スペシャルインタビュー 夜クラシックin東京文化会館

~「夜クラシックin東京文化会館」<第1回>2021年12月9日(木) <第2回>2022年2月17日(木)~

山田武彦(ピアノ)/奥村 愛(ヴァイオリン)/笹沼 樹(チェロ)
スペシャルインタビュー

実力派アーティストが数々の名曲を
気さくなトークを交えながらお届けする室内楽シリーズ"夜クラシック"。
シビックホールは現在休館中のため、今年度は東京文化会館小ホールで開催します。
出演の山田さん、奥村さん、笹沼さんに公演についてのお話を伺いました!

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ピアノ

山田武彦

Takehiko Yamada

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院作曲専攻修了。1993年フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院ピアノ伴奏科に入学、同クラスの7種類の卒業公開試験を、審査員の満場一致により首席で一等賞(プルミエ・プリ)を得て卒業。帰国後はピアニストとして数多くの演奏者と共演、的確でおおらかなアンサンブル、色彩豊かな音色などが好評を博し、コンサート、録音、放送等の際のソリストのパートナーとして厚い信頼を得る。2007年より"下丸子クラシックカフェ"マスター役を担当するなど、ユニークなコンサートの企画にも参加している。これまで洗足学園音楽大学に於いて作曲及びピアノコース統括責任者を歴任、現在同大学教授。

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            ©小島竜生

ヴァイオリン

奥村 愛

Ai Okumura

7歳までアムステルダムに在住。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースで学ぶ。辰巳明子、ライナー・ホーネックの各氏に師事。第48回全日本学生音楽コンクール全国大会中学生の部第1位、第68回日本音楽コンクール第2位など受賞多数。02年、『愛のあいさつ』でCDデビューを飾り、一躍楽壇の注目を集める。以来Avex Classicより数々のCDをリリース。近年は渡辺香津美や小沢健二らの新作レコーディングに参加。また国内の気鋭の弦楽器奏者たちで構成された「奥村愛ストリングス」としても活発に活動。自然体なトークも好評を得ており、テレビやラジオへの出演も多い。桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。使用楽器は1738年イタリア製のカミリア・カミリー。

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         ©Taira Tairadate

チェロ

笹沼 樹

Tatsuki Sasanuma

ARDミュンヘン国際コンクール弦楽四重奏部門、ニューヨークのYoung Concert Artists International Audition、東京音楽コンクール、日本音楽コンクールなどに入選。桐朋女子高等学校音楽科を首席卒業後、桐朋学園大学ソリストディプロマコース修了、並びに学習院大学文学部卒業。同校でのリサイタルシリーズは17年に天皇皇后両陛下をお迎えしての天覧公演となった。19年にはデビューCD『親愛の言葉』(日本コロムビア/レコード芸術特選盤)をリリース。桐朋学園大学大学院修了。カルテット・アマービレ、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバー。使用楽器は 1771 年製 C.F.Landolfi(宗次コレクション)


取材・文:高坂はる香  写真:三浦興一

均整のとれた美しい音楽をお届けしたいと思います。

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ー奥村さんは12月に、笹沼さんは来年2月に、それぞれ山田さんと共演されます。いずれも、おなじみの名曲とベートーヴェンのソナタを組み合わせたプログラムですね。選曲のポイントを教えてください。

奥村夜クラシックに出演させていただくのは2度目ですが、このシリーズは地域の方々に愛され、皆様が気軽に足を運ばれているコンサートなので、親しみやすい作品を中心に選曲してみました。
 まずベートーヴェンは、誰もが耳にしたことのあるメロディが登場するヴァイオリン・ソナタ第5番。それからワックスマンの「カルメン幻想曲」。実は、昨年コロナ禍で演奏会がなくなり、ヴァイオリンのケースを開ける気にさえならなかった時、このままではいけないと、家にある楽譜をかたっぱしから弾いてみました。その時に演奏した作品の一つが「カルメン幻想曲」なのです。しばらく封印していたのですが、自分のためにもまた弾いてみようと思いました。
 そして、よく演奏するクライスラーから何かを、と思ったのですが、笹沼さんのプログラムに「愛の喜び」「愛の悲しみ」が入っていると聞いたので、「美しきロスマリン」(3部作「ウィーン古典舞曲集」の残り1曲)を選んでみました。


