と並ぶ、同ジャンルの代表作。ロシアの民族色と西欧の様式美が絶妙に融合した名作であり、情熱や哀愁に充ちた旋律美満載の音楽だ。しかも独奏パートには重音奏法をはじめ超絶技巧が多数盛り込まれており、ソリストの名人芸も存分に味わえる。ソリストのドガージンは、高度な技量と豊かな表現力を持つ名手であるだけでなく、ヴァイオリン協奏曲が必須のチャイコフスキー国際コンクールの優勝者だけに、そのパフォーマンスへの期待も大きい。

 名匠テミルカーノフのもとで、ロシア最高のオーケストラと同国きっての精鋭が繰り広げる、スペシャルにして渾身の名演を、聴き逃してはならない。

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柴田克彦(しばた かつひこ)

音楽マネージメント勤務を経て、フリーの音楽ライター・評論家&編集者となる。
「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「CDジャーナル」「バンド・ジャーナル」等の雑誌、公演プログラム、宣伝媒体、CDブックレットへの取材・紹介記事や曲目解説等の寄稿、プログラム等の編集業務を行うほか、講演や一般の講座も受け持つなど、幅広く活動中。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。文京シビックホールにおける「響きの森クラシック・シリーズ」の曲目解説も長年担当している。

ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

2020年4月24日(金)19:00開演

文京シビックホール 大ホール

出演

指揮/ユーリ・テミルカーノフ(芸術監督・首席指揮者)
ヴァイオリン/セルゲイ・ドガージン
管弦楽/サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

曲名

【試聴できます】 曲目をクリックしてください。
※ 試聴音源の演奏家・楽器編成は、本演奏会の出演者・楽器編成と異なる場合もございます。

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー /交響曲第5番

料金

プレミアムシート(公演プログラム付)18,000円
S席15,000円 A席13,000円 B席11,000円<全席指定・税込>
※C・D席は完売

学生割引あり
S席7,500円 A席6,500円 B席5,500円にて販売。
※学生割引はシビックチケットのみ(窓口・電話予約)での取扱いとなります。
※ご入場時に必ず学生証を提示ください。
 提示が無い場合は、当日受付にて通常価格との差額をお支払いただきます。

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

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