スペシャルインタビュー 範宙遊泳〈シリーズ おとなもこどもも〉『ももたろうのつづき』

~響きの森きっずリモートプログラム 範宙遊泳〈シリーズ おとなもこどもも〉『ももたろうのつづき』~

山本卓卓(範宙遊泳主宰・劇作家・演出家)
スペシャルインタビュー

おうちでいつでも楽しめる無料動画「響きの森きっずリモートプログラム」。
現在配信中の範宙遊泳による演劇作品、〈シリーズ おとなもこどもも〉『ももたろうのつづき』は
そのタイトルの通り、あの桃太郎が鬼ヶ島から帰ってきてからのお話です。
いったいどのような作品なのでしょうか。脚本と演出を担当した山本卓卓さんに聞きました。

S_山本卓卓©雨宮透貴.jpg

©雨宮透貴

山本卓卓

Suguru Yamamoto


範宙遊泳主宰。劇作家・演出家。

幼少期から吸収した映画や文学などを芸術的素養に、加速度的に倫理観が変貌する現代情報社会をビビッドに反映した劇世界を構築する。

アジア諸国や北米で公演や国際共同制作、戯曲提供なども多数。

20205月に「むこう側の演劇」を始動し、オンラインをも創作の場として活動している。

『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。

公益財団法人セゾン文化財団フェロー。


取材・文:山﨑健太  

子どもと作品を見ること

ー今回の作品にはタイトルの前に〈おとなもこどもも〉とシリーズ名が付けられています。

 イメージしているのは、作品を見た子どもが「わからなかった」とか「何だったのあそこ」みたいなことを言い、大人がそれについて話してあげる、というような対話の時間が生まれることです。だから、大人でも子どもでも楽しめるというのとはちょっと意味が違う。劇場に行ける状況であれば、普段は子どもとは接点のない大人が、子どものいる客席で一緒に観ることで何かを受け取るということもある。それはとても素敵なことだと思うんです。作品を通して大人と子どもの間にそういう関係が生まれるのが理想だと思って作りました。

191111-0655

ー子ども向けということで特に意識したことはありますか?

 一番は、楽しいのがいいですよね。素朴に「楽しいもの」ということともう一つ、「大人が本気で遊んでいるのを見せたい」ということも考えながら作りました。これは子ども向けの作品だけに限った話ではないのですが、物語を味わう時間というのは、お芝居が終わったらそこで「おしまい」ではなくて、その後もずっと続いていくといいなと思っているんです。大人と子どもが話すということもそうですし、1週間後とか1年後あるいは大人になってからでもいいのですが、何か思い出す、残るものとして作りたいと強く思っています。

人間を信じる

191111-0644

ー「桃太郎」を題材に選んだ理由を教えてください。

 劇団プロデューサーの坂本ももが、子ども向けのワークショップで「昔話のつづき」を考えてみたらどうかというアイディアを出してくれて、それはいいねということになったんです。「桃太郎」って言ってしまえばヒーローショーみたいなものだと思うんですよね。今で言えばマーベル(※)みたいな。今はちょっと後から出てきた新しい物語に追いやられて廃れちゃってるみたいなところがあるけれど、でもそれを使って遊んだり再利用したりすることはまだまだできるはずだと思うんです。
 作品のスタートとしてもう一つ、桃太郎が自分のお母さんを思い出すシーンがあるんですが、あの視点は自分の娘にもらいました。4歳の娘に「今度、子ども向けのお芝居作るんだけど、どういうの見たい?」って聞いたら「おかあさんをさがしにいくおしばい」って言ったんです。それを聞いて、「桃太郎」って母親をすっ飛ばして、いきなりおじいちゃんとおばあちゃんから始まるから、桃太郎がお母さんについて考える話って面白いかもなと思ったところがスタートになりました。「桃がお母さんなのか?」とか(笑)
(※マーベル・・・マーベルコミック。アメリカの漫画出版社。)

ー今回のお話は「桃太郎」というタイトルからはあまり想像できない結末になっていると思うんですけど、そういう終わらせ方を選んだのはなぜでしょうか?
 