笹沼
今考えると、ヴァイオリンのレパートリーを取ってしまいましたね(笑)。
 はじめに演奏する「月の光」はピアノのために書かれた曲をチェロの演奏用に編曲した作品なので、もう一曲もヴァイオリンの編曲作品にしようと思い、クライスラーの曲を選びました。チェロで演奏するとどういう魅力があるのか、皆様に楽しみにしていただきたいと思います。
 もちろん、チェロのために書かれた名曲も演奏します。ベートーヴェンのチェロ・ソナタは、一番好きな第3番を選びました。


山田一つの曲をさまざまな歌手が歌うのを楽しむように、「月の光」をいろいろなバージョンで聴けるのもこのシリーズの魅力の一つですね。夜の音楽といえば夜想曲がありますが、その時間帯って3つあるんです。まずは徐々に暗くなっていく夕方、熱狂の時間である真夜中、そして、神秘的な明け方。ドビュッシーが書いたオーケストラ作品の「夜想曲」は、まさにその3曲からなります。「月の光」はおそらくこれから日が沈む夕方の音楽ですから、演奏会の時間帯とぴったりですね。
 皆様をおもてなしできるような名曲でリラックスいただいたあとは、ちょっと本気モードのベートーヴェン。均整のとれた美しい音楽をお届けしたいと思います。

自分でもさらにこのソナタの良さを発見できたらいいなと思っています。

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ー奥村さんは、ヴァイオリン・ソナタの魅力をどこに感じますか?

奥村有名な5番は演奏のリクエストも多いのですが、十分にその魅力を理解しきれていない気がしていて、シンプルがゆえに難しいと感じながら弾いています。
 山田さんとご一緒すると、いつも新しい音楽の捉え方を教えられます。共演するピアニストによって、ソナタの表現は変わってきますから、今回は演奏しながら、自分でもさらにこのソナタの良さを発見できたらいいなと思っています。

ー笹沼さん、チェロ・ソナタの魅力については、いかがでしょう?

笹沼何気なく聴いても本当にいい曲だと感じられますが、実はベートーヴェンが精巧に組み立てた作品で、いろいろな効果を狙って様々なエッセンスが用いられているとわかると、またそのすばらしさが実感できます。
 例えば一つ挙げると、この曲が書かれたのは1808年で、彼の創作活動が順風満帆だった頃ですが、社会的にはナポレオンがウィーンを包囲するという事態が翌年起きます。
 ソナタ第1楽章の展開部あけに、短調の影が見える瞬間があり、そこではJ.S.バッハの「ヨハネ受難曲」から、"イエスが死んで全てが果たされた瞬間"を歌う一節が用いられています。これは、のちにピアノ・ソナタ第31番の3楽章にも、「嘆きの歌」として使われています。この絶望的なメロディが急に現れるのはなぜかと考えると、近くに迫った戦争の影を感じていたからなのかもしれないと思えるのです。 

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 実はこれは、去年の"おうち時間"にいろいろ読んだり弾いたりするなかで考えるようになったことなのです。作曲の背景を知り、この1楽章の景色がまったく変わって見えるようになりました。ベートーヴェンは、バッハへの思いや当時抱いた人間らしい感覚を作品に込めたのではないかと思います。そのうえで終楽章には、ベートーヴェンならではの「終わりよければすべてよし」という雰囲気があります。
 コロナの影響で、あらゆる行動がストップするという非常事態を経験した私たちに、何か共感できるものがあるのではないかと思い、このソナタを選びました。

ー山田さんはピアニストとして、ベートーヴェンの室内楽作品を演奏する楽しさや難しさをどんなところにお感じになりますか?

 山田ベートーヴェンの人生の中期にあたる、彼が元気でバリバリ作曲をしていた頃の作品には、古典的な魅力、つまり、使われているテーマが万人に美しいと感じられる「音階()」がもとになって作られている特徴があります。しかもベートーヴェンの場合は、その同じテーマがアンサンブル全員にまわってくる。それぞれの楽器の得意不得意にあわせたテーマがあてがわれるのではないんですね。それがおもしろさであり、難しさでもあると思います。いずれこのメンバーを含むアンサンブルで、シンフォニーの室内楽演奏に挑戦したいという考えがあります。ぜひ、楽しみにしていただきたいですね。

音階・・・異なる音を高さの順に並べたもの。 


ーみなさんがアンサンブルをしていて楽しいのはどんな共演者ですか? 

奥村:私はリハーサルと違うことをしてくれる方が楽しいですね。自分もそんなに約束ごとを守らないほうなので(笑)、そうくるんだ、それじゃあ自分はこうしようというやりとりができると、楽しかったなと思います。 

笹沼僕もそうです。今どうしようという考えがコンマ1秒で駆け巡ったとき、瞬間的に解決方法を出しあえる。そういう瞬発力が共有できる人とアンサンブルしていると、疲れません。演奏会が終わっても、すぐにもう一回できるくらいの気持ちです(笑)。 

山田ピアノは一人のことが多いですから、そもそも誰かと演奏できるだけで、手放しで嬉しいです。そのなかでもとくに、相手が次どうしよう?と考えているのがわかる瞬間は、楽しいですね。あとから録音を聴いても、楽しい。

お客様が発するエネルギーを感じながら、時間を共有したい

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ーところで夜クラシックということで、お気に入りの夜の過ごし方があれば教えてください。

笹沼夜中に映画を観るのが好きですね。去年は海外に行けなかったので、インドの屋台を撮り続けているYoutuberの動画をひたすら連続再生で観ていました。独自のセンスがおもしろくて、しかもローカルフードを食べたような気になれる。そういうものを見ながら、知らないうちに寝落ちしているのが好きです(笑)。

 

奥村その動画知ってる、中毒性あるんですよね(笑)。私はお酒が好きなので、ちびちび飲みながらドラマを観ることが多いです。最近は中国の歴史ものにはまって、先が気になって10時間続けて見てしまったりして。区切りをつけるよう、気をつけています。

 

山田私はなんだろう......夜、酔っ払うと、近所のお寺にあるお気に入りの背の高い木をながめるということをしてしまいますね。古い時代にトリップしたかのような境内のお寺なんですけれど、バーッと広がった枝が風に揺れる様子をただじっと見る。つい足が向いてしまいます(笑)。 


ーでは最後に、来場者の皆様へのメッセージをお願いします。

山田その場で作られる生の演奏に、私たち自身も楽しんでいることを感じていただけると思います。それぞれに時間を作ってご来場いただくわけですから、そんな特別な時間をリラックスして楽しんでもらえるよう、がんばりたいと思います。

 

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奥村コロナ禍を体験して改めて、一つ一つの公演を丁寧にやっていきたいと感じるようになりました。本番のステージ上でしか味わえないやり取りを、一緒に楽しんでいただけたらと思います。 

笹沼今やアートがさまざまな形で楽しめる世の中になりましたが、逆にライブの大切さが明らかになったと思います。お客様が発するエネルギーを感じながら、時間を共有したいという想いが、演奏する上で重要な要素であることを改めて実感しました。夜クラシックには、シリーズのファンの皆様が作ってくださる空気があると思うので、緊張せず演奏できそう。楽しんでいただけたら嬉しいです。

取材・文:高坂はる香(こうさかはるか)

音楽ライター、編集者。大学院でインドのスラム支援プロジェクトを研究。その後2005年よりピアノ専門誌の編集者として、ピアニストや世界の国際ピアノコンクール等の取材を行う。2011年よりフリーランスとして活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体への寄稿のほか、「クラシックソムリエ検定公式テキスト」の編集などを手掛ける。
HP「ピアノの惑星ジャーナル

夜クラシックin東京文化会館

<第1回>2021年12月9日(木)19:00開演
<第2回>2022年2月17日(木)19:00開演

東京文化会館 小ホール

出演

ピアノ/山田武彦(第1回、第2回出演)
ヴァイオリン/奥村 愛(第1回出演)
チェロ/笹沼 樹(第2回出演)

曲名

<第1回>
ドビュッシー/月の光
クライスラー/シンコペーション
クライスラー/美しきロスマリン
ワックスマン/カルメン幻想曲 ※試聴できます
ベートーヴェン/失くした小銭への怒り(ピアノ独奏)
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番 ※試聴できます

<第2回>
ドビュッシー/月の光
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番
サン=サーンス/白鳥 <組曲「動物の謝肉祭」より> ※試聴できます
クライスラー/愛の喜び
クライスラー/愛の悲しみ
バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番より❝プレリュード❞
ポッパー/ハンガリー狂詩曲 ※試聴できます
ほか

料金

全席指定:1,500円

お問い合わせ

シビックチケット 03-5803-1111(10時~19時/土・日・祝休日も受付。)

夜クラシックin東京文化会館

聴く機会の少ない、おもしろい響きが生まれるはず