 最終的に敵と味方で殺し合って決着をつけるというのとは、別の終わらせ方をしたかったんですよね。戦うんじゃなくて、ご飯食べて打ち上げみたいにして終わりたい。敵とか味方とか、わかり合えないものはあるんだけれども、一緒にご飯を食べることで何かそれを素っ頓狂に飄々と超えてしまうこともできるんじゃないか。それは夢物語かもしれないけれど、僕は夢物語を語れない方がきついと思っているので、夢を見たいと思ってあの結末を書きました。
 僕は今のニュースやワイドショーは人間を信じられなくさせるものだと思っていて、娘には見せたくないんです。そうでなくても、人間のドロドロした部分を描いたものはすでにたくさんあって、それはもういいという気持ちがある。自分はそうじゃないものを作りたい。だから、人間に対してもうちょっと優しい気持ちになれるものを作りたいと、腹をくくってやっています。人間を信じられるかどうかはわからないですけど、信じたいとは思っているので。そういう願望で、そういう怒りで作品を作っています。

ーあの結末には、山本さんのここ最近の作品にも通じる「人間を信じよう」という姿勢を感じました。
 
 自分が抱えている問題を演劇にするのは大事なことですし、それがないと書くことや、物を作ることは絶対にできないと思っているんですけれど、最近は「でもやっぱり楽しい方がいいよね」みたいに思うようになってきたんです。悩みを作品にするにしても、それを楽しくやる方法はあるはず。そう思うようになったのは、ニューヨーク滞在の経験が大きいと思います。
 向こうで見てきた作家たちは、真正面からエンタメをやるんですよね。真正面からエンタメをやって、そこに真正面から社会問題を入れてくる。そういう真っ直ぐさが気持ちよかった。だから今、僕は「真っ直ぐモード」なんですよね。
 同時にそれは、日本の現代演劇史を踏まえての今の自分からのアンサーだという気持ちも強くあります。「半径5メートルの日常」みたいなことではなくて、もっとスケールの大きなことをやりたいし、人間の暗部のようなものを描くんじゃなくて、人間を信じた演劇作品を作りたい。今はそういう気持ちで取り組んでいます。

カメラの先を想像する

191111-0746

ー今回、映像として演劇作品を作るにあたって特に意識したことはありますか?

 「映像には演劇ができない」「映像は映像でしかない」みたいなことが言われますが、僕は「映像でも演劇はできる」と言いたいんです。演劇というのは、お客さんに対してパフォーマンスが行なわれ、それを見たお客さんがどれだけ想像をできるかということだと思うんです。映画とかドラマは共演者に向かって演技するじゃないですか。でも演劇は対話のシーンでも必ず観客に向かって演じていると思うんです。そうやって常に観客を意識するのが演劇で、俳優が演技を向ける相手がカメラだったとしても、カメラの先に観客を想像することで、映像にも演劇を持ち込めるものだと思っています。

ー逆に、今回の作品で映像ならではの面白さがあるところを教えてください。

 映像って平面が表現できるのが面白いですよね。演劇だとどうしても立体になってしまうから、余計にそう思うのかもしれませんけれど。今回の作品ではプリクラの背景を変えるみたいに、どんどん幕をめくっていくことで場面が変わっていきます。そうやって物語が進行していくなかで、最初は「手」が文字通り「語り手」となり語り、それがペラペラの紙人形になり、立体的な人形になりという風に場面の変化とともに形を変えていき、最後には本物の人間が出てくる。物語と合わせて、そういう語りや形の変化の面白さも楽しんでもらえればと思います。

取材・文:山﨑健太(やまざきけんた)

1983年生まれ。批評家、ドラマトゥルク。演劇批評誌『紙背』編集長。WEBマガジンartscapeでショートレビューを連載。他に「現代日本演劇のSF的諸相」(『S-Fマガジン』(早川書房)、2014年2月〜2017年2月)など。2019年からは演出家・俳優の橋本清とともにy/nとして舞台作品を発表。主な作品に『カミングアウトレッスン』(2020)、『セックス/ワーク/アート』(2021)。

響きの森きっずリモートプログラム 範宙遊泳〈シリーズ おとなもこどもも〉『ももたろうのつづき』

191111-0644

作・演出

山本卓卓

出演

埜本幸良 福原冠 名児耶ゆり

撮影協力・編集

たけうちんぐ

ビジュアル

たかくらかずき

作曲(ラップ・あいつがくるぞ)

福原冠

音響・照明・映像

山本卓卓

衣装

臼井梨恵(モモンガ・コンプレックス)

装置・仕掛け

埜本幸良 福原冠 名児耶ゆり 藤井ちより 坂本もも 山本卓卓

小道具製作

藤井ちより

プロデューサー

坂本もも

協力

森下スタジオ プリッシマ
モモンガ・コンプレックス 西山梨香

助成

公益財団法人セゾン文化財団(山本卓卓フェロー)

企画制作

合同会社範宙遊泳

製作

文京シビックホール(公益財団法人文京アカデミー)

配信期間

配信中~2022年3月31日18:00 【配信終了